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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第67話 ハヤブサ大会

【前回までのあらすじ】


ジルを医者に見せることができ、ホッとひと段落ついたアルスたち。

翌朝、アルスとカストルの2人は、

オアシスで行われるという「ハヤブサ大会」の決勝戦を見にいくことになった。

「みなさん!お待たせしました! 」


 主催者の言葉に、観客は待ってましたとばかりの歓声をあげた。


「この大会が始まって、今年で20年になりました。

記念すべき第1回から見ている人も、途中から見出した人も、この異様(いよう)な盛り上がりを経験したことはあったでしょうか?

……そう、今年のハヤブサ大会は、一味違います! 」


 割れんばかりの拍手と歓声が()き起こった。


「ここで、決勝に(いど)む5人の勇敢(ゆうかん)な選手たちを紹介しよう! 」


 オアシスのほとりには、5人の人物が横に並んでいた。


「まず一番手前にいるのが、優勝の常連!42歳のジルクム!!

優勝回数12回のツワモノだ! 相棒はオスのハヤブサ、パルクだ! 」


 観客たちからジルクムコールが沸き起こった。

 ダントツの強さと知名度を物にしているこの男は、自信に(あふ)れた表情で堂々と立っていた。


「続いてはハヤブサ狩りの若き戦士!23歳のヴィールだ!

優勝回数は2回。相棒は、メスのリーフ! 」


 ヴィールは主に砂漠で狩猟(しゅりょう)を行っている家系の出身らしく、青い衣装が特徴的だった。

 ジルクムに次ぐ実力者として、若い人たちに絶大な人気を誇っていた。


「真ん中にいるのは、陛下の親戚(しんせき)で誰よりもたくましい男! 35歳のラマッカン!

新しい相棒、メスのパラーハで挑戦だ! 」


 ラマッカンは王の親戚(しんせき)というだけあって、恰幅(かっぷく)のよい体格をしており、上質な服を身に付けていた。

 ハヤブサ大会に情熱を注いでいるのは、気になる人を振り向かせたいかららしい。


「その隣にいるのは、なんと初めての決勝進出!

人一倍努力家な28歳のダフー!相棒はオスのアズィーム! 」


 ダフーはラマッカンとは対称的にひょろっとした男性だった。

 大会には5年前から出場しており、念願叶っての決勝進出を果たしたようだ。


「そしてそしてー!最後に紹介するのが、皆さんの注目の的!

番狂わせのダークラクダ! 16歳のギルア・アルドール!

相棒は、メスの黒鷲(くろわし)のエスペルだ!! 」


 観客から一斉(いっせい)に拍手が鳴り響いた。

 ギルアはアルスたちと同じ年頃の少年でありながら、鷲のようにするどい目をしており、大人っぽい雰囲気をまとっていた。


「僕らとたいして変わらないのに、あんなに大きな鷲を連れてるなんて、すごいよな」


 隣でカストルが感心しきっていた。アルスもそのとおりだった。


「大会のルールは至ってシンプル。

オアシスの端から端までハヤブサを飛ばして、一番先にゴールしたやつが優勝だ!

水辺には50m間隔で船を浮かべている。

もし相棒に何かトラブルがあっても、対処できるようになってるから安心してね!


……それでは皆さん、心の準備はOKかなー? 」


 5人の選手はそれぞれ腕を前に伸ばし、いつでもハヤブサ(と鷲)を飛ばせるように構えた。

 観客はその様子を固唾(かたず)を飲んで見守った。



「位置についてーーー!! よーーーーい……ドン!!!!」



 選手が腕を高く上げるのに合わせて、ハヤブサたちが勢いよく前方へ飛び立っていった。

 観客たちからワァッと歓声が上がった。


「先頭をキープしているのは、ジルクムのハヤブサ、パルクだ!さすが優勝の常連!

王者の貫禄(かんろく)を見せつけてくれますね!

それを追うのは、ラマッカンのパラーハだ!

続いてはヴィールのリーフ!普段から狩りをしているからか、動きが安定している!

ダフーのアズィームも負けていないぞー!


……おおーっと!? どうした、ギルア! 鷲がまだ腕に留まったままだーー!? 」


 ザワザワザワザワ……。


 ハヤブサたちに大きく出遅れて、ギルアの鷲エスペルは、まだ腕に留まったままだった。

 飛ぶ気配すら見せようともしない。


「どうしちまったんだ? 腹でもいてえのか? 」

「決勝戦でおじけづいたんでしょ。ジルクム様に圧倒されたんじゃないの? 」

「まあ、もともと話題集めで出場した選手なんだ。そこまで期待はしてなかったよ」


 観客たちからは不安や非難の声が次々にあがった。


「……一体どうしたんだろう? 何かあったのかな? 」


 アルスたちも首を伸ばして様子を(うかが)った。


「あれは、鷲が機嫌を(そこ)ねてるな」


 と、隣にいる商人のワディが解説した。


「機嫌を(そこ)ねてる?? 」


「あの鷲は、なかなかに自我が強いようだ。

飼い主のあの少年、相当今まで苦労をしてきたことだろう。

あの鷲は簡単に手名付けられる代物(しろもの)じゃあないな」


「……そうなんですか……」


 アルスたちはワディの解説を「はぁ……」と受け止めることしかできなかった。

 ワディが言うには、ハヤブサ大会を見続けていると、ハヤブサの性格や飼い主との相性までわかるという。


「決勝戦にもなると、お互いの相性がいい組み合わせが多い。

ジルクムなんかまさにいい例だ。お互いに信頼し合っている。

ラマッカンは、だめだな。また新しく買ってもらったハヤブサなんだろう。

うまく調教されていない。むしろ見た目だけよければ、それでいいのかもしれん。


だが、あの鷲は不思議だ。

機嫌が悪いのは確かだが、飼い主を信頼していないわけじゃない。

何か別の理由があるんだろう」


「……別の理由、ですか? 」



―― 一方、観客たちの視線を、体に穴が開きそうなほど浴びているギルアは、至って冷静だった。


「……みんな行ってしまったよ。エスペルは、行かないの? 」


 黒鷲のエスペルは、プイッと首を横にひねった。どうやら()ねているようだ。


「『こんなことしてる場合じゃない』って、その気持ちはよくわかるよ。

僕だってこんな大会、出たくなかったよ。早く“光の使者”を探したいと思ってる。

でも、砂漠を歩いてたら、運良くキャラバン隊に拾ってもらえて、この国に入ることができた。

これも何かの“(えん)”なんだよ、きっと」


 エスペルはジーっとギルアを見つめている。


「優勝したら、いいものがもらえるみたいだし。

もしかしたらこの国に“光の使者”がいるかもしれないし……」


「ほんとに?」と問い詰めるような瞳で、エスペルはギルアを見つめ続けている。


『……じゃ、仕方ないわね。あたしの本気に目を向くんじゃないわよ』


 そんな言葉を言いそうな勢いで、エスペルは突然バサッと飛び上がると一気に羽ばたいて前進した。


「おおーっと! 今! 鷲が! 飛び立ちました!! 」


 観客からは「オオオオオーーーー!! 』と割れんばかりの歓声が起きた。

 アルスたちも思わず拳を振り上げた。

 

「現在トップを行くのはジルクムのハヤブサ、パルク! 250m地点を通過!ここから折り返しだ!

続いてはラマッカンのパラーハが230m、ヴィールのリーフが200m、ダフーのアズィームは180m地点にいます。

ギルアのエスペルは、すでにアズィームの後ろにいる! なんて速さだ! いつの間にここまで来たんだ!?

……抜いたーー!4位のアズィームを、あっさり抜きました!! 」


「すげえ! 一瞬であそこまで飛んだのか!? 」

「さっきまで腕に留まってただろ? 」


「ほお。面白くなってきたな」ワディも感心の声をもらした。


 決勝戦が盛り上がる最中、突如砂漠の突風が吹き込んできた。

 ハヤブサたちは横からあおられ、体勢が崩れて水辺スレスレまで下降する者もいた。

 

「突然の風がハヤブサたちを襲います! しかーし! ギルアのエスペルはものともせず距離を縮めていく!

あれが鷲とハヤブサの差だというのでしょうか? ……そんなばかな!!

チャンスとばかりに、3位のリーフを抜いた!

ここで満足するわけがない! 2位のパラーハを追っているぞ!


1位のパルクはすでに400m地点に到達!ゴールはもう目前だ!

おっとエスペルの快進撃が止まらない!まだ行くか!? 行けるのか? ……380m地点のパラーハを抜いたー!


ついに初参加のギルアが王者ジルクムと一騎討ちだーー!!

こんなレース、今まで見たことないぜ!!


パルクは残り60m! このまま逃げ切れるのか!?

エスペルも後を追う…… おーっと並んだああああ!!

出遅れたエスペルが! ついに! パルクに並びました!! 」


 観客たちの盛り上がりは最高潮だった。

 そこへさらに追い討ちをかけるように突風が吹き込んできた。


「パルク!風にあおられてスピードが落ちました!

しかし踏ん張る!これが優勝回数12回の強み! 一瞬の油断で勝敗が決します!

対するエスペルは、風の抵抗を全く感じていないようです!

まるで風を味方にしているようにも見えます!


さあ残り20m!どうなるこの結末!


また風が吹いてきた! パルク、あああー! うまくかわせない!

横にそれてしまった!早く戻らないとやばいぞ!

残り10m!さあ、勝つのはどっちだ!?

頭1つ抜いて……エスペルだ! エスペルがゴオオーーーーール!!!! 」


「わああああああ!! 」


 観客たちは前代未聞の勝者に歓声をあげた。

 中にはジルクムの負けを(なげ)く者もいた。


「ほらみろ!あの鷲が勝ったぞ! 」


 隣のワディが得意げに言った。どうやら特定の推しがいるわけでもなく、大会全体を楽しむタイプの人間らしい。


「ゴールしたハヤブサたちは、保護されて飼い主に戻されます。

おや、エスペル!空へ舞い上がったぞ!

そのまま向きを変え……なんと、(みずか)ら飼い主の方へ戻るというのでしょうか!? 」


 エスペルは来た道を戻り、ギルアの腕に留まった。

 遠目で判断する限りだが、してやったりという顔をしている。


「お疲れ様、エスペル。君がこういうのは嫌いなのは知ってるけど、協力してくれてありがとう」


 ギルアはエスペルの羽を優しく()でた。エスペルは機嫌がよくなったようだ。

 と、そこへジルクムがやってきた。


「いい勝負だった。君の鷲は本当にすごいね。

僕の新しい目標ができたよ。次は君の鷲をギャフンと言わせてやるからな」


「あなたこそ。素晴らしいハヤブサでした」


 2人はがっしりと握手を交わした。

 その隣で、どよーんと落ち込んでいるのは、ラマッカンだった。


「ああ……またあの子に振り向いてもらえない……」


 若いヴィールは、無言でその場を去っていった。

 ダフーはとりあえずラマッカンの背中をさすってあげることにした。



 そんなこんなでハヤブサ大会は大盛り上がりの中、無事終了した。

 


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