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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第60話 砂漠

【前回までのあらすじ】


高山地帯にあるガルトデウスを出発したアルスたちは、砂漠を目指すのだった。

「あ……暑すぎない……?」



 カストルがぐったりしながら言った。


 アルスたちは今、360度を砂漠に囲まれた中を、ラクダに乗って進んでいた。

 雲1つない青い空から、太陽が容赦(ようしゃ)無く照りつけてくる。

 さらに足元の砂からも、熱気がこみ上げてきているからたまったもんじゃない。


「そうだね……。ここまで過酷だとは思わなかった…… 」


 アルスもカストルに同感だった。



 数日前、砂漠の入り口に到着したアルスたちは、オアシス国家ダルウィンへ戻るというキャラバン隊と合流し、同行させてもらうことになった。


 キャラバン隊はラクダ10頭を1列にして進み、それぞれの背中にたっぷりと荷物や食料を積んでいた。


 この隊を率いるガベリー隊長はおよそ50代の男性で、先頭に立って進んでいた。

 後ろには3人の若者が、それぞれ間隔をあけてラクダを率いていた。


 一面に広がる砂漠にしばし茫然(ぼうぜん)と立ち尽くしていたアルスたちに、「余ってるから」と、過酷な環境に対応した服も人数分分けてくれた。

 丈の長い白い服だが、風通しがよく、多少暑さを和らげてくれる代物(しろもの)だった。 

 同時に、日差しと砂避けを兼ねた布を顔にぐるぐると巻かれた。

 おかげで目元しか判別がつかなくなり、お互いに向き合ってケラケラと笑い合っていたら、隊長がズズイッと割って入った。

 

「ここから1週間ほどでダルウィンに着く」


 深いしわが刻まれている隊長が言葉少なに言った。

 しゃべり続けると砂が口に入り込むためか、自然と会話が必要最低限になるところがあるようだ。


「ここから先は砂漠で険しい道が続く。

水や食料は補給してあるから、気分が優れなくなったら遠慮(えんりょ)なく言え」


「ありがとうございます。足手まといにならないようにします」



 ……そんなこんなで砂漠を進み始めて1時間。温室育ちのカストルが早くも()を上げたわけだ。


「カストルくーん、隊長さんがこまめに水分を取れっていってるわー」


 一番前のラクダに乗っているリンが振り返り、隊長の言葉を伝えてくれた。

 リンとジルは“レディファースト”と称して、そそくさと先頭に連れて行かれ、アルスとカストルは最後尾に引き離されてしまったのだ。


「……あの隊長、どれだけ地獄耳(じごくみみ)なんだよ。これだけ離れてるのにさ」


 カストルがぶつぶつとつぶやいた。

 先頭から最後尾まで数十mは離れているので、カストルの弱った声が聞こえるとは相当なものだ。

 ちなみに最後尾には兵長が護衛(ごえい)も兼ねて乗っており、1つ前がカストルのラクダだ。


「それに、おかしすぎない?

リンとジルを自分の近くにはべらせて、僕たちは一番後ろへ行けって。

……もしリンたちに何かあった場合、誰が守ってやれると思う? ……僕たちでしょ? 」


 カストルが前のラクダに乗っているアルスにむかって愚痴(ぐち)をこぼした。

 

「まあ、隊長直々の判断なんだから、仕方ないじゃん……。

長年の経験を踏まえた上での判断なのかもしれないし」


「いや、絶対に違う。あれはただの女好きだ。むしろスケベジジイの域だ」


 普段はそこまで過激な言葉を使わないはずのカストルだが、暑さも拍車をかけてか次々と不満を(あら)わにした。


「あー。リンやジルと話すこともできないなんて……」


「休憩の時に話せるから大丈夫だよ」


「あーあ……。早くダルウィンにつかないかなあ……」


「1週間かかるって言ってたよね」


「むしろ隊長がいなくなってくれないかな……」


「みんなが困るから我慢しようよ」


 普段より不満の多いカストルの相手をするのは辛抱のいることだったが、アルスはなるべく気にかけないようにした。

 ただでさえ体力と気力を奪われる環境だけに、こういうところで力を消耗するのもおかしな話だ。

 第一、まだ砂漠を進んで1時間しか経っていないのに。


 そんな2人の近くでラクダを引いているのは、アルスたちと歳が変わらないくらいの少年だった。

 ビーゴという名のこの少年は、キャラバン隊に所属してまだ間もないという。

 他の国の人と直接会うのは始めてだそうで、出会った瞬間から好奇心旺盛な視線を投げかけてきていた。

 そのビーゴが、2人のやりとりを見かねてか、話しかけてきた。

 

「隊長は女好き。特に若い子。ダルウィンの女性は、生まれた時から許婚(いいなずけ)が決まってる。

だから、自由に恋愛できない。気安く会話もできない。

隊長はそれが嫌だから、この仕事に就いたみたい」


「うわ、最悪じゃん」カストルが即答した。


「でも、この仕事はダルウィンの中で一番大変。

賊や獣に襲われる時もある。病気にもなる。ラクダも弱って死ぬ。

隊長は、ずっと我慢してこの仕事を続けてる。

隊長のおかげで、ダルウィンは栄えてる。彼はすごい人だ」


「そっか。君がここにいるのも、隊長さんを尊敬してるからなんだね」


「うん……」


 少年は誇らしげな瞳で微笑んだ。

 アルスはこの調子だとカストルの愚痴を聞かずに済むと判断し、会話を続けた。


「ダルウィンってどんなところなの? 」


「大きなオアシスを囲むようにできた国。

それまで各地に散らばってた砂漠の民が、自然と集まって国になった。

僕たちは、ヤシの実やカゴ、織物を乗せて、いろんな国と交易をしてる。

幸い、他の国には珍しく映るみたい」


「へえ、そうなんだ。いいところだね。

ダルウィンには、王様みたいな人はいるの?」


「僕らのおじいさんの時代に、金持ちの商人が王様になった。

その一族が統治してる。でも……」


 そこで少年の顔が(くも)った。


「でも……? 」


「……ううん、なんでもない。

君たちはダルウィンに着いたら、すぐ次の場所へ移動するんだろ?

何もないところだけど、楽しんでくれよ」


 そこから少年は黙り込んでしまった。とたんに気まずい空気が流れた。

 その空気を一瞬で壊すように、カストルの愚痴が流れ込んできたのが、せめてもの救いだった。



 やがて夕方になり昼間とはうって変わって肌寒くなりだした。

 太陽と反対側の空には、うっすらと星が見え始めている。


「さ……さささ……寒すぎない? 」


 カストルが昼間とは真逆のことを言った。砂漠は昼夜で温度差が大きいのだ。

 一行は適当な場所を見つけて野宿する準備に入った。

 隊長たちはラクダを休ませ、人数分の食事を作り始めた。


 リンとジルが砂に足を取られながら2人のもとにやってきた。


「カストル君、大丈夫だった? 水分補給はできた? 」


「わー! リンとジルが無事なだけで僕は安心だよ……」


 カストルがへなへなと膝から崩れ落ちる。

 

「心配させてごめんね。リンとジルと離れてしまったもんだから、相当寂しかったみたいで……」


 アルスがカストルの心の声を代弁した。


「そうだったの……。私達はこの通り元気よ!

隊長さんも何度も振り返って気にかけて下さったし……」


「え!? 何を話したの?」


 カストルが“()せぬ”といった表情で見上げた。


「水はたっぷり飲みな、とか。今いくつなんだ、とか。

うしろの坊主とはどんな関係なんだ、とか……」


「あの隊長、そんな根掘り葉掘り聞いてくるわけ? 」


「ええ。こんな環境だから、こまめに会話をすることで、相手の体調の変化などに気付けるみたいなのよ」


「隊長さんの方こそ仕事も多くて大変そうなのに、気配りもできて、本当にすごい方です」


 ジルもにこやかに話した。


「あの隊長! 気分が悪くないか確認するふりして、レディに何でも聞いていいってもんじゃないよ! 」


「カストル君も明日最前列に乗ってみる? きっと隊長さんのすごさがわかると思うわ! 」


「あー!リンもジルも騙されてるんだよ!

隊長の魂胆(こんたん)はそうじゃないんだよ!

それに僕なんかきっとお払い箱だよ。

前方は“レディーファースト”なんでしょ? 」


「当たり前だこのガキ」


 いつの間にか背後に隊長が立っており、横目でカストルを睨み付けている(ように見えた)。

 カストルに戦慄(せんりつ)が走るのを、アルスは見逃さながった。


「お前が乗るラクダなんかそもそも用意しておらん。

わしの弟子たちでさえ、滅多にラクダに乗せたりはせん。

ここはそういうところだ」


 隊長はシュボッとタバコに火をつけ、フーッと空に向かって煙を吐いた。

 気づけば辺りは真っ暗で、星が(またた)いている。


「もうじき飯ができる。早く食って寝ろ。

さすがにお前も寝てるときくらいは静かなんだろ」


 隊長がみんなの方へ戻っていく。

 カストルは怒り爆発一歩手前といったところだったが、今日1日で予想以上に体力を消耗していたのか、噴火(ふんか)することはなかった。

 すかさずリンがフォローに入った。


「カストル君、隊長さんはあんなだけど、カストル君のことを一番心配していたのよ。

『下手すると皇帝陛下の雷が落ちるからな』って言って、無理をさせないように気を配っていたわ」


「そうだとしても僕は嫌だ! あと6日もあの隊長と一緒だなんて……」


「カストル、もうその辺にして、みんなの手伝いにいこうよ」


 アルスが無理矢理話を終わらせて、カストルを誘導(ゆうどう)した。



 この日の夕食は平たくのばしたパンと、ハーブの入ったお茶だった。

 簡易のテントを立ててくれたおかげで、多少の風はしのげた。

 隊長は先に食べ終えると、ラクダたちの様子を見にいった。


「ラクダたちも生き物だから、毎日調子がいいわけじゃないんだ。

隊長は自分のことよりも、ラクダたちのことを心配している。

ラクダがいないと、僕たちの仕事は成り立たないからね」


 ビーゴがパンを口に含みながら言った。


「僕も早くああなりたい。家族を安心させてあげたいんだ」


「ビーゴならきっとなれるよ。だってこんなにも隊長を尊敬してるんだもの。

ならない方がおかしいよ」


 アルスがすかさず言った。リンも隣でうんうん、とうなずいている。


「ははっ。ありがとう。君たちって、面白いことを言うんだね」


 ここで初めてビーゴが笑った。


「隊長、ねえ……」


 カストルがパンをかじりながらつぶやいた。



 夜は、男女でテントを別にして寝ることになった。

「彼女たちにも許嫁(いいなずけ)がいるんだろう? 」ということで、女性と同じテントで寝るのは彼らには御法度(ごはっと)らしかった。(おきて)を破ると重い刑罰が待っているらしい。

 それはアルスとカストルにも当てはまると言って聞かないので、代わりに兵たちが順に見張りをしてくれることになった。


 凍える寒さをしのぐため、売れ残りだという織物を何枚も貸してくれた。


 こうして、砂漠初日の夜は更けていった――。


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