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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第72話 手がかりを探しに

【前回までのあらすじ】


時を同じくして、部屋で安静にしていたジルは目を覚ます。

侍女のナツメから仲間の居場所を教えられ、胸騒ぎを覚えるジル。

ほどなくして侍女のココが戻り、リンがジャラーハの部屋に入ってしまったと聞かされる。

その後、ジルは意識が遠くなり……。

「ここが、遺跡の入り口……」


 街を出たギルアは、北の遺跡に続く道に立っていた。

 ゴツゴツとした岩と岩の間にできた細い一本道で、カーブしていて先は見えない。

 腕に留まるエスペルは、早く行けと言わんばかりに落ち着きがない。


「この先に、“光の使者”か“魔導師(まどうし)”がいる…… 」


 ギルアは胸がドキドキしていた。


「ここに来るまでは容易(ようい)な道のりじゃなかったけど、ついに会えるんだ。

 “光の使者”がどんな人かはわからないけども、僕たちにできることを提案しよう。

 そして、仲間たちにも知らせよう。あとはおじいさまにも。

 もし、ここにいるのが“魔導師(まどうし)”だったら……。

 “風”を操れる一族はいくつかあるけど、今回一緒に来たメンバーの中にはいなかった。

 ……だとしたら一体誰だろう? 風を操るとしたら……? もしかして……!! 」


 ギルアは1つ思い当たることがあった。が、すぐに(かぶり)を振った。


 「ううん、そんなはずない。行こうか、エスペル」

 

 エスペルは不思議そうにギルアを見つめていた。


◇◇


 歩き出して数十分。緩やかに蛇行(だこう)している道の先に、誰かが倒れているのを発見した。

 それも1人ではない。2人、3人……数十人が、まるで一斉(いっせい)に吹き飛ばされたように、仰向(あおむ)けに倒れていた。

 

「……大丈夫ですか!? 」

 

 思わず駆け寄ると、グッタリとしているものの、かすかに呼吸をしていた。

 よく見ると手や顔に細かい切り傷がつけられていた。


「なんだこれ? 剣で切られた傷じゃなさそうだ。何かに引っ掻かれたような感じ……? 」


 周囲を見渡すと、両側の岩も不自然にガリガリと削られたような跡がついている。


 ――やはり、この場に誰かがいたんだ。


 “光の使者”か“魔導師(まどうし)”か……。まるで風の力で一斉(いっせい)に吹き飛ばしたような……。

 

「いや、待てよ。これだけの人を吹き飛ばせるなんて、相当強い力を持っているに違いない。

でも、なんでこの人たちを襲ったんだろう? 」

 

 ギルアは一層胸がドキドキしてきた。

 もうすぐ会えるかもしれないという期待の他に、底が知れない恐怖心も感じながら……。


「おんやあ? また誰か来たのかあ? 」


 奥の方から、黒い服を(まと)った人物が現れた。取り巻きに、数人の手下のような人たちもいる。

 ギルアはこのときになって、奥に神殿のようなものがあることに気づいた。

 どうやらこの辺りに住んでいる人なのだろう。


「あの、先ほど誰かここに来ましたか? 」


 ギルアは黒い服の人に聞いた。おそらくこの人がリーダーなのだろう。

 何か手がかりを掴めるかもしれない。


「……ああ、ついさっき来たばかりだぜ。 俺らの神聖な場所を汚した()()()がな」


(……()()()? 1人じゃないのか? )


「その人たちは、どこへ? 」


「街へ逃げてったよ! 俺たちの大事な仲間をこーんなに傷つけてな!

みろよこのありさまを! ごめんなさいもなしに、逃げやがったんだ! 」


 リーダーはややイラついたように返した。ギルアは話の後半を聞いていなかった。


(街へ?街に戻っていったのか?

どうやら入れ違いになってしまったようだ。きっと会えると思ったのに……)


「そうですか……。ありがとうございます」


 引き返そうとすると、いきなり首元に剣先を当てられた。

 いつの間にか後ろにも数人いる。……取り囲まれていた。


「わりぃな。帰るには “通行料” がいるんだわ。へへへ……」


 ギルアはこのときになって、彼らがここを根城(ねじろ)にする賊だと分かった。

 全く、とんでもない場所にきてしまったらしい。

 きっと先にきた“光の使者”か“魔導師(まどうし)”も、同じような状況に(おちい)ったのだろう。

 風を発生させて彼らを吹き飛ばしたあと、街に逃げたに違いない。

 

 ギルアは深呼吸すると、冷静に、かつ申し訳なさそうに言った。

 

生憎(あいにく)、何も持ち合わせてないんです。見逃してもらえませんか? 」


「……仕方ねえなあ。ほんとに何も持ってねえのか? 」


「はい、この通り旅をしている者でして。

ちなみに、先ほど来たという人たちは、いくら支払ったのですか? 」


(何か有力な情報を得られるかもしれない。

その(かたわ)らで、どのようにしてここから逃げるかを考えるんだ )


「ああ、さっきのやつらか。2人ともお前さんと同じくらいの歳の若造(わかぞう)だったなあ。

ラオンダール帝国から来たやつらだよ。

1人は金貨がたっぷり入った袋をまるまる出してくれたな。

もう1人は剣だ。ここらじゃ見られない代物(しろもの)だったからな!

街で売りつければ、それなりに(もう)かるはずだぜ 」


 リーダーのそばにいる手下が、金貨の袋と剣を取り出した。

 ギルアは思わぬ収穫に目を見開いた。


(ここにきたのは2人……僕と同じくらいの歳だって? )

 

「そうですか……。残念ながら、僕には何も出せないようです」


(もうここに用はない。早く街に戻らないと……)


「ならば仕方ねえなあ! 身包(みぐる)()がして命をもらうぜ!

ヤローども! 一斉にかかれーーー!!!! 」


「「ウオオオオオオオオ!!!! 」」


 武器を構えた賊たちが、一斉(いっせい)に襲いかかってきた。

 血走った目はまるで獲物を(とら)えた肉食動物のようだった。


 瞬時に、エスペルがギルアに目配せした。ギルアはコクッとうなずいた。


「お前たちがその気なら、僕も相手しよう! 」


 ギルアの周りに風が生まれる。

 

「行くよ、エスペル! 」


 エスペルが空高く飛び上がった――。


◇◇


 数十分後、ギルアは北の遺跡から戻ってきた。手には金貨の入った袋と剣を握りしめていた。

 リーダーから奪い返したものだ。


「……入れ違いだったから無駄足(むだあし)かと思ったけど、有力な情報が(つか)めたよ。

 街の中を探そう。きっとまだどこかにいるはずだ」


「ピィ」


「まさか僕と同い歳くらいの少年だったとは、心底驚いたなあ……。

他の国から来た人なら、この国の格好をしてたとしても、簡単に見つけられるだろう」


「ピィ」


「それにしてもエスペル、さっきは助けてくれてありがとう。久々に動けて嬉しそうだったね。

でも、ここでは魔導師(まどうし)を知らない人がほとんどだから、なるべく見つからないようにしなくちゃ。

……まあ、さっきの人たちには、申し訳ないけどね」


「ピピィ! 」


 エスペルは嬉しそうに羽を動かした。ギルアは街に戻り、2人を探すことにした。


◇◇


 一方遺跡では、賊たちが全員倒れていた。

 激しく斬り付けられて出血していたり、骨を折られたりもしていた。

 近くの岩にも血飛沫(ちしぶき)が飛び散っており、まさに地獄絵図(じごくえず)の光景だった。


「……な……なんてやろうだ……」

「あいつ……一体何者だ…… 」

「鷲が……鷲が襲ってくるううう!! 」

「た、助けてくれええええ!! 」


 まるで悪夢にうなされているかのように、各々(おのおの)(うめ)き、叫び声を上げている。


「誰か、動けるやつはいないのか!? 」


 リーダーも同じく負傷を負い、立ち上がれなかった。


「あの方に……ご報告せねば…… 。このままだと、俺たちみんな殺されるぞ…… 」


◇◇


 その頃、アルスとカストルは無事王宮にたどり着くことができた。

 アルスの顔色はだんだん青ざめていき、体力も限界を迎えているらしかった。


「王宮についたよ! もうちょっとだから頑張って……」


 王宮の外にいる衛兵たちが2人の姿に気付いた。


「どうされましたか? 」


「あの、アルスの具合が悪いんです。早く休ませないと……今にも倒れそうなんです」


「おや、どうかされましたか? 」


 続けて、偶然通りかかった従者が駆け寄ってきた。カストルは同じ説明をした。


「……なんと! 随分(ずいぶん)顔色が悪いようですね。

医者は地下の医務室にいます。お前たち、すぐに運んであげなさい」


 衛兵たちは半ば強引にカストルからアルスを引き離すと、(かつ)いでいった。


「あの、僕も行きます! 」


 カストルはいても立ってもいられずに叫んだ。しかし、従者が間髪入れずに引き止めた。


「いいえ、あなたは部屋で待機なさってください!

地下の方が涼しくて、体にこもった熱も引いていくはずです。

適切な処置を済ませた後、部屋までお連れしますので、どうか部屋でお待ちください! 」


 従者の気迫に圧倒され、カストルは折れるしかなかった。


「は、はい……。わかりました。アルスを、よろしくお願いします! 」


 カストルは少し心配だったが、従者の言葉を信じて部屋で待つことにした。

 


 しかし、確実に王宮の陰謀(いんぼう)に巻き込まれてしまうのだった――。


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