第64話 隊長の過去
【前回までのあらすじ】
アルスとリンは2人で力を合わせ、砂嵐を消し去ることに成功する。
嬉々としてキャラバン隊に戻る2人の元に、隊長がやってきてこう言う。
「このことはくれぐれもダルウィンでは内緒にしろ」
アルスはその言葉が妙にひっかかるのだった。
その日の夜。
みんなが寝静まったあと、アルスはなかなか寝付くことができず、テントから出て星を見上げていた。
今日の隊長の言葉が、どうもすっきりしないのだ。
一体ダルウィンとはどのような国なんだろうか……。
宝石の手がかりも得られたらいいけど、果たしてそれも叶うだろうか……?
「おい。寝ないのか」
いきなり話しかけられて心臓が飛び出そうになった。
隊長がテントのそばを通りかかったようだった。
「あ、隊長さん……。ちょっと、目が覚めてしまって」
「……ならば、こっちへ来い」
「……え? 」
隊長に促されるままついていったのは、近くの大きな砂丘の上だった。
途中足元をとられてズブズブ沈みそうになったが、頂に立つと周囲が見渡せてなかなかの景色だった。
「明日の夕方にはダルウィンに着くだろう。ここをまっすぐ行った先だ」
隊長が前方を指差した。街らしきものは、まだ見えない。
「そうですか。……よかった」
アルスはホッと胸を撫で下ろした。ダルウィンに着けばジルの病気も治せるはずだ。
ひと段落ついたあとは、宝石の手がかりを探そう。王に謁見すれば、何かわかるかもしれない。
「……あれは、わしがまだ若かったときだ」
「……へっ?」
急に隊長が語り出したので、アルスは意表をつかれて変な声が出てしまった。
「……名のあるキャラバン隊の隊長のもとで、下っ端として働き始めた頃だったか。
その時のキャラバン隊は、わしの他に15人ほどいただろうか。
ラクダも30頭つないでいた。儲けるために、たくさんの商品を積んでな。
ある時、他所の国へ商売にいくという夫婦がおった。
たまたま行き先が同じだったから、一緒に砂漠を渡ることになった」
隊長は遠くを見続けながら、おもむろに煙草に火をつけた。
フーッと吐いた白い煙が、星空に吸い込まれていく。
「わしは一番若かったからか、この夫婦に大変気に入られた。
夕食の後に他愛もない話をするのが、1日の疲れを癒す唯一の時間だった。
……だが、当然ながらそれを気に入らないやつがおってな」
ここで隊長は再び白い煙を空に吐いた。
「奥さんがこれまた綺麗な人だった。
いつしか、奥さんを自分の物にしたいと目をつけたやつがでてきたんだ」
「……でも、それって、いけないことじゃ……? 」
アルスは合いの手を入れずにはいられなかった。
「もちろんダメだ!……ダルウィンは、戒律の厳しい国でな。
一度夫婦の契りを交わした者は、一生添い遂げるのが掟になってる。
第三者が割り込むことなど言語道断。即、死刑だ」
「……厳しいんですね」
「砂漠の過酷な環境を生き抜くためには、仕方がないことだ」
「……それで、どうなったんですか? 」
隊長はまたしてもここで一息ついてから、話を続けた。
「砂嵐に見舞われて動けなくなったタイミングで、隊長たちの目をかいくぐって姿を消したんだ。
嫌がる奥さんを無理やり引っ張ってな。
砂嵐を抜けたあと、事実に直面した夫はひどく錯乱した。
『誰がやった。お前か、お前か』と、護身用のナイフを振り回して、1人1人問いただした。
挙げ句の果てにラクダを数頭殺し、商品をぶちまけて、その場で自害した……」
――沈黙が流れる。
「……結局、そのキャラバン隊は崩壊した。
国に引き返して、隊長は罪を問われて殺された。
後に奥さんと犯人は、砂漠の真ん中で死んでるのが見つかった。
他のやつは別の仕事に就いたり、家に引き篭ったり、酒に溺れたりした。
……この事件以来、この仕事に就こうとするやつは、めっきり減った。
わしが隊長になったのはそのすぐ後だが……。
わしは、二度と同じ過ちを起こさせないと誓った。
隊の規模を小さくし、わし1人でも監視できるような体制にした。
守るべき存在は、わしの近くに置くことにした。
わしが目を光らせておれば、誰も寄り付かんからな。
……さて、長話はここらで終わりだ。いい子守唄になっただろう?
明日の朝も早いからな。そろそろ戻るぞ」
「はい……、ありがとうございます」
「お前たちといるのも、明日で最後だな」
隊長はよいしょと立ち上がり、砂丘を降りていった。
――この人は……。
「……ん? 降りないのか? 」
隊長はアルスがついてこないので不思議がって振り返った。
「あっ。……もう少し景色を見てから戻ります」
「そうか。夜は冷えるから気をつけろよ」
アルスは砂丘を降りる隊長の背中をしばらく眺めていた。
――なんてものを背負っていたんだ……。
アルスは目頭が熱くなるのを感じた。
ふと、リンとジルが1日目に隊長を褒めちぎっていたことを思い出した。
『隊長さんも何度も振り返って気にかけて下さったし……』
『こんな環境だから、こまめに会話をすることで、相手の体調の変化などに気付けるみたいなのよ』
『隊長さんの方こそ仕事も多くて大変そうなのに、気配りもできて、本当にすごい方です』
“レディファースト”なんかじゃなかった。リンとジルは、守られていたんだ。
何度も振り返って話かける傍で、きっと後方の僕たちのことも見ていたはずだ。
『隊長はあんなだけど、カストル君のことを一番心配していたのよ』
過酷な砂漠を安全に渡るために。問題を起こさないために。
アルスは自然と笑みがこぼれていた。
――この隊長さんなら、きっと大丈夫。彼を尊敬するビーゴも、立派な隊長になれるはずだ。
翌日の夕方。
「見えてきた!ダルウィンだ 」
ビーゴが嬉しそうに言った。
大きなオアシスを囲むように、茶色い家々やヤシの木が並んでいる。
一際大きな宮殿が、夕日を受けて金色に輝いていた。
まるで砂漠の真ん中に咲く花のような国だった。
「やったー!! アルス、ダルウィンだよ! ついに来たんだよ! 」
カストルが水を得た魚のように威勢よく叫んだ。
「ほんとだね。これでジルの病気も治せるね」
「医者は王宮の中にいる。病人だといえばすぐに会わせてくれるだろう」
先頭を進む隊長が言った。
「……あの隊長! ……やっぱり、地獄耳だよ。これだけ離れてるのにさ」
カストルがぶつぶつとつぶやいた。
しかしそんなカストルとは対称的に、アルスは清々しい気持ちでいっぱいだった。
こうして長い砂漠を抜けて、ようやくダルウィンに着いたアルスたち。
だが、ここでも予期せぬ出来事が待ち受けていようとは、この時は知る由もなかった――。
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