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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第79話 カストルとギルア

【前回までのあらすじ】


隊長に接触したカストルは、隊長の家で今まで起きたことを全て話した。

カストルの話を聞いた隊長は、「やはり避けられなかったか」とつぶやき、

この国の歴史を教えるのだった。

その後隊長の提案で同行させてもらうことになり、許可をもらうために隊長は王宮へ向かう。

カストルは路地裏で、鷲を連れた少年を見かけるのだった。

「おーい! おおーい! 」


 カストルは手を振りながら、鷲を連れている少年に声をかけた。

 

「あのっ、ハヤブサ大会で優勝した人ですよね! 」


「僕ですか? ……は、はい。そうですけど……」


 少年はやや警戒しながら、不思議そうにカストルを見つめていた。

 それもそのはず。今のカストルは隠し通路を抜けてきたおかげで、全身真っ黒姿なのだ。


「君に伝えたいことがあるんだけど……。 ちょっとこっちに来てもらえないかな? 」


「え……!? 」


 少年はここではっきりと警戒し、後退(あとずさ)りした。腕に留まる鷲も落ち着きなく羽を動かしている。


「君は誰? 僕に、何の用ですか……? 」


 少年は相手の出を(うかが)うように、慎重に言葉を選んだ。

 場合によっては全速力で逃げることも考えていた。

 汚れた身なりの見知らぬ人に、路地で「こっちに来て」と言われれば、誰しもが警戒を強めるのは当然のことだった。

 金品をせがまれたり、命の危険にさらされたりするのは目に見えている。

 それに、今はこの人に(かま)っている余裕はない。

 

「悪いけど、それどころじゃないんです。さようなら」


 少年はその場を立ち去ろうとした。


「ま、待って! 大事な話なんだ! 君の命に関わることかもしれなくて……」


 カストルは単刀直入(たんとうちょくにゅう)に言った。これで少しは耳を傾けてくれるに違いない。


「命に関わる?……そういうことなら、尚更(なおさら)ごめんです」

 

 少年は(きびす)を返し、スタスタと足早に離れて行ってしまった。


「いや、そうじゃなくて! 」


 カストルは言葉を選び間違えたことを非常に後悔した。

 

(バカヤロー……! 今この状況で言うと逆効果じゃないかぁぁぁ…… )


「ちょっと待ってよ! 僕の話を聞いてくれないか? 」


 しかし、焦れば焦るほど不審者度(ふしんしゃど)がアップし、相手は警戒して逃げてしまいかねない。


「どうしよう……。追いかけなきゃ! 」


 その時、カストルは少年が手にしているものに気づいた。


「あのっ……!それ、どこで手に入れたんですか? 」


 少年の手には、北の遺跡で “通行料”として奪われたはずの金貨の袋と剣が(にぎ)られていたのだ。


「えっ? ……ああ、これですか?

これは北の遺跡で奪われたものだというんで、取り返してきたんですよ。

僕はこの持ち主を探してるところなんです。

ちょうどよかった。……君、何か知りませんか? 」


(相手をしている余裕はないけど、一応聞いておくのも悪くはないだろう。

 まあ、何も手がかりは得られないだろうけど…… )

 

「それ、僕らのものです! “通行料” でとられてしまって、困ってたところなんだ! 」


 ―― 一陣(いちじん)の風が、細い路地を吹き抜けていった。


「え……。ええ!? ……君が、これの、持ち主!? 」


 少年はここで初めてうろたえた。


(どういうことだ……? この路地に住む人が、これの持ち主だって?

いや、そんなはずはない。だってこれは金貨の入った袋と、異国の剣だ。

路地に住む人が持つ代物(しろもの)じゃない。

……おそらく、僕を引き止めるための口実に違いない )


「……君の持ち物だっていう、証拠はあるんですか? 」


 少年はカストルと向き直り、冷たく言い放った。


「え、証拠……? そんなものはないよ……。

僕たちは、ラオンダールから“聖地巡礼(せいちじゅんれい)”の旅をしているところなんだ。

北の遺跡へ神の像を探しにいった時に、“通行料” で賊に奪われたものなんだよ。

金貨の袋は国を出る時に持たされたもので、その剣はセイガで買ったものなんだ」


 カストルは必死に経緯(けいい)を説明した。

 焦って先を急ぐと怪しまれる。だからこそ1から順を追って説明すれば、わかってもらえるかもしれない。

 

(ラオンダール……? “聖地巡礼(せいちじゅんれい)”……?

もしかして、この路地に住む人ではないのか……?)


 少年は悩んでいるようだったが、やがて真面目な顔になった。


「……単刀直入に聞きます。あなたは、 “光の使者” ですか……!? 」


―― 再度、風が2人の間を通り過ぎていった。


「え? “光の使者” ? ……どうしてそれを?

 え……えええええええーーー!!?? 」


 カストルの叫び声が、路地に何重にもこだまして響き渡った。


 やがて 「なんだなんだ」 と様子を(うかが)うように、1人2人と路地の住人が集まってきた。

 いつの間にか大勢のギャラリーが2人を取り囲んでおり、この場を逃げ出すことも不可能になっていた。


 少年は周囲を見回し、頭をおさえながら、「ハァ……」とため息をついた。


「あの、ここだと目立つんで、君のいうどこかへ案内してくれませんか?

そこで詳しく話を聞かせてもらいます……」


 カストルは顔を真っ赤にしながら、少年の手を引っ張って隊長の家に戻った。


◇◇


 隊長の家に戻ると、カストルは少年と向き合うように座った。そして、真っ先に頭を下げた。

 

「さっきは驚かせてごめん! まさかあんなことになるとは思わなくて……。

……まずは自己紹介するよ。僕は、カストル。ラオンダール帝国から来たんだ」


 カストルは “不審者疑惑(ふしんしゃぎわく)” を払拭(ふっしょく)するために、顔と頭に巻いていた布を外した。

 目元は汚れで黒いままだが、艶やかな髪と健康的な顔が(あら)わになった。


「このとおり、訳あって黒くなってしまったんだけど、別に怪しい者じゃないよ。

……っていうか、普通の一般人だよ」


 これを聞いて、少年の表情が幾分(いくぶん)か穏やかになった気がした。


「ははは、そのようですね。僕の方こそ疑ってごめんなさい。決して悪気はなかったんです。

僕はギルア。ギルア・アルドールです」


 ギルアも、同じように顔の布を外した。

 黒い髪と鷲のようにするどい目つきが印象的な少年だった。


「そして、この黒い鷲は、相棒のエスペルです」


 ギルアは鷲がよく見えるように腕を前に出した。

 鷲はカストルをチラッと見ると、再びギルアの方に顔を向けた。


「……大会、見てたよ。君の鷲すごかったね!

ずいぶん出遅れたのに、ぐんぐん距離を縮めて、優勝しちゃったんだもん! 」


 カストルは大会の光景が目の前に浮かびあがるようだった。

 一斉(いっせい)にスタートしたハヤブサたちとは対称的に、腕に留まったままの鷲。

 遅れて飛び立ったあと、1羽2羽とハヤブサを抜いていき、ついには優勝してしまった。

 弾けるような観客の声援に包まれて……。


「あれはすごかった。うん。思い返すだけでも涙が出るよ」


 うんうん、と腕組みをしながら感慨深(かんがいぶか)くうなずくカストルの姿を見て、ギルアは照れくさくなった。


「ははは、ありがとう……。僕も、まさか優勝するなんて思わなかったよ。

あの時はエスペルの機嫌がよくなくて……。いたたた、ごめんって。悪く思わないでよ」


 エスペルはくちばしでギルアの腕をつついた。

 

「え、その鷲、人の言葉がわかるの……? 」


 カストルは思わずつっこみを入れた。


「ああ、僕たちは小さい時から一緒なんです。

彼女の表情やしぐさを見ていると、なんとなくわかるんですよ」


「ふーん、そうなんだ。……って、いけない!それどころじゃなかった!」


 カストルは談笑(だんしょう)に夢中になり、(あや)うく本題に入るのを忘れるところだった。


「まず、聞かせてもらえないかな。どうして君は “光の使者” のことを知ってるの?

そのことを知ってる人は、ほとんどいないっていうか……」


 この言葉に、ギルアは目を丸くして驚いた。


「えっ、そうなんですか?

詳しい理由を話せば、長くなってしまうんだけど……。

簡単に言うと、僕は “光の使者” を探しにきたんです 」


「え、探しに来た……? どういうこと?

も、もしかして、“闇の使者” の仲間なのか!? 」


 カストルはスックと立ち上がり、取り返してもらった剣を手にした。

 しかし恐怖で腕がブルブル震えて、非常に頼りない。

 対するギルアも、驚いて腰が抜けそうになっていた。

 

「ま、待ってください! 剣を下ろして!

君の言う “闇の使者” ってなんのことですか?

……僕はどちらかというと、“光の使者” の味方だと思ってるんですけど…… 」


「え、“味方”……? 」



―― ギルアの口から告げられた予想外な言葉。

一体どういうことなのか……?


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