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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第64話 隊長の過去

【前回までのあらすじ】


アルスとリンは2人で力を合わせ、砂嵐を消し去ることに成功する。

嬉々としてキャラバン隊に戻る2人の元に、隊長がやってきてこう言う。

「このことはくれぐれもダルウィンでは内緒にしろ」

アルスはその言葉が妙にひっかかるのだった。

 その日の夜。


 みんなが寝静まったあと、アルスはなかなか寝付くことができず、テントから出て星を見上げていた。


 今日の隊長の言葉が、どうもすっきりしないのだ。

 一体ダルウィンとはどのような国なんだろうか……。

 宝石の手がかりも得られたらいいけど、果たしてそれも叶うだろうか……?



「おい。寝ないのか」


 いきなり話しかけられて心臓が飛び出そうになった。

 隊長がテントのそばを通りかかったようだった。


「あ、隊長さん……。ちょっと、目が覚めてしまって」


「……ならば、こっちへ来い」


「……え? 」



 隊長に(うなが)されるままついていったのは、近くの大きな砂丘の上だった。

 途中足元をとられてズブズブ沈みそうになったが、(いただき)に立つと周囲が見渡せてなかなかの景色だった。


「明日の夕方にはダルウィンに着くだろう。ここをまっすぐ行った先だ」


 隊長が前方を指差した。街らしきものは、まだ見えない。


「そうですか。……よかった」


 アルスはホッと胸を撫で下ろした。ダルウィンに着けばジルの病気も治せるはずだ。

 ひと段落ついたあとは、宝石の手がかりを探そう。王に謁見(えっけん)すれば、何かわかるかもしれない。



「……あれは、わしがまだ若かったときだ」


「……へっ?」


 急に隊長が語り出したので、アルスは意表(いひょう)をつかれて変な声が出てしまった。


「……名のあるキャラバン隊の隊長のもとで、(した)()として働き始めた頃だったか。

その時のキャラバン隊は、わしの他に15人ほどいただろうか。

ラクダも30頭つないでいた。(もう)けるために、たくさんの商品を積んでな。


ある時、他所(よそ)の国へ商売にいくという夫婦がおった。

たまたま行き先が同じだったから、一緒に砂漠を渡ることになった」


 隊長は遠くを見続けながら、おもむろに煙草に火をつけた。

 フーッと吐いた白い煙が、星空に吸い込まれていく。


「わしは一番若かったからか、この夫婦に大変気に入られた。

夕食の後に他愛(たあい)もない話をするのが、1日の疲れを癒す唯一の時間だった。

……だが、当然ながらそれを気に入らないやつがおってな」


 ここで隊長は再び白い煙を空に吐いた。


「奥さんがこれまた綺麗な人だった。

いつしか、奥さんを自分の物にしたいと目をつけたやつがでてきたんだ」


「……でも、それって、いけないことじゃ……? 」


 アルスは合いの手を入れずにはいられなかった。


「もちろんダメだ!……ダルウィンは、戒律(かいりつ)の厳しい国でな。

一度夫婦の契りを交わした者は、一生添い遂げるのが(おきて)になってる。

第三者が割り込むことなど言語道断(ごんごどうだん)。即、死刑だ」


「……厳しいんですね」


「砂漠の過酷な環境を生き抜くためには、仕方がないことだ」


「……それで、どうなったんですか? 」


 隊長はまたしてもここで一息ついてから、話を続けた。


「砂嵐に見舞われて動けなくなったタイミングで、隊長たちの目をかいくぐって姿を消したんだ。

嫌がる奥さんを無理やり引っ張ってな。

砂嵐を抜けたあと、事実に直面した夫はひどく錯乱(さくらん)した。

『誰がやった。お前か、お前か』と、護身用(ごしんよう)のナイフを振り回して、1人1人問いただした。

挙げ句の果てにラクダを数頭殺し、商品をぶちまけて、その場で自害した……」


 ――沈黙が流れる。


「……結局、そのキャラバン隊は崩壊(ほうかい)した。

国に引き返して、隊長は罪を問われて殺された。

後に奥さんと犯人は、砂漠の真ん中で死んでるのが見つかった。

他のやつは別の仕事に就いたり、家に引き(こも)ったり、酒に(おぼ)れたりした。


……この事件以来、この仕事に就こうとするやつは、めっきり減った。

わしが隊長になったのはそのすぐ後だが……。

わしは、二度と同じ過ちを起こさせないと誓った。


隊の規模を小さくし、わし1人でも監視できるような体制にした。

守るべき存在は、わしの近くに置くことにした。

わしが目を光らせておれば、誰も寄り付かんからな。


……さて、長話はここらで終わりだ。いい子守唄になっただろう?

明日の朝も早いからな。そろそろ戻るぞ」


「はい……、ありがとうございます」


「お前たちといるのも、明日で最後だな」


 隊長はよいしょと立ち上がり、砂丘を降りていった。


 ――この人は……。


「……ん? 降りないのか? 」


 隊長はアルスがついてこないので不思議がって振り返った。


「あっ。……もう少し景色を見てから戻ります」


「そうか。夜は冷えるから気をつけろよ」

 

 アルスは砂丘を降りる隊長の背中をしばらく眺めていた。


 ――なんてものを背負っていたんだ……。


 アルスは目頭が熱くなるのを感じた。

 ふと、リンとジルが1日目に隊長を褒めちぎっていたことを思い出した。

 

 『隊長さんも何度も振り返って気にかけて下さったし……』


 『こんな環境だから、こまめに会話をすることで、相手の体調の変化などに気付けるみたいなのよ』


 『隊長さんの方こそ仕事も多くて大変そうなのに、気配りもできて、本当にすごい方です』



 “レディファースト”なんかじゃなかった。リンとジルは、()()()()いたんだ。

 何度も振り返って話かける(かたわら)で、きっと後方の僕たちのことも見ていたはずだ。


 『隊長はあんなだけど、カストル君のことを一番心配していたのよ』

 

 過酷な砂漠を安全に渡るために。問題を起こさないために。

 アルスは自然と笑みがこぼれていた。

 ――この隊長さんなら、きっと大丈夫。彼を尊敬するビーゴも、立派な隊長になれるはずだ。

 



 翌日の夕方。


「見えてきた!ダルウィンだ 」


 ビーゴが嬉しそうに言った。

 大きなオアシスを囲むように、茶色い家々やヤシの木が並んでいる。

 一際大きな宮殿が、夕日を受けて金色に輝いていた。

 まるで砂漠の真ん中に咲く花のような国だった。


「やったー!! アルス、ダルウィンだよ! ついに来たんだよ! 」


 カストルが水を得た魚のように威勢(いせい)よく叫んだ。


「ほんとだね。これでジルの病気も治せるね」


「医者は王宮の中にいる。病人だといえばすぐに会わせてくれるだろう」


 先頭を進む隊長が言った。


「……あの隊長! ……やっぱり、地獄耳だよ。これだけ離れてるのにさ」


 カストルがぶつぶつとつぶやいた。

 しかしそんなカストルとは対称的に、アルスは清々しい気持ちでいっぱいだった。



 こうして長い砂漠を抜けて、ようやくダルウィンに着いたアルスたち。

 

 だが、ここでも予期せぬ出来事が待ち受けていようとは、この時は知る由もなかった――。


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