第70話 王の部屋で
【前回までのあらすじ】
神殿の外に出ると、ゴロつきたちが取り囲んでいた。
怯えるカストルのそばで、冷静に受けごたえをするアルス。
“通行料”として金貨と剣を渡し、通してもらえることになったが、それは罠だった。
杖の力を使って必死に街へ逃げるアルスたち。
無事逃げ切ることができたが、アルスは力を使い果たし、ぐったりしてしまう。
一方、オアシスで休憩していたギルアは、異変を感じ取り、遺跡へ向かうのだった。
その頃、リンは侍女のココと2人で王宮を散策していた。
手厚いことに、客室、医務室、調理場、衛兵たちの訓練場など、興味深い場所はすべて見せてくれた。
ココはリンと年の近い少女で、幼なじみのように気軽に話かけてくれた。
だからこそリンもだんだん心を開き、親友のように親しくなることができた。
「ココは、侍女の仕事をしてどれくらいになるの? 」
3階へ向かう階段を上がっている途中で、リンが尋ねた。
窓からはオアシスを取り囲む砂漠が一望でき、改めてこの国が砂漠の真ん中にあるのだと認識した。
ココはピタリと足を止めると、口元に人差し指を当てながら振り返った。
「うーん……。親に捨てられた後だから、5年くらいかなー? 」
と、屈託のない笑顔で答えた。
「親に……? ごめんなさい、変なことを聞いてしまって……」
リンは申し訳なくなった。
心の奥に仕舞い込んだ嫌な記憶を思い出させてしまったかもしれない罪悪感が、ふつふつと湧き上がる。
「いーのいーの! 気にしないで。ココは今、チョー幸せだもん★
陛下も優しいし、王宮は何不自由なく暮らせるし、昔よりも裕福な暮らしだし」
「そう。ならいいんだけど……」
ココのあどけなさが残る笑顔が、リンをさらに不安にさせた。
まるで苦しみに蓋をかぶせて、無理やり明るく振る舞っているような気がして……。
「リンはさー。どうして旅なんかしてるの?
ここにくるだけでも、ずいぶん大変だったんじゃない? 」
「ええ、そうね。
私は……(“光の使者”だというのは隠すとして、)生き別れた両親を探しているの」
「……えっ、そうなの? 」
ココは目を丸くして驚いた。リンは話を続けた。
「私、自分がどこで生まれたのかも、全然わからないの。
旅一座に預けられて、ずっと団長や仲間たちと暮らしていたわ。それはそれですごく楽しい生活だった。
でも……。いつか両親を見つけ出して、一緒に暮らしたいの。
それが、私が旅を続けている理由……」
「そうなんだあ。見つかるといいね、両親……」
「うん、ありがとう」
◇◇
そうこうしているうちに、3階に到着した。他のどこよりも煌びやかで、豪華な作りになっていた。
「リン、次でいよいよ最後だよー★」
ココが立派な扉の前で立ち止まった。
「……この部屋は? 今までと随分違うみたいだけど…… 」
「いーから早く入ってみなよっ」
ココが半ば強引にリンを中に入れた。
「ごゆっくり〜★」
ココはいそいそと扉を閉めた。
「えっ、ココは、こないの? 」
リンは一気に不安になった。
(どうしよう、1人になっちゃった…… )
自然とトパーズのペンダントに触れていた。不安な気持ちも、少し和らぐような気がした。
と、奥から急に話しかけられた。
「やあ、君はリンちゃんだね! 」
(えっ……!? )
自ずと足が動き、ゆっくりと部屋の奥に進んでいった。目の前にいたのは……。
「へっ、陛下!? 」
昨日大広間で謁見したこの国の王、ジャラーハ・カラクームその人が、大きな椅子にどっかと座り、こちらを見ていたのだ。
相変わらず手や首には宝飾品を付けており、存在感が半端ない。
(私、陛下の部屋に入っちゃったっていうの!? )
「ごごご……ごめんなさい! 入る部屋を間違えてしまったみたいで……」
リンは深くお辞儀をして、扉へ戻ろうとした。
しかし、思いもがけない返事が返ってきた。
「俺様の部屋へようこそ! ちょうど退屈してたところなんだ。こっちにきて話をしようぜ 」
(えっ……? )
リンは様子を伺うように、ゆっくりと王の側まで近づいた。
近くで見れば見るほど大きな王だ。幼い頃から、相当裕福な暮らしをしてきたのだろう。
よく見ると、床には食べこぼしの果物がゴロゴロ転がっている。
側のテーブルには、山積みの果物が乗せられていた。
「ココと一緒に、王宮を見て回ってたんだって? ……どうだった? 」
王はりんごを大きな口でかじり、咀嚼しながら言った。
「……は、はい……。すごくいいところですね、陛下」
(私が部屋に入っちゃったこと、お怒りじゃないのかしら……? )
リンは愛想よく振る舞いつつ、王の顔色を伺った。
「だろーー! 俺様の自慢の王宮なんだ」
王の親しげな口調は、どこか不安をかきたてられた。
しかし怒っているわけではなさそうだ。むしろ、歓迎されているのだろうか……?
気を良くした王は、だんだん饒舌になり始めた。
「なんならさあ、ずーーっとここにいてもいいんだぜ! 」
「あ、ありがとうございます。でも、私は旅を続けねばなりませんので……」
「ええー、そうなの?
ここにいれば、食べ物も服も宝石も、欲しいものはなぁーーーんでも手に入るんだぜ?
“聖地巡礼”なんかやめてさ、ここで一緒に暮らそうよ! 」
「そんな……でも……」
リンはゆっくりと後退りした。
勢いに乗り早口でまくし立ててくる王が、だんだん怖くなってきた。
悪気はないのだろうけど、一方的に話を進められると、断るタイミングもわからなくなってくる。
「遠慮しなくていいよ! 旅なんて、しんどいことの連続だろ。
ここなら何不自由なく暮らせるしさ、王宮から一歩も出ないで、一生を過ごせるんだぜ。
他国で気になるものがあれば、キャラバン隊に取りに行かせればいいだけだしさ。
こんなにいい場所、他にはないよ! 」
(どうしよう……。こんなとき、どう断ればいいのかしら……)
リンが困惑している間も、ジャラーハはトントンと話を進めていく。
「そうだ、俺様の妻にしてやろう!
……そうとなると、式は早いにこしたことはないな。
今夜の祭りの時に盛大に催そう! ああ、それがいい。
リンちゃんがここに来たのも、そういう運命だったんだよ! 」
(……えっ!? 結婚……? ど、どういうこと……? )
「あの、陛下……」
そのとき、グイッと腕を引っ張られた。
「キャッ! 」
その力の強いこと。リンの細い腕では抵抗する術もなく、気づけば王にがっしり抱きしめられていた。
リンは恐怖のあまり全く声が出せなかった。
「心配しなくていいさ。俺様がフォローしてやるから!
決して後悔はさせないから、安心していいんだよ 」
(やだ! 怖い……怖い……! 誰か助けて…….。アルス君、カストル君……!!
ただ断ればいいだけなのに……。どうして何も言えないの……。)
そのとき、強いお香の香りが漂ってきた。
(あれ、私……? 目の前が霞んで……。どうしたの、かし、ら…… )
リンはくらくらと目眩がしたのを最後に、王に抱かれたまま意識を失った。
扉の方から、ココがお香を抱えて現れた。
「陛下、失礼いたします! 今回ガベリー隊長が西方から持ち帰ったお香を焚いてみました★
甘くて不思議な香りで、催眠作用、意識障害などの効果があるみたいです★
少量でも強い効力を発揮するようです★ 」
「よくやったぞココ。あとで褒美をやろう。
早速だが、式は今夜執り行う。俺様の家族・親族・友人たちを大広間に集めるんだ。100人分の食料をすぐに用意しろ!
夜まで時間がないぞ!ただちに準備させるんだ! 」
「はい、陛下。リン様にも、とっておきの花嫁衣装を着せましょうね★ 」
「ガハハハ!! なんて愉快なんだ。
欲しくて欲しくてたまらなかったリンちゃんが、もう俺様のものだ!
その次はもう1人のジルちゃんだ!
欲しいものはなんでも手に入れてやる。俺様こそが神であり正義なんだ! 」
ココは会釈をすると、そそくさと部屋を出て行った。
ジャラーハの笑い声だけが、ずっと響き渡っていた。
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