第78話 昔の話
【前回までのあらすじ】
ジルは暗闇に隠れながら、地下牢を守る兵たちに攻撃を加える。
無事牢の鍵を入手し、兵長とアルスを助けだしたあと、隣の牢の人に話しかけられる。
一方兵長たちは、地下牢でストレス発散しようとしているラマッカンに奇襲をかけ、
ぐるぐる巻きに縛り上げるのだった。
時を同じくして――。
隊長の家に連れてこられたカストルは、隊長に促されて今までに起きたことを話した。
ハヤブサ大会を見に行ったこと。
商人のワディに北の遺跡のことを聞くと、必死で止められたこと。
王宮に戻ると兵長たちがいなかったこと。
アルスと2人で遺跡にいくと、賊に襲われたこと。
賊から逃げるために杖の力を使い、アルスの体調が悪くなったこと。
王宮に戻ると、すぐに医務室に連れて行かれたが、1時間経っても戻ってこなかったこと。
おそらく、捕まってしまったかもしれないこと。
リンとジルが王様と結婚させられること。
兵長たちは奴隷にさせられること。
アルスとカストルは、いずれ殺されること。
王宮の隠し通路を通って、ここまできたこと……。
隊長はカストルの話を最後まで聞き終わると、眉間にシワを寄せ、一言、「やはり避けられなかったか」とつぶやいた。
「……え?」
隊長は煙草に火をつけると、天井を仰ぎ見た。
カストルは、とっつきにくい隊長から少しでも情報を得るために、必死で食らいついた。
「……隊長は、知ってたんですか? 僕たちがこうなることを? ……出会った時から? 」
カストルは無意識のうちに、やや強い口調になってしまった。
隊長はしばらく何も言わずに煙草をふかしていたが、やがて重い口を開けた。
「おまえたちは、帝国から来た要人だ。特にお前さんは、皇帝の御子息ときた。
その身に問題が起これば、直ちに皇帝は兵を出し、攻め込んでくることじゃろう。
……じゃから、余計なことをせん限り、大丈夫だろうと思っとったんだが……。
陛下の欲は、底無しに深かったみたいじゃのう……」
隊長は天井にフーッと煙を吐くと、唐突に「昔の話をしようか」といった。
「え? 昔話? ……今はそれどころじゃないんですけど! 聞きたいことが山積みなんですけど! 」
カストルは思わずツッコミを入れてしまった。
「まあ、いいから聞け。……この国の歴史と成り立ち、そして今までに起きたことを全部話してやる」
隊長は煙草の火を消すと、カストルの目を見つめながら、話を始めた。
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何百年も昔から、この砂漠には各地に人々が散らばって暮らしていた。
それはそれは貧しい生活だった。狩猟をしたり織物を作ったりして、近くの集落と交流し、細々と暮らしていたようだ。
そんな暮らしをしていた砂漠の民だが、新年を迎える日には、必ず神殿に祈りを捧げにきていた。
大地の女神を祀る神殿――。この街の北にある神殿にだ。
ある時、神殿の近くにオアシスが広がったのを機に、人々はここに集まり、定住し、街を築いた。
オアシスで育ったヤシの加工品や織物などを携えて、各国と交易するようになった。
やがて富を築くものが増え、街も人々も賑わいを見せた。
数十年前、交易で巨額の富を得た者が現れた。
ラハーリ・カラクーム。……今の陛下の祖父にあたる人物だ。
この国の発展と人々の豊かな暮らしのために、その圧倒的な財力を持ってして、農業、狩猟、交易……この国のあらゆる事業をまとめあげた。
掟を作ることで秩序が持たらされ、人々の暮らしもより良いものになっていった。
民からの熱い要望もあり、王を名乗り、王宮を作り、この国を築きあげていった。
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ここで、隊長は2本目の煙草に火をつけた。
一息吹いた後、話を続けた。
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……しかし、平和は長くは続かなかった。
王が65歳で死ぬと、次にその息子が王になった。
息子のインクム・カラクームは、始めこそ先王の意思を引き継いでいたが、次第に欲に溺れるようになった。
今まで以上に交易を増やせば、さらなる富が得られるに違いない、と。
果たして、その考え通りに多くの富が生まれ、人々も数ヶ月は働かずとも暮らせるだけの財力を持つようになった。
しかし、王は次第にその富を民に分け与えずに、自分と親族たちで独占するようになり出した。
命がけで旅をしているキャラバン隊たちは、見返りがないことに嫌気がさし、次々と仕事を辞めていった。
キャラバン隊はこの国の生命線とも言える人たちだ。彼らが動かないかぎり、国が栄えることはない。
一時期はボイコットを起こして反抗していた時もあったという。
だが、最終的に王宮の兵たちに捕まり、見せしめのために大勢処刑された。
その後キャラバン隊は残った人たちでしぶしぶ再開された。
民たちは次第に痩せこけ、物乞いをしたり、病気や餓死などで死んでいくものも増えた。
キャラバン隊になけなしの金を渡し、一緒にこっそり出ていく奴も後を絶たなかった。
だが、そこでもいろいろ問題が起きて、余計にキャラバン隊は数を減らしていった。
……おかげでこの国は一気に傾き始めた。
ある時、王は閃いた。
自国で賄えないのなら、よそから来たものを利用すればいいのだと。
そこで王はキャラバン隊たちに命令して、各国から人を呼び寄せることにした。
砂漠の真ん中のオアシス国家――。珍しいもの見たさに多くの人がやってきた。
王はこの国に来たものは必ず王宮に挨拶に来るよう掟を作った。
そうすれば、誰をどう利用するか、その場で判断することができる。
まず若い女たちは、うまいこと丸め込まれて結婚させられた。
民は1人の女としか結ばれないが、王は何人とでも結婚できるように掟を作った。
おかげでたくさんの子供が生まれた。
同時に、使えなくなると捨てられた。位を下げられるならまだマシだ。
ひどいと物乞い同然になるか、国を追い出されて砂漠でのたれ死ぬかだ。
次に男は、金品を奪われたあと、奴隷にするか殺されるかした。
おかげでこの国を訪れた者で、無事故郷へ戻った人は1人もいなかった。
そのまま数十年が経ち、王が死んだ。そして今の王が後を継いだ。
……ここまでいうともうわかるだろうが、状況はエスカレートするばかりだ。
もはや初代の優しさなどどこにもない。自分を神同然と思い込み、悪政を敷くばかりだ。
10年前、即位したばかりの頃だな。
民の唯一の救いだった神殿を破壊し、女神像をオアシスに投げ入れた。
遺跡には、街に居場所をなくしたゴロツキどもが住み始めるようになった。
街の奴らは恐れて決して近づこうとはせん。
噂では、王がそいつらを雇ってるって話だ。自分の手を汚すことなく、気にいらんやつを処分できるからな。
……どうだ。これがこの国の、実態だ。
ようくわかっただろう。……心当たりが、あるだろう?
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カストルはしばらく何も言えなかった。あまりにも恐ろしい真実だった。
淡々と語る隊長の姿にすら、身震いを覚えるほどだった。
「そこの窓から、外を見てみろ」
隊長に言われて、カストルは窓から外の様子を伺った。
街を歩く人たちは痩せこけ、俯いて力なく歩いている。
中には地べたに座り込み、生きているのか死んでいるのかもわからない人たちがあちこちに見られた。
カストルは恐ろしくなって目を背けた。
「表の通りは商人がいるんで賑やかだが、ひとたび路地に入ればどこもこんなもんだ。
その日1日を生きることに精一杯で、将来のことなど考える余裕もない。
今の暮らしがよくなれば、と願いつつも、手の施しようがないのが現状なんだ。
今の王が存命な限り、この苦しみは永遠に続くだろう、とな」
カストルはそれを聞いて、いても立ってもいられなくなった。
「隊長は……。王がこれだけ悪いことをしてるのに、どうして黙ったままなんですか?
街の人たちが苦しんでいるのに、王の言いなりになってるんですか?
隊長くらいの人なら、王に進言してなんとか改善できるんじゃないんですか? 」
隊長は新しい煙草に火をつけようとしたが、ちょうど切らしてしまったようで、チッと舌打ちをした。
カストルのまっすぐな眼差しが突き刺さるのを感じながら……。
「わしだって、できることはしてきたさ。
わずかしかもらえぬ報酬は、全て貧しいやつに分け与えた。
王が何もしないなら、わしが救ってやろうとさえ思った。
……だが、わしの力ではどうすることもできんのだ。救えぬ命の数が圧倒的に多すぎる。
これだけ国のために貢献していながら、何もできないんだ。……笑える話だろ!
……昨日陛下に謁見した時、なんて言われたと思う?
次、倍以上の利益が見込めなかったら、牢に入れると脅された」
カストルはショックで頭が真っ白になった。
「なんだよ、それ……。なんでそんなこと言われないといけないんだ!
隊長はこんなに頑張ってるのに! 隊長たちのおかげでこの国は栄えてるのに! 」
「まあ落ち着け。お前さんのいいたいことはよくわかる。
だが仕方ないんだ。誰も王には逆らえない。逆らえば牢に入れられ、行く末は死刑だ。
言いつけを守っているうちは長生きできる。大丈夫だ、なんとかなるだろう。
それよりもお前さんは、この国を出ることだけを考えな」
「……で、でも……」
「わしに考えがある。……わしはこれからこの国を出発する。
お前たちも、一緒についてくればいいだけの話だ」
カストルは一気に目の前のモヤが晴れたような気がした。こんなにも簡単に国を抜けられる方法があったなんて。
「わしはこれから陛下に出立の報告に行くから、何も知らないふりをして聞いてきてやろう」
「あああああ、ありがとうございます!
でも、大丈夫なんですか? もし王に感づかれてしまったら、隊長も危ない立場になってしまうんじゃ……? 」
「なあに、わしなら大丈夫じゃよ。ついでにお前のお友達のことも聞いてこよう。
お前は外にでると危険だから、ここで待っていなさい」
隊長はそそくさと家を出て行った。
残されたカストルは、思わず拳を振り上げた。
「やったあー! ちょっと怖くて苦手だったけど、すっごくいい人じゃないかー!
リンやジルが隊長を褒めてた理由が、ここにきてようやくわかったよ。
……そういや、ジルは今頃どうしてるだろう?
アルスやリン、兵長たちを見つけられてるといいけど……」
その時、ふと外をみると、見覚えのある少年が路地をウロついているのが見えた。
腕に黒い鷲を留まらせて、周囲をキョロキョロと見渡している。
「あああ! あの人! ハヤブサ大会で優勝した人だ!」
カストルはもう一つのミッションを思い出して、家を飛び出した。
もうじき、日が暮れかけようとしていた。
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