第73話 奪われた杖
【前回までのあらすじ】
遺跡に赴いたギルアは、大勢の人が倒れているのを見つける。
手や顔に細かい切り傷が見られることから、誰かがここにきていたことは明らかだった。
“通行料”を求められたギルアは冷静に彼らから情報を引き出し、遺跡を後にする。
一方、無事王宮に戻ってきたカストルは、具合の悪いアルスを従者に託すのだった。
アルスは意識が薄れていたが、体感的に涼しくなっていくのがわかった。
同時に、カストルはどこに向かってるんだろう、とぼんやり不思議に思っていた。
まさか衛兵たちにバトンタッチされて、えっさほいさと地下に運ばれているとは思いもしなかった。
――杖で力を消耗した代償はなかなかに大きかった。
アルスを運んでいた衛兵たちは、地下の堅牢な扉の前にたどり着いた。
この王宮で一番地下深くに作られた部屋で、外の暑さはだいぶ和らいでいる。
同じ階には、この他にもいくつか部屋があるようだった。
中に入ると、部屋は薄暗く、ひんやりしていた。
松明が壁際に等間隔に灯っている以外に、明かりらしいものはなかった。
――ここが、医務室なのだろうか?
アルスは安心感とともに、どこか不安な部分も感じていた。
「ありがとう、おまえたち。下がっていいぞ」
暗闇から、王の姿がヌウッと浮かび上がった。
扉が閉められると、部屋には王とアルスの2人だけになった。
通常ならば“なぜここに王が? ”と警戒するところだが、この時ばかりは“助かった”と安堵した。
王に直接話せば、北の遺跡にいた賊たちは厳重に処罰されるだろう。
それと、神の像の場所もきけるはずだ。
アルスは王と対峙するように、ポツンと置かれた椅子に座らされていた。
「君は、アルス君だね。
北の遺跡へ“聖地巡礼”に行っていたと聞いたけど、随分具合が悪そうじゃないか。
一体何があったんだい? 」
ジャラーハは静かに、そして様子を伺うように言った。
アルスは意識を失わぬよう、深呼吸をしながら、少しずつゆっくりと話した。
「……はい。遺跡に、行きましたが……。賊たち、に……。お、追われました……」
アルスは自分が情けなくなった。
仮にも王の前だというのに、この為体は何だ。王に対してあまりにも失礼すぎるではないか。
それにこんな状況だと、1人では余計心細い。せめて隣にカストルか兵長がいてくれれば……。
「……ほおう。それで、賊たちに怪我を負わされたのか? 」
ジャラーハはアルスの具合を気遣っていながらも、事実を詮索しているようにも感じられた。
アルスは少し違和感を感じたが、気のせいだと思い、話を続けることにした。
「い、いえ……。怪我は、ありません。ちょっと、具合が悪くなっただけです……」
アルスは事実を語らないよう、ふんわりと隠しながら言った。
キャラバン隊の隊長に釘を刺すように言われた言葉を、胸の中で反芻しながら……。
「ふうん……。あの遺跡は、賊たちが住処にしてるからねえ。
俺様たちでさえ近寄らないのに、よく戻ってこれたよねえ」
アルスは少しずつ気持ちが落ち着いてきた。
「あの、陛下……。北の遺跡とは、どのような場所なのですか? 」
アルスの質問に、ジャラーハは実に興味なさそうに答えた。
「ああ、あれ? あそこは先祖代々信仰してきた、大地の女神イレニアの神殿だよ。
この国ができる前は、みんな砂漠でバラバラに住んでたからね。
各地からあそこへ祈りを捧げに訪れていたみたいだよ」
――大地の女神イレニア? じゃあ、神の像もあそこに安置されてたんだろうか?
「……そうでしたか。
ナツメさんに、……あそこに、神の像があると聞きましたが、中にはありませんでした。
神の像は、なくなってしまったんでしょうか? ……それとも、別の場所に……? 」
これに対するジャラーハの返答は早かった。
「残念ながら、あそこに神の像はもうないよ。神殿自体も破壊されて、誰も近づかなくなったからね。
それに、この国に神は1人で十分だしね」
「そうですか……」
そう言って、アルスはふとひっかかった。
――“この国に神は1人で十分だしね”。
「あの、陛下……。今のお言葉は、どういう……? 」
「……そういや、治療がまだだったね」
ジャラーハはアルスの言葉を遮ると、両手をパンパンと叩いた。
これを合図にか、衛兵たちがドッとなだれこんできた。
その数、10数人。ただでさえ広くない部屋が、衛兵たちで満員になった。
「……!? 」
――どうしてここに衛兵たちが? それも、こんなに多く……?
「おまえら、こいつを取り押さえろ! 」
「ハッ!! 」
王の突然の命令に、衛兵たちは数人がかりでアルスを床に倒し、背後から押さえつけた。
「わっ! ……な、何をするんですか? 」
「さっきの答えだけど…… 」
ジャラーハがそっけなく言った。
「俺様が、神だからだよ」
「え……? 」
意味が、わからなかった。
「俺様が壊したのさ。あの忌々しい神殿をね」
「へ、陛下が……? ど、どうして……? 」
ただでさえ回らない頭をフルに動かしても、やっぱりわからない。王は一体何を言っているんだろうか?
「俺様の他に神がいると、いろいろと困るんだよねえー。
これだけの富と権力を持ってる俺様が、神じゃないなんておかしすぎるだろ?
……だから、あの神殿を破壊してやったんだ。
14年くらい前かな。エルディシアの最後の予言を聞いたあとだよ。
【汝 いかなる時も 己を信じよ】
あれは俺様のためだけに与えられた予言なんだって気づいたね。
ただ、神殿は簡単に破壊できても、神の像はどれだけ叩いても壊れなかった。
古代の技術ってやつ? だから、オアシスに放り投げてやったんだ。
……これで誰も神を祈ることはできない。
俺様だけを崇め奉ればいいわけだ 」
「そんな……なんてことを……」
言っていることが無茶苦茶すぎる。有り余る富と権力を手にしたがゆえに、自身を神同然と信じて疑わないんだ。
(……でも、だとしても、どうして僕は床に押さえつけられてるんだ? )
「荷物を調べろ。どこかに隠しているはずだ! 」
「「ハッ!! 」」
衛兵たちはアルスのバッグと杖の入った袋を奪いとった。
――アルスは嫌な予感がした。
王はまずバッグの中身を床にぶちまけた。
中に入れていたわずかばかりの硬貨や薬、そして旅の最初にメラクが入れてくれた短剣が落ちていく。
「これじゃないな」
ジャラーハはバッグを床に投げ捨てると、今度は杖の入った袋を開けた。
中から黄金に輝く杖が現れる。
「おおお……これだ……! この杖だ……!! 」
アルスは目の前で起きていることが信じられなかった。
どうして王が杖のことを知っているんだろう? どうして杖を奪う必要があるんだろう?
「なんと美しい……。この煌めき……。
見ろ……ダイヤモンドがはめ込まれているぞ……。
俺様が持つに相応しい杖だぜ! 」
アルスは耳を疑った。
「な、何を……。何をおっしゃっているんですか!
その杖は、大事なものなんです!……かっ、返してください! 」
アルスが渾身の力を振り絞って叫ぶと、衛兵たちが頭を強引に押さえつけてきた。
頬に冷たくて硬い床の感触があたり、絶望と無力感がドッと押し寄せてきた。
ジャラーハはというと、アルスが暴れようが何を言おうが、全く興味がない様子だった。
「……噂できいたんだけどねえ。この杖から風が生まれたんだって?
おまえは、これで賊たちから逃げ切ったんだろう?
ところが、お前は力を制御できず、具合が悪くなった。
……当たり前だろう。この杖の真の持ち主は、俺様なのだから! 」
ジャラーハは袋から杖を完全に取り出し、直に握り締めた。
とたんに、天地が逆さまになるような、グワングワンと激しいめまいに襲われるのだった。
「うわああああ! ……なんだこれは!? 」
ジャラーハはヨタヨタと数歩下がると、ドシンと尻餅をついた。
その衝撃で床が揺れ、天井からパラパラ……とほこりが落ちてきた。
「目が回る……! 王宮が、宝石が、食い物が、俺様の全てが! 消えていくぞおおおお……!! 」
ジャラーハは左右に激しく首を降り、わけのわからないことを叫び続けていた。
アルスはここで初めて、“光の使者” 以外の人間が杖を手にした瞬間を目の当たりにした。
以前、セイガを出発した時に、カストルが言っていた言葉を思い出した。
――僕、君が広場で倒れていたときに、落ちていた杖を拾おうとしたんだ。
そしたら、ものすごいめまいがして、気がおかしくなりそうだった――
「貴様、陛下に一体何をした!? 」
すぐさま背後の衛兵がアルスを押さえ込み、首元に剣を突きつけた。
ジャラーハは壁に手を当てながら自力で立ち上がると、威勢よく叫んだ。
「こいつを牢にぶちこめ!! 帝国のやつだろうと容赦はしない!
俺様の命を脅かした罪は重いぞ! 」
「そ、そんな……! 待ってください、陛下!! 」
「黙れこの野郎!! 」
アルスの必死の懇願も虚しく、衛兵たちはアルスを乱暴に担ぎ上げて部屋を飛び出していった。
「ふふ……ははははは……!!ついに……ついに手に入れたぞ。
この杖があれば、もう何も怖くない。
俺様はこの国を……いや、世界を統べる神になったぞ!!
これさえあれば、帝国すら驚異ですらない。ガハハハハハハ!!!! 」
ジャラーハの高笑いが地下中に響き渡った。
◇◇
一方、アルスは同じ階の奥にある地下牢に、乱暴に放り込まれた。
「待ってください! 話をきいてください……! 」
アルスは檻にしがみ付いて必死に訴えたが、衛兵たちは聞く耳を持たなかった。
「近々罪状が述べられるだろう。それまでそこで大人しくしてろ! 」
そう吐き捨てると、そそくさと上の階に戻っていった。
不覚にも王に杖を奪われてしまったアルス。
果たして、運命やいかに――?
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