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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第77話 地下牢救出作戦

【前回までのあらすじ】


カストルは隊長に接触し、現状を知らせることができた。

ジルはラマッカンの後をつけることでアルスを見つけることに成功する。

ラマッカンが兵長たちを使ってストレス発散することを知ったジルは、

弓矢を片手に来た道を戻るのだった。

 ジルはのっしのっしと歩くラマッカンの後を、一定の距離を保ちながらゆっくりと追った。


 ここの牢には鉄の扉で完全に見えない独房(どうぼう)から、数人まとめて入れられている(おり)などがあった。

 把握(はあく)しているだけで4、50ほどの牢があり、そのほとんどが埋まっているようだった。

 王の性格を考慮(こうりょ)すると、事実無根(じじつむこん)の罪で捕らえられている人もいるのではないかと思われた。

 独房(どくぼう)からは(うめ)き声や独り言をブツブツと続ける声が聞こえ、その度に近くの兵が「黙れ! 」と叫ぶのが聞こえた。

 幸いにも松明(たいまつ)の灯りが届かない場所もあり、兵が近づいてくると薄闇(うすやみ)に隠れてやり過ごすことができた。


 ジルは聞こえてくる“声”に従い、兵と鉢合わせせずに尾行(びこう)をすることができた。

 そうこうしているうちにラマッカンは地下牢の入り口に程近い、兵長たちが囚われている牢の前に到着した。

 ジルは近くの倉庫の角に隠れて、様子を(うかが)うことにした。

 倉庫には囚人たちから奪い取った持ち物や武器などが乱雑(らんざつ)に置かれており、おそらく兵長たちの武器もここにあるはずだ。


「へへへ、まずはお前たちからだよ。

そこの細い奴らは、バットでまとめて叩きこんでやる。全力で振り回すとスカッとするんだよねえ!

今回改良を加えたから、細かいトゲがビッシリついてるんだあ。

きっと痛いどころの話じゃないだろうねえ……。

 

そこのガッシリしたやつは、俺のナイフ投げの練習台になってもらうよ。

今度の大会で絶対優勝したいからさあ。

 

それとお前は……一番偉そうな奴だから、とびっきりのを用意してやろうか。

へへへ……何にしようかなあ……待ちきれないなあ…… 」


 ラマッカンは兵たちを品定めしながら、“ストレス発散” メニューを不気味な笑みをたたえて述べた。

 兵長たちの表情が恐怖と緊張で思わず引きつる。

 その時向こう側から兵が走ってくるのが見えた。


「ラマッカン様、拷問室(ごうもんしつ)の準備が整いました! 」


「ほんと? ……じゃ、こいつら全員出してよ 」


 ラマッカンはのしのしと拷問室(ごうもんしつ)へ向かっていった。

 言われた兵は腰から鍵の束を取り出した。おそらく地下牢すべての部屋の鍵があると思われる。


「……今だわ! 」


 ジルは物陰(ものかげ)からゆっくりと弓矢を構え、松明(たいまつ)の炎を1つ、また1つと消していった。

 灯りが(とぼ)しくなり、(おり)の周辺が真っ暗闇に包まれた。


「!? 何事だ……? 灯りはどうした? 」


 兵は異変を感じ、仲間を呼びに行こうとした。

 兵長たちも首を左右に振り、何が起きているのかを把握しようとしていた。

 位置関係をすべて記憶していたジルは、暗闇の中をぬうように前進し、兵のそばまで近寄った。

 足音に気付いて、兵が振り向いた。

 

「おまえはっ……」


 ジルはすかさず矢を兵の腕に放った。見事命中し、鍵の束がシャーンと音を立てて床に落ちた。


「ぐぁっ……」


 兵は腰の剣に手をかけようとしたが、利き手に力が入らず剣を抜けなかった。

 毒でも塗られていたのか、患部から(しび)れてきているようだった。


「ごめんなさいね。……致死量(ちしりょう)はないから安心して」


 やがて兵は立っているのも困難になり、その場に倒れてしまった。

 精一杯に肺を膨らませて、浅い呼吸をしている。


「おい、何かあったのか? 」


 声を聞きつけて、見張りにあたっていた兵が、様子を見に現れた。

  

〈大丈夫。同じように射抜けばいい〉


 こういうときも姿の見えぬサポートが入るのはありがたい。


「……ぬ! 誰だ貴様は! 」


 兵は腰の剣に手をかけて走り寄ってきた。

 ジルは冷静に弓を引き、剣を持つ手に向けて矢を放った。

 こちらも見事命中し、矢は腕にささった。

 この兵もじきに剣を床に落とし、ドタッと倒れ込んだ。

 

 ジルは床に落ちていた鍵の束を拾うと、兵長たちの牢の鍵をあけた。


「これはこれは……ジル様! ありがとうございます。

まさかお一人で来られたのですか!? 」


 兵長は驚きと歓喜(かんき)が入り混じった声で、感謝を述べた。


「兵長さんたちこそ、ご無事で何よりです。

……しかし、今はあまり時間がありません。

私たちは、とんでもない陰謀(いんぼう)に巻き込まれてしまったようです。

……奥に、アルスが捕まっています 」


「……アルス様が!? 」


 兵たちは皆驚きの声をあげた。

 ジルは、今起きていることを要点をまとめて兵長に伝えた。


 アルスの杖が奪われてしまったこと。

 リンが今夜、王と結婚させられること。

 アルスとカストルは殺されるかもしれないこと。

 兵長たちは奴隷にされること。

 カストルには、キャラバン隊の隊長に助けを求めに行ってもらっていること。


「な……なんということだ! やはり……噂は本当だったのですね…… 」


 兵長はガックリとうなだれた。


「う、噂って……? 」


「はい、ダルウィンでは行方不明者が後を絶たないという噂が、かねてよりありました。

ラオンダールだけではなく、各国からもそのような声が出ていたようです。

我々は旅に出る際に、皇帝陛下からの命令で、現地でその調査をすることになっていました。

ところが、それをかぎつけた王の側近たちに見つかってしまい、ここに入れられた次第です」


「まあ、そうでしたか……」


「しかし、ジル様の今のお話を聞いて確信に変わりました。

女性は結婚させられ、男性は奴隷、または殺されていたのですね。

どうりで、誰も戻って来ないわけです……。

……我々も早くこの国を出ねばなりませんね。

一刻も早くアルス様とリン様を救出しましょう。

もうやつらの思い通りにはさせませんよ! 」


「兵長さん、私はこの鍵を持ってアルスを助けに行きます。

すぐそこの物置に、みなさんの武器が置かれているはずです。

……みなさんは、この地下牢にいる兵たちを全員牢に入れてください。

そして、拷問室(ごうもんしつ)にいるラマッカンも、そこに閉じ込めてください。

彼を野放(のばな)しにしていると、後々(のちのち)ややこしくなります。

そのあとは………… 」


 ジルは聞こえてくる“声”が言うのと同じ内容を兵長たちに伝えた。


「……わかりました。ジル様もお気をつけて」


◇◇


 ジルはアルスが捕まっている牢に戻ってきた。


「……ジル! さっき騒ぎが聞こえたけど、大丈夫だった? 」

 

「ええ、ちょっと鍵を拝借(はいしゃく)してきたわ。

先に兵長さんたちも救出できたわ」


 ジルは牢の鍵を開けた。アルスはようやく自由の身になれた。


「ありがとう、ジル! なんとお礼をすればいいか……」


「私は当然のことをしたまでよ。

そんなことより、早くここから出ましょう。

どこか安全なところに隠れないと…… 」


「……ジル、僕は陛下を探しに行くよ。杖を取り戻さないと。

今、僕にはじーちゃんにもらった短剣しかない。

ジルは弓がうまいから、一緒に来てくれると助かるんだけど……」


「ええ、もちろんよ。杖を取り戻しに行きましょう!

そして、リンも助けにいきましょう! 」


「ありがとう、ジル」



「……あの、すみません……」



 急に隣の牢から話しかけられた。みれば男女数人がまとめて閉じ込められている様子だった。

 その中の1人の女性が、代表して話しかけてきたようだ。


「私たち、陛下の親族の者なんですが……。

旅のお方、どうか私たちの話をきいてもらえないでしょうか? 」


「は、はい……」

 

 アルスとジルは互いに顔を見合わせつつ、隣の牢に歩み寄った。


◇◇


 その頃兵長たちは、すでに10人の兵を牢にぶちこんでいた。

 一度捕われてしまった身とはいえ、その実力は相変わらず折り紙付きのようだ。

 現在地下牢の警備についている兵たちは、これで全員のようだった。


 続いて、ラマッカンのいる拷問室(ごうもんしつ)に向かった。

 中をのぞくと、思わず血の気が引きそうになった。

 トゲトゲバットを素振りしている巨体(きょたい)が目に入ったのだ。

 その周囲には、鎖や刃物など様々な拷問器具が散らばっていた。


 おそらく今までもこれらを使って、日常的に “ストレス発散” をしてきたのだろう。

 ――なんとも趣味が悪すぎる!

 

(ジル様が助けに来てくださらなければ、一体どうなっていたことか……)


 想像するだけでその身がザクザクと切り刻まれるような思いがした。


「お? やっときたか! 遅すぎだろ。さ、早くやろうぜやろうぜ! 」


 ラマッカンが兵長たちの姿に気付いた。……兵長たちに迷いはなかった。

 

「行くぞ! 突撃ぃぃぃぃぃぃ!!!! 」


 兵長の合図に、兵たちが各々の武器を片手になだれ込んだ。

 思わぬ奇襲(きしゅう)にラマッカンは腰を抜かした。


「えっ!? なになになになになに!? どういうこと!? 兵は!? ……あいつら、何してんだ!!? 」


「申し訳ありませんが、兵たちはすべて(とら)えさせていただきました。

あなたにも、大人しくしていてもらいますよ」


「ちょっ、何言ってんだおまえら!?

俺は陛下の親族だぞ。俺が捕まれば陛下が黙ってるもんか!お前たちは死刑だ死刑!! 」


 ラマッカンは手にしていたトゲトゲバットをブウンブウンと振り回した。

 これで相手を(ひる)ませられると思ったようだが、そこは経験の差が開きすぎていた。

 兵たちはバットをいとも簡単に奪い取ると、部屋にあったロープでラマッカンを縛り上げた。

 ついでに口元にも布を巻き、しゃべれないようにした。


「んー! んー!! 」


 ラマッカンはジタバタとその場で暴れてみせるが、どうにもならなかった。


「申し訳ありませんが、しばらくそこにいてもらいますよ。

……さて、我々も上に向かいましょう。ジル様の言われた通りの配置につきますよ! 」


 兵長はそのまま拷問室(ごうもんしつ)(あか)りをすべて消し、助けを求めるラマッカンを尻目(しりめ)に、重厚な鉄の扉を閉めた。



――反撃、開始……!!


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