第81話 魂飛行《アルマ・ヴォラーレ》
【前回までのあらすじ】
隊長の家で話をすることになった2人。
そこでギルアの目的が“光の使者”の味方であり、手助けをすることだと知る。
カストルの置かれている状況を知り、ギルアも協力してくれることに。
しかし隊長がなかなか戻らないことから、カストルとギルアは様子を見に行くことにした。
祭りは軽快な音楽で始まった。
この国独特のギターの調べや太鼓のリズムが高揚感をそそり、即興で踊る人たちも現れた。
表の通りではここぞとばかりに獣肉やココナッツジュースを振る舞ったり、商いに力を入れたりして祭りを盛り上げていた。
そんな人混みで溢れる通りを、ギルアは隙間を縫うように走り抜けた。
空を見やると、鷲のエスペルが同じ方向に向かって悠々と飛んでいる。
「隊長さんはおそらく王宮の中か、その周辺にいるはずなんだけど……」
それらしい人を見つけようと意識してはいたが、この人通りではうまく見つけることもできないだろう。
仮に見つけられたとしても、簡単に近づくことも叶わないだろう。
王宮の近くまで来たところで、ふとこんな話が耳に入ってきた。
「祭りが始まるってのに、肝心の主役が姿をくらましたそうよ」
「あの鷲で優勝した子でしょ? 一体どこに行ったのかしら? 」
「ちゃんと見てないからそうなるのよ。運営もしっかりしなさいよね」
(……やっば! 祭りに出るのを忘れてた……。
でも、今はそれどころじゃないんだよなあ……。そうだ! 」
ギルアは横道に入り、人気のない路地の奥を進んだ。
何度も角を曲がり、階段を上がり、迷路のように入り組んだ道だった。
エスペルも見失わぬよう頭上を飛んでいる。
◇◇
「……ここなら誰も来ないだろう」
ギルアが辿り着いたのは、路地の一番奥にある真っ暗な一角だった。
誰かが来る気配もなく、通りの喧騒さえも遠くに聞こえているほどだ。
エスペルが旋回しながら降りてきて、腕に留まった。
「少しの間だけ王宮へ“偵察”にいこう。
久々だから、うまくいくかわからないけど……」
ギルアは近くの壁に寄りかかり、鷲の留まる腕を空に向けた。
エスペルはギルアの意図を察したようで、腕から飛び立った。
指先の向こう側に、無数の星が瞬いている。
「綺麗な星だなあ……」
いつの間にか夜になっており、半月が空にかかっている。
エスペルが月の周りに輪を描くように旋回して飛んでいる。
「いくよ、エスペル! ……【魂飛行】」
ギルアの体がまばゆく輝いた。
その光は空に向けた腕を伝い、指先からエスペルに乗り移った。
“抜け殻”になったギルアの体は壁にもたれかかり、ズルズルズルと地面に倒れた。
エスペルに魂が乗り移ったギルアは、王宮に向けて羽ばたいた。
下を見ると通りの灯りがオレンジ色に輝いており、周囲の砂漠とは対称的で、オアシス国家にふさわしい景観だった。
夜風が心地よく通り抜けていく。
(やっぱ僕はまだまだだなあ……。
おじいさまなら、鷲に魂を乗せたあと、体を立たせたまま会話もできるみたい。
一体どれだけの精神力と集中力を鍛えればできるんだろう……。
今の僕には、保って10分くらいかな……。
時間が限られてるから、少しでも手がかりを探すんだ。“光の使者”を助けるために……! )
やがて目の前に王宮が見えた。
丸く湾曲した屋根の縁に留まり、あたりを見渡した。
(ここからなら王宮周辺の声を拾えるはずだ。鷲の聴力は人よりもすごいからね )
ギルアは耳を澄ましてみた。
通りを賑わす軽快な音楽。それに合わせてダンスをする人の手拍子やステップを踏む音。
商人の威勢の良い声と、何度も手を打ちならしている小気味いい音。
行き交う人々の談笑する声。すれ違い際に衣服が擦れ合う音。
親とはぐれ、心細さから泣き出した子供の声。
人々の足元を素早く通り抜けていくネズミたちのか細い鳴き声。
(うーん……場所を変えよう……。王宮内はどうだろうか……)
ギルアは再び耳を澄ました。今度は王宮の内部に向けて。
慌ただしくすれ違う従者たちの足音。
しきりに指示を出す荒々しい声。
衛兵たちのどっしり歩く足音。
食器のぶつかる音。扉が何度も開閉する音。
何かをつぶやいては高笑いしている声。
(ああ……。見つからない……。どこにいるんだろう? )
ギルアは次に周囲を見渡してみた。遠くまでよく見える恐ろしい鷲の視力だ。
これを使えば、わずかな姿も見逃さないだろう。
ここでふと、昔のことを思い出した。家の前の草原で修行をしていた頃のことだ。
エスペルに魂を乗せ、自分の体に戻る際に、よくめまいを起こした。
視界がぐにゃりとゆがみ、しばらく立ち上がることができなかった。
人と鷲では見えている世界があまりにも違いすぎるのだ。
しかし、今はこの視力が一番の鍵だ。
どんなに遠くの獲物も逃さない鷲の視力……。ここで使わずしていつ使うというのだ。
ギルアが周囲を見渡していると、通りのそばにラクダを止めているのが目に入った。
どうやらあれが隊長さんのキャラバン隊なのだろう。
若い人たちが2〜3人控えているけど、隊長らしき人の姿は見えない。
祭りで人通りが増えてしまい、その場を動くことさえできなくなってしまったのだろう。
お気の毒に……。早く手がかりを見つけないと。
ほら、カストルも周囲を見回して探してるじゃないか……。
…………。って、え……? カストルが、探してる……?
なんと全身真っ黒姿のカストルが、ラクダのそばでうろうろしているではないか。
( え、どうしてカストルがここに? 家を出てきたのか? )
その時、視界がグニャリと歪んだ。
(まずい! そろそろ時間切れだ。
ていうか、カストルに動揺して意識を保てなくなったんだ。
……早く戻らないと! )
ギルアは止むを得ず、王宮の屋根から飛び立った。
最後に、こんな声が聞こえてきた。
「隊長さん……!? どうして地下牢に!? 」
それはかすかに聞こえる、女性の声だった。
遠くから……おそらく、地面の下からだろうか。
ギルアは薄れる意識の中、(もしかして……)と確信した。
(隊長さんは捕まってしまったのか……? )
バッと飛び立つ鷲の姿を、地上のカストルは偶然目撃していた。
「あれは鷲……? もしかして、ギルアが近くにいるのかも! ついていってみよう!」
カストルは鷲の姿を見逃さぬよう、後をつけていった。
◇◇
――ギルアが戻りを焦るのには、理由があった。
修行をしていた時のこと。空を飛ぶことに夢中になり、戻る時間を守らなかったことがあった。
空から見る景色は、それはそれは本当に美しかったのだ。
なんなら、ずっと鷲になって飛んでいたいとさえ思った。
散々注意されて自分の体に戻ると、それは氷の彫刻のように冷たくなっていた。
意識が戻った時には、高熱にうなされ2週間近く寝込んでしまった。
ほんの少しの間だとしても、魂を失った体は温もりを失い、やがて動かなくなってしまうのだという。
ひどい場合は、生還できなくなることもあるらしい……。
――なんて恐ろしい力だ。
だけど、一族には必要な力だと、何度も何度も諭された。
僕にはその理由がまだわからないけれども、おじいさまを見ていると、そうなのかもしれないと思わされるから不思議だ。
僕もいつか、おじいさまみたいに、一族を束ねる当主になれば、その必要性がわかるのだろうか……。
◇◇
そんなことを考えていると、暗い路地裏に倒れる自分の姿が見えてきた。
(よかった……。戻ってこれた……)
倒れる体の上に留まった瞬間、水が溶け込むように魂が流れ、次の瞬間には、地面の冷たくて硬い感触を感じていた。
うっすら目を開けると、心配そうに覗き込むエスペルが目の前にいた。
「……戻って、これ、た……」
ゆっくり体を起こすと、グワングワンとひどいめまいに襲われた。
音もくぐもっており、視界すら全然見えない。
鮮明に聞こえたり見えたりした世界は一気に消え去り、人間の限界を思い知らされた。
ギルアは壁にもたれかかりながらゆっくり立ち上がった。
――たった10分でも、この有様だ……。
でも、今はゆっくりしてる場合じゃない。早く体勢を立て直して、カストルに会いに行かないと……。
と、そこへ息切れをしながらカストルが姿を現した。こんなタイムリーなことがあるだろうか。
「ギルア、こんなところにいた!
……って、大丈夫かい? 気分が悪そうだけど……? 」
「う、うん……大丈夫です……」
ギルアは壁から手を離しながら、ゆっくりとカストルに近づいた。
青ざめた顔がアルスのそれと重なり、カストルは思わず肩を貸した。
「ありがとう……。すぐよくなるから。ちょうど君に、会いにいこうと思ってたんだ」
「……何かわかったのかい?
さっき人混みに紛れて王宮の方へ行ったんだけど、全然見つけられなくて。
君の鷲が見えたから、後をつけたら会えるかと思って」
「家から出たら危ないって言ったでしょう? カストルは、命を狙われてるんですよ? 」
「へへへ……。この人混みだし、大丈夫かなって。それで、何かわかった? 」
ギルアはハア、と呆れてため息が出たが、話を続けることにした。
「カストル、隊長さんなんですが……」
「うんうん」
「隊長さんは、地下牢にいるかもしれないです…… 」
「え、地下牢? ……え、……えええええ!? 」
カストルは思わず絶叫してしまった。
それもそのはずだ。唯一の希望とも言える、頼みの綱だった隊長が捕まってしまったのだから。
つまり、安全にこの国を抜け出せるシナリオはなくなってしまったのだ。
「さっき王宮の方に行った時に、エスペルが女性の声を聞いたそうなんです。
『隊長さん……!? どうして地下牢に!? 』って言ってたみたいです」
カストルはハッとなった。
「それ……本当? だとしたら、それはジルの声かもしれない。僕の仲間の。
ジルは地下牢で、アルスたちを救出しようとしてたはず。
あああ、ジル、大丈夫にしてるかな? 」
「……どのみち、王宮にいくしかなさそうですね。
隊長さんと合わせて、ジルさんやアルスさんたちを助けるしか方法はないでしょう。
僕もサポートしますから、一緒に行きましょう」
「くう〜。どのみちこうなる運命だったんだろうなあ。
……わかった! 王宮へ行こう! 中に忍び込めるいいルートがあるんだ」
こうしてカストルとギルアは、意を決して王宮へ乗り込むことになった。
果たして、全員を助け出すことはできるのか……?
お読みいただきありがとうございます。
少しでも「面白い」「続きが気になる」「応援したい」と思っていただけましたら、
ブックマーク登録をお願いします。
また、広告の下の☆☆☆☆☆を押していただけますと、評価ポイントが入ります。
評価していただけますと、執筆の励みになります^^
応援よろしくお願いいたしますm(_ _)m




