第79話 カストルとギルア
【前回までのあらすじ】
隊長に接触したカストルは、隊長の家で今まで起きたことを全て話した。
カストルの話を聞いた隊長は、「やはり避けられなかったか」とつぶやき、
この国の歴史を教えるのだった。
その後隊長の提案で同行させてもらうことになり、許可をもらうために隊長は王宮へ向かう。
カストルは路地裏で、鷲を連れた少年を見かけるのだった。
「おーい! おおーい! 」
カストルは手を振りながら、鷲を連れている少年に声をかけた。
「あのっ、ハヤブサ大会で優勝した人ですよね! 」
「僕ですか? ……は、はい。そうですけど……」
少年はやや警戒しながら、不思議そうにカストルを見つめていた。
それもそのはず。今のカストルは隠し通路を抜けてきたおかげで、全身真っ黒姿なのだ。
「君に伝えたいことがあるんだけど……。 ちょっとこっちに来てもらえないかな? 」
「え……!? 」
少年はここではっきりと警戒し、後退りした。腕に留まる鷲も落ち着きなく羽を動かしている。
「君は誰? 僕に、何の用ですか……? 」
少年は相手の出を窺うように、慎重に言葉を選んだ。
場合によっては全速力で逃げることも考えていた。
汚れた身なりの見知らぬ人に、路地で「こっちに来て」と言われれば、誰しもが警戒を強めるのは当然のことだった。
金品をせがまれたり、命の危険にさらされたりするのは目に見えている。
それに、今はこの人に構っている余裕はない。
「悪いけど、それどころじゃないんです。さようなら」
少年はその場を立ち去ろうとした。
「ま、待って! 大事な話なんだ! 君の命に関わることかもしれなくて……」
カストルは単刀直入に言った。これで少しは耳を傾けてくれるに違いない。
「命に関わる?……そういうことなら、尚更ごめんです」
少年は踵を返し、スタスタと足早に離れて行ってしまった。
「いや、そうじゃなくて! 」
カストルは言葉を選び間違えたことを非常に後悔した。
(バカヤロー……! 今この状況で言うと逆効果じゃないかぁぁぁ…… )
「ちょっと待ってよ! 僕の話を聞いてくれないか? 」
しかし、焦れば焦るほど不審者度がアップし、相手は警戒して逃げてしまいかねない。
「どうしよう……。追いかけなきゃ! 」
その時、カストルは少年が手にしているものに気づいた。
「あのっ……!それ、どこで手に入れたんですか? 」
少年の手には、北の遺跡で “通行料”として奪われたはずの金貨の袋と剣が握られていたのだ。
「えっ? ……ああ、これですか?
これは北の遺跡で奪われたものだというんで、取り返してきたんですよ。
僕はこの持ち主を探してるところなんです。
ちょうどよかった。……君、何か知りませんか? 」
(相手をしている余裕はないけど、一応聞いておくのも悪くはないだろう。
まあ、何も手がかりは得られないだろうけど…… )
「それ、僕らのものです! “通行料” でとられてしまって、困ってたところなんだ! 」
―― 一陣の風が、細い路地を吹き抜けていった。
「え……。ええ!? ……君が、これの、持ち主!? 」
少年はここで初めてうろたえた。
(どういうことだ……? この路地に住む人が、これの持ち主だって?
いや、そんなはずはない。だってこれは金貨の入った袋と、異国の剣だ。
路地に住む人が持つ代物じゃない。
……おそらく、僕を引き止めるための口実に違いない )
「……君の持ち物だっていう、証拠はあるんですか? 」
少年はカストルと向き直り、冷たく言い放った。
「え、証拠……? そんなものはないよ……。
僕たちは、ラオンダールから“聖地巡礼”の旅をしているところなんだ。
北の遺跡へ神の像を探しにいった時に、“通行料” で賊に奪われたものなんだよ。
金貨の袋は国を出る時に持たされたもので、その剣はセイガで買ったものなんだ」
カストルは必死に経緯を説明した。
焦って先を急ぐと怪しまれる。だからこそ1から順を追って説明すれば、わかってもらえるかもしれない。
(ラオンダール……? “聖地巡礼”……?
もしかして、この路地に住む人ではないのか……?)
少年は悩んでいるようだったが、やがて真面目な顔になった。
「……単刀直入に聞きます。あなたは、 “光の使者” ですか……!? 」
―― 再度、風が2人の間を通り過ぎていった。
「え? “光の使者” ? ……どうしてそれを?
え……えええええええーーー!!?? 」
カストルの叫び声が、路地に何重にもこだまして響き渡った。
やがて 「なんだなんだ」 と様子を窺うように、1人2人と路地の住人が集まってきた。
いつの間にか大勢のギャラリーが2人を取り囲んでおり、この場を逃げ出すことも不可能になっていた。
少年は周囲を見回し、頭をおさえながら、「ハァ……」とため息をついた。
「あの、ここだと目立つんで、君のいうどこかへ案内してくれませんか?
そこで詳しく話を聞かせてもらいます……」
カストルは顔を真っ赤にしながら、少年の手を引っ張って隊長の家に戻った。
◇◇
隊長の家に戻ると、カストルは少年と向き合うように座った。そして、真っ先に頭を下げた。
「さっきは驚かせてごめん! まさかあんなことになるとは思わなくて……。
……まずは自己紹介するよ。僕は、カストル。ラオンダール帝国から来たんだ」
カストルは “不審者疑惑” を払拭するために、顔と頭に巻いていた布を外した。
目元は汚れで黒いままだが、艶やかな髪と健康的な顔が露わになった。
「このとおり、訳あって黒くなってしまったんだけど、別に怪しい者じゃないよ。
……っていうか、普通の一般人だよ」
これを聞いて、少年の表情が幾分か穏やかになった気がした。
「ははは、そのようですね。僕の方こそ疑ってごめんなさい。決して悪気はなかったんです。
僕はギルア。ギルア・アルドールです」
ギルアも、同じように顔の布を外した。
黒い髪と鷲のようにするどい目つきが印象的な少年だった。
「そして、この黒い鷲は、相棒のエスペルです」
ギルアは鷲がよく見えるように腕を前に出した。
鷲はカストルをチラッと見ると、再びギルアの方に顔を向けた。
「……大会、見てたよ。君の鷲すごかったね!
ずいぶん出遅れたのに、ぐんぐん距離を縮めて、優勝しちゃったんだもん! 」
カストルは大会の光景が目の前に浮かびあがるようだった。
一斉にスタートしたハヤブサたちとは対称的に、腕に留まったままの鷲。
遅れて飛び立ったあと、1羽2羽とハヤブサを抜いていき、ついには優勝してしまった。
弾けるような観客の声援に包まれて……。
「あれはすごかった。うん。思い返すだけでも涙が出るよ」
うんうん、と腕組みをしながら感慨深くうなずくカストルの姿を見て、ギルアは照れくさくなった。
「ははは、ありがとう……。僕も、まさか優勝するなんて思わなかったよ。
あの時はエスペルの機嫌がよくなくて……。いたたた、ごめんって。悪く思わないでよ」
エスペルはくちばしでギルアの腕をつついた。
「え、その鷲、人の言葉がわかるの……? 」
カストルは思わずつっこみを入れた。
「ああ、僕たちは小さい時から一緒なんです。
彼女の表情やしぐさを見ていると、なんとなくわかるんですよ」
「ふーん、そうなんだ。……って、いけない!それどころじゃなかった!」
カストルは談笑に夢中になり、危うく本題に入るのを忘れるところだった。
「まず、聞かせてもらえないかな。どうして君は “光の使者” のことを知ってるの?
そのことを知ってる人は、ほとんどいないっていうか……」
この言葉に、ギルアは目を丸くして驚いた。
「えっ、そうなんですか?
詳しい理由を話せば、長くなってしまうんだけど……。
簡単に言うと、僕は “光の使者” を探しにきたんです 」
「え、探しに来た……? どういうこと?
も、もしかして、“闇の使者” の仲間なのか!? 」
カストルはスックと立ち上がり、取り返してもらった剣を手にした。
しかし恐怖で腕がブルブル震えて、非常に頼りない。
対するギルアも、驚いて腰が抜けそうになっていた。
「ま、待ってください! 剣を下ろして!
君の言う “闇の使者” ってなんのことですか?
……僕はどちらかというと、“光の使者” の味方だと思ってるんですけど…… 」
「え、“味方”……? 」
―― ギルアの口から告げられた予想外な言葉。
一体どういうことなのか……?
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