第63話 砂嵐の中で
【前回までのあらすじ】
ある日、ジルが体調を崩してしまう。
兵長の持つ薬でなんとかその場をしのいでいたが、ついに限界に達してしまう。
「ダルウィンに着けば立派な医者がいる」
一行は旅を再開するのだが、前方に砂嵐が発生し、足止めをくらうのだった。
すでに砂嵐の中に入っているのだろうか。
暴風に煽られ、砂が容赦無く顔にぶつかってきた。
砂に足を取られ、何度も転びそうになった。もはや1m先の景色さえも見えない。
アルスとリンははぐれないように手をつなぎ、一歩また一歩と前進した。
「このあたりでいいかな」
アルスは背中から杖を取り出した。
「いくよ、リン!…… “アイオールの守り”! 」
杖の先から風が生まれた。風で包まれた防御壁が円を描くように大きく広がり、アルスとリンの2人を包みこんだ。
「すごいわ。砂嵐がここだけ止んでるみたい」
リンは安心したのか、思い切り口元を出して、にっこり笑った。
「よし、このまま大きくするよ」
「私も力を貸すわね」
リンもトパーズのペンダントを握りしめ、歌い始めた。
【荒ぶる砂嵐から 我らを守りたまえ】
トパーズがまばゆく輝き、防御壁を内側から支えるようにバリアが発動した。
防御壁の範囲が直径10m、30mと拡大し、後ろにいる隊長やラクダたちも包み込んでいった。
隊長たちは風や砂がピタリと止んだことに気付き、「なんだこれは」「何が起こった」と騒ぎ始めた。
前方にアルスとリンの姿を確認すると、「あの2人がやったのか? 」と言いあった。
カストルはこっそりガッツポーズをした。
「アルス君、砂嵐が風に押されてだんだん消えていくわ」
「そのようだね……」
アルスは汗をぬぐった。目の前がくらくらと揺れている。
防御壁は直径100mほどの大きさになっており、予想以上に体力と気力を消耗していた。
これだけの大きな壁を保つには、かなりの持久力が必要になるようだ。
「大丈夫? アルス君……」
「うん、ありがとう。……もう少しだね」
「ええ。あと一息よ! 頑張りましょう」
「最後に防御壁を……風の壁を、一気に四方へ分散させる。
そうすれば風の勢いで砂嵐を消失させられると思うんだ」
「ええ、やりましょう。アルス君ならきっとできるわ! 」
「……ねえ、リン」
「なあに? 」
「どうして、リンは……。その、僕を助けてくれるの? 」
「……? そんなの、当たり前じゃない!
覚えてないかもしれないけど、アルス君は私を2回も助けてくれたのよ。ラインバルドと、セイガでね」
「もちろん、覚えてるよ」
「命を救ってくれた人が困ってるのに、放っておけるわけないでしょ。
アルス君が困ってるんなら、私が助けてあげなくちゃ」
ここでリンは少し間を置いた。
「……だから、私、アルス君と同じ “光の使者” に選ばれて、すごく嬉しかったの。
一緒に旅をすれば、アルス君を助けてあげることができるから。それに……」
「……それに?」
「……ううん、なんでもない! 早く砂嵐を消して、ダルウィンに行かなくちゃね」
「ああ、行こう。ダルウィンに! 」
アルスは最後の力を振り絞り、防御壁を大きくした。
「いくよ。リン。防御壁を分散させる! 」
「ええ! 」
アルスが杖を天に向けると、防御壁の風がバッと四方八方に分散し、砂嵐を散り散りに蹴散らした。
砂嵐が完全に消え去った。
清々しく晴れ渡る空と、どこまでも鮮明に見える景色がその答えだった。
「……やった……。砂嵐が、……消えた……」
アルスはその場に膝から崩れ落ちた。
安心した拍子に気が緩み、全身の力が一気に抜けてしまったようだ。
「やった!これで先に進めるわ。アルス君、お疲れ様! 」
「こちらこそ……。助けてくれてありがとう。リンが支えてくれないと、成功しなかったよ」
アルスは杖を背中にしまうと、リンに支えられながら立ち上がった。
「おい、おまえら」
隊長がこちらに歩み寄りながら、声をかけてきた。
「……はい」
「なんらかの方法で、砂嵐を消してくれたことには礼を言おう。
だが、このことはくれぐれもダルウィンでは内緒にしろ。
我々は何もしていないし、何も見ていない。……いいな? 」
「……どういう意味ですか? 」
「……さあ、もう出発するぞ。早く来い」
隊長は言葉を濁してそっけなく言うと、戻っていった。
入れ替わりで、カストルが小走りでやってきた。
「いやー!すごかったよお二人さん!さすが “光の使者” 様は違うね」
しかし2人の表情が曇っているのを見て、「……え、どうかした? 」と言った。
「隊長さん……様子がおかしかったのよ 」
「そりゃあ、アルスとリンの力がすごすぎて、言葉を失ったんだよ」
「そんなんじゃない気がする……」
アルスは戻っていく隊長の背中を眺めながら言った。
「『このことはくれぐれもダルウィンでは内緒にしろ』、って言われたんだ。
もちろん、僕も軽々しく言うつもりはないけど。
でも、ビーゴにも前に濁されたことがあったんだ。……一体どういうことだろう? 」
「うーん? ……ま、でも、気のせいかもよ。
それより、早く行こうよ。ダルウィンでジルをお医者さんに見せないといけないし」
「……そうだね。少しでも先を進もうか」
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