第69話 通行料
【前回までのあらすじ】
ハヤブサ大会を見終わったアルスたちは、街の北にある遺跡に向かう。
神殿らしきものを探索するが、神の像は見当たらない。
仕方なく引き返すことにするのだった。
神殿の外に出ると、大勢の男たちが入り口を取り囲んで待っていた。
各々武器を携え、素性が知れないように顔を隠している。
布の隙間から見えるギョロリとしたするどい目が、アルスたちを捕らえて離さない。
――歓迎ムードではないことは明らかだった。
「……あなたたちは? 」
アルスは怯えるカストルを庇うようにして、冷静に言った。
「ラオンダールから来たってのは、おまえたちのことか」
リーダーと思しき人物が言った。黒い布をまとい、短刀や曲刀を腰に下げている。
何より、威圧感がひしひしと感じられた。他のやつらよりも明らかに格は上だ。
「……ああ、そうだけど? 」
アルスはなるべく感情を押し殺し、冷静さを保つよう心がけた。
ここで怯えたり動揺したりすれば、相手の思うがままになると直感で判断した。
それに、皇族であるカストルを守ってやらねばならない。
「へへへ……。護衛もつけずに、俺たちの縄張りにノコノコとやって来るとはなあ……」
「ヒィー!ゴロつきたちの巣だったのか……」
カストルが小声で叫んだ。それも恐怖で喉が震え、声にならない声になっている。
「……僕たちを、どうするつもりですか? 」
アルスはなおも毅然とした態度で言った。
「ただで帰すわけには、いかねえからなあ……。
お前たちの身包みをはいで、金目のものをもらう。……それが通行料だ」
「わかりました。これでよければどうぞ」
アルスは迷いもなくポケットから硬貨が入った袋を取り出し、リーダーに投げつけた。
リーダーはそれを受け取ると、袋の中身を確かめた。金貨が数十枚ジャラジャラッと入っている。
「ほおう。なかなかいいものを持ってるじゃねえか!さっすが帝国から来た坊っちゃんは違うぜ」
「それで有り金は全部だ。約束通り通してもらおう」
アルスは怯えるカストルの手を強引に引いて、堂々と前を進んだ。
と、再びリーダーが壁のように前に立ち塞がった。
「……まだ、何か?」
アルスは内心ヒヤリとした。
表情が見えない分、相手が何を考えているのか全く読めない。
それはつまり、いつ戦闘が起きるかわからないということでもあった。
「お前は通してやってもいいが、そこの坊っちゃんはまだ何も払ってないぜ。
そうだな、腰につけてる剣をもらおうか。ここらじゃお目にかかれない代物だからな」
「……さっきの金で2人分だ。通してもらおう」
「そうは行かねえよ。俺たちの神聖な縄張りに土足で上がり込んだんだ。
相応の対価をもらわないと困るんだよ!」
「もうっ!これでいいんだろ! 」
カストルは恐怖でやけくそになり、腰に下げている剣をリーダーの足元へ投げ捨てた。
「ほほう、わかってるじゃねえか。へへへ……。
おめーら! 道を開けてやれ! 約束は約束だ。坊っちゃんたちのおかえりだー!」
数十人の賊たちはぞろぞろと両側によけ、真ん中に道を開けた。
「カストル、いくよ」
「う、うん……」
2人は両側からジロジロと嫌な視線を浴びながら、来た道を戻っていった。
自ずと早足になったが、砂に足をとられ、これがなかなか進まない。
谷は一本道だが、幅が狭く、人が横に4人並ぶだけでギリギリになるほどだった。
おそらくこれが自然の砦となり、この遺跡は守られてきたのだろう。
……今は、賊の住処になっているが。
賊たちの側を通り抜けたとたん、背後からリーダーの声が響き渡った。
「俺たちが黙って帰すと思うかよ! 通行料はここまでだ!
あとはおまえらの命をもらうぜ!!ヤローども! 一斉にかかれーーー!!!! 」
「「ウオオオオオオオオ!!!! 」」
賊たちは武器を構え、獲物を見据えた猛獣のような目で襲いかかってきた。
「うわー!やっぱりそうなるよねー! 」
カストルはとっさに剣を出そうとしたが、“通行料”を払ったことを思い出した。
「ぎゃー!剣がないんだったあああ! 」
「カストル!ここは強行突破で抜ける! 僕のそばから離れないで! 」
「え、う、うん……? 何する気? 」
アルスは背中から杖をだした。
「“アイオールの守り”! 」
風の壁が2人を取り囲んだ。
「どうなるかわからないけど!……これでもくらえ! 」
アルスは賊たちに振り返ると、ビュッと杖を向けた。
2人を取り巻く風の壁が、馬のように賊たちに向かっていった。
風は両側の谷をガリガリガリガリと削りながら狭い道を突き進み、1人また1人と賊にぶつかっていった。
「うわー! 」
「とんでもねえ風だ!」
「助けてくれー!! 」
逃げ場のない賊たちは両側の谷に叩きつけられ、意識を失ったり、怪我を負ったりして、砂の上に倒れていった。
「今だカストル! 街まで逃げるんだ!! 」
2人は持てる全力で、街まで一目散に駆け出した。
◇◇
「い……いてて……」
リーダーはその場に立ち上がると、だんだん小さくなる2人の姿を見つめていた。
「くそっ!逃したか。……まあいい。あのお方に報告だ。
不思議な杖を持っている、とな。へへへ……」
◇◇
その頃、オアシスにて。
ハヤブサ大会を終えた選手たちは、水辺のほとりでココナッツジュースを飲みながら一服していた。
「夜から祭りがありますから、それまで街を散策したり休んだりしててくださいね〜」という主催者側の意向だった。
見事優勝を勝ち取ってしまったギルアも、他の選手と共に休んでいた。
と、ギルアの腕に留まっているエスペルが、ピクッと北を向いて反応した。
「……?エスペル、どうかした? 」
「……ピィ」
「え、なんだって?……急に“風”が起こったって? 」
エスペルは訴えかけるような目でギルアを睨み付けている。
「……自然発生したものじゃなくて、“光の使者”、または“魔導師”の可能性があるっていうのかい? 」
「ピィ! 」
「……これはすごいよ。何か手がかりが掴めるかもしれない! 行こう! 」
ギルアはオアシスを離れ、エスペルに促されるがままに北へ向かった。
◇◇
一方、アルスたちは無事街の中へ戻ってくることができた。追手は来ていないようだった。
「はあ……はあ……。あ、危なかったあー……!
まさか……あんなやつらが、はあ……。遺跡に、巣食っていたなんて……。
アルスがいなかったら、今頃、ミンチにされてたところだよ……」
カストルはぜいはあと呼吸を乱し、その場にへたりこんだ。
「ワディさんが言ってたのは、このことだったんだね……。
最初から言ってくれたらいいのに……。なあ、アルス……」
「カストル……ごめん、ちょっと肩を借りてもいい? 」
「え? う、うん……?いいよ」
見るとアルスの顔は真っ青で、今にも倒れそうなほどだった。
「ちょっ……! ア、アルス、大丈夫か!?
……きっと、あれだけの人を蹴散らしたからだ!
無茶させてごめん!僕が頼りなかったばかりに!! ……すぐ王宮へ戻ろう! 」
カストルはアルスを気遣いながら、王宮へ歩いていった。
――ここから本当の悪夢が始まるとは、思いもせずに……。
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