第56話 別れ
【前回までのあらすじ】
姫巫女に呼び出されたアルスたちは、この国に来た目的を話す。
宝石はこの国にはないが、風神の像はあるということで、新たな加護を得ることに成功する。
さらに姫巫女は、ジルが以前この国に来たことがあるということを伝えるのだった。
アルスたちは下の階に降り、兵長たちのいる広間に入った。
ここは主にラオンダール兵が休憩に使っており、皆リハビリで体力と感覚を取り戻したり、ガルトデウス兵と共に復興の作業をしたりしていた。
「アルス様! カストル様! 」
兵長が一番に声をかけてきた。
「姫巫女様とはお話ができましたか? 」
「はい、無事終わりました。ここには宝石はないみたいです。
でも他にもいろいろ聞けたので良かったです」
「そうでしたか……。では、明日予定通りここを発つとしましょう。
我々の動けぬ間、いろいろとご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。
このままでは、皇帝陛下にも顔を合わせられません……」
兵長をはじめ、周りにいた兵たちも急にどんよりと肩を落とした。
姫巫女やアルスたちを守るという使命を果たせなかったどころか、敵の攻撃を受けて瀕死の怪我を負ってしまったのだから。
さらに言えば、守るべき存在であるアルスたちが、率先して負傷者の救助や復興作業に回ったため、もはや兵士としての誇りもプライドもズタズタだった。
だからこそアルスはあわてて取り繕った。
「いえいえ、相手は“闇の使者”でしたので、敵う相手ではありませんでした。
もちろん、僕たちもまだまだ力不足です。……だから、決めたんです! 」
「……え? 」
「僕たち、毎日修行しようって! 」
カストルやリンが乗り出してきた。
「復興の手伝いをする傍らで、ここの兵たちにも教えてもらったんです。
まずは体力作りから。高山トレーニングをしたり、カストルは剣の基本を教えてもらったり……」
「そ、そうですか!それは素晴らしい。
ならば我々も、強くならねばなりませんね! 」
「兵長! その意気だよ!
僕たちが他と違うってことを見せつけてやろうよ! 」
「ええ、もちろんですとも。
励ましてくださりありがとうございます! 」
周りの兵たちも心なしか士気を高められたようだった。
◇◇
翌朝、アルスたちは姫巫女や従者、そして多くの兵に見送られた。
「本当に、ありがとうございました。
このご恩はいつか必ずお返しいたします。
また近くまで来られましたら、ぜひ顔を見せてくださいね」
「こちらこそ長い間お世話になりました!
みなさんどうかお元気で! ありがとうございました」
宮殿を離れ、街中を歩いていると、人々もこちらを向いて挨拶をしてくれた。
胸の前で両腕をクロスし、深くお辞儀をした。これはこの国独自のしきたりで、鷲の羽を持たぬ人間たちは、鷲のように両腕を広げてはいけないという決まりがあるのだという。
腕を広げていいのは、姫巫女が鷲を呼ぶときだけだそうだ。
「ありがとうございます」
「またきてねー」
「お元気でー」
たくさんの温かい声援に包まれながら街を出ると、馬と馬車がスタンバイされていた。
そこへ、「クルクルッポー! 」と、いつぞやの白い鳩がやってきた。
「おや、 伝書鳩がきましたね」
鳩は馬車の屋根に羽を休めた。足にはお決まりの紙がくくりつけられていた。
兵長は早速紙をほどいて読み上げた。
「なんと、数週間前の日付になっています。
ずっとこの場で我々を待ってくれていたのでしょう」
「早く読んでみて」
カストルが急かした。きっと2人の兄の状況を知りたいのだろう。
「まず、西ルートの分隊は広い草原を抜け、ようやく西の果てのルマグアートに到着。
国王は、以前陛下が会談をドタキャンしたことに、ひどく腹を立てておられる様子……。
挙げ句の果てにアルディス皇子を人質に取り、陛下の真摯な対応を求めているとのこと。
……やばいですね、これは」
「アルディス兄様が人質に!? 」 カストルが叫んだ。
「会談をドタキャン……。それって、もしかして僕のせいかも……」
アルスが青ざめて言った。
「え!? そうなの? どうして? 」
「僕が初めて皇帝陛下に謁見した時に、そういう話があったんだよ……。
ああ、なんてことだ……」
「アルス様。これは数週間も前の状況ですので、きっと今頃解決しているかもしれませんよ。
陛下のことですから、きっとうまく対処されているはずです。
続いて南ルートです。
長引いた大雨が収まり、ようやく水都ファランシスに到着。早速情報を集めることに。
しかし、雨で水位があがり、街は水浸しになってしまっているそうです」
「ベクレス兄様……。どうしてるかなあ」カストルがつぶやいた。
「最後に、北ルート。ようやく山越えのルートを見つけ、先に進んでいるそうです。
このあたりはまだ冬の名残が残っているようですね。
向こうはここよりも険しい霊峰を越えねばなりませんから、気をつけていただきたいものです」
「みんな、着々と進んでいるんだね」
「そうですね。さあ、我々も近況を報告しましょう」
兵長は紙の下の余白部分に「ガルトデウスに到着。敵襲に遭うも無事復興す。皆無事。砂漠へ向かう」と書き、鳩の足にくくりつけた。
鳩は再び「クルクルッポー! 」と鳴くと、バサバサと飛んでいった。
「さあ、いきましょうか」
◇◇
しばらく進むと、目の前に天空の賢者・アリオトの小屋が見えてきた。
馬車を前に止めると、待ってましたとばかりに、老人がドアを威勢よく開けて現れた。
「アルス様! 皆様! ご無事でなによりです」
「アリオトさん!」
アルスたちと兵長は来た時と同じように家に案内され、熱々のお茶を振る舞われた。
残りの兵たちは外で待機だ。
「アリオトさん、僕たち、姫巫女様をお守りできました!
街を破壊されてしまいましたが、復興もようやくひと段落つきました」
「なんと。そうかい、そうかい。
数日前から、街を出て行った者がみんな戻ってきおったんで、もしかしてと思いましての。
姫巫女様もご無事で……。ああ、本当に、よかったわいのう」
アリオトはほろりとでてきた涙を袖で拭った。
「本当に、ありがとうございました」
一息ついたところで、アルスはあの質問をした。
「あの、アリオトさん。アルモニスさんという方は、ご存知ですか? 」
「……アルモニス?」
「実は、ジルが探している人なんです。
記憶をなくしてしまったので、手がかりを探しているんですが……」
「なんと、それは気の毒にのう」
「何か、ご存知ではないですか? 」
「さあのう……。どこかで聞いたことがあるのかもしれんが、ううーむ……」
「ごめんなさい。私も、何か思い出せればいいんだけど……」
ジルも申し訳なさそうに言った。
「いやいや、力になれなくて済まないね。
して、これからどこにいく予定なんじゃい? 」
「はい。ここから来た道を戻り、南下してダルウィンを目指します」
兵長がハキハキと答えた。
「ダルウィンか……。砂漠のオアシス国家ダルウィンじゃな。
確かあの辺にも、わしの知り合いがおったわいなあ」
「アリオトさんの知り合い? その方も賢者なの? 」
「そうじゃそうじゃ。わしよりも頑固で気難しいが、根はいいやつなんじゃよ。
もし良ければ寄ってみなされ。
砂漠は、この辺りとはまた別の過酷な場所じゃから、くれぐれも気をつけてな」
「はい、ありがとうございます。アリオトさんもお元気で」
一行はもと来た道を戻り、1週間後、平地まで降りてくることができた。
「さあ、ダルウィンへ向けてまいりましょう」
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