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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第62話 迫る砂嵐

【前回までのあらすじ】


アルスたちは砂漠の賢者・フェクダの家を訪ねた。

隊長が「ラオンダールからの客人を連れてきた」と言ったとたん、

急に態度を変え、「今すぐここを出ていけ」と怒鳴るフェクダ。

アルスはなんとか話をつけようと、2人で会話をするのだった。


 砂漠の賢者を訪ねてから3日後。

 この日の朝食を終えたあと、リンが深刻そうに話しかけてきた。


「アルス君。ちょっと来てくれる? ジルがね、すごくしんどそうなの……」


「えっ。ジルが? 」


 急いで駆けつけると、ジルはテントで横になっていた。


「ジル、大丈夫? 」


 ジルは目が充血し、明らかに体調が悪そうだった。


「ええ、大丈夫……。ちょっと疲れが出てきてしまったみたい。

でも、ダルウィンまであと少しですものね」


「そうだけど……。無理はしないで。もし途中で辛くなったら、リンや隊長に声をかけるんだよ。

僕たちも、前方にいてあげられたらいいんだけど……」


「そうだよ。あの隊長、“レディーファースト”とか言わなきゃいいのに……」


「ジル様、大丈夫ですか?多少なら薬がありますよ」


 話を聞きつけた兵長が、飲み薬を持ってきてくれた。

 陛下お抱えの凄腕(すごうで)の医者が調合したという薬だそうだ。


「寒気や微熱、吐き気など風邪の初期症状によく効く薬です。

ここは寒暖の差が激しいところですので、無理がたたったのでしょう」


「まあ。兵長さん……。どうもありがとうございます……」


 ジルは弱々しく微笑み、薬を受け取った。


「ジル、よかったね。その薬を飲めばきっと楽になれるよ。

でも、今まで気づいてあげられなくてごめんなさい。私が一番近くにいるのに……」


「大丈夫よ、リン。私も初めてのことだから、疲れが来てしまったのね」


 

 そんなこんなで旅を再開した一行だが、陽が高くなった昼頃、案の定ジルの容体(ようだい)が悪くなってきてしまった。

 ラクダに揺られながら右へ左へフラフラし、このままだと地面に真っ逆さまに落ちかねない状況だった。


「隊長さん! 一度ラクダを止めてくださらない? 」


 前方のリンが叫ぶ声が、後方のアルスたちにも聞こえた。


「どうしたんだろう? ジルの様子がおかしいんだろうか? 」


「僕たちも行こうよ、アルス」


 ラクダから降り、前方へ駆け寄ると、リンがジルの(ひたい)に手を当てているところだった。


「すごい熱! ジル、薬を飲んで。ちょっとは楽になるかもしれないわ」


 ジルが震える手で薬を取り出し、飲もうとしたが、瓶が手から(すべ)り落ちてしまった。

 高熱で意識が朦朧(もうろう)としているのか、呼吸すらも苦しそうだった。


「こりゃ大変だ。……ダルウィンに着けば立派な医者がいる。それまで辛抱できるか? 」


「はい、大丈夫です……」


 ジルは乾く喉を震わせながら、言葉を発した。リンは急いで手元の水を飲ませた。


「本当に大丈夫? 無理しないで。私がそばにいるからね」


 リンはそっとジルの手に手を重ねた。


「ええ。ありがとう、リン……」



 ジルの体調を気にしながら旅を再開し、陽が傾きかけた頃。

 突然、先頭の隊長が叫んだ。


「砂嵐だ! 」


「……えっ? 何? どうしたの? 」


 カストルが周りをキョロキョロしながら言った。そばにいたビーゴも足を止めた。


「前から砂嵐が来てる。ラクダを休ませて(しの)ぐぞ。

おまえたちも降りて手伝え! 」


 ビーゴに言われるままにラクダから降りると、前方に高い岩山のようなものが見えた。


「なんだあれ? 砂漠の真ん中に、岩山がある……? 」


 その岩山が大きな生き物のように、ものすごい速さでこちらに迫ってきていた。

 高さは数百m、横幅は数kmはあるだろうか。とてつもない規模の砂嵐だった。


「な……ななななっっ……何あれ!? こっちに来てるよ! 逃げないの? 」


「おい坊主。お前も叫んでないで手伝え!」

 

 隊長たちは手際(てぎわ)良くラクダを休ませていくと、ラクダに寄り添うように身をかがめ、上から布をまとい始めた。


「お前たちも来い。ここでやり過ごす。数時間は足止めだ」


「ええ!? そんなに? ジルの体調がよくないのに、数時間も待つなんて無理だよ……」


「あの中は立っているのも危険だ。

中は暴風が吹いているし、砂が容赦(ようしゃ)無くぶつかってくる。

隊長の言うとおりにしたほうがいい」


 ビーゴが冷静に言った。


「……わ、わかったよ……」


 ()むを得ずアルスたちも同じように布にくるまり、砂嵐をやり過ごすことになった。

 ややもするとだんだん視界がオレンジ色になり、向こう側に見えていた景色もぼんやりと(かす)み始めた。

 砂嵐がかなり接近してきているようだ。

 風も強まり、目もあけられないほどに砂が叩きつけてくる。

 ビーゴの言うとおり、立っているのも不可能なくらいだった。


「……ねえアルス、なんとかならない? 」


 隣にいたカストルが、なるべく口が砂に入らないように、布で口元を押さえながら小声で言った。


「……なんとかって? 」


「ほら、ガルトデウスで覚えたのがあるじゃん。

あれなら風の力で、砂嵐を吹き飛ばせるんじゃないかな? 」


「“アイオールの守り” で? ……でも、こんな大きな砂嵐、どうなるかわからないよ」


「だけど、ここで何時間も足止めを食らってる余裕もないよ?

……ジルの命がかかってるんだよ! 」


 確かに、ジルの容体(ようだい)は昼間から良くなることはなく、今もリンのそばでぐったりと横になっていた。

 この状況で数時間やり過ごすのは、さすがに厳しいものがあった。


「それもそうだね……。でも……」


「アルス君、私も援護(えんご)するわ! 」


 リンも(しび)れを切らしたのか、はっきり言った。


「早くダルウィンに着いて、ジルをお医者さんに見てもらわなきゃ! 」


「リン…….。よし、わかった! 一緒にいこう」


「ええ! 」 


 アルスとリンが立ち上がり、砂嵐の中に飛び込んでいった。


「おまえら、急にどうしたんだ !? すぐに戻れ! 」


 隊長が叫ぶ声が後ろから聞こえた。

 しかし、後戻りするつもりは毛頭(もうとう)なかった。

 ジルの命がかかっているのに、ここで立ち止まっている理由が見つからなかった。


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