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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第8章 聖都ガルトデウス
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第49話 魔笛のホルン

【前回までのあらすじ】


宮殿では、大勢の兵が負傷していた。

姫巫女の命が危ない――。アルスたちは最上階にある祈りの間へ向かうのだった。

ちょうどその頃、祈りの間では姫巫女に危機が迫っていて……?

「チッ。こんなときに邪魔者がきたか」


 黒い者が不機嫌そうに振り返った。


「……あんたたちは? その格好からみるに、この国のやつじゃなさそうね♪」


 黒い者は長いローブをまとっており、顔仮面をつけ、音楽記号のような模様が入っていた。

 セイガで戦ったフェンリルと似たような姿をしている。

 口調と声から判断するに、どうやら女性のようだ。 


「我々はラオンダール兵だ。笛で罪のない動物たちを操り、街を襲わせていたのは、おまえか? 」


 兵長が叫んだ。


「ええ、そうよ。それがなにか? 」


 黒い者は悪びれた様子もなく答えた。

 アルスたちは壁際(かべぎわ)で震えている侍女を見つけ、介抱した。


「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」


 かわいそうに、ひどい目に遭ったに違いない。始終目を伏せてブルブルと震えている。


「姫巫女様を(おびや)かす者よ。今すぐそこから離れろ!

おとなしく従えば、痛い目には()わせない」


 兵長が静かに、しかし威厳を持って言った。黒い者は仕方ないといった様子で手を離した。

 姫巫女は舞台の上に崩れ落ち、かろうじて一命を取り留めた。


「姫巫女様を保護せよ」


 兵長の指示により、兵が2人姫巫女に近づいた。

 その瞬間を狙っていたのか、黒い者は横笛を取り出すと、「ヒュイ♪」と短く音を発した。

 たちまち2人の体がピタリと動かなくなった。


「か、体が……動か、ない……っ!? 」


「アハハハハハッ! あたしが素直に言うことを聞くと思った? 」


 さらに笛をひと吹きすると、兵たちは両側の壁に吸い寄せられるようにぶつけられた。


「ぐあっ」


「アハハハハ! なんていい声なの♪ もっと聞かせてちょうだいよぉ♪ 」


 黒い者は何度も何度も笛を吹き続けた。

 兵はその度に壁に叩きつけられ、しまいに意識を失い、ぐったりと動かなくなってしまった。

 身に付けていた金属製の(よろい)は硬い壁にぶつかることでへこみ、同時に壁にも亀裂が入っていった。

 笛の音が終わると、床にバタッと倒れて動かなくなった。

 その(さま)は、宮殿のいたる所に倒れている兵と相違(そうい)なかった。


「あら、もう終わり? ラオンダール兵も大したことないのね♪ 」


「貴様! 許さんぞ! 」


 兵長の指示により残りの兵たちが一斉(いっせい)に剣を構えて向かっていった。


「何人来ても無駄なんだってぇ♪ 」


 黒い者は再び笛を「ヒューイ♪」と吹いた。今度は兵長たちが剣を構えたまま、お互いに向き合った。


「互いに殺し合え♪ キャハハ♪ 」


「ヒューッ♪」と笛を吹くと、兵同士で斬り合いを始めた。


「ぐあああああ! 」

「やめてくれええええ!! 」

「兵長お逃げください! 体が勝手に……! 」

「わああああ!! 」


 剣が鎧で弾かれる音、肉に食い込む音、飛び散る血飛沫(ちしぶき)、激痛に襲われ、意識を失い、それでももなお斬り合いを続ける兵たち……。

 黒い者が笛を吹き続けている限り、この修羅場(しゅらば)は終わりを迎えないようだった。


「ひどい! ……なんてことを」


 アルスは立ち上がり、杖を取り出した。隣のカストルもすかさず剣を出した。

 黒い者の反応が即座に変わった。


「あら、その杖は! 」


 黒い者が笛を吹くのを止めた。兵たちはバタバタと床に倒れ、動かなくなった。

 流血がすさまじく、床に黒いシミを作っていく。まさに地獄のようだった。


「 もしかして、あんたが“光の使者”ってやつぅ? 」


「……それがなんだっていうんだ? お前は誰だ?」


 アルスは兵たちが気になって仕方がなかったが、話を続けることにした。


「あたし? あたしは“魔笛(まてき)のホルン”。

セイガではフェンリルが世話になったようだねぇ♪ 」


「……! やっぱり“闇の使者”か。姫巫女様をどうするつもりだ? 」


「あいつはもう用済みさ。未来を聞きにきたんだけど、とんだ無駄足(むだあし)だったよ。あとは殺すだけよ♪」


 アルスはとっさに杖を振り、光の矢を出した。ホルンはサッとかわした。


「おっと、“光の使者”様はずいぶん血の気が早いんだねぇ♪

そういうの、嫌いじゃないよ♪

それはそうと、“光の使者”は2人いるってきいたけど、もう1人はどこにいるのかしら? 」


 後ろにいるリンが動こうとしたとき、「僕だと言ったら? 」と、カストルが剣を構えて立ち向かった。


「カ、カストル!? 」


 アルスは驚いて目を見開いて首を横に振った。カストルはウインクしたが、顔は少し青ざめていた。


「へーえ、あんたかい♪」


 ホルンは「ヒュイ♪」と笛を吹いた。アルスとカストルの体がビタッと動かなくなる。


「しまった! 」

「体が動かない! 」


「悪いけど、そこでおとなしく見ていてくれる? 先にこいつを処刑するからさぁ♪ 」


 ホルンはケタケタ笑いながら、姫巫女に近づいた。

 姫巫女は何が起きているのか把握できていない様子だったが、恐怖を感じてか体を強張(こわば)らせていた。

 

「ほら、立てよ! 今から姫巫女サマの処刑を行いまぁーす♪ 」


 ホルンは姫巫女の長い黒髪をグッと(つか)み、強引に起き上がらせた。


「キャ! 」


「何をする! やめろ! 」


 アルスは慌てて駆け寄ろうとしたが、体が自由に動かない。

 手足に力を込めても、蝋人形(ろうにんぎょう)のように固まり、全く言うことを聞かなかった。


「アルス君! カストル君! 」


 リンが急いで近づいてきた。


「リン! 」


「カストル君の馬鹿! なんであんなこと言うのよ! もしものことがあったらどうするの!? 」


 リンは目にうっすらと涙を浮かべていた。


「えへへ……、ごめん。リンに痛い目に合ってほしくないからさ……」


「冗談言ってる場合じゃないでしょう! 」


 リンはすかさず胸の前で手を組み、祈りのポーズをとった。


【お願い どうか 動けるように なってください】


 リンの美しい歌声が響き渡る。


「なんだこの歌は!? 」ホルンが叫んだ。


 ガラスがパリンと割れるような音がして、アルスたちの体が少しずつ動き始めた。


「体が動くぞ! ありがとう、リン!」

「いくぞアルス! 姫巫女様を助けるんだ! 」


「もう遅いんだよおおお! 」


 ホルンは思い切り姫巫女の背中をドンッと()った。

 姫巫女は舞台の(ふち)から、深い谷へと真っ逆さまに落とされてしまった。


「キャアアアーー!! 」


「「姫巫女様ああ!! 」」


 その場にいた全員が声を揃えて叫んだ。

 空を旋回(せんかい)していた鷲が、ギューンと急降下していくのが見える。


「アハハハハハハ!! なんて素敵なショーなの!

私の人生でトップ3に入る名場面よおお! 」


「なんてことを! 」


 アルスたちは慌てて駆け出したが、ホルンが行く手を(さえぎ)った。


「さて、次はおまえたちだ。生きて返しはしないよ、“光の使者”様♪

あたしの邪魔をした罰と、フェンリルに深い傷を負わせた罰……。

この上ない苦しみを与えてやるからねぇ♪ 」


 ホルンが笛を手にして迫る。


「さあ、殺し合え!苦しみもがけ! そして谷に落ちるがいい! 」


 ホルンが笛に口をつけようとした瞬間、



 ――ザシュッ



 何かを切り裂くような音と共に、ホルンが前のめりに倒れた。

 あまりに一瞬のことだったので、アルスは何が起こったのかわからなかった。


「……!? だっ誰だ!」


 ホルンが息を乱して振り返ると、何かが勢いよく飛び上がり、舞台にシュタッと着地した。

 白い大柄の人物と、その人に抱かれるように、姫巫女の姿もみえた。


「姫巫女様!」

「ご無事だったんですね! 」


 アルスたちは歓喜(かんき)の声を上げた。


 姫巫女を抱いていたのは、背丈(せたけ)2mはある大男だった。

 屈強(くっきょう)な肉体をしているが、手や腹部には白い羽が薄く生えている。

 両足にするどい鉤爪(かぎづめ)のついた金色のブーツを履いている。

 顔は長い前髪(くちばしのように前方に反っており、顔をスッポリ覆っている)で全く見えない。


「なぜおまえがここにいる? 谷底へ落としたんだ! ()い上がるのは不可能なはず!

それにそいつは誰だ? 」


 ホルンが怒りをほとばしらせながら言った。

 姫巫女は舞台の上に優しく下ろされると、屈託(くったく)のない笑顔で答えた。



「こちらは、白鷲しろわし様です。私を助けてくださいました」


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