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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第76話 接触

【前回までのあらすじ】


カストルは隠し通路から隊長を探しにいくことになった。

ジルは地下牢に降りてアルスと兵長たちを助けにいくことに。

捕らえられたアルスは、ジャラーハがなぜ杖のことを知っているのかが不思議だった。

一方隠し通路からラクダ小屋に抜けたカストルは、ビーゴと出くわすのだった。

 「……えっ!? ビーゴ……!? 」


 カストルは心臓が飛び出しそうになった。

 こんな奇跡があるだろうか! 今から探そうと思っていた人に、いきなり出会えたのだ。


 「……あれ、カストル。こんなとこで何してんの? ……かくれんぼ? 」


 ビーゴは不思議そうに一瞥(いちべつ)をくべたあと、バケツに水をくんだ。

 カストルと出会ったことには驚きつつも、本来の仕事を(まっと)うしようとしているようだ。


「違うよ、違うよビーゴ! 君に会いにきたんだよ! 」


 カストルはせっかく(つか)んだチャンスを無駄にせぬよう、必死に食らいついた。


「え? 何で? 僕、遊んでる暇はないんだけど……」


 ビーゴはお前とは違うんだぞとばかりにそっけない態度を(つらぬ)いていた。

 すかさず2個目のバケツに水を()んでいる。カストルはそれでもめげなかった。


「ビーゴ、隊長いる? 隊長に聞きたいことがあるんだけどさ…… 」


「ああ、隊長なら、小屋の外にいるけど」


「ありがとう! 本当にありがとう! 」


 カストルは掃除用具などにぶつかりながら、外へ飛び出した。

 ビーゴは不思議そうにカストルの背中を眺めていたが、再び作業に戻った。


 ラクダが数十頭いる小屋の外にでると、荷積(にづ)みをしている隊長の姿があった。

 カストルは意を決して話しかけた。


「あの……ガベリー隊長? 」


「お前にその名前を呼ばれる筋合(すじあ)いはない」

 

 隊長はカストルの顔を見ようともせずにスパッと吐き捨てた。


(うわーー。やっぱりそうくるよね〜。僕って嫌われてるよね〜〜)


 カストルはめげてしまいそうになるのを(こら)えて、(ねば)り強く話しかけた。


「あの、隊長。聞きたいことがあるんですが……」


「わしは今忙しいんだ。これから外に出るからな」


「え? 外に出るって……? 昨日着いたばかりなのに、もう出発するんですか? 」


 見ればラクダを20頭繋いで、それぞれの荷積みに余念(よねん)がないといった感じだった。

 バケツに水を()んできたビーゴが、ラクダたちに水を飲ませている。

 他の若手たちも、後ろのラクダたちの背中に荷物を乗せている。


「ああ、陛下からの命令だからな。昨日持ち帰った分だけでは、足らんかったようだ 」


 隊長は少し不機嫌なのか、眉間(みけん)にシワをよせて厳しい表情をしていた。

 しかし極力(きょくりょく)表に出さぬように(こら)えているようにも見えた。


「あの、隊長……。今すごい困ってるんです!

アルスが捕まってしまって。今晩、リンが陛下と結婚させられるんです 」


 隊長の動きがピクッと止まった。


「僕も近々殺されるかもしれなくて……。

ジルも、体調はよくなったんですけど、同じく結婚させられるみたいで。

兵長たちも、奴隷(どれい)にさせられるみたいなんです。

……僕、どうすればいいかわからないんです。

隊長しか、頼れる人がいないんです! どうか助けてもらえないでしょうか? 」


「……言いたいのは、それだけか? 」


「……え? 」


「言いたいのはそれだけかと聞いている」


「そんな……他に何があるっていうんですか! 」


「わしは最初に言ったはずだ。砂嵐を消したことは内緒にしろ、とな」


「僕たちは何も言ってません! ……知らないうちに、王宮にハメられたんです! 」


「……はあ。仕方がない」


「え? 」


「ついてこい。ここじゃ人目につくだろ。

……おいビーゴ、わしはちょっと離れるからな。荷積みを頼んだぞ! 」


「はい隊長」


 言われたビーゴは黙々と作業をこなしていた。


◇◇


 隊長に連れられたのは、路地裏(ろじうら)にひっそりとたたずむ小さな民家だった。

 おそらく隊長の家なのだろう。家具らしきものは何もなく、砂と日差しをしのげる以外には機能していないような家だった。

 

「そこに座れ。ちゃんときいてやるから」


 カストルは床にちょこんと座った。隊長も目の前にドカッと座り込んだ。


「何があったのか、詳しく聞かせてもらおうか」


◇◇


 その頃、地下牢にいるアルスの前には、大きな体の男性が立っていた。ふんふんと鼻歌を口ずさんでいる。

 アルスはこの人に見覚えがあった。ハヤブサ大会の決勝戦にいた人だ。


「おまえがラオンダールのねずみ? へへへ。

陛下の命を(おびや)かしたっていうから、どんなやつかと思えば、細くて弱くて頼りなさそうなやつだなあオイ……」


 ラマッカンは珍しい動物でも見るような、好奇(こうき)に満ちた目でジロジロと見つめてきた。

 アルスは思わず背筋がぞくっとした。

 この(おり)があるからか、まるで自分が見せ物の動物になっているような気分がした。


「あなたはハヤブサ大会に出ていた、ラマッカンさんですよね? 」


 ラマッカンは目を見開いた。


「あれ、俺のこと知ってるの? ……ならば尚更(なおさら)気分が悪い!

俺、大会で負けて非常にムシャクシャしてるんだよね! 」


 ラマッカンは怒りに任せて(おり)に蹴りを入れた。

 アルスは驚いて思わず後退(あとずさ)りしたが、悪意を感じてラマッカンをにらみつけた。


(……この人は王の親族だと紹介されていたけど、要所要所(ようしょようしょ)で王と似ている部分があるようだ)


「……ああ? なんだその目は? ……お前、ムカつく野郎だな。

このあと俺のおもちゃにしてやるから、ありがたく思えよ!

……あ、そうだ。ラオンダールの兵たちもいたっけ。

先にそっちからやっちまおう! お前は一番最後にしてやるからな! 」


 ラマッカンは独り言をブツブツ言いながら、来た道を戻っていった。 


「……驚いた。いい歳をして怒りを抑えられない人なんだ。

それにしても、一体何をするつもりなんだろう?

兵長たちも、ここに捕まってるんだろうか? 」


 (おり)の向こう側を眺めていると、今度はジルの姿が現れた。


「えっ……ジル!? 」


 アルスは一瞬見間違いかと思い、何度も目をこすった。

 ……どうやら夢じゃなさそうだ。ジルがきてくれたんだ。

 ジルは周囲を気にしながら、足早に(おり)に近づいてきた。

 

「ああ、アルス、よかった……! 」


 目に涙を浮かべている。おそらくここに来るまでに随分苦労をかけてしまったに違いない。

 アルスは嬉しくなった反面、非常に申し訳ない気持ちになった。


「ジル、どうしてここがわかったの? 」


「詳しいことは後で話すわ。

それよりも聞いて! 今大変なことが起きてるの! 」


 ジルはカストルにも話したのと同じ内容をアルスにも伝えた。


「えっ…!? リンとジルが陛下と結婚? 僕とカストルは殺されて、兵長たちは奴隷?

一体全体どうしてそんなことになってるの……? 」


「私にもわからないわ! 今、カストルが隊長に会いに行ってくれてる。

何か解決策がでるといいんだけど……。

それよりあなた……、杖を奪われてしまったの? 」


「うん……。陛下に奪われてしまったんだ」


「どうしてそんなことに……? 」


 アルスは、牢に入れられるまでの経緯(けいい)を話した。

 ジルはアルスの話を聞いて、アルスと同じ疑問を口に出した。

 

「どうして? 陛下は、どうして北の遺跡でのことをご存知なの? 」


「それがわからないんだ。どこかに内通者(ないつうしゃ)がいるのかもしれない」


 ここでジルは、拷問室(ごうもんしつ)で拾い集めたアルスの荷物を渡した。


「これ、拷問室(ごうもんしつ)に落ちてたわ。全部揃ってると思うんだけど」


「ありがとう!僕の荷物だ。

あそこ、医務室(いむしつ)じゃなくて拷問室(ごうもんしつ)だったんだね……」


「ここにくる間に、兵長たちを見つけたわ。みんな捕まってた。

あなたたちを助けたいんだけど、(おり)の鍵はどこにあるのかしら……? 」


「そういやさっきのラマッカンって人、何かをするつもりみたいだった。

僕よりも先に兵たちが何かされるみたいだけど……」


「そういえば! 最初に拷問室(ごうもんしつ)に入ろうとしていたわ。

ストレス発散がどうとかって……。

もしかして、兵長たちやあなたを使って、ストレス発散しようとしてるんじゃ……」


「……えええ!? 」


「その前に、先に兵長たちを救出できればいいんだけど……。そうだわ! 」


「え? 」


「私にいい考えがあるわ! 」


「いい考え? 」


「必ず助け出してあげるから、ちょっと待ってて! 」


 ジルは弓矢を手にすると、通路を戻っていった。


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