第49話 魔笛のホルン
【前回までのあらすじ】
宮殿では、大勢の兵が負傷していた。
姫巫女の命が危ない――。アルスたちは最上階にある祈りの間へ向かうのだった。
ちょうどその頃、祈りの間では姫巫女に危機が迫っていて……?
「チッ。こんなときに邪魔者がきたか」
黒い者が不機嫌そうに振り返った。
「……あんたたちは? その格好からみるに、この国のやつじゃなさそうね♪」
黒い者は長いローブをまとっており、顔仮面をつけ、音楽記号のような模様が入っていた。
セイガで戦ったフェンリルと似たような姿をしている。
口調と声から判断するに、どうやら女性のようだ。
「我々はラオンダール兵だ。笛で罪のない動物たちを操り、街を襲わせていたのは、おまえか? 」
兵長が叫んだ。
「ええ、そうよ。それがなにか? 」
黒い者は悪びれた様子もなく答えた。
アルスたちは壁際で震えている侍女を見つけ、介抱した。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
かわいそうに、ひどい目に遭ったに違いない。始終目を伏せてブルブルと震えている。
「姫巫女様を脅かす者よ。今すぐそこから離れろ!
おとなしく従えば、痛い目には遭わせない」
兵長が静かに、しかし威厳を持って言った。黒い者は仕方ないといった様子で手を離した。
姫巫女は舞台の上に崩れ落ち、かろうじて一命を取り留めた。
「姫巫女様を保護せよ」
兵長の指示により、兵が2人姫巫女に近づいた。
その瞬間を狙っていたのか、黒い者は横笛を取り出すと、「ヒュイ♪」と短く音を発した。
たちまち2人の体がピタリと動かなくなった。
「か、体が……動か、ない……っ!? 」
「アハハハハハッ! あたしが素直に言うことを聞くと思った? 」
さらに笛をひと吹きすると、兵たちは両側の壁に吸い寄せられるようにぶつけられた。
「ぐあっ」
「アハハハハ! なんていい声なの♪ もっと聞かせてちょうだいよぉ♪ 」
黒い者は何度も何度も笛を吹き続けた。
兵はその度に壁に叩きつけられ、しまいに意識を失い、ぐったりと動かなくなってしまった。
身に付けていた金属製の鎧は硬い壁にぶつかることでへこみ、同時に壁にも亀裂が入っていった。
笛の音が終わると、床にバタッと倒れて動かなくなった。
その様は、宮殿のいたる所に倒れている兵と相違なかった。
「あら、もう終わり? ラオンダール兵も大したことないのね♪ 」
「貴様! 許さんぞ! 」
兵長の指示により残りの兵たちが一斉に剣を構えて向かっていった。
「何人来ても無駄なんだってぇ♪ 」
黒い者は再び笛を「ヒューイ♪」と吹いた。今度は兵長たちが剣を構えたまま、お互いに向き合った。
「互いに殺し合え♪ キャハハ♪ 」
「ヒューッ♪」と笛を吹くと、兵同士で斬り合いを始めた。
「ぐあああああ! 」
「やめてくれええええ!! 」
「兵長お逃げください! 体が勝手に……! 」
「わああああ!! 」
剣が鎧で弾かれる音、肉に食い込む音、飛び散る血飛沫、激痛に襲われ、意識を失い、それでももなお斬り合いを続ける兵たち……。
黒い者が笛を吹き続けている限り、この修羅場は終わりを迎えないようだった。
「ひどい! ……なんてことを」
アルスは立ち上がり、杖を取り出した。隣のカストルもすかさず剣を出した。
黒い者の反応が即座に変わった。
「あら、その杖は! 」
黒い者が笛を吹くのを止めた。兵たちはバタバタと床に倒れ、動かなくなった。
流血がすさまじく、床に黒いシミを作っていく。まさに地獄のようだった。
「 もしかして、あんたが“光の使者”ってやつぅ? 」
「……それがなんだっていうんだ? お前は誰だ?」
アルスは兵たちが気になって仕方がなかったが、話を続けることにした。
「あたし? あたしは“魔笛のホルン”。
セイガではフェンリルが世話になったようだねぇ♪ 」
「……! やっぱり“闇の使者”か。姫巫女様をどうするつもりだ? 」
「あいつはもう用済みさ。未来を聞きにきたんだけど、とんだ無駄足だったよ。あとは殺すだけよ♪」
アルスはとっさに杖を振り、光の矢を出した。ホルンはサッとかわした。
「おっと、“光の使者”様はずいぶん血の気が早いんだねぇ♪
そういうの、嫌いじゃないよ♪
それはそうと、“光の使者”は2人いるってきいたけど、もう1人はどこにいるのかしら? 」
後ろにいるリンが動こうとしたとき、「僕だと言ったら? 」と、カストルが剣を構えて立ち向かった。
「カ、カストル!? 」
アルスは驚いて目を見開いて首を横に振った。カストルはウインクしたが、顔は少し青ざめていた。
「へーえ、あんたかい♪」
ホルンは「ヒュイ♪」と笛を吹いた。アルスとカストルの体がビタッと動かなくなる。
「しまった! 」
「体が動かない! 」
「悪いけど、そこでおとなしく見ていてくれる? 先にこいつを処刑するからさぁ♪ 」
ホルンはケタケタ笑いながら、姫巫女に近づいた。
姫巫女は何が起きているのか把握できていない様子だったが、恐怖を感じてか体を強張らせていた。
「ほら、立てよ! 今から姫巫女サマの処刑を行いまぁーす♪ 」
ホルンは姫巫女の長い黒髪をグッと掴み、強引に起き上がらせた。
「キャ! 」
「何をする! やめろ! 」
アルスは慌てて駆け寄ろうとしたが、体が自由に動かない。
手足に力を込めても、蝋人形のように固まり、全く言うことを聞かなかった。
「アルス君! カストル君! 」
リンが急いで近づいてきた。
「リン! 」
「カストル君の馬鹿! なんであんなこと言うのよ! もしものことがあったらどうするの!? 」
リンは目にうっすらと涙を浮かべていた。
「えへへ……、ごめん。リンに痛い目に合ってほしくないからさ……」
「冗談言ってる場合じゃないでしょう! 」
リンはすかさず胸の前で手を組み、祈りのポーズをとった。
【お願い どうか 動けるように なってください】
リンの美しい歌声が響き渡る。
「なんだこの歌は!? 」ホルンが叫んだ。
ガラスがパリンと割れるような音がして、アルスたちの体が少しずつ動き始めた。
「体が動くぞ! ありがとう、リン!」
「いくぞアルス! 姫巫女様を助けるんだ! 」
「もう遅いんだよおおお! 」
ホルンは思い切り姫巫女の背中をドンッと蹴った。
姫巫女は舞台の縁から、深い谷へと真っ逆さまに落とされてしまった。
「キャアアアーー!! 」
「「姫巫女様ああ!! 」」
その場にいた全員が声を揃えて叫んだ。
空を旋回していた鷲が、ギューンと急降下していくのが見える。
「アハハハハハハ!! なんて素敵なショーなの!
私の人生でトップ3に入る名場面よおお! 」
「なんてことを! 」
アルスたちは慌てて駆け出したが、ホルンが行く手を遮った。
「さて、次はおまえたちだ。生きて返しはしないよ、“光の使者”様♪
あたしの邪魔をした罰と、フェンリルに深い傷を負わせた罰……。
この上ない苦しみを与えてやるからねぇ♪ 」
ホルンが笛を手にして迫る。
「さあ、殺し合え!苦しみもがけ! そして谷に落ちるがいい! 」
ホルンが笛に口をつけようとした瞬間、
――ザシュッ
何かを切り裂くような音と共に、ホルンが前のめりに倒れた。
あまりに一瞬のことだったので、アルスは何が起こったのかわからなかった。
「……!? だっ誰だ!」
ホルンが息を乱して振り返ると、何かが勢いよく飛び上がり、舞台にシュタッと着地した。
白い大柄の人物と、その人に抱かれるように、姫巫女の姿もみえた。
「姫巫女様!」
「ご無事だったんですね! 」
アルスたちは歓喜の声を上げた。
姫巫女を抱いていたのは、背丈2mはある大男だった。
屈強な肉体をしているが、手や腹部には白い羽が薄く生えている。
両足にするどい鉤爪のついた金色のブーツを履いている。
顔は長い前髪(くちばしのように前方に反っており、顔をスッポリ覆っている)で全く見えない。
「なぜおまえがここにいる? 谷底へ落としたんだ! 這い上がるのは不可能なはず!
それにそいつは誰だ? 」
ホルンが怒りをほとばしらせながら言った。
姫巫女は舞台の上に優しく下ろされると、屈託のない笑顔で答えた。
「こちらは、白鷲様です。私を助けてくださいました」
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