第47話 荒廃した街
【前回までのあらすじ】
高山地帯の登山道を進むアルスたちは、ある日天空の賢者・アリオトの家を訪ねる。
出された茶を飲みながら、ガルトデウスへ向かうことを告げると、
「今行くのは、やめておきなさい」と忠告される。
なんと数日前、街の人が大勢逃げてきていたのだという。
果たしてガルトデウスでは何が起きているのか――?
ガルトデウスは標高3000mの山岳地帯にある国だ。
周りには、山頂に雪をいただいた標高6000m級の山々が取り囲んでおり、まるで自然の砦のようになっていた。
標高が高いゆえに空が近く感じられ、雲1つない青空には太陽が眩く輝いている。
空気が薄いため、この国を訪れた人の中には、高山病にかかったり、急な運動で胸の苦しみを訴える人が多いという。
首都のニーダラヤはこの国の古い言葉で“巣”を意味し、人口の80%がここに集中していた。
民家は石造りの家が多く、壁は白く塗られ、入り口には魔除の紋様を赤や黄色で描いていた。
風の神の使いである白い鷲をモチーフにしているのか、鷲の羽やするどい目元をペイントしている家もあった。
山の斜面を活かして段々畑にして作物を育てていたり、水路を設けたりしている家庭も見られた。
市場には色とりどりの季節の野菜や果物が並び、生活に必要な日用品もここで揃えられた。
首都の中心には小高い山の上に立てた立派な宮殿があり、ここに姫巫女が住んでいた。
姫巫女は風の神の使いである白い鷲と会話ができ、この国の未来を予言することができるという。
アルスたちは、この姫巫女に出会い、宝石のありか、ジルの記憶の手がかり、そして未来の予言を伺うために、ガルトデウスにやってきたのだ。
しかし……。
街の入り口に立ったアルスたちの目の前には、悲惨な光景が広がっていた。
あちこちから煙がたちのぼり、家の石垣や窓が見事に破壊され、人の姿はどこにも見あたらなかった。
人々で賑わっていたであろう市場や商店も荒れ果てており、作物は食い荒らされた跡があった。
火災が発生していたのか、真っ黒に焼けた家がそこかしこにあった。
まるで街全体から人という人が突然姿を消し、生活の温もりを残したまま荒廃してしまったかのようだった。不気味、という言葉がとてもしっくりきた。
「ひどい……。なんなの、これ? 」
リンがショックを受けて、呆然と立ち尽くした。
アルスも、カストルも、ジルも、思わず言葉を失ってしまった。
――何か良からぬ者が現れたというではないか。その者が笛のようなものを吹くと、たちまち牛や犬が暴れ出し、襲い掛かってきたというではないか。
天空の賢者・アリオトの言葉が思い起こされた。
「リン様、危ないのでこちらへ。皆様も、くれぐれも離れぬように」
兵長の指示により、アルスたちは兵に囲まれながら、ゆっくりと歩みを進めた。
街の中ほどに来た頃、路地から牛の鳴き声が聞こえてきた。
真っ先に反応したのは兵たちだった。
アルスたちの護衛を強化しつつ、恐る恐る近づくと、牛が地面に伏してグッタリしていた。
周りにはカラスや犬、ねこなどの姿が何匹も見られた。
節々から血を流し、足がおかしな方向に曲がり、翼を負傷し、どれも地面で動かなくなっていた。
「これが、急に暴れ出したという動物たち?」カストルが言った。
「こんなにいっぱい? なんてかわいそうなの……」リンも言葉を詰まらせた。
「笛の音で不本意に操られていたんだろう。
数日間も暴れさせられていたから、体力が先に悲鳴をあげたんだろう。本当に、ひどいことをするよ」
アルスも思わず目を背けた。
「かわいそうに……」ジルも哀れんでいた。
「どうしてこんなことをするの? 何の罪もない動物たちなのに……」
リンが声を絞り出すように言った。
「これが本当に“闇の使者”のしわざだとしたら、彼らは目的のためなら手段を選ばないようだ」
アルスが言った。
「非常に冷酷で、残忍なやつらだってことだよ」
しばらく進むと、中心部の高い山の上に、豪華な宮殿が見えてきた。
山の斜面や崖を利用して階段が設けられており、荘厳な雰囲気を放っていた。
壁は全面が白く、屋根には金色の装飾がなされていた。
「あそこが宮殿です。この国で一番神聖な場所で、姫巫女様がいらっしゃるところです」
兵長が言った。
「すごい……。どうやってあんな山の上に建てたんだろう? 」
カストルが圧倒されながら言った。
◇◇
宮殿のふもとの広場にも、動物たちの姿が見えた。
と、白い服を着た老婆の姿が見えた。動物たちの前にしゃがみ込むと、花を手向けているようだった。
兵長が声をかけると、老婆は驚いたように目を見開いて立ちあがった。
この国の挨拶だろうか、両腕を胸の前でクロスし、ゆっくりお辞儀をした。
「あなた様方は、どちらから来なすったんで?」
「我々は、ラオンダールからきました。姫巫女様に用事があったのですが。
しかし、街はこのありさま。……一体、何があったのですか? 」
老婆は眉間にしわを寄せ、険しい顔つきになった。
心なしか、目に悲しみの光が宿っている。おそらくとんでもない地獄を見てきたに違いない。
アルスは老婆の心中を察し、胸が痛くなった。
「数日前、突如見知らぬ者がこの広場に現れて、姫巫女様を差し出せというたんじゃ。
そんなバチあたりなこと、できるはずもない。
わしらのような一般人でさえ、一生に一度お目にかかれるかどうかじゃて。
ここを守る兵たちが必死に抵抗すると、笛を吹きよった。
その音色を耳にするやいなや、突如牛や犬、鳥たちが襲いかかってきたんじゃ。
笛の音に操られてしもうたが最後、理性を失い、主人の顔すら分からず、手当たり次第に物を壊し、人々に襲い掛かってきた。
あるものは壁に頭をぶつけ、あるものは翼に怪我を負い、二度と飛べなくなった。
街の者は恐れおののいて、国を出て行ってしまった。
わしは足が悪いから、そんなことはできん。
こうして隠れるように残っている。わしだけじゃない、他にも何人か残っている。
残されたわしらにできることは、哀れなこの子たちを弔ってやることだけじゃ。
しかし、もうどうしようもない。笛を吹いた者は、宮殿へ行きよった。
白い服を着るわしらとは違って、黒い服を着とった。
仮面をつけとったから、顔なんてわかりゃせんわい。
もしかしたら、姫巫女様は、もう……」
老婆は地面に崩れ落ち、泣き出した。リンは老婆の背中を優しくなでた。
アルスは、ふつふつと怒りが湧き上がってきた。
「なんてひどいことをするんだ。これが、人間のすることか!
おばあさん、僕たちが確かめてきます。その悪いやつを倒してきます」
「そうですよ。こんなの許されない! 僕たちにまかせてください」カストルも続いた。
「そうかい、そうかい。くれぐれも、気をつけなさいよ。
あやつは只者ではなさそうじゃ。何をしてくるか、想像もつかんて。
どうかあなた様方に、“シロワシ様”の加護がありますように」
老婆と別れたあと、一同は宮殿を目指した。
姫巫女様の保護と、この街を混乱と絶望に陥れた者を倒すために――。
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