第54話 復興へ向けて
【前回までのあらすじ】
アルスたちはガルトデウスの復興に協力したい、と姫巫女に申し出る。
会話の中で、姫巫女の抱く苦悩が明かされる。
さらに、白鷲様の正体も知らされるのだった。
4人が案内されたのは、下の階にある部屋だった。
ほのかにお香が漂っており、床には紋様の描かれた赤い絨毯が一面に敷かれていた。
まるで身も心も浄化されるような気分になった。
「他の部屋はほとんどが壊されていて、ここくらいしかありませんでした。
ご不便をおかけしますが、どうぞ好きに使ってください」
「ありがとうございます! 」
「気を遣わせてしまってすいません。そんな状況じゃないのに……。
僕たちもすぐに手伝えるようにしますので」
「まあ、ありがとうございます。
私はしばらく上で姫巫女様のそばにおりますので、何かあればお声がけください」
シアラが部屋を出ると、4人は改めてお互いの無事を喜びあった。
「よかったー!みんな無事で!
ホルンに勝てたし、姫巫女様も無事にお守りできたし、本当によかったあー」
カストルがへなへなと脱力気味に言った。
「本当にね。みんな怪我は大丈夫? 」
アルスはみんなの怪我の状態を確認しあった。
カストルは(自ら)壁に突撃していったダメージで顔や腕に擦り傷があるものの、至って大丈夫そうだ。
リンはトパーズの力を使って姫巫女様をお守りした影響で、少し疲弊している様子だが、幸いにも怪我はなかった。
ジルも少し混乱している様子だったが、その他は問題なさそうだった。
「アルス君も、大丈夫? 」リンが心配してアルスの手を取った。
「うん、僕は大丈夫だよ」
「そう、よかった」リンがにっこり微笑んだ。
「それにしても、手強かったよね……」
リンは緊張の糸が切れたのか、ふらっとその場に崩れ落ちた。
「リン!」
アルスがとっさにリンを支えたので、ことなきを得た。
「えへへ、ごめんね。今になって、足が震えてきて……」
ゆっくり立ち上がったリンの足は、確かにふるふると震えていた。
ホルンの前では強気で立ち向かったリンだが、実のところまだ戦闘経験も浅く、トパーズの力も発揮しきれていないのが現状だ。
内心は恐怖で黒く塗り潰されていたに違いない。
それは、アルスも同じことだった。
ホルンを前にして杖の攻撃を簡単に避けられ、ホルンの笛に対抗する術もなかった。
もしあの時、笛が破壊されていなかったら……?
杖の力はカストルに向けられ、カストルは大怪我を負うか、もしくは命を落としていたかもしれない。
(こんな時に、僕がしっかりしないといけないのに……。なのに僕ときたら……。
いや、今はそんなことを考えていても何も始まらない。前を向かないと何も進まないじゃないか)
アルスは湧いてくる思いをグッと堪えて、何事もないようにリンに微笑みかけた。
「あの時、リンがいないと僕たちは何もできなかった。
リンがいてくれたから、ホルンを倒すことができたんだよ。本当に、ありがとう」
「アルス君……」
リンはアルスが無理をしていることに気づいたが、精一杯気遣ってくれているので、気づかないふりをした。
続いてカストルも励ました。
「そうだよ! 本当に、僕たちだけでは何もできなかった。
リン、僕たちを、そしてシナト様を守ってくれてありがとう。
それと、ジルさんも! さっきは本当にありがとう!」
急に呼ばれて、ジルはビクッと振り返った。
「い、いいえ。わ、私なんて、大したことしてないし……」
「大したことしてるよ!
ジルさん、あの弓はどうしたの? もしかして、世界大会優勝者だったりします!? 」
カストルが興味津々に迫った。
「せ、世界大会……? いいえ、そんなことないわ。
さっき兵隊さんたちが吹き飛ばされたときに、弓矢が近くにとんできたの。
それを見た瞬間、体が勝手に動いて……」
「無意識だったんだね」
「でも、あのホルンの笛を狙うんだもの。そうとうの腕前だよね」
「ねー。きっとすごくうまいのよ! 」
ここで、ジルが意を決したように声を張り上げた。
「あの、皆さん! ここでいうのは変かもしれないけど、私のことは、これからは、ジルって呼んでください。
“ジルさん”だと、変に距離を感じてしまって……。
私、足手まといなのは重々承知しています。皆さんの任務の邪魔になっていることも……。
でも、皆さんの力になれるのなら、これからも同行させてほしいんです。
こんな私だけど、皆さんの役に立てることがあるのなら、どうか……、どうか、側にいさせてもらえませんか? 」
「もちろんだよ、ジル!思いを伝えてくれてありがとう」
「ええ、ジル。これからもよろしくね」リンもジルの手を取り、喜んだ。
「……で、これからどうするの?」
「やることはたくさんあるけど、まずは祈りの間の兵長たちを助けよう。
シナト様やシアラさんだけでは対応しきれないからね。
そうだ、リン。リンの歌の力で、傷を癒すことはできる?
兵たちが回復してくれれば、復興も早く達成できるかもしれないし」
「ええ、もちろんよ」
リンも腕まくりをして気合十分だ。
「戦いの後なのに苦労させてごめん。でも、今傷を癒せるのはリンだけだから……」
「私も手伝うわ」ジルが言った。
「私も消毒や包帯などは巻けるはず。リンとシアラさんをサポートするわ」
「ジル、ありがとう! すごく助かるよ。
僕とカストルは、傷の癒えた兵たちをここに運び入れよう。
祈りの間の兵たちが終わったら、今度はこの宮殿内部、そして外部に……」
「うひゃー! ほんとにやることがいっぱいだね」
「そりゃあ国が滅びかけたんだもの……。立て直すのは大変な仕事だよ」
その後アルスたちは祈りの間に向かい、(驚くシアラを説得し、)負傷した兵を介抱することにした。
兵長たちやガルトデウス兵は、皆気を失ったまま床に何十人と倒れている。
まずは骨折や大量出血など、重症の者から見ることにした。
リンは兵一人一人の片手を取り、優しい歌を歌った。
【この者に 安らぎと 癒しを 与えん…… 光で包み 苦しみを絶たん……】
トパーズのペンダントが光り、リンの手を通じて兵に光が流れ込んだ。
みるみる手足の傷口がふさがっていく。
シアラは驚きのあまり腰を抜かし、シナトも皆の反応から、何が起きているかを感じ取っているようだった。
ある程度傷が癒えると、続いてはアルスとカストルが即席の担架に乗せて、下の階まで運び、横に寝かせていった。
「……前から思ってたけど、リンの歌って独特な歌詞だよね」
リンが歌を歌うのをききながら、側に控えるカストルが静かに言った。
「独特な歌詞?」アルスが聞いた。
「そう。よくある歌にしては、意味深な内容だと思わない? 歌というより、詠唱に近いというか」
「……詠唱? 」アルスは聞き返した。
「そう、魔導師が唱えてたっていう、呪文のことだよ」
「……魔導師って? 」
「大昔に神様と契約して、不思議な力を得た人たちのことだよ。
魔法を使って神様の代わりに人々を導いてきた人なんだ。
残念ながら、今はもう存在しないみたいだけど」
「ふうん……」
「アルス君、カストル君! この人の傷が癒えたわ。足を骨折してるから、ゆっくり運んであげて」
「はーい」
「リン、大丈夫? ちょっと休憩する? 」
アルスはリンの顔に疲れが見えてきたのを気にして、声をかけた。
リンは額の汗をぬぐいながら言った。
「ありがとう、アルス君。でも、私はまだ大丈夫よ。負傷者は多いから、一段落ついてからにするわね」
「わかった。けど、無理はしないでね」
「うん、ありがとう」
その後数日に渡り、宮殿内の負傷者およそ500人をすべて介抱したあとは、街に降りて傷ついた動物たちを癒したり、丁重に葬ってあげたりした。
比較的軽症だった人は直に動けるようになり、アルスたちに感謝を伝え、協力してくれることになった。
その後は兵たちも快調に向かい、街の瓦礫を撤去したり、家々を修復したりした。
また、白鷲様の働きにより複数羽の鳥が各地に飛ばされ、国を飛び出した人たちを呼び戻してくれた。
やがて街に人が集まり、活気が戻りはじめた。
そんなこんなでめまぐるしい日が続き、ひと段落したのは数週間後だった。
ガルトデウス兵たちも軽傷の者は通常任務をこなせるようになり、兵長たちも軽い作業なら手伝えるようになった。
数日後、姫巫女のシナトから呼び出しがかかった。
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