第75話 模索
【前回までのあらすじ】
アルスがなかなか戻らないので心配になったカストルは、リンとジルに会うために部屋を訪れる。
そこで目にしたのは、意識を失って倒れているジルだった。
やがてジルが目を覚ますと、不思議な声の導きにより、王宮の陰謀にはめられたことを知る。
カストルとジルの2人で、仲間を助けるために動き出すのだった。
部屋を出たカストルは、人が通らないか気にしながら通路の角を曲がり、つきあたりにある部屋に入った。
広めの客室のようなところで、中はほこりだらけだった。
天蓋付きのベッドや調度品などは当時のままで、数年以上は確実に使われていない部屋であることは明らかだった。
部屋の奥には、おそらく先王と思われる男性の絵が、壁一面に描かれていた。
立派な髭を生やした恰幅のいい中年男性が、室内で優雅にくつろいでいる絵だ。
その絵の右隅には、人が実際に通れそうな大きさで部屋の扉が描かれていた。
「ジルが言ってたのは、これのことかな……? 」
カストルはおそるおそる扉の部分に触れてみた。すると扉が左右に分かれて、地下に続く通路が現れた。
「うわっ……! 本当に通路がでてきた……。騙し絵みたいにして、隠してたんだな。
それにしても、ジルはよくここのことがわかったね……」
カストルは後ろをチラッと振り返り、誰も来ていないのを確認すると、一歩また一歩と階段を降りていった。
◇◇
一方ジルも部屋を出て、カストルとは反対方向に進んでいた。
おそらくナツメとココはリンの式の準備に向かっているはずで、今リンの救出にいくと鉢合わせしてしまう可能性が高い。
そこで先にアルスと兵長を探すことにした。
不思議なことに、いく先々で“声”が聞こえてくるのだった。
〈左の角から兵が来てる。すぐそばの部屋には誰もいないから、やりすごして〉
ジルはとっさに空いている部屋に隠れた。扉に耳を押し当て、兵が通り過ぎるのを確認する。
〈兵は行ったみたい。出てきて大丈夫よ〉
「ありがとう」
ジルは言われるままに部屋を出て、先を進んだ。
カストルの話だと、アルスは地下の医務室に運ばれたという。
ならば、そこに行けば会えるはずだ。……何もなければいいのだけど。
〈右から従者が来てる。この人はまっすぐ進むから、そこの大きな彫刻の影に隠れて問題ないわ〉
ジルはすぐそばにある彫刻に張り付いて、息を殺した。
従者が目録のようなものに目を通しながら、慌ただしく通り過ぎていった。
「すごい。本当に言うとおりだわ」
〈地下室はもう少しよ。でも、あそこは医務室じゃなくて、囚人を閉じ込めている地下牢よ〉
〈さっき地下室から王様の笑い声が聞こえてきたわ〉
(……地下牢ですって? アルスは医務室ではなく、牢屋に入れられてしまったっていうの?
ああ、なんてこと……。どうか、どうか無事でいて――)
◇◇
しばらくして、地下に続く階段を発見した。
そこは王宮の隅にあり、どこかひんやりとした冷気が込み上がってきていた。
ジルは誰もいないのを確認すると、足早に階段を降りていった。
階段を下り切ると、岩をくり抜いて作られたような空間が広がっていた。
暗闇の中で松明がゆらゆらと灯っており、どこからかチョロチョロと水の流れる音が聞こえる。
左右に通路がのびており、それぞれ迷路のように道が分かれているようだった。
真正面には「拷問室」と書かれた堅牢な鉄の扉があり、半分開いた状態になっていた。
「なんて気味の悪いところかしら。早くアルスを探さなくちゃ」
そのとき、背後から――すなわち、地下に降りる階段の方から――、誰かがやってくる気配がした。
「やばい、誰か来るわ! 」
ジルはとっさに扉の開いていた拷問室の中に入り、姿を隠した。
ほどなくして、体格のいい若い男性がのっしのっしと現れた。
一瞬王かと思ったが、体型が似ているだけで別人のようだ。
地下牢の守備に当たっていた兵がその男性のもとに走り寄ってきた。
「これはこれはラマッカン様、地下牢に来られるとは……。一体どうされましたか? 」
「チクショー! また大会で負けちまったんだよおー!
ちょっとストレス発散したいから、何人か囚人貸してくれない?
いつものあれ! 早く持ってきて!! 」
「ハッ!ただいま! 」
兵は慌ただしくどこかへ走って行った。
ラマッカンという男は、のしのしと巨体を揺らしながら、ジルのいる拷問室に近づいてきた。
ジルは部屋をキョロキョロと見回し、隠れられそうな場所を探した。
そのとき、何かに足を取られてつまづいてしまった。
(ややややややばい! このままじゃ、見つかっちゃう…… )
半開きの扉に手がかけられた瞬間、ラマッカンが「あ、そうだ」と言って立ち止まった。
「さっき陛下から聞いたんだよねー。
ラオンダール帝国から来たネズミが、悪さをしたから捕まえてあるって。
一体どこにいっるのっかなー♪ 」
ラマッカンは扉から手を離すと、ルンルンッと鼻歌まじりで奥に進んで行った。
「た、助かったわ……。でも今の話、おそらくアルスか兵長のことだわ。
彼の後についていけば、会えるかしら」
ジルはその場に立ち上がると、足元にあったものを拾い上げた。
「こ、これって……!? 」
それはアルスが肌身離さず身につけていた、杖を入れている袋だった。中身はない。
バッグとその中身と思しきものも、近くに散乱していた。
「あ……ああッ……なんてことなの……。アルス……。あなた、もしかして……。
杖を…… ! う、奪われちゃったというの……? 」
◇◇
その頃アルスは、どうにかして牢から出るために、何度も檻を揺らしてみたり、他に出口はないかと壁沿いを探ったりしていた。
「ハア……やっぱり無理かあ……」
岩を削って作られた地下牢は、出口らしき穴すら存在しなかった。
明かりといえば、檻の前に置いてある松明くらいだ。
檻の目の前は壁。誰1人通ることもない、絶望的な空間だった。
――杖を、奪われてしまった……。
アルスは壁にもたれかかり、先ほどの出来事を振り返り、頭を整理することにした。
(王が北の遺跡を……いや、大地の女神を祀る神殿を破壊した張本人だった。
イレニアの像は存在していたけど、オアシスに投げ込まれた。
王自身が神として崇められるために。
そして、杖を奪われた。……なぜ王は、杖のことを知っていた? )
『……噂できいたんだけどねー。この杖から風が生まれたんだって?
おまえは、これで賊たちから逃げ切ったんだろう? 』
(なぜ王は……北の遺跡で起きたことを知ってるんだ……?
……考えられるとしたら、目撃者がいたからか?
いや、そもそも誰も近づかないという遺跡に、なぜ目撃者がいるんだ?
王の命令だから? ずっと僕らの動きを監視していた?
ううん、そんなはずない。あの時は誰もいなかった。
僕とカストル、そして賊たちしかいなかった。
……賊?……待てよ。もしかして。
――賊と王がつながってるなんてことが、ありえるのか……? )
その時、遠くから鼻歌のようなものが聞こえてきた。
誰かが近づいてきているようだ。
アルスは奥の壁に張り付き、檻の向こう側を凝視した。
◇◇
一方、隠し通路を抜けたカストルは、ラクダ小屋の物置に姿を現した。
ラクダの世話に必要な餌や水桶、掃除道具などが無造作に置かれている。
「うおー! すげえー! ここに繋がってたのかあ。
小さい時によくした探検ごっこみたいだなあ!
ここなら、兵たちにも気づかれずに、街まで行けそうだ」
カストルは服についたクモの巣やほこりをはらいのけた。
何年も使われていない通路なのだろう、ここを抜けるだけで顔や服が真っ黒になってしまった。
「……問題は、隊長だな。やっぱり一対一で会うのは怖いな……。
僕に対して厳しめだったし? レディファーストのキチガイ野郎だし?
……いやいや! そんなこと言ってられない!
ジルも命がけで頑張ってくれてるわけだし!アルスやリンたちを助けないとだし!
でも、そんなすぐに見つかるかなあ……」
不安な気持ちを抱えながら物置から出ようとすると、向こう側から先に扉が開いた。
目の前には、ビーゴが立っていた。
「えっ……? 」
「えっ……? 」
2人はしばし呆然と立ち尽くしていた。
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