第59話 思わぬ邂逅
【前回までのあらすじ】
真夜中、とある森で魔導師たちは会議を開いていた。
東の地に“光の使者”が現れたことが告げられ、魔導師たちは各々どうするかを議論するのだった。
当主会議が終わった後、No.5 ヴェレーノ一族当主、アマニータ・ヴェレーノは1人森の中に残っていた。
「ヒヒヒ……みんな帰ったようだねえ」
周りに誰もいないことを確認すると、木の裏にこっそり隠していたカゴを取り出した。
「この森にしか生えないという、希少な毒キノコ……。
さあて、今年もたっぷりいただいていきますかねえ! 」
会議の傍ら、毒キノコが生えていることに気づいたのは5年前のこと。
入手困難で幻の素材とうたわれていたキノコが、なぜかこの森にだけ大量に生えていたのだ。
それからというもの、毎年会議が終わったあとに、朝方まで採取に明け暮れていた。
このキノコは猛毒で治療法すら確立していない厄介な代物だったが、毒成分を何十倍にも希釈すると薬に使えることが明らかになってきていた。
代々毒を扱い、薬を調合してきたヴェレーノ一族にとって、なくてはならないキノコなのだ。
アマニータは慣れた手つきで、次々とカゴにキノコを放り込んでいく。
「ヒヒヒ……。今年は豊作だねえ……」
半時間ほど経過した時、誰かの気配がした。
「ヤバっ!誰か戻ってきたかしらね」
アマニータはとっさに巨木の後ろに身を潜めた。
わずかに様子を伺うと、切り株のある広場が斜め後ろに見える。
(忘れ物でも取りに来たのかしらね)
そのままやり過ごそうと思った矢先、突如身を突き刺すような悪寒と、ビリビリとまとわりつく緊張感で、体が硬直した。
(な、なんだいこれは……? 体が動かないよ……!? )
広場には、黒いローブ姿の何者かが立っていた。
会議に使っていた切り株の側に立っている。
(誰だあいつは……。あんなやつ会議にいたか……? )
「一足遅かったか」その何者かが言った。
「忌々《いまいま》しい魔導師ども。こんな森の中に、こそこそと集まりおって……」
直後、バキバキッと乾いた音を立てて切り株が崩れ落ちた。怒りのままに破壊されたのだろう。
激しい憤りが波のように伝わってきた。
(――ま、まさか、あいつは……!! )
もはや立っているだけでも精一杯だ。震えが止まらない。
早くここを去らないと……。
「そこに誰かいるのか!? 」
―― 見つかった!!
アマニータが逃げようとするよりも早く、周りの空気が数多の黒い手となり、巨木ごとアマニータを掴んだ。
「ヒャッ! 」
――なんだこの術は!? いくらもがいてもびくともしないよ!?
「ドクロのペンダント……。お前は、No.5のヴェレーノだな」
いつの間にか目の前に見知らぬ男が立っていた。
黒いローブを纏い、フードで顔を覆っている。
平静を装っているように見えて、ビシビシと殺気が溢れ出ている。
「これはこれは……!“王様” じゃないかい。どうしてここにいらっしゃるんで? 」
アマニータは気を強く保とうと努力した。でないと簡単に恐怖に飲み込まれてしまいそうだった。
束縛されていなかったら、足が震えて立つことすらできないだろう。
それくらい威圧感が凄まじかった。
「東のトナーク地方に住んでいるはずのおまえが、ここで何をしている? 」
王は静かに問うた。
「……わたしかい?……わたしゃ毒キノコを探しにきてたんだよ」
「こんな夜中にか?」
「夜にしか生えないんだよ! ……だからもういいだろう? 離しとくれよ。
家で娘たちが待ってるんだから」
「嘘も大概にしろ! おまえたちは、ここで先ほど当主会議をしていたはずだ。
……総勢8名。No.2〜9の、愚かな魔導師たちよ……」
「……それがなんだっていうのさ! 」
「あいかわらずコソコソしおって。一体何を話し合っていたのだ? 」
王はググッと顔を近づけてきた。赤く血走った両目がアマニータを捉えて離さない。
「さ、さあね! あなた様には関係ないことだよ! 」
アマニータはここぞとばかりに、フーッと息を吐いた。
“毒の霧”。毒に長ける一族の反撃だった。
通常であれば霧に包まれた相手は怯み、表皮の軽い麻痺でしばらく動けなくなる魔法だ。
その間に体勢を立て直し、さらなる攻撃を加える算段だった。
――しかし、今回は相手が悪すぎた。
「ほんの気休め程度の術だな」
王はニタリと笑うと、右手をグッと握り締めた。
アマニータを掴む黒い手にギリギリと力が加わり、ボキボキと嫌な音がした。
「ギヤアアアアア!! 」
巨木に亀裂が入り、上半分がナナメに傾きだしたのと、アマニータ自身の腕や肋骨も悲鳴をあげた。
「……わ、わたしを、……ど、どうするつもりだい? ……殺すのかい? 」
「私のもとにきてもらおう。おまえの毒の知識があれば、さらに強大な力を得られるだろう」
「ハン、ごめんだね! なんでわたしがおまえの力にならないといけないんだい!
……“魔導師の敵”であるおまえの力にね! いっそ死んだ方がマシだね! 」
「そうか……。残念だな…… 」
ここで王はローブからズルリと何かを取り出した。竜の紋章が入った黒い剣だった。
ためらいなくアマニータの首筋に当てる。ひんやりと冷たい刃先が食い込んでくる。
「ならば今すぐここで死んでもらおう。
おまえを殺したあと、次はヴェレーノ一族を全員殺しにいく。
そのあとは魔導師たちを順に……な。
だが、私の力になってくれるのなら、一族は生かしてやるし、他の魔導師たちにも手は出さない。
約束は守ってやろう」
「くっ……! おまえが約束を守るはずもない! 何度わたしたちを苦しめば気が済むのさ!
お前のせいで、今までに何人死んでいった? ……ラファルドをどこにやった? 」
「フッ……ハハハハハハハハ! 」
「何がおかしいんだい!? 」
「ああ、ラファルド……そんなやつらもいたなあ。
さすが“古代一族”。“神と直接契約した者”。
あんなに追いつめられたのは久しぶりだった……」
「な、……何を言ってるんだい? 」
「今頃、我が城の地下で骨と皮だけになっているだろうな。
もしかしたら、すでに死んでいるかもしれない。
なんせ10年も前のことだからな 」
「そ……そんな、馬鹿、な……」
アマニータは急に目の前が真っ暗になった。希望が、心の支えが、ガラガラと崩れ落ちていく気がした。
(ありえない。嘘に決まってる。ラファルド一族が死ぬわけない。
きっとどこかで生きているはずだ!
……ああ、でも、もしかしたら……、もう…………)
「さあ、どうする? お前も死んで一族も抹殺されるか。私の力になるか」
「……わかった……。おまえの力に、なろう……。
だから、わたしの一族は、殺さないでおくれ!他の魔導師たちもだよ!
苦しむのは……、わたし1人で十分だよ………… 」
「ふん、最初からそう言えばいいものを。
術を解いてやる。……来い!」
(……娘たち……。他の魔導師たちよ……。
わたしは大丈夫だから、どうか無事でいておくれ……。
いつか“光の使者”と出会えたら、こいつを倒しておくれ……!)
◇◇
翌朝。アマニータ・ヴェレーノ行方不明のニュースは、すぐに各当主に伝わった。
娘たちから「母がまだ帰宅しない」という連絡があったのだ。
近くに住むアルドール一族数人が、昨夜の森に駆けつけたところ、切り株が無残に破壊されており、付近にはキノコの入ったカゴとドクロのペンダントが落ちていたのだ。
「こ、これは……ヴェレーノのじゃ……。
まさか……。まさか、出会ってしまったのか……?あの王に……?
昨夜の嫌な予感は、このことだったのかもしれん……。
ああ、なんということじゃ……。どうか無事でいておくれ……」
遅れて到着した娘たちは、母のペンダントを受け取ると涙を流した。
皆アマニータと同じ紫色の髪をしている。
「このキノコ……。母さまったら、また欲深く採取していたのね……。
夜は危ないからって何度も言ったのに!」
「ママは絶対生きてるわ! だって毒を極めすぎるところがあるもの!
簡単に死ぬような人じゃないわ! 」
「母も母なら、娘も娘なんだね……」
No.4のエクレールが、娘たちの様子を見てぼそっとつぶやいた。
◇◇
悲しみと混乱が続く中、魔導師たちの中では“光の使者”に早く会わねば、という思いも高まってきていた。
もはや他の魔導師が襲われるのも時間の問題だろう。
――3日後、ついに“光の使者”に会いに行くメンバーが決定した。
選ばれたのは当主の子もしくは孫にあたる6人。10代〜30代の男女の若者たちだった。
「お前たちには、過酷な旅をさせることになるだろう。
“光の使者”を見つけることが目的じゃが、くれぐれも無理をしないようにな。
命の危険を感じたら、すぐに逃げるように。
途中までは、No.2 ヴァーテルの当主が先頭に立って引率しよう。
沖の向こうは海流が複雑化している上に、渦潮が巻いている。
水を操るヴァーテルがいると心強いじゃろうからな」
「おじいさま、それでは行ってまいります」
ギルアは祖父に駆け寄った。
「ああ、気をつけてな。行っておいで」
かくして、魔導師たちの“光の使者”を探す旅は始まった。
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