第76話 接触
【前回までのあらすじ】
カストルは隠し通路から隊長を探しにいくことになった。
ジルは地下牢に降りてアルスと兵長たちを助けにいくことに。
捕らえられたアルスは、ジャラーハがなぜ杖のことを知っているのかが不思議だった。
一方隠し通路からラクダ小屋に抜けたカストルは、ビーゴと出くわすのだった。
「……えっ!? ビーゴ……!? 」
カストルは心臓が飛び出しそうになった。
こんな奇跡があるだろうか! 今から探そうと思っていた人に、いきなり出会えたのだ。
「……あれ、カストル。こんなとこで何してんの? ……かくれんぼ? 」
ビーゴは不思議そうに一瞥をくべたあと、バケツに水をくんだ。
カストルと出会ったことには驚きつつも、本来の仕事を全うしようとしているようだ。
「違うよ、違うよビーゴ! 君に会いにきたんだよ! 」
カストルはせっかく掴んだチャンスを無駄にせぬよう、必死に食らいついた。
「え? 何で? 僕、遊んでる暇はないんだけど……」
ビーゴはお前とは違うんだぞとばかりにそっけない態度を貫いていた。
すかさず2個目のバケツに水を汲んでいる。カストルはそれでもめげなかった。
「ビーゴ、隊長いる? 隊長に聞きたいことがあるんだけどさ…… 」
「ああ、隊長なら、小屋の外にいるけど」
「ありがとう! 本当にありがとう! 」
カストルは掃除用具などにぶつかりながら、外へ飛び出した。
ビーゴは不思議そうにカストルの背中を眺めていたが、再び作業に戻った。
ラクダが数十頭いる小屋の外にでると、荷積みをしている隊長の姿があった。
カストルは意を決して話しかけた。
「あの……ガベリー隊長? 」
「お前にその名前を呼ばれる筋合いはない」
隊長はカストルの顔を見ようともせずにスパッと吐き捨てた。
(うわーー。やっぱりそうくるよね〜。僕って嫌われてるよね〜〜)
カストルはめげてしまいそうになるのを堪えて、粘り強く話しかけた。
「あの、隊長。聞きたいことがあるんですが……」
「わしは今忙しいんだ。これから外に出るからな」
「え? 外に出るって……? 昨日着いたばかりなのに、もう出発するんですか? 」
見ればラクダを20頭繋いで、それぞれの荷積みに余念がないといった感じだった。
バケツに水を汲んできたビーゴが、ラクダたちに水を飲ませている。
他の若手たちも、後ろのラクダたちの背中に荷物を乗せている。
「ああ、陛下からの命令だからな。昨日持ち帰った分だけでは、足らんかったようだ 」
隊長は少し不機嫌なのか、眉間にシワをよせて厳しい表情をしていた。
しかし極力表に出さぬように堪えているようにも見えた。
「あの、隊長……。今すごい困ってるんです!
アルスが捕まってしまって。今晩、リンが陛下と結婚させられるんです 」
隊長の動きがピクッと止まった。
「僕も近々殺されるかもしれなくて……。
ジルも、体調はよくなったんですけど、同じく結婚させられるみたいで。
兵長たちも、奴隷にさせられるみたいなんです。
……僕、どうすればいいかわからないんです。
隊長しか、頼れる人がいないんです! どうか助けてもらえないでしょうか? 」
「……言いたいのは、それだけか? 」
「……え? 」
「言いたいのはそれだけかと聞いている」
「そんな……他に何があるっていうんですか! 」
「わしは最初に言ったはずだ。砂嵐を消したことは内緒にしろ、とな」
「僕たちは何も言ってません! ……知らないうちに、王宮にハメられたんです! 」
「……はあ。仕方がない」
「え? 」
「ついてこい。ここじゃ人目につくだろ。
……おいビーゴ、わしはちょっと離れるからな。荷積みを頼んだぞ! 」
「はい隊長」
言われたビーゴは黙々と作業をこなしていた。
◇◇
隊長に連れられたのは、路地裏にひっそりとたたずむ小さな民家だった。
おそらく隊長の家なのだろう。家具らしきものは何もなく、砂と日差しをしのげる以外には機能していないような家だった。
「そこに座れ。ちゃんときいてやるから」
カストルは床にちょこんと座った。隊長も目の前にドカッと座り込んだ。
「何があったのか、詳しく聞かせてもらおうか」
◇◇
その頃、地下牢にいるアルスの前には、大きな体の男性が立っていた。ふんふんと鼻歌を口ずさんでいる。
アルスはこの人に見覚えがあった。ハヤブサ大会の決勝戦にいた人だ。
「おまえがラオンダールのねずみ? へへへ。
陛下の命を脅かしたっていうから、どんなやつかと思えば、細くて弱くて頼りなさそうなやつだなあオイ……」
ラマッカンは珍しい動物でも見るような、好奇に満ちた目でジロジロと見つめてきた。
アルスは思わず背筋がぞくっとした。
この檻があるからか、まるで自分が見せ物の動物になっているような気分がした。
「あなたはハヤブサ大会に出ていた、ラマッカンさんですよね? 」
ラマッカンは目を見開いた。
「あれ、俺のこと知ってるの? ……ならば尚更気分が悪い!
俺、大会で負けて非常にムシャクシャしてるんだよね! 」
ラマッカンは怒りに任せて檻に蹴りを入れた。
アルスは驚いて思わず後退りしたが、悪意を感じてラマッカンをにらみつけた。
(……この人は王の親族だと紹介されていたけど、要所要所で王と似ている部分があるようだ)
「……ああ? なんだその目は? ……お前、ムカつく野郎だな。
このあと俺のおもちゃにしてやるから、ありがたく思えよ!
……あ、そうだ。ラオンダールの兵たちもいたっけ。
先にそっちからやっちまおう! お前は一番最後にしてやるからな! 」
ラマッカンは独り言をブツブツ言いながら、来た道を戻っていった。
「……驚いた。いい歳をして怒りを抑えられない人なんだ。
それにしても、一体何をするつもりなんだろう?
兵長たちも、ここに捕まってるんだろうか? 」
檻の向こう側を眺めていると、今度はジルの姿が現れた。
「えっ……ジル!? 」
アルスは一瞬見間違いかと思い、何度も目をこすった。
……どうやら夢じゃなさそうだ。ジルがきてくれたんだ。
ジルは周囲を気にしながら、足早に檻に近づいてきた。
「ああ、アルス、よかった……! 」
目に涙を浮かべている。おそらくここに来るまでに随分苦労をかけてしまったに違いない。
アルスは嬉しくなった反面、非常に申し訳ない気持ちになった。
「ジル、どうしてここがわかったの? 」
「詳しいことは後で話すわ。
それよりも聞いて! 今大変なことが起きてるの! 」
ジルはカストルにも話したのと同じ内容をアルスにも伝えた。
「えっ…!? リンとジルが陛下と結婚? 僕とカストルは殺されて、兵長たちは奴隷?
一体全体どうしてそんなことになってるの……? 」
「私にもわからないわ! 今、カストルが隊長に会いに行ってくれてる。
何か解決策がでるといいんだけど……。
それよりあなた……、杖を奪われてしまったの? 」
「うん……。陛下に奪われてしまったんだ」
「どうしてそんなことに……? 」
アルスは、牢に入れられるまでの経緯を話した。
ジルはアルスの話を聞いて、アルスと同じ疑問を口に出した。
「どうして? 陛下は、どうして北の遺跡でのことをご存知なの? 」
「それがわからないんだ。どこかに内通者がいるのかもしれない」
ここでジルは、拷問室で拾い集めたアルスの荷物を渡した。
「これ、拷問室に落ちてたわ。全部揃ってると思うんだけど」
「ありがとう!僕の荷物だ。
あそこ、医務室じゃなくて拷問室だったんだね……」
「ここにくる間に、兵長たちを見つけたわ。みんな捕まってた。
あなたたちを助けたいんだけど、檻の鍵はどこにあるのかしら……? 」
「そういやさっきのラマッカンって人、何かをするつもりみたいだった。
僕よりも先に兵たちが何かされるみたいだけど……」
「そういえば! 最初に拷問室に入ろうとしていたわ。
ストレス発散がどうとかって……。
もしかして、兵長たちやあなたを使って、ストレス発散しようとしてるんじゃ……」
「……えええ!? 」
「その前に、先に兵長たちを救出できればいいんだけど……。そうだわ! 」
「え? 」
「私にいい考えがあるわ! 」
「いい考え? 」
「必ず助け出してあげるから、ちょっと待ってて! 」
ジルは弓矢を手にすると、通路を戻っていった。
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