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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第81話 魂飛行《アルマ・ヴォラーレ》

【前回までのあらすじ】


隊長の家で話をすることになった2人。

そこでギルアの目的が“光の使者”の味方であり、手助けをすることだと知る。

カストルの置かれている状況を知り、ギルアも協力してくれることに。

しかし隊長がなかなか戻らないことから、カストルとギルアは様子を見に行くことにした。

 祭りは軽快な音楽で始まった。

 この国独特のギターの調べや太鼓のリズムが高揚感(こうようかん)をそそり、即興で踊る人たちも現れた。

 表の通りではここぞとばかりに獣肉やココナッツジュースを振る舞ったり、(あきな)いに力を入れたりして祭りを盛り上げていた。


 そんな人混みで(あふ)れる通りを、ギルアは隙間(すきま)()うように走り抜けた。

 空を見やると、鷲のエスペルが同じ方向に向かって悠々(ゆうゆう)と飛んでいる。


「隊長さんはおそらく王宮の中か、その周辺にいるはずなんだけど……」


 それらしい人を見つけようと意識してはいたが、この人通りではうまく見つけることもできないだろう。

 仮に見つけられたとしても、簡単に近づくことも叶わないだろう。


 王宮の近くまで来たところで、ふとこんな話が耳に入ってきた。


「祭りが始まるってのに、肝心の主役が姿をくらましたそうよ」

「あの鷲で優勝した子でしょ? 一体どこに行ったのかしら? 」

「ちゃんと見てないからそうなるのよ。運営もしっかりしなさいよね」


(……やっば! 祭りに出るのを忘れてた……。

でも、今はそれどころじゃないんだよなあ……。そうだ! 」


 ギルアは横道に入り、人気(ひとけ)のない路地の奥を進んだ。

 何度も角を曲がり、階段を上がり、迷路のように入り組んだ道だった。

 エスペルも見失わぬよう頭上を飛んでいる。


◇◇


「……ここなら誰も来ないだろう」


 ギルアが辿(たど)り着いたのは、路地の一番奥にある真っ暗な一角(いっかく)だった。

 誰かが来る気配もなく、通りの喧騒(けんそう)さえも遠くに聞こえているほどだ。

 エスペルが旋回(せんかい)しながら降りてきて、腕に留まった。


「少しの間だけ王宮へ“偵察(ていさつ)”にいこう。

久々だから、うまくいくかわからないけど……」


 ギルアは近くの壁に寄りかかり、鷲の留まる腕を空に向けた。

 エスペルはギルアの意図(いと)を察したようで、腕から飛び立った。

 指先の向こう側に、無数の星が(またた)いている。

 

「綺麗な星だなあ……」


 いつの間にか夜になっており、半月が空にかかっている。

 エスペルが月の周りに輪を描くように旋回(せんかい)して飛んでいる。


「いくよ、エスペル! ……【魂飛行(アルマ・ヴォラーレ)】」


 ギルアの体がまばゆく輝いた。

 その光は空に向けた腕を(つた)い、指先からエスペルに乗り移った。

 “抜け殻”になったギルアの体は壁にもたれかかり、ズルズルズルと地面に倒れた。


 エスペルに魂が乗り移ったギルアは、王宮に向けて羽ばたいた。

 下を見ると通りの灯りがオレンジ色に輝いており、周囲の砂漠とは対称的で、オアシス国家にふさわしい景観だった。

 夜風が心地よく通り抜けていく。

 

(やっぱ僕はまだまだだなあ……。

おじいさまなら、鷲に魂を乗せたあと、体を立たせたまま会話もできるみたい。

一体どれだけの精神力と集中力を(きた)えればできるんだろう……。

今の僕には、()って10分くらいかな……。

時間が限られてるから、少しでも手がかりを探すんだ。“光の使者”を助けるために……! )


 やがて目の前に王宮が見えた。

 丸く湾曲(わんきょく)した屋根の(ふち)に留まり、あたりを見渡した。

 

(ここからなら王宮周辺の声を拾えるはずだ。鷲の聴力は人よりもすごいからね )


 ギルアは耳を澄ましてみた。


 通りを(にぎ)わす軽快な音楽。それに合わせてダンスをする人の手拍子やステップを踏む音。

 商人の威勢の良い声と、何度も手を打ちならしている小気味いい音。

 行き交う人々の談笑(だんしょう)する声。すれ違い際に衣服が(こす)れ合う音。

 親とはぐれ、心細さから泣き出した子供の声。

 人々の足元を素早く通り抜けていくネズミたちのか細い鳴き声。


(うーん……場所を変えよう……。王宮内はどうだろうか……)


 ギルアは再び耳を澄ました。今度は王宮の内部に向けて。


 慌ただしくすれ違う従者たちの足音。

 しきりに指示を出す荒々しい声。

 衛兵たちのどっしり歩く足音。

 食器のぶつかる音。扉が何度も開閉する音。

 何かをつぶやいては高笑いしている声。


(ああ……。見つからない……。どこにいるんだろう? )


 ギルアは次に周囲を見渡してみた。遠くまでよく見える恐ろしい鷲の視力だ。

 これを使えば、わずかな姿も見逃さないだろう。



 ここでふと、昔のことを思い出した。家の前の草原で修行をしていた頃のことだ。

 エスペルに魂を乗せ、自分の体に戻る際に、よくめまいを起こした。

 視界がぐにゃりとゆがみ、しばらく立ち上がることができなかった。

 人と鷲では見えている世界があまりにも違いすぎるのだ。


 しかし、今はこの視力が一番の鍵だ。

 どんなに遠くの獲物も逃さない鷲の視力……。ここで使わずしていつ使うというのだ。


 ギルアが周囲を見渡していると、通りのそばにラクダを止めているのが目に入った。

 どうやらあれが隊長さんのキャラバン隊なのだろう。

 若い人たちが2〜3人控えているけど、隊長らしき人の姿は見えない。

 祭りで人通りが増えてしまい、その場を動くことさえできなくなってしまったのだろう。

 お気の毒に……。早く手がかりを見つけないと。

 ほら、カストルも周囲を見回して探してるじゃないか……。


 …………。って、え……? カストルが、探してる……?


 なんと全身真っ黒姿のカストルが、ラクダのそばでうろうろしているではないか。


( え、どうしてカストルがここに? 家を出てきたのか? )


 その時、視界がグニャリと(ゆが)んだ。


(まずい! そろそろ時間切れだ。

ていうか、カストルに動揺して意識を保てなくなったんだ。

……早く戻らないと! )


 ギルアは止むを得ず、王宮の屋根から飛び立った。

 最後に、こんな声が聞こえてきた。


「隊長さん……!? どうして地下牢に!? 」


 それはかすかに聞こえる、女性の声だった。

 遠くから……おそらく、地面の下からだろうか。

 ギルアは薄れる意識の中、(もしかして……)と確信した。


(隊長さんは捕まってしまったのか……? )


 バッと飛び立つ鷲の姿を、地上のカストルは偶然目撃していた。


「あれは鷲……? もしかして、ギルアが近くにいるのかも! ついていってみよう!」


 カストルは鷲の姿を見逃さぬよう、後をつけていった。


◇◇


 ――ギルアが戻りを焦るのには、理由があった。


 修行をしていた時のこと。空を飛ぶことに夢中になり、戻る時間を守らなかったことがあった。

 空から見る景色は、それはそれは本当に美しかったのだ。

 なんなら、ずっと鷲になって飛んでいたいとさえ思った。

 散々注意されて自分の体に戻ると、それは氷の彫刻のように冷たくなっていた。

 意識が戻った時には、高熱にうなされ2週間近く寝込んでしまった。


 ほんの少しの間だとしても、魂を失った体は温もりを失い、やがて動かなくなってしまうのだという。

 ひどい場合は、生還(せいかん)できなくなることもあるらしい……。


 ――なんて恐ろしい力だ。

 だけど、一族には必要な力だと、何度も何度も(さと)された。

 僕にはその理由がまだわからないけれども、おじいさまを見ていると、そうなのかもしれないと思わされるから不思議だ。

 僕もいつか、おじいさまみたいに、一族を束ねる当主になれば、その必要性がわかるのだろうか……。


◇◇


 そんなことを考えていると、暗い路地裏に倒れる自分の姿が見えてきた。


(よかった……。戻ってこれた……)


 倒れる体の上に留まった瞬間、水が溶け込むように魂が流れ、次の瞬間には、地面の冷たくて硬い感触を感じていた。

 うっすら目を開けると、心配そうに(のぞ)き込むエスペルが目の前にいた。


「……戻って、これ、た……」


 ゆっくり体を起こすと、グワングワンとひどいめまいに襲われた。

 音もくぐもっており、視界すら全然見えない。

 鮮明に聞こえたり見えたりした世界は一気に消え去り、人間の限界を思い知らされた。


 ギルアは壁にもたれかかりながらゆっくり立ち上がった。

 ――たった10分でも、この有様(ありさま)だ……。

 でも、今はゆっくりしてる場合じゃない。早く体勢を立て直して、カストルに会いに行かないと……。


 と、そこへ息切れをしながらカストルが姿を現した。こんなタイムリーなことがあるだろうか。


「ギルア、こんなところにいた!

……って、大丈夫かい? 気分が悪そうだけど……? 」


「う、うん……大丈夫です……」


  ギルアは壁から手を離しながら、ゆっくりとカストルに近づいた。

 青ざめた顔がアルスのそれと重なり、カストルは思わず肩を貸した。


「ありがとう……。すぐよくなるから。ちょうど君に、会いにいこうと思ってたんだ」


「……何かわかったのかい?

さっき人混みに(まぎ)れて王宮の方へ行ったんだけど、全然見つけられなくて。

君の鷲が見えたから、後をつけたら会えるかと思って」


「家から出たら危ないって言ったでしょう? カストルは、命を狙われてるんですよ? 」


「へへへ……。この人混みだし、大丈夫かなって。それで、何かわかった? 」


 ギルアはハア、と(あき)れてため息が出たが、話を続けることにした。


「カストル、隊長さんなんですが……」


「うんうん」


「隊長さんは、地下牢にいるかもしれないです…… 」


「え、地下牢?  ……え、……えええええ!? 」


 カストルは思わず絶叫してしまった。

 それもそのはずだ。唯一の希望とも言える、頼みの綱だった隊長が捕まってしまったのだから。

 つまり、安全にこの国を抜け出せるシナリオはなくなってしまったのだ。


「さっき王宮の方に行った時に、エスペルが女性の声を聞いたそうなんです。

『隊長さん……!? どうして地下牢に!? 』って言ってたみたいです」


 カストルはハッとなった。


「それ……本当? だとしたら、それはジルの声かもしれない。僕の仲間の。

ジルは地下牢で、アルスたちを救出しようとしてたはず。

あああ、ジル、大丈夫にしてるかな? 」


「……どのみち、王宮にいくしかなさそうですね。

隊長さんと合わせて、ジルさんやアルスさんたちを助けるしか方法はないでしょう。

僕もサポートしますから、一緒に行きましょう」


「くう〜。どのみちこうなる運命だったんだろうなあ。

……わかった! 王宮へ行こう! 中に忍び込めるいいルートがあるんだ」



 こうしてカストルとギルアは、意を決して王宮へ乗り込むことになった。

 果たして、全員を助け出すことはできるのか……?


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