第71話 思わぬ陰謀
【前回までのあらすじ】
リンは侍女のココと2人で王宮を散策していた。
お互いのことを話しあい、短時間で親しい間柄になった2人。
いよいよ最後の場所だということで入った部屋は、なんとジャラーハの部屋だった。
部屋を出ていく隙もないまま話がどんどん進み、なんと結婚するという展開に。
そしてリンは意識を失ってしまうのだった。
時を同じくして――。
部屋で安静にしていたジルは、何やら胸騒ぎを覚えて目を覚ました。
汗をかいていたようで、すぐ横に控えていた侍女のナツメが布で拭き取ってくれた。
「大丈夫ですか? ずいぶんうなされていたようですが」
時刻は昼すぎだろうか。窓から明るい日差しが降り注いでいる。
朝食の後から随分長い間眠っていたようだ。
上半身を起こして部屋を見渡した。体調が良くなったのか、体が軽い。
リンに声をかけようとしたが、リンとココの姿が見当たらなかった。
「……あれ、リンは? 」
「リン様は、ココと王宮を散策しに行かれました」
「そう…… 」
ジルはナツメに手渡されたコップの水を飲んだ。少し気分が落ち着いたが、なぜかすっきりしない。
「あの、隣の部屋に、兵長と男の子が2人いると思うんです。
すいませんが、呼んできてもらえないでしょうか。
体調が良くなったことを伝えたいんです」
アルスたちには一番心配と迷惑をかけてしまったので、少しでも安心させたい思いでいっぱいだった。
それと、彼らの明るい声が聞きたかった。声を聞くと何故か安心するのだ。
そういう思いでいたが、ナツメの口からは予想外の返事が返ってきた。
「残念ながら、皆さん出かけておられます。
兵長さんはわかりませんが、アルス様とカストル様は、つい先ほど北の遺跡へ向かわれたようです」
「え、そうなんですか? ……北の遺跡って? 」
「ええ。神様の像の場所を尋ねられたので、北の遺跡にあるとお伝えしました。
神様の像が何のことかよくわかりませんでしたが、おそらく遺跡のことだと思いまして。
あそこは昔、立派な神殿がありましたから。
……しかし、今は危険な場所です。“気味悪がって誰も行かない”、と釘を刺しましたが。
あそこは賊たちが拠点にしているので、無事戻ってこれるかどうか、命の保証がありません…… 」
「えっ! そんな危険な場所に、2人だけで行ったの? 」
(2人だけで行くなんて、いくらなんでも危険すぎるわ!
アルスの杖がある限り大丈夫かもしれないけど、万が一何かがあったらどうするのかしら?
……そもそも、あの2人が護衛も付けずに危険な場所にいくかしら?
何かが……。何かがおかしいわ……)
〈ここは危ないよ〉
どこからか急に声がした。
〈みんな危ない。早く逃げて……〉
――誰?誰なの?
ジルは部屋中をキョロキョロ見渡した。しかし、ジルとナツメの2人以外には誰もいない。
急に部屋を見回したジルを、ナツメは不思議そうに見つめている。
空耳か何かだとも思えない。確かにはっきりと聞こえたのだ。危険を知らせる、誰かの声が。
そのとき、部屋の扉が開いて、侍女のココが戻ってきた。
手にお香のようなものを持っている。隣にリンの姿はなかった。
「あ、ココさん。リンは……? リンと一緒じゃ、なかったんですか? 」
「そ、それが……」
ココは目をうるうるさせ、声を震わせながら言った。
「3階にある、陛下の部屋の前を通ったときに、いきなり部屋の中に入ってしまわれて……」
「ええ……!? 」
「何度も止めたんですが、ココの手を振り払って、陛下のお部屋に……。
しばらく待っていたんですが、いっこうに出てくる様子もなくて……。
あたしたち侍女は、身分が低いので……。
陛下のお部屋に入ることも、許されておりませんし……」
ココは泣きそうな顔で、部屋中をウロウロし出した。手にしているお香の甘い香りが、部屋中に広がった。
「陛下は、綺麗な女性が、お好きですから……。い、今頃……もしかしたら……」
ココは顔を伏せて泣き出した。
「大切なお客様ですのに……。ココのせいで……。ココのせいで、リン様が……! 」
(なんてことなの……。リンが、陛下の部屋に……。
でも、あの子が勝手にそんなことをするかしら? やっぱり何かがおかしいわ……)
ジルは強い胸騒ぎと同時に、突然の目眩に襲われた。
(変だわ……。どうしたのかしら……。目の前が、暗く……)
ジルはベッドの上にドサッと倒れ込んでしまった。
ココとナツメは互いに目を合わせると、にやりと笑った。
「うふふ、うまくいったー★ 」
ココは嘘で流した涙をぬぐった。
ナツメもいつの間にか鼻元に布をあてており、お香の強烈な香りを吸い込まないようにしていた。
「ココ、お香強すぎだから 」
「ごっめ〜ん★ 分量わっかんなくてー 」
「ま、計画通りだし許してあげるわ。時間がないから準備に取り掛かるわよ。
……ジル。悪いけど、しばらくそこで眠っていてもらうわよ。
まずはリンの式が先だからね。あなたはその後よ」
ココも続ける。
「残念だけど、あなたたち一行は、ここでおしまいだからね★
お連れの殿方は、遺跡で身包みを剥がされて殺されるわ★
あなたたち2人は、陛下のお嫁さんになって、ずっとずーっと幸せに暮らすのよ★
だけど、陛下は極度の欲しがりで飽き性だから、砂漠にポイされないように気をつけてね★
そうそう、兵たちにも奴隷になってもらうわ。貴重な使い捨ての駒ですもの★
今度、陛下のためのおっきなお墓を建てなきゃいけないから、そのために頑張ってもらうわ★
そうだ、ハヤブサ大会で勝っちゃったあの鷲。あれも陛下が欲しいって言ってたわ。
どうにかして奪わなきゃ★
……って、これだけ言っても、あなたには聞こえてないわよね。キャハ★ 」
「ココ、あんたはいつもしゃべりすぎ。……でも、これがこの国の掟。
他国からここを訪れた者は、みんなこの国のために、使い捨ての駒になる運命なの。
四方を砂漠に囲まれた、過酷な環境で生きていくためには、こうするしか方法がないのよ 」
2人の侍女はジルを部屋に残したまま、結婚式の準備に向かった。
そして、さらなる悲劇がアルスたちを待ち受けているのだった――。
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