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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第8章 聖都ガルトデウス
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第47話 荒廃した街

【前回までのあらすじ】


高山地帯の登山道を進むアルスたちは、ある日天空の賢者・アリオトの家を訪ねる。

出された茶を飲みながら、ガルトデウスへ向かうことを告げると、

「今行くのは、やめておきなさい」と忠告される。

なんと数日前、街の人が大勢逃げてきていたのだという。

果たしてガルトデウスでは何が起きているのか――?

 ガルトデウスは標高3000mの山岳地帯にある国だ。

 周りには、山頂に雪をいただいた標高6000m級の山々が取り囲んでおり、まるで自然の(とりで)のようになっていた。

 標高が高いゆえに空が近く感じられ、雲1つない青空には太陽が(まばゆ)く輝いている。

 空気が薄いため、この国を訪れた人の中には、高山病にかかったり、急な運動で胸の苦しみを訴える人が多いという。



 首都のニーダラヤはこの国の古い言葉で“巣”を意味し、人口の80%がここに集中していた。

 民家は石造りの家が多く、壁は白く塗られ、入り口には魔除(まよけ)の紋様を赤や黄色で描いていた。

 風の神の使いである白い鷲をモチーフにしているのか、鷲の羽やするどい目元をペイントしている家もあった。

 山の斜面を活かして段々畑にして作物を育てていたり、水路を設けたりしている家庭も見られた。

 市場には色とりどりの季節の野菜や果物が並び、生活に必要な日用品もここで揃えられた。


 首都の中心には小高い山の上に立てた立派な宮殿があり、ここに姫巫女が住んでいた。

 姫巫女は風の神の使いである白い鷲と会話ができ、この国の未来を予言することができるという。


 アルスたちは、この姫巫女に出会い、宝石のありか、ジルの記憶の手がかり、そして未来の予言を伺うために、ガルトデウスにやってきたのだ。

 

 しかし……。



 街の入り口に立ったアルスたちの目の前には、悲惨(ひさん)な光景が広がっていた。


 あちこちから煙がたちのぼり、家の石垣や窓が見事に破壊され、人の姿はどこにも見あたらなかった。

 人々で(にぎ)わっていたであろう市場や商店も荒れ果てており、作物は食い荒らされた跡があった。

 火災が発生していたのか、真っ黒に焼けた家がそこかしこにあった。

 まるで街全体から人という人が突然姿を消し、生活の温もりを残したまま荒廃(こうはい)してしまったかのようだった。不気味、という言葉がとてもしっくりきた。


「ひどい……。なんなの、これ? 」


 リンがショックを受けて、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くした。

 アルスも、カストルも、ジルも、思わず言葉を失ってしまった。


 ――何か良からぬ者が現れたというではないか。その者が笛のようなものを吹くと、たちまち牛や犬が暴れ出し、襲い掛かってきたというではないか。


 天空の賢者・アリオトの言葉が思い起こされた。


「リン様、危ないのでこちらへ。皆様も、くれぐれも離れぬように」


 兵長の指示により、アルスたちは兵に囲まれながら、ゆっくりと歩みを進めた。


 街の中ほどに来た頃、路地から牛の鳴き声が聞こえてきた。

 真っ先に反応したのは兵たちだった。

 アルスたちの護衛(ごえい)を強化しつつ、恐る恐る近づくと、牛が地面に伏してグッタリしていた。

 周りにはカラスや犬、ねこなどの姿が何匹も見られた。

 節々から血を流し、足がおかしな方向に曲がり、翼を負傷し、どれも地面で動かなくなっていた。


「これが、急に暴れ出したという動物たち?」カストルが言った。


「こんなにいっぱい? なんてかわいそうなの……」リンも言葉を詰まらせた。


「笛の音で不本意(ふほんい)に操られていたんだろう。

数日間も暴れさせられていたから、体力が先に悲鳴をあげたんだろう。本当に、ひどいことをするよ」


 アルスも思わず目を(そむ)けた。


「かわいそうに……」ジルも(あわ)れんでいた。


「どうしてこんなことをするの? 何の罪もない動物たちなのに……」


 リンが声を絞り出すように言った。


「これが本当に“闇の使者”のしわざだとしたら、彼らは目的のためなら手段を選ばないようだ」


 アルスが言った。


「非常に冷酷で、残忍なやつらだってことだよ」



 しばらく進むと、中心部の高い山の上に、豪華な宮殿が見えてきた。

 山の斜面や崖を利用して階段が設けられており、荘厳(そうごん)な雰囲気を放っていた。

 壁は全面が白く、屋根には金色の装飾がなされていた。


「あそこが宮殿です。この国で一番神聖な場所で、姫巫女様がいらっしゃるところです」


 兵長が言った。


「すごい……。どうやってあんな山の上に建てたんだろう? 」


 カストルが圧倒されながら言った。


◇◇


 宮殿のふもとの広場にも、動物たちの姿が見えた。

 と、白い服を着た老婆の姿が見えた。動物たちの前にしゃがみ込むと、花を手向(たむ)けているようだった。

 兵長が声をかけると、老婆は驚いたように目を見開いて立ちあがった。

 この国の挨拶だろうか、両腕を胸の前でクロスし、ゆっくりお辞儀をした。


「あなた様方は、どちらから来なすったんで?」


「我々は、ラオンダールからきました。姫巫女様に用事があったのですが。

しかし、街はこのありさま。……一体、何があったのですか? 」


 老婆は眉間(みけん)にしわを寄せ、(けわ)しい顔つきになった。

 心なしか、目に悲しみの光が宿っている。おそらくとんでもない地獄を見てきたに違いない。

 アルスは老婆の心中を察し、胸が痛くなった。


「数日前、突如見知らぬ者がこの広場に現れて、姫巫女様を差し出せというたんじゃ。

そんなバチあたりなこと、できるはずもない。

わしらのような一般人でさえ、一生に一度お目にかかれるかどうかじゃて。


ここを守る兵たちが必死に抵抗(ていこう)すると、笛を吹きよった。

その音色を耳にするやいなや、突如牛や犬、鳥たちが襲いかかってきたんじゃ。

笛の音に操られてしもうたが最後、理性を失い、主人の顔すら分からず、手当たり次第に物を壊し、人々に襲い掛かってきた。

あるものは壁に頭をぶつけ、あるものは翼に怪我を負い、二度と飛べなくなった。


街の者は恐れおののいて、国を出て行ってしまった。

わしは足が悪いから、そんなことはできん。

こうして隠れるように残っている。わしだけじゃない、他にも何人か残っている。

残されたわしらにできることは、哀れなこの子たちを(とむら)ってやることだけじゃ。


しかし、もうどうしようもない。笛を吹いた者は、宮殿へ行きよった。

白い服を着るわしらとは違って、黒い服を着とった。

仮面をつけとったから、顔なんてわかりゃせんわい。

もしかしたら、姫巫女様は、もう……」


 老婆は地面に崩れ落ち、泣き出した。リンは老婆の背中を優しくなでた。

 アルスは、ふつふつと怒りが湧き上がってきた。


「なんてひどいことをするんだ。これが、人間のすることか!

おばあさん、僕たちが確かめてきます。その悪いやつを倒してきます」


「そうですよ。こんなの許されない! 僕たちにまかせてください」カストルも続いた。


「そうかい、そうかい。くれぐれも、気をつけなさいよ。

あやつは只者(ただもの)ではなさそうじゃ。何をしてくるか、想像もつかんて。

どうかあなた様方に、“シロワシ様”の加護がありますように」


 老婆と別れたあと、一同は宮殿を目指した。

 姫巫女様の保護と、この街を混乱と絶望に(おとしい)れた者を倒すために――。


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