第72話 手がかりを探しに
【前回までのあらすじ】
時を同じくして、部屋で安静にしていたジルは目を覚ます。
侍女のナツメから仲間の居場所を教えられ、胸騒ぎを覚えるジル。
ほどなくして侍女のココが戻り、リンがジャラーハの部屋に入ってしまったと聞かされる。
その後、ジルは意識が遠くなり……。
「ここが、遺跡の入り口……」
街を出たギルアは、北の遺跡に続く道に立っていた。
ゴツゴツとした岩と岩の間にできた細い一本道で、カーブしていて先は見えない。
腕に留まるエスペルは、早く行けと言わんばかりに落ち着きがない。
「この先に、“光の使者”か“魔導師”がいる…… 」
ギルアは胸がドキドキしていた。
「ここに来るまでは容易な道のりじゃなかったけど、ついに会えるんだ。
“光の使者”がどんな人かはわからないけども、僕たちにできることを提案しよう。
そして、仲間たちにも知らせよう。あとはおじいさまにも。
もし、ここにいるのが“魔導師”だったら……。
“風”を操れる一族はいくつかあるけど、今回一緒に来たメンバーの中にはいなかった。
……だとしたら一体誰だろう? 風を操るとしたら……? もしかして……!! 」
ギルアは1つ思い当たることがあった。が、すぐに頭を振った。
「ううん、そんなはずない。行こうか、エスペル」
エスペルは不思議そうにギルアを見つめていた。
◇◇
歩き出して数十分。緩やかに蛇行している道の先に、誰かが倒れているのを発見した。
それも1人ではない。2人、3人……数十人が、まるで一斉に吹き飛ばされたように、仰向けに倒れていた。
「……大丈夫ですか!? 」
思わず駆け寄ると、グッタリとしているものの、かすかに呼吸をしていた。
よく見ると手や顔に細かい切り傷がつけられていた。
「なんだこれ? 剣で切られた傷じゃなさそうだ。何かに引っ掻かれたような感じ……? 」
周囲を見渡すと、両側の岩も不自然にガリガリと削られたような跡がついている。
――やはり、この場に誰かがいたんだ。
“光の使者”か“魔導師”か……。まるで風の力で一斉に吹き飛ばしたような……。
「いや、待てよ。これだけの人を吹き飛ばせるなんて、相当強い力を持っているに違いない。
でも、なんでこの人たちを襲ったんだろう? 」
ギルアは一層胸がドキドキしてきた。
もうすぐ会えるかもしれないという期待の他に、底が知れない恐怖心も感じながら……。
「おんやあ? また誰か来たのかあ? 」
奥の方から、黒い服を纏った人物が現れた。取り巻きに、数人の手下のような人たちもいる。
ギルアはこのときになって、奥に神殿のようなものがあることに気づいた。
どうやらこの辺りに住んでいる人なのだろう。
「あの、先ほど誰かここに来ましたか? 」
ギルアは黒い服の人に聞いた。おそらくこの人がリーダーなのだろう。
何か手がかりを掴めるかもしれない。
「……ああ、ついさっき来たばかりだぜ。 俺らの神聖な場所を汚したやつらがな」
(……やつら? 1人じゃないのか? )
「その人たちは、どこへ? 」
「街へ逃げてったよ! 俺たちの大事な仲間をこーんなに傷つけてな!
みろよこのありさまを! ごめんなさいもなしに、逃げやがったんだ! 」
リーダーはややイラついたように返した。ギルアは話の後半を聞いていなかった。
(街へ?街に戻っていったのか?
どうやら入れ違いになってしまったようだ。きっと会えると思ったのに……)
「そうですか……。ありがとうございます」
引き返そうとすると、いきなり首元に剣先を当てられた。
いつの間にか後ろにも数人いる。……取り囲まれていた。
「わりぃな。帰るには “通行料” がいるんだわ。へへへ……」
ギルアはこのときになって、彼らがここを根城にする賊だと分かった。
全く、とんでもない場所にきてしまったらしい。
きっと先にきた“光の使者”か“魔導師”も、同じような状況に陥ったのだろう。
風を発生させて彼らを吹き飛ばしたあと、街に逃げたに違いない。
ギルアは深呼吸すると、冷静に、かつ申し訳なさそうに言った。
「生憎、何も持ち合わせてないんです。見逃してもらえませんか? 」
「……仕方ねえなあ。ほんとに何も持ってねえのか? 」
「はい、この通り旅をしている者でして。
ちなみに、先ほど来たという人たちは、いくら支払ったのですか? 」
(何か有力な情報を得られるかもしれない。
その傍らで、どのようにしてここから逃げるかを考えるんだ )
「ああ、さっきのやつらか。2人ともお前さんと同じくらいの歳の若造だったなあ。
ラオンダール帝国から来たやつらだよ。
1人は金貨がたっぷり入った袋をまるまる出してくれたな。
もう1人は剣だ。ここらじゃ見られない代物だったからな!
街で売りつければ、それなりに儲かるはずだぜ 」
リーダーのそばにいる手下が、金貨の袋と剣を取り出した。
ギルアは思わぬ収穫に目を見開いた。
(ここにきたのは2人……僕と同じくらいの歳だって? )
「そうですか……。残念ながら、僕には何も出せないようです」
(もうここに用はない。早く街に戻らないと……)
「ならば仕方ねえなあ! 身包み剥がして命をもらうぜ!
ヤローども! 一斉にかかれーーー!!!! 」
「「ウオオオオオオオオ!!!! 」」
武器を構えた賊たちが、一斉に襲いかかってきた。
血走った目はまるで獲物を捉えた肉食動物のようだった。
瞬時に、エスペルがギルアに目配せした。ギルアはコクッとうなずいた。
「お前たちがその気なら、僕も相手しよう! 」
ギルアの周りに風が生まれる。
「行くよ、エスペル! 」
エスペルが空高く飛び上がった――。
◇◇
数十分後、ギルアは北の遺跡から戻ってきた。手には金貨の入った袋と剣を握りしめていた。
リーダーから奪い返したものだ。
「……入れ違いだったから無駄足かと思ったけど、有力な情報が掴めたよ。
街の中を探そう。きっとまだどこかにいるはずだ」
「ピィ」
「まさか僕と同い歳くらいの少年だったとは、心底驚いたなあ……。
他の国から来た人なら、この国の格好をしてたとしても、簡単に見つけられるだろう」
「ピィ」
「それにしてもエスペル、さっきは助けてくれてありがとう。久々に動けて嬉しそうだったね。
でも、ここでは魔導師を知らない人がほとんどだから、なるべく見つからないようにしなくちゃ。
……まあ、さっきの人たちには、申し訳ないけどね」
「ピピィ! 」
エスペルは嬉しそうに羽を動かした。ギルアは街に戻り、2人を探すことにした。
◇◇
一方遺跡では、賊たちが全員倒れていた。
激しく斬り付けられて出血していたり、骨を折られたりもしていた。
近くの岩にも血飛沫が飛び散っており、まさに地獄絵図の光景だった。
「……な……なんてやろうだ……」
「あいつ……一体何者だ…… 」
「鷲が……鷲が襲ってくるううう!! 」
「た、助けてくれええええ!! 」
まるで悪夢にうなされているかのように、各々が呻き、叫び声を上げている。
「誰か、動けるやつはいないのか!? 」
リーダーも同じく負傷を負い、立ち上がれなかった。
「あの方に……ご報告せねば…… 。このままだと、俺たちみんな殺されるぞ…… 」
◇◇
その頃、アルスとカストルは無事王宮にたどり着くことができた。
アルスの顔色はだんだん青ざめていき、体力も限界を迎えているらしかった。
「王宮についたよ! もうちょっとだから頑張って……」
王宮の外にいる衛兵たちが2人の姿に気付いた。
「どうされましたか? 」
「あの、アルスの具合が悪いんです。早く休ませないと……今にも倒れそうなんです」
「おや、どうかされましたか? 」
続けて、偶然通りかかった従者が駆け寄ってきた。カストルは同じ説明をした。
「……なんと! 随分顔色が悪いようですね。
医者は地下の医務室にいます。お前たち、すぐに運んであげなさい」
衛兵たちは半ば強引にカストルからアルスを引き離すと、担いでいった。
「あの、僕も行きます! 」
カストルはいても立ってもいられずに叫んだ。しかし、従者が間髪入れずに引き止めた。
「いいえ、あなたは部屋で待機なさってください!
地下の方が涼しくて、体にこもった熱も引いていくはずです。
適切な処置を済ませた後、部屋までお連れしますので、どうか部屋でお待ちください! 」
従者の気迫に圧倒され、カストルは折れるしかなかった。
「は、はい……。わかりました。アルスを、よろしくお願いします! 」
カストルは少し心配だったが、従者の言葉を信じて部屋で待つことにした。
しかし、確実に王宮の陰謀に巻き込まれてしまうのだった――。
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