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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第8章 聖都ガルトデウス
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第57話 ホルンの帰還

【前回までのあらすじ】


アルスたちは姫巫女に別れを告げ、ガルトデウスを出立することに。

街の入り口には伝書鳩が来ており、近況を書き込む。

再び天空の賢者・アリオトの家に寄り、これから砂漠地帯に進むことを伝えるのだった。

 話は数週間前にさかのぼる。


 ガルトデウスでアルスたちに(やぶ)れたホルンは、城に戻り、壁をつたいながら広間へ向かっていた。

 “闇の使者”の拠点であるこの城は、年中真冬が居座り続けているかのように寒いところだった。

 広間へ続く通路は奥へ進むほどに冷気がこもっており、冷たい氷の手が足元から()い上がってくるような感覚に襲われた。

 ただでさえ負傷しているのに、この寒さは体力と気力を否応(いやおう)なしに削ぎ落としてきた。


 ホルンはだんだんと意識が朦朧(もうろう)とし、口からはヒューヒューと、か細い呼吸の音がした。

 白鷲しろわしの恐ろしい握力を持ってして握りしめられた首は、骨折寸前で、無事でいるのが不思議なくらいだった。


 ――なんたる不覚……。このあたしが負けるなんて……!


 ようやく広間にたどり着いた。

 広間の中心にある大きな円卓(えんたく)には、2人の姿があった。


「おや、誰かと思えば、ホルンではないですか」


 フレイが冷ややかに言った。


「その痛々しい傷はどうしたのです? まさか“光の使者”にやられたのではないでしょうね?

愚かな狼・フェンリルのように……クククッ」


「……ぐっ!途中まで、完ッ璧なショーだったのよ!

だけど予想外なやつに笛を壊されたの! あたしの命よりも大事な笛をね!

あーーーー!! 思い出しただけでイライラする! 」


「おやおや。あなたにしては珍しく取り乱していますねえ。

みているこちらからすると、愉快な喜劇をみているかのようだ」


「なんですって……? あたしは今、最ッ高に腹が立ってるのよ! 」


 ホルンは怒りにまかせてフレイの襟元(えりもと)をグッと(つか)んだ。

 しかしフレイは動じることなく、淡々と続けた。


「それ以上怒ると血圧が上昇して、さらに怪我が悪化しますよ。

今すぐこの手を離し、大人しく席に座るのが賢明な判断かと思いますがねえ? 」


「ああ!? こんなときに医者ぶってんじゃないわよ! 」


「だって本業なんですから仕方ないでしょう……。クククッ」


「……その辺にしたらどうだ。じきに陛下がお見えになられるぞ」


 もう1人が静かにたしなめた。


「……フン! 」


 ホルンは勢いよく手を離し、数席離れたところに座った。

 そのタイミングで、王の姿が現れた。隣に誰かを連れているようだ。

 みんなと同じように仮面と黒いローブを身につけている。


「皆の者、集まっておるようだな。……おや、ホルン。戻ったのか」


「は、はい、陛下……」


 ホルンはその場にひざまずいたが、体勢が崩れ、床に倒れこんだ。


 ――王の前だというのに、何たる失態(しったい)を……!?


 慌てて立ち上がろうとするが、依然(いぜん)として力は入らなかった。もはや体力の限界を迎えていた。

 王はというと、そんなホルンにはお構いなしで、(むしろ敗者には興味がないのか)話を続けた。


「その痛々しい傷。一体何があった? それよりも、“未来は”……。聞けたのだろうな? 」


「はい、陛下。……それが、やつらときたらデタラメな嘘をついたのですよ」


 そのとき、ホルンの周りに無数の黒い手が現れ、ホルンをギリギリと締め上げた。


「がっ……あああっ……!」


 ホルンの体はだんだん宙に浮いていった。


「……ホルン。我はおまえに、未来は聞けたのか? と聞いたのだぞ」


 周りの手がスッと消え、ホルンは重力に従って床に叩きつけられた。


 「キャアッ! 」


 足から着地した瞬間、何かが折れる音がした。

 他の2人は一部始終を固唾(かたず)を飲んで見守っていた。

 ホルンは力の限り上体(じょうたい)を起こし、痛みに顔を(ゆが)めつつも、平静を保とうとしながら言った。


「は、はい……。未来は、『光』であると……」


「それでまんまとやられて帰ってきたのか! 愚か者めが! 」


 突如、強い風が正面からホルンに当たり、吹き抜けていった。

 ホルンの髪が後ろになびく。


「……え? 」


 間髪入れずホルンの顔や手足に無数の切り傷が走り、床や壁に血潮(ちしお)が飛んだ。


「あっ……いやあああああ!! 」


 ホルンは顔を押さえ、床に()いつくばった。


 さらに、硬い鉱物で作られている円卓(えんたく)すらも真っ二つに割れ、音を立てながら崩れ落ちた。

 フレイたちも思わず立ち退()き、その場にひざまずき、頭を下げた。


 ……震えが、止まらなかった。


 おそるおそる視線を上げると、王の隣にいる者がホルンに右手を向けていた。

 王ではなく、こいつがやったのか?


「……さてフレイ。お前に預けたフェンリルだが、その後調子はどうだ? 」


 王は何事もなかったかのように話題を振った。王に呼ばれ、フレイはビクッとした。

 ホルンに与えられた罰の重さを()の当たりにし、この上ない恐怖に支配されていたところだった。


「……は、はい! フェンリルは“光の使者”に対し、激しい憎悪(ぞうお)復讐(ふくしゅう)の念に駆られております。

現在もその力を増幅させており、とどまるところを知りません。

きっと次こそ、“光の使者”の1人や2人、簡単に殺してみせるでしょう」


「ふふふ、そうか。楽しみだな。……さて、ホルンだが……」


 王は再びホルンに向き直った。ホルンは尚も床に伏せっていたが、もはや死を覚悟した。

 “光の使者”に負けた瞬間から。この広間に戻った時から。王が姿を表した時から。


 ――あたしも罰を受ける運命なのだと……。


 血がポタポタと床にしたたり落ち、そこに映る自分の顔は、どうあがこうと無駄であることを悟っていた。

 もはや王の一言一句が拷問(ごうもん)にしか思えなかった。

 しかし、王から発せられた言葉は、意外なものだった。


「……かわいそうに、お前は命よりも大事な笛を失ったようだな。

そこでぜひ試してほしい笛がある」


「えっ……? 」


 フェンリルの前例から、死刑かまたはそれに近い罰を覚悟していたホルンは、まさかの言葉に拍子抜けした。

 王がローブから取り出したのは、金色に輝く丸い形状をした笛だった。

 細い金属の管が何重にも円を描くように湾曲(わんきょく)し、音の出るベルの部分が大きく開けた形をしている。


「こ、これは……!? 」


 まばゆく輝くその笛は、まるで救世主のように映った。


「つい先ほど、フレイが完成させた笛だ。

今までの笛よりも倍以上の長さがあり、力が増幅されるようになっている。

金属製ゆえに多少のことでは壊れまい。大事に使いなさい。

この笛があれば、“光の使者”は手出しはできぬだろう」


「あっ……、ありがとう、ございます! 」


 ホルンは頭を下げた。そのまま意識を失い、バタリと倒れた。


「さて、我は行こう。……そうだ、“トール”。ホルンを地下の治療室へ運んでやれ。

何もせずとも自力で治癒(ちゆ)はするだろうが、ここにいるよりかはマシだろう」


「ハハッ! 」


 “トール”と呼ばれたフレイの隣に座る者は、顔を下げたまま即座に返事を返した。

 王と側にいる者がその場を去った。



「……ふ、ふふふ。命拾いしたようですね、ホルン」


 恐怖と威圧感と緊張から解放されて、フレイが言った。


「……王の側にいた者、さっきどのような力を? ……あれは、風か? 」


 トールが静かに問いかけた。ホルンを抱き起こし、肩に担ぐ。ホルンの血がじわじわとローブに染み込んでいく。


「さあ。そのうちわかるでしょう。

それとトール、あなたは真面目で従順(じゅうじゅん)な性格なんでしょうけど、一応気を付けた方が身のためですよ。

陛下の気まぐれに巻き込まれないとは限りませんからね」


「……忠告、誠に感謝する」


 フレイは自分の研究室へ戻っていった。

 トールもホルンを治療室へ運ぶためその場を離れようとし、もう一度真っ二つにされた円卓(えんたく)を見た。

 まるで鋭利(えいり)な刃物で肉を割いたかのように、断面は垂直に美しく割れていた。

 さらに先ほどは気づかなかったが、その下の床にも爪痕(つめあと)のような裂け目ができていた。


「……なんという力だ……。ただの風かと思いきや、硬度さえも関係なく切り裂いているのか……?

一体どういう仕組みなんだ……? 」


 見れば見るほどに謎は深まるばかりだ。

 トールはこれ以上見るのは止め、治療室へ向かうことにした。

 怪我人をいつまでも放置するのは気が引ける。


「いや、待てよ……」


 1つの察知がいった。


「あの者、まさか……! 」




 王は城の最上階にある部屋に戻っていた。

 大きく開けられた窓からは、月明かりが差し込んでおり、薄暗い室内をほのかに照らしていた。


「なんて素晴らしいんだ! 」


 王は息子を背後から強く抱きしめた。


「見たか! やつらの恐れ(おのの)き、震える姿を!

我が求めていたのはこれだ! 長年待った甲斐(かい)があったというものだ!

これは世界でお前だけが持つ力なのだ! 」


 王は正面に向き直り、息子と同じ目線に顔を合わせた。

 そして息子の仮面を外すと、月の色と同じシルバーの瞳が(あらわ)わになった。

 その目はどこかうつろで、王の言葉さえ届いているのかどうか定かではなかった。

 それでも、王は気にせずに続けた。

 

「お前は我の誇りだ……! これからも我の右腕として動いてもらうぞ!

我の願いを叶えるには、お前の力が必要なのだからな! 」


 王は息子をベッドまで連れて行き、横に寝かせた。

 

「さあ、今日はもう遅いから先に休みなさい。

まだ本調子ではないのだから、これ以上無理をしないことだ。

……我は残った仕事を片付けてくるが、終わり次第すぐに戻ろう」


 王は息子を残して、部屋を後にした。



 ――“闇の使者”が1人や2人失敗したところで、何ら問題はない。

 物事は計画通りに動いている。

 邪魔なものは……我の手で直接消せば済むのだから。



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