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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第8章 聖都ガルトデウス
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第54話 復興へ向けて

【前回までのあらすじ】


アルスたちはガルトデウスの復興に協力したい、と姫巫女に申し出る。

会話の中で、姫巫女の抱く苦悩が明かされる。

さらに、白鷲様の正体も知らされるのだった。

 4人が案内されたのは、下の階にある部屋だった。

 ほのかにお香が(ただよ)っており、床には紋様の描かれた赤い絨毯(じゅうたん)が一面に敷かれていた。

 まるで身も心も浄化されるような気分になった。


「他の部屋はほとんどが壊されていて、ここくらいしかありませんでした。

ご不便をおかけしますが、どうぞ好きに使ってください」


「ありがとうございます! 」

「気を遣わせてしまってすいません。そんな状況じゃないのに……。

僕たちもすぐに手伝えるようにしますので」


「まあ、ありがとうございます。

私はしばらく上で姫巫女様のそばにおりますので、何かあればお声がけください」


 シアラが部屋を出ると、4人は改めてお互いの無事を喜びあった。


「よかったー!みんな無事で!

ホルンに勝てたし、姫巫女様も無事にお守りできたし、本当によかったあー」


 カストルがへなへなと脱力気味に言った。


「本当にね。みんな怪我は大丈夫? 」


 アルスはみんなの怪我の状態を確認しあった。

 カストルは(みずから)壁に突撃していったダメージで顔や腕に()り傷があるものの、至って大丈夫そうだ。

 リンはトパーズの力を使って姫巫女様をお守りした影響で、少し疲弊(ひへい)している様子だが、幸いにも怪我はなかった。

 ジルも少し混乱している様子だったが、その他は問題なさそうだった。


「アルス君も、大丈夫? 」リンが心配してアルスの手を取った。


「うん、僕は大丈夫だよ」


「そう、よかった」リンがにっこり微笑んだ。


「それにしても、手強かったよね……」


 リンは緊張の糸が切れたのか、ふらっとその場に崩れ落ちた。


「リン!」


 アルスがとっさにリンを支えたので、ことなきを得た。


「えへへ、ごめんね。今になって、足が震えてきて……」


 ゆっくり立ち上がったリンの足は、確かにふるふると震えていた。

 ホルンの前では強気で立ち向かったリンだが、実のところまだ戦闘経験も浅く、トパーズの力も発揮(はっき)しきれていないのが現状だ。

 内心は恐怖で黒く塗り(つぶ)されていたに違いない。


 それは、アルスも同じことだった。

 ホルンを前にして杖の攻撃を簡単に避けられ、ホルンの笛に対抗する術もなかった。

 もしあの時、笛が破壊されていなかったら……?

 杖の力はカストルに向けられ、カストルは大怪我を負うか、もしくは命を落としていたかもしれない。


 (こんな時に、僕がしっかりしないといけないのに……。なのに僕ときたら……。

 いや、今はそんなことを考えていても何も始まらない。前を向かないと何も進まないじゃないか)


 アルスは湧いてくる思いをグッと(こら)えて、何事もないようにリンに微笑みかけた。


「あの時、リンがいないと僕たちは何もできなかった。

リンがいてくれたから、ホルンを倒すことができたんだよ。本当に、ありがとう」


「アルス君……」


 リンはアルスが無理をしていることに気づいたが、精一杯気遣ってくれているので、気づかないふりをした。

 続いてカストルも励ました。


「そうだよ! 本当に、僕たちだけでは何もできなかった。

リン、僕たちを、そしてシナト様を守ってくれてありがとう。

それと、ジルさんも! さっきは本当にありがとう!」


 急に呼ばれて、ジルはビクッと振り返った。


「い、いいえ。わ、私なんて、大したことしてないし……」


「大したことしてるよ!

ジルさん、あの弓はどうしたの? もしかして、世界大会優勝者だったりします!? 」


 カストルが興味津々に迫った。


「せ、世界大会……? いいえ、そんなことないわ。

さっき兵隊さんたちが吹き飛ばされたときに、弓矢が近くにとんできたの。

それを見た瞬間、体が勝手に動いて……」


「無意識だったんだね」


「でも、あのホルンの笛を狙うんだもの。そうとうの腕前だよね」


「ねー。きっとすごくうまいのよ! 」


 ここで、ジルが意を決したように声を張り上げた。


「あの、皆さん! ここでいうのは変かもしれないけど、私のことは、これからは、ジルって呼んでください。

“ジルさん”だと、変に距離を感じてしまって……。


私、足手まといなのは重々承知しています。皆さんの任務の邪魔になっていることも……。

でも、皆さんの力になれるのなら、これからも同行させてほしいんです。

こんな私だけど、皆さんの役に立てることがあるのなら、どうか……、どうか、側にいさせてもらえませんか? 」


「もちろんだよ、ジル!思いを伝えてくれてありがとう」


「ええ、ジル。これからもよろしくね」リンもジルの手を取り、喜んだ。


「……で、これからどうするの?」


「やることはたくさんあるけど、まずは祈りの間の兵長たちを助けよう。

シナト様やシアラさんだけでは対応しきれないからね。


そうだ、リン。リンの歌の力で、傷を癒すことはできる?

兵たちが回復してくれれば、復興も早く達成できるかもしれないし」


「ええ、もちろんよ」


 リンも腕まくりをして気合十分だ。


「戦いの後なのに苦労させてごめん。でも、今傷を癒せるのはリンだけだから……」


「私も手伝うわ」ジルが言った。


「私も消毒や包帯などは巻けるはず。リンとシアラさんをサポートするわ」


「ジル、ありがとう! すごく助かるよ。

僕とカストルは、傷の癒えた兵たちをここに運び入れよう。

祈りの間の兵たちが終わったら、今度はこの宮殿内部、そして外部に……」


「うひゃー! ほんとにやることがいっぱいだね」


「そりゃあ国が滅びかけたんだもの……。立て直すのは大変な仕事だよ」



 その後アルスたちは祈りの間に向かい、(驚くシアラを説得し、)負傷した兵を介抱(かいほう)することにした。

 兵長たちやガルトデウス兵は、皆気を失ったまま床に何十人と倒れている。

 まずは骨折や大量出血など、重症の者から見ることにした。

 

 リンは兵一人一人の片手を取り、優しい歌を歌った。


【この者に 安らぎと 癒しを 与えん…… 光で包み 苦しみを絶たん……】


 トパーズのペンダントが光り、リンの手を通じて兵に光が流れ込んだ。

 みるみる手足の傷口がふさがっていく。

 シアラは驚きのあまり腰を抜かし、シナトも皆の反応から、何が起きているかを感じ取っているようだった。

 ある程度傷が癒えると、続いてはアルスとカストルが即席の担架(たんか)に乗せて、下の階まで運び、横に寝かせていった。


「……前から思ってたけど、リンの歌って独特な歌詞だよね」


 リンが歌を歌うのをききながら、側に控えるカストルが静かに言った。


「独特な歌詞?」アルスが聞いた。


「そう。よくある歌にしては、意味深な内容だと思わない? 歌というより、詠唱(えいしょう)に近いというか」


「……詠唱(えいしょう)? 」アルスは聞き返した。


「そう、魔導師(まどうし)が唱えてたっていう、呪文のことだよ」


「……魔導師(まどうし)って? 」


「大昔に神様と契約して、不思議な力を得た人たちのことだよ。

魔法を使って神様の代わりに人々を導いてきた人なんだ。

残念ながら、今はもう存在しないみたいだけど」


「ふうん……」


「アルス君、カストル君! この人の傷が癒えたわ。足を骨折してるから、ゆっくり運んであげて」


「はーい」


「リン、大丈夫? ちょっと休憩する? 」


 アルスはリンの顔に疲れが見えてきたのを気にして、声をかけた。

 リンは(ひたい)の汗をぬぐいながら言った。


「ありがとう、アルス君。でも、私はまだ大丈夫よ。負傷者は多いから、一段落ついてからにするわね」


「わかった。けど、無理はしないでね」


「うん、ありがとう」


 その後数日に渡り、宮殿内の負傷者およそ500人をすべて介抱したあとは、街に降りて傷ついた動物たちを癒したり、丁重に(ほうむ)ってあげたりした。

 比較的軽症だった人は(じき)に動けるようになり、アルスたちに感謝を伝え、協力してくれることになった。

 その後は兵たちも快調に向かい、街の瓦礫(がれき)撤去(てっきょ)したり、家々を修復したりした。


 また、白鷲しろわし様の働きにより複数羽の鳥が各地に飛ばされ、国を飛び出した人たちを呼び戻してくれた。

 やがて街に人が集まり、活気が戻りはじめた。


 そんなこんなでめまぐるしい日が続き、ひと段落したのは数週間後だった。

 ガルトデウス兵たちも軽傷の者は通常任務をこなせるようになり、兵長たちも軽い作業なら手伝えるようになった。



 数日後、姫巫女のシナトから呼び出しがかかった。


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