第65話 王宮へ
【前回までのあらすじ】
夜、アルスが寝付けずにいると、隊長が声をかけてきた。
隊長に誘われてついていくと、大きな砂丘の上にたどり着く。
そこで隊長は、自身の過去を語るのだった。
ダルウィンは大きなオアシスを取り囲むようにできた国だ。
ヤシの木がところどころに生えており、異国情緒を感じられた。
土を塗り固めてできた家々が並び、夕焼けで赤く染まっているのが印象的だった。
高台にそびえ立つ王宮は、ひときわ豪華な造りで、この国の裕福さを物語っていた。
街に入ると道の両側に露店がずらりと並んでおり、時間も時間なので店じまいをしているところが大半だった。
この国の名産であるヤシの木を加工した日用品や、芸術的な模様の入ったじゅうたんなどを並べていた。
どこからか肉の焼ける香ばしい香りが漂ってきて、アルスは空腹なのを思い出した。
「すごいなー。ここ、砂漠のど真ん中にある国だとは思えないな」
カストルが興奮して周りをキョロキョロ見渡しながら言った。
確かに、今までいた砂漠からは想像もつかないほどの賑わいぶりだった。
ビーゴも久しぶりの故郷に、安堵の表情を浮かべている様子だった。
「僕たちは旅から戻ると、必ず王宮に向かうんだ。
今回の旅の報告と売上金を陛下に献上することになってる。
まあ……中に入れるのは隊長だけなんだけど。
僕らは王宮の隣にある、ラクダ小屋で待機するんだ」
「……ビーゴたちは、そのあとどうするの?」
「隊長が戻ってきたら、今回の報酬を受け取って解散する。
自分の家に帰って、次の仕事が来るのを待つんだ。
早ければ数日、遅ければ数週間……」
「そうなんだ……。じゃあ、ビーゴと会えるのも今日で終わりかもしれないね」
「そうだな」
ビーゴは飄々と返した。
◇◇
やがて、王宮の麓に到着した。
広場のようになっており、王宮の入り口には槍や歪曲した剣を腰につけた衛兵が並んで立っていた。
ラクダから降り、荷物を整えていると、商人の1人が隊長に近づいてきた。
「おっ。ガベリーじゃないか。今回は随分長かったな」
「……まあな」隊長は言葉少なに答えた。
「今から陛下のところにいくのか?……一応、気をつけた方がいいぜ」
「……なぜだ? 」
「お前がいなかった間に、また癇癪を起こされてな。
親族たちが数人牢に放り込まれたって話だ」
「……何でまた? 」
「さあ。詳しくは知らねえけど。
まあそんなこんなで、みんなビクビクしてるよ。
お前は陛下の信頼もあついし、大丈夫だろうけどよ……。念のため気をつけな」
「ああ、わかった」
「じゃあな。……ん?この人たちはどうした? 」
商人はリンやジル、後方にいる兵たちに気づいた。
「ちょっとしたお客さんだ。じゃあ、また今度な」
「あ、ああ……」
商人は深掘りしたそうにしていたが、隊長が取り合わないので自分の店へとしぶしぶ戻っていった。
「ちょっくら挨拶に行ってくる。すぐ戻る」
隊長が王宮へ1人で入っていった。
「……ジル、大丈夫? 」
ようやく一息つけたのを見計らって、リンがジルの身を案じた。
「ええ、街につくと、ちょっと楽になったわ。でも……」
「……でも? 」
ジルは何やら周りをしきりに見回していた。
「……? ジル、どうかした? 」
「いいえ、なんでもないわ。……お医者さんに見てもらったら、すぐよくなると思うわ」
◇◇
やがて隊長が戻ってきた。
「おい、お前たち全員ついてこい。ビーゴ。ラクダと荷物を頼む」
「はい、隊長」
ビーゴたちはラクダをひいて隣のラクダ小屋へ移動していった。
◇◇
「……いいか。今から陛下に謁見する」
隊長が先頭を歩きながら言った。
「この国に初めて来た者は、誰でも最初に会わねばならない掟だ。
もし陛下が……おまえたちの目的を聞いてきたら、そこの兵長以外は、何もしゃべるなよ」
「はい……」
◇◇
王宮内は外とは比べものにならないほど贅の限りを尽くした装飾や調度品で溢れていた。
各国との交易でよほど栄えているのだろう、他国のものと思われる彫刻や絵画も飾られていた。
陽が沈み薄暗くなってきていたので、等間隔に配置されたたいまつに火が灯され、より一層幻想的な空間を生み出していた。
さらに、王宮内には今まで嗅いだことのないような、エキゾチックな香りのお香もほのかに漂っていた。
賊でないことを証明するため、アルスたちは頭に巻いた布を外すことが義務付けられた。
従者に案内され、奥の大広間に通された。
「陛下。ガベリーとお客様がお見えになりました」
従者はそう言うと、大広間を後にした。
真正面に、赤い絨毯に腰掛けた大柄な男性が見えた。年齢は30代後半だろうか。
風通しの良い白い服の上から、黒い上着を羽織っており、頭には金色の布を纏っている。
手や首にはジャラジャラと目が眩むほどの宝石類をつけていた。
周りには10人ほどの綺麗な女性が取り巻いており、飲み物をついでいる人からべったりくっついて離れない人まで様々だった。
恰幅がよいせいか存在感は抜群で、ラオンダール帝国のレオニス皇帝とはまた別の威厳を放っているようだった。
「おお、ガベリー。もどったのか」
「はい、陛下。ただいま戻ってまいりました」
隊長は床に跪いて頭を下げた。
「長旅ごくろうだったなあ。……して、後ろの者たちは?」
「は。彼らはラオンダール帝国から来た旅の者です。
ダルウィンに用があるとのことで、砂漠の入り口で合流いたしました」
「ほおーー。ラオンダール帝国か! よくここまで来れたな。
俺様はジャラーハだ。ジャラーハ・カラクーム。この国の王をしている。
どうしてまたこんな砂漠にきたのかね? 」
ここで兵長が代表として話し出した。
「ジャラーハ陛下。まずは、お会いでき光栄です。
私たちは、皇帝陛下からの命により、カストル第三皇子と共に“聖地巡礼の旅”をしているところでございます。
この国の神に祈りを捧げたのち、極東のファイデン王国に向かう予定です。
用事が済み次第すぐに出国しますので、それまでの間、この国に滞在したいのですが……」
(さすが兵長……話がうまいなあ……)
アルスは思わず感心してしまった。
(僕なら本来の目的を告げてしまってたかもしれない……。
“聖地巡礼の旅”なら、怪しまれずに目的を達成できるかもしれない)
「ふうーーん。“聖地巡礼”ねえ……」
ジャラーハは興味なさげに答えた。
「近頃の貴族の間では、そんなのが流行ってるのかねえ……。
……ま、好きなだけいるといいよ。
そうだ!明日、年に1度のハヤブサ大会があるんだ。
昨日の予選では思わぬ番狂わせがあったみたいだからね〜。
夜には優勝を記念した祭りも開かれるから、見て行くといいよ」
「ありがとうございます」
「帝国からの要人だ。庶民の街では窮屈だろうに。
滞在中は王宮の空いている部屋を使うといい。あとで案内させよう」
「はい。感謝いたします」
兵長は後ろに下がった。ここですかさず隊長が前に出た。
「……陛下、こちらのお連れの方が、道中具合を悪くされてしまいまして。
至急、医者に見せていただけませんでしょうか」
「……ほう。病人とな。よかろう。すぐに医者を部屋まで送ろう」
「ありがとうございます! 」
隊長の言葉に合わせて、ジルもにっこり微笑んで会釈した。
「それでは、旅の者たちを部屋に案内して。……ガベリーは、あとでここにくるように」
「……はい、陛下」
アルスたちは大広間を後にした。
◇◇
隊長とは部屋の前でお別れすることになった。
「わしはこの辺で戻るから。元気でな」
「はい、お世話になりました。隊長もお元気で! 」
「……いいか。この国に入る前にわしが言った言葉……。決して忘れるでないぞ」
「“ダルウィンでは内緒にしろ”……のことですね? 」
「ああ、そうだ。……じゃあな」
隊長はあっさり別れの挨拶を済ますと、大広間の方へ戻って行った。
「……結局、最後までよくわからない人だったなあ」
カストルが文句を垂れるそばで、アルスは何やら胸騒ぎを覚えていた。
……一体、何があるっていうんだろう?
◇◇
一方、アルスたちが大広間を出たあと、ジャラーハはふう〜と大きなため息をついた。
「……“聖地巡礼の旅”だと? ……笑わせる。
その程度のことでラオンダールがわざわざこの国に来るもんかねえ。
絶対何か思惑があるに違いない。……あそこの皇帝は野心家で有名だからねえ」
「王様ぁん、あたし怖いですわー」
「わたくしもぉー」
取り巻きの女性たちが甘えた声でジャラーハにくっつき始めた。
「大丈夫大丈夫! 俺様が守ってやるから。
……それにしても、あんな兵隊たちの間に美人ちゃんを2人も抱えてるなんてずるいよねー。
緑色の綺麗な人と、金髪碧眼のかわい子ちゃん……。
どうにかして、俺様の19人目と20人目の妻になれないかなあ……。
他の男どもも、何か金目になりそうな物を持ってるはずだ。
たしか、第三皇子とか言ってたっけ。
もらえるだけもらって砂漠に放り出してやれ!
行き倒れたと思われても仕方ないようにな」
「あらん王様、怖すぎー」
「でも、そういうところがス・テ・キ!」
「ガハハハ!! 当然だろう!?俺様こそが神であり正義だからな!
この国で信仰してた大地の女神・イレニアのほこらなど、とうの昔に壊してやったわ。
“聖地巡礼の旅”も虚しく、砂漠でのたれ死んでおさらばだぜ」
お読みいただきありがとうございます。
少しでも「面白い」「続きが気になる」「応援したい」と思っていただけましたら、
ブックマーク登録をお願いします。
また、広告の下の☆☆☆☆☆を押していただけますと、評価ポイントが入ります。
評価していただけますと、執筆の励みになります^^
応援よろしくお願いいたしますm(_ _)m




