第67話 ハヤブサ大会
【前回までのあらすじ】
ジルを医者に見せることができ、ホッとひと段落ついたアルスたち。
翌朝、アルスとカストルの2人は、
オアシスで行われるという「ハヤブサ大会」の決勝戦を見にいくことになった。
「みなさん!お待たせしました! 」
主催者の言葉に、観客は待ってましたとばかりの歓声をあげた。
「この大会が始まって、今年で20年になりました。
記念すべき第1回から見ている人も、途中から見出した人も、この異様な盛り上がりを経験したことはあったでしょうか?
……そう、今年のハヤブサ大会は、一味違います! 」
割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。
「ここで、決勝に挑む5人の勇敢な選手たちを紹介しよう! 」
オアシスのほとりには、5人の人物が横に並んでいた。
「まず一番手前にいるのが、優勝の常連!42歳のジルクム!!
優勝回数12回のツワモノだ! 相棒はオスのハヤブサ、パルクだ! 」
観客たちからジルクムコールが沸き起こった。
ダントツの強さと知名度を物にしているこの男は、自信に溢れた表情で堂々と立っていた。
「続いてはハヤブサ狩りの若き戦士!23歳のヴィールだ!
優勝回数は2回。相棒は、メスのリーフ! 」
ヴィールは主に砂漠で狩猟を行っている家系の出身らしく、青い衣装が特徴的だった。
ジルクムに次ぐ実力者として、若い人たちに絶大な人気を誇っていた。
「真ん中にいるのは、陛下の親戚で誰よりもたくましい男! 35歳のラマッカン!
新しい相棒、メスのパラーハで挑戦だ! 」
ラマッカンは王の親戚というだけあって、恰幅のよい体格をしており、上質な服を身に付けていた。
ハヤブサ大会に情熱を注いでいるのは、気になる人を振り向かせたいかららしい。
「その隣にいるのは、なんと初めての決勝進出!
人一倍努力家な28歳のダフー!相棒はオスのアズィーム! 」
ダフーはラマッカンとは対称的にひょろっとした男性だった。
大会には5年前から出場しており、念願叶っての決勝進出を果たしたようだ。
「そしてそしてー!最後に紹介するのが、皆さんの注目の的!
番狂わせのダークラクダ! 16歳のギルア・アルドール!
相棒は、メスの黒鷲のエスペルだ!! 」
観客から一斉に拍手が鳴り響いた。
ギルアはアルスたちと同じ年頃の少年でありながら、鷲のようにするどい目をしており、大人っぽい雰囲気をまとっていた。
「僕らとたいして変わらないのに、あんなに大きな鷲を連れてるなんて、すごいよな」
隣でカストルが感心しきっていた。アルスもそのとおりだった。
「大会のルールは至ってシンプル。
オアシスの端から端までハヤブサを飛ばして、一番先にゴールしたやつが優勝だ!
水辺には50m間隔で船を浮かべている。
もし相棒に何かトラブルがあっても、対処できるようになってるから安心してね!
……それでは皆さん、心の準備はOKかなー? 」
5人の選手はそれぞれ腕を前に伸ばし、いつでもハヤブサ(と鷲)を飛ばせるように構えた。
観客はその様子を固唾を飲んで見守った。
「位置についてーーー!! よーーーーい……ドン!!!!」
選手が腕を高く上げるのに合わせて、ハヤブサたちが勢いよく前方へ飛び立っていった。
観客たちからワァッと歓声が上がった。
「先頭をキープしているのは、ジルクムのハヤブサ、パルクだ!さすが優勝の常連!
王者の貫禄を見せつけてくれますね!
それを追うのは、ラマッカンのパラーハだ!
続いてはヴィールのリーフ!普段から狩りをしているからか、動きが安定している!
ダフーのアズィームも負けていないぞー!
……おおーっと!? どうした、ギルア! 鷲がまだ腕に留まったままだーー!? 」
ザワザワザワザワ……。
ハヤブサたちに大きく出遅れて、ギルアの鷲エスペルは、まだ腕に留まったままだった。
飛ぶ気配すら見せようともしない。
「どうしちまったんだ? 腹でもいてえのか? 」
「決勝戦でおじけづいたんでしょ。ジルクム様に圧倒されたんじゃないの? 」
「まあ、もともと話題集めで出場した選手なんだ。そこまで期待はしてなかったよ」
観客たちからは不安や非難の声が次々にあがった。
「……一体どうしたんだろう? 何かあったのかな? 」
アルスたちも首を伸ばして様子を伺った。
「あれは、鷲が機嫌を損ねてるな」
と、隣にいる商人のワディが解説した。
「機嫌を損ねてる?? 」
「あの鷲は、なかなかに自我が強いようだ。
飼い主のあの少年、相当今まで苦労をしてきたことだろう。
あの鷲は簡単に手名付けられる代物じゃあないな」
「……そうなんですか……」
アルスたちはワディの解説を「はぁ……」と受け止めることしかできなかった。
ワディが言うには、ハヤブサ大会を見続けていると、ハヤブサの性格や飼い主との相性までわかるという。
「決勝戦にもなると、お互いの相性がいい組み合わせが多い。
ジルクムなんかまさにいい例だ。お互いに信頼し合っている。
ラマッカンは、だめだな。また新しく買ってもらったハヤブサなんだろう。
うまく調教されていない。むしろ見た目だけよければ、それでいいのかもしれん。
だが、あの鷲は不思議だ。
機嫌が悪いのは確かだが、飼い主を信頼していないわけじゃない。
何か別の理由があるんだろう」
「……別の理由、ですか? 」
―― 一方、観客たちの視線を、体に穴が開きそうなほど浴びているギルアは、至って冷静だった。
「……みんな行ってしまったよ。エスペルは、行かないの? 」
黒鷲のエスペルは、プイッと首を横にひねった。どうやら拗ねているようだ。
「『こんなことしてる場合じゃない』って、その気持ちはよくわかるよ。
僕だってこんな大会、出たくなかったよ。早く“光の使者”を探したいと思ってる。
でも、砂漠を歩いてたら、運良くキャラバン隊に拾ってもらえて、この国に入ることができた。
これも何かの“縁”なんだよ、きっと」
エスペルはジーっとギルアを見つめている。
「優勝したら、いいものがもらえるみたいだし。
もしかしたらこの国に“光の使者”がいるかもしれないし……」
「ほんとに?」と問い詰めるような瞳で、エスペルはギルアを見つめ続けている。
『……じゃ、仕方ないわね。あたしの本気に目を向くんじゃないわよ』
そんな言葉を言いそうな勢いで、エスペルは突然バサッと飛び上がると一気に羽ばたいて前進した。
「おおーっと! 今! 鷲が! 飛び立ちました!! 」
観客からは「オオオオオーーーー!! 』と割れんばかりの歓声が起きた。
アルスたちも思わず拳を振り上げた。
「現在トップを行くのはジルクムのハヤブサ、パルク! 250m地点を通過!ここから折り返しだ!
続いてはラマッカンのパラーハが230m、ヴィールのリーフが200m、ダフーのアズィームは180m地点にいます。
ギルアのエスペルは、すでにアズィームの後ろにいる! なんて速さだ! いつの間にここまで来たんだ!?
……抜いたーー!4位のアズィームを、あっさり抜きました!! 」
「すげえ! 一瞬であそこまで飛んだのか!? 」
「さっきまで腕に留まってただろ? 」
「ほお。面白くなってきたな」ワディも感心の声をもらした。
決勝戦が盛り上がる最中、突如砂漠の突風が吹き込んできた。
ハヤブサたちは横からあおられ、体勢が崩れて水辺スレスレまで下降する者もいた。
「突然の風がハヤブサたちを襲います! しかーし! ギルアのエスペルはものともせず距離を縮めていく!
あれが鷲とハヤブサの差だというのでしょうか? ……そんなばかな!!
チャンスとばかりに、3位のリーフを抜いた!
ここで満足するわけがない! 2位のパラーハを追っているぞ!
1位のパルクはすでに400m地点に到達!ゴールはもう目前だ!
おっとエスペルの快進撃が止まらない!まだ行くか!? 行けるのか? ……380m地点のパラーハを抜いたー!
ついに初参加のギルアが王者ジルクムと一騎討ちだーー!!
こんなレース、今まで見たことないぜ!!
パルクは残り60m! このまま逃げ切れるのか!?
エスペルも後を追う…… おーっと並んだああああ!!
出遅れたエスペルが! ついに! パルクに並びました!! 」
観客たちの盛り上がりは最高潮だった。
そこへさらに追い討ちをかけるように突風が吹き込んできた。
「パルク!風にあおられてスピードが落ちました!
しかし踏ん張る!これが優勝回数12回の強み! 一瞬の油断で勝敗が決します!
対するエスペルは、風の抵抗を全く感じていないようです!
まるで風を味方にしているようにも見えます!
さあ残り20m!どうなるこの結末!
また風が吹いてきた! パルク、あああー! うまくかわせない!
横にそれてしまった!早く戻らないとやばいぞ!
残り10m!さあ、勝つのはどっちだ!?
頭1つ抜いて……エスペルだ! エスペルがゴオオーーーーール!!!! 」
「わああああああ!! 」
観客たちは前代未聞の勝者に歓声をあげた。
中にはジルクムの負けを嘆く者もいた。
「ほらみろ!あの鷲が勝ったぞ! 」
隣のワディが得意げに言った。どうやら特定の推しがいるわけでもなく、大会全体を楽しむタイプの人間らしい。
「ゴールしたハヤブサたちは、保護されて飼い主に戻されます。
おや、エスペル!空へ舞い上がったぞ!
そのまま向きを変え……なんと、自ら飼い主の方へ戻るというのでしょうか!? 」
エスペルは来た道を戻り、ギルアの腕に留まった。
遠目で判断する限りだが、してやったりという顔をしている。
「お疲れ様、エスペル。君がこういうのは嫌いなのは知ってるけど、協力してくれてありがとう」
ギルアはエスペルの羽を優しく撫でた。エスペルは機嫌がよくなったようだ。
と、そこへジルクムがやってきた。
「いい勝負だった。君の鷲は本当にすごいね。
僕の新しい目標ができたよ。次は君の鷲をギャフンと言わせてやるからな」
「あなたこそ。素晴らしいハヤブサでした」
2人はがっしりと握手を交わした。
その隣で、どよーんと落ち込んでいるのは、ラマッカンだった。
「ああ……またあの子に振り向いてもらえない……」
若いヴィールは、無言でその場を去っていった。
ダフーはとりあえずラマッカンの背中をさすってあげることにした。
そんなこんなでハヤブサ大会は大盛り上がりの中、無事終了した。
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