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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第73話 奪われた杖

【前回までのあらすじ】


遺跡に赴いたギルアは、大勢の人が倒れているのを見つける。

手や顔に細かい切り傷が見られることから、誰かがここにきていたことは明らかだった。

“通行料”を求められたギルアは冷静に彼らから情報を引き出し、遺跡を後にする。

一方、無事王宮に戻ってきたカストルは、具合の悪いアルスを従者に託すのだった。

 アルスは意識が薄れていたが、体感的に涼しくなっていくのがわかった。

 同時に、カストルはどこに向かってるんだろう、とぼんやり不思議に思っていた。

 まさか衛兵たちにバトンタッチされて、えっさほいさと地下に運ばれているとは思いもしなかった。


 ――杖で力を消耗した代償(だいしょう)はなかなかに大きかった。


 アルスを運んでいた衛兵たちは、地下の堅牢(けんろう)な扉の前にたどり着いた。

 この王宮で一番地下深くに作られた部屋で、外の暑さはだいぶ(やわ)らいでいる。

 同じ階には、この他にもいくつか部屋があるようだった。

 

 中に入ると、部屋は薄暗く、ひんやりしていた。

 松明(たいまつ)が壁際に等間隔に(とも)っている以外に、明かりらしいものはなかった。

 

 ――ここが、医務室なのだろうか?

 アルスは安心感とともに、どこか不安な部分も感じていた。

 

「ありがとう、おまえたち。下がっていいぞ」


 暗闇から、王の姿がヌウッと浮かび上がった。

 扉が閉められると、部屋には王とアルスの2人だけになった。

 

 通常ならば“なぜここに王が? ”と警戒(けいかい)するところだが、この時ばかりは“助かった”と安堵(あんど)した。 

 王に直接話せば、北の遺跡にいた賊たちは厳重に処罰されるだろう。

 それと、神の像の場所もきけるはずだ。

 アルスは王と対峙(たいじ)するように、ポツンと置かれた椅子に座らされていた。

 

「君は、アルス君だね。

北の遺跡へ“聖地巡礼(せいちじゅんれい)”に行っていたと聞いたけど、随分(ずいぶん)具合が悪そうじゃないか。

一体何があったんだい? 」


 ジャラーハは静かに、そして様子を(うかが)うように言った。

 アルスは意識を失わぬよう、深呼吸をしながら、少しずつゆっくりと話した。


「……はい。遺跡に、行きましたが……。賊たち、に……。お、追われました……」


 アルスは自分が情けなくなった。

 仮にも王の前だというのに、この為体(ていたらく)は何だ。王に対してあまりにも失礼すぎるではないか。

 それにこんな状況だと、1人では余計心細い。せめて隣にカストルか兵長がいてくれれば……。

 

「……ほおう。それで、賊たちに怪我を負わされたのか? 」


 ジャラーハはアルスの具合を気遣っていながらも、事実を詮索(せんさく)しているようにも感じられた。

 アルスは少し違和感を感じたが、気のせいだと思い、話を続けることにした。


「い、いえ……。怪我は、ありません。ちょっと、具合が悪くなっただけです……」


 アルスは事実を語らないよう、ふんわりと隠しながら言った。

 キャラバン隊の隊長に釘を刺すように言われた言葉を、胸の中で反芻(はんすう)しながら……。


「ふうん……。あの遺跡は、賊たちが住処(すみか)にしてるからねえ。

俺様たちでさえ近寄らないのに、よく()()()()()()よねえ」


 アルスは少しずつ気持ちが落ち着いてきた。


「あの、陛下……。北の遺跡とは、どのような場所なのですか? 」


 アルスの質問に、ジャラーハは実に興味なさそうに答えた。


「ああ、あれ? あそこは先祖代々信仰してきた、大地の女神イレニアの神殿だよ。

この国ができる前は、みんな砂漠でバラバラに住んでたからね。

各地からあそこへ祈りを捧げに訪れていたみたいだよ」


 ――大地の女神イレニア? じゃあ、神の像もあそこに安置されてたんだろうか?


「……そうでしたか。

ナツメさんに、……あそこに、神の像があると聞きましたが、中にはありませんでした。

神の像は、なくなってしまったんでしょうか? ……それとも、別の場所に……? 」


 これに対するジャラーハの返答は早かった。


「残念ながら、あそこに神の像はもうないよ。神殿自体も破壊されて、誰も近づかなくなったからね。

それに、この国に神は1人で十分だしね」


「そうですか……」


 そう言って、アルスはふとひっかかった。


 ――“この国に神は1人で十分だしね”。


「あの、陛下……。今のお言葉は、どういう……? 」


「……そういや、治療がまだだったね」


 ジャラーハはアルスの言葉を(さえぎ)ると、両手をパンパンと叩いた。

 これを合図にか、衛兵たちがドッとなだれこんできた。

 その数、10数人。ただでさえ広くない部屋が、衛兵たちで満員になった。


「……!? 」


 ――どうしてここに衛兵たちが? それも、こんなに多く……?


「おまえら、こいつを取り押さえろ! 」


「ハッ!! 」


 王の突然の命令に、衛兵たちは数人がかりでアルスを床に倒し、背後から押さえつけた。


「わっ! ……な、何をするんですか? 」


「さっきの答えだけど…… 」


 ジャラーハがそっけなく言った。


「俺様()、神だからだよ」


「え……? 」


 意味が、わからなかった。

 

「俺様が壊したのさ。あの忌々(いまいま)しい神殿をね」


「へ、陛下が……? ど、どうして……? 」

 

 ただでさえ回らない頭をフルに動かしても、やっぱりわからない。王は一体何を言っているんだろうか?


「俺様の他に神がいると、いろいろと困るんだよねえー。

これだけの富と権力を持ってる俺様が、神じゃないなんておかしすぎるだろ?

……だから、あの神殿を破壊してやったんだ。

14年くらい前かな。エルディシアの最後の予言を聞いたあとだよ。


【汝 いかなる時も 己を信じよ】


あれは俺様のためだけに与えられた予言なんだって気づいたね。

ただ、神殿は簡単に破壊できても、神の像はどれだけ叩いても壊れなかった。

古代の技術ってやつ? だから、オアシスに放り投げてやったんだ。

……これで誰も神を祈ることはできない。

()()()()(あが)(たてまつ)ればいいわけだ 」


「そんな……なんてことを……」


 言っていることが無茶苦茶すぎる。有り余る富と権力を手にしたがゆえに、自身を神同然と信じて疑わないんだ。


 (……でも、だとしても、どうして僕は床に押さえつけられてるんだ? )

 

「荷物を調べろ。どこかに隠しているはずだ! 」


「「ハッ!! 」」


 衛兵たちはアルスのバッグと杖の入った袋を奪いとった。

 

 ――アルスは嫌な予感がした。


 王はまずバッグの中身を床にぶちまけた。

 中に入れていたわずかばかりの硬貨や薬、そして旅の最初にメラクが入れてくれた短剣が落ちていく。

 

「これじゃないな」


 ジャラーハはバッグを床に投げ捨てると、今度は杖の入った袋を開けた。

 中から黄金に輝く杖が現れる。


「おおお……これだ……! この杖だ……!! 」


 アルスは目の前で起きていることが信じられなかった。

 どうして王が杖のことを知っているんだろう? どうして杖を奪う必要があるんだろう?


「なんと美しい……。この(きら)めき……。

見ろ……ダイヤモンドがはめ込まれているぞ……。

()()()()()相応(ふさわ)しい杖だぜ! 」


 アルスは耳を疑った。


「な、何を……。何をおっしゃっているんですか!

その杖は、大事なものなんです!……かっ、返してください! 」


 アルスが渾身(こんしん)の力を振り絞って叫ぶと、衛兵たちが頭を強引に押さえつけてきた。

 頬に冷たくて硬い床の感触があたり、絶望と無力感がドッと押し寄せてきた。

 ジャラーハはというと、アルスが暴れようが何を言おうが、全く興味がない様子だった。


「……噂できいたんだけどねえ。この杖から風が生まれたんだって?

おまえは、これで賊たちから逃げ切ったんだろう?

ところが、お前は力を制御(せいぎょ)できず、具合が悪くなった。


……当たり前だろう。この杖の()()()()()は、俺様なのだから! 」


 ジャラーハは袋から杖を完全に取り出し、(じか)に握り締めた。

 とたんに、天地が逆さまになるような、グワングワンと激しいめまいに襲われるのだった。

 

「うわああああ! ……なんだこれは!? 」


 ジャラーハはヨタヨタと数歩下がると、ドシンと尻餅(しりもち)をついた。

 その衝撃(しょうげき)で床が揺れ、天井からパラパラ……とほこりが落ちてきた。 


「目が回る……! 王宮が、宝石が、食い物が、俺様の全てが! 消えていくぞおおおお……!! 」


 ジャラーハは左右に激しく首を降り、わけのわからないことを叫び続けていた。


 アルスはここで初めて、“光の使者” 以外の人間が杖を手にした瞬間を()の当たりにした。

 以前、セイガを出発した時に、カストルが言っていた言葉を思い出した。

 

 ――僕、君が広場で倒れていたときに、落ちていた杖を拾おうとしたんだ。

 そしたら、ものすごいめまいがして、気がおかしくなりそうだった――


 

「貴様、陛下に一体何をした!? 」


 すぐさま背後の衛兵がアルスを押さえ込み、首元に剣を突きつけた。

 ジャラーハは壁に手を当てながら自力で立ち上がると、威勢(いせい)よく叫んだ。


「こいつを牢にぶちこめ!! 帝国のやつだろうと容赦(ようしゃ)はしない!

俺様の命を(おびや)かした罪は重いぞ! 」


「そ、そんな……! 待ってください、陛下!! 」


「黙れこの野郎!! 」


 アルスの必死の懇願(こんがん)(むな)しく、衛兵たちはアルスを乱暴に担ぎ上げて部屋を飛び出していった。



「ふふ……ははははは……!!ついに……ついに手に入れたぞ。

この杖があれば、もう何も怖くない。

俺様はこの国を……いや、世界を()べる神になったぞ!!

これさえあれば、帝国すら驚異(きょうい)ですらない。ガハハハハハハ!!!! 」


 ジャラーハの高笑いが地下中に響き渡った。


◇◇


 一方、アルスは同じ階の奥にある地下牢に、乱暴に放り込まれた。

 

 「待ってください! 話をきいてください……! 」


 アルスは(おり)にしがみ付いて必死に(うった)えたが、衛兵たちは聞く耳を持たなかった。

 

「近々罪状(ざいじょう)が述べられるだろう。それまでそこで大人しくしてろ! 」


 そう吐き捨てると、そそくさと上の階に戻っていった。



 不覚にも王に杖を奪われてしまったアルス。

 果たして、運命やいかに――?


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