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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第8章 聖都ガルトデウス
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第46話 天空の賢者

【前回までのあらすじ】


森を抜けたアルスたちの元に、帝国から伝書鳩が届く。

近況を書き、束の間の休息をとることに。


 山裾(やますそ)の道をしばらく進んだあと、途中から登山道に入った。


 道はゆるやかな九十九折(つづらおり)になっており、最初こそ高山植物が生えていたが、次第にゴツゴツした岩肌が露出した茶色い道になった。

 馬車もガタゴトとよく揺れるようになった。

 窓から外を見ると、足元のすぐ下は切り立った崖になっていた。そのような道が数日間続いた。


 周りには今いる山よりもさらに標高の高い山があり、どれも山頂を真っ白な雪が覆っていた。

 心なしか空気も薄くなってきているようだ。



「すごい場所ね」


 リンが足元の崖から即座に目を離し、青ざめながら言った。

 兵たちは注意を払いながらゆっくりと進んでいた。

 平地よりも厳しい環境だからか、さすがに疲労が見え始めている。


 ある日の午後、レンガでできた小屋がポツンと建っているのが見えた。

 このあたりは平地が広がっており、小屋の隣に囲いの中でヤギが飼われていた。

 煙突から煙がもくもくと上がっているのをみると、人が住んでいるようだ。


「あそこの家主(やぬし)にきいてみましょう」


 兵長が1人馬から降り、扉をノックした。まもなくして、老人がひょいと顔を出した。


「ラオンダール帝国の者です。ガルトデウスまでの道を尋ねたいのですが……」


 老人は警戒の眼差しで兵長を見、次に後ろに控える兵達、そして馬車に乗るアルスたちを確認した。

 老人は思わず目を見開いた。


「こりゃー驚いた。珍しいお客さんじゃわい。ほら、中に入りな」


 老人の家は1人で住むには十分すぎる広さだった。

 床には色とりどりの模様が入ったじゅうたんが数枚敷き詰められており、日用品を並べた棚や、暖炉(だんろ)があった。


「今、茶を出そう」


 薪に火をくべ、湯を沸かしている。

 おそらくここを通る旅人を招き入れては、もてなしているのだろう。

 アルスたちはきょろきょろと室内を見渡した後、老人に(うなが)されるままに床に座った。

 兵長以外の兵は、外で待機をまかされた。


「わしは、アリオトじゃ。長いことここに住んでおる。もう何十年もな。ただの老いぼれじじいじゃ」


 アリオトは人数分の器に茶葉を入れ、湯を注いだ。

 やがて銀の盆にそれを乗せて持って来た。(こうば)しい香りが鼻を抜けた。


「ありがとうございます」


 アルスは出されたお茶を飲んだ。スッと頭が()えるような味のあと、苦味が口の中に広がった。


「ほれ、このミルクを入れるとええ。味がまろやかになり、美味しくなる」


 アリオトはミルクが入った瓶を勧めた。

 アルスはそれを受け取り、お茶に一回し入れてから飲むと、先ほどよりも甘い味がした。


「美味しい!さっきとは全然違うや」


「私も入れたーい」


 好奇心旺盛なリンも同じようにし、すぐにほっこりした顔になった。


「うまいだろ?」


 アリオトはここで初めて笑った。

 アルスは老人の胸に7つの星をかたどったバッジをつけているのを見逃さなかった。


「あの、あなたはもしかして、賢者様ですか?」


 突然の問いに、アリオトは驚いた表情をした。

 カストルたちも一瞬何のことかわからず、きょとんとした。


「僕のじーちゃんも、同じバッジをつけていたんです。森の賢者メラクといいます」


「なんと!メラクを知っておるのか」


 アリオトはずずずずいっとアルスに接近した。

 アルスは後ろに下がりすぎて壁にゴンと頭をぶつけた。


「お前さん……! ほほう、噂にはきいておったが、こうしてお会いできるとは思わなんだわい」


 アリオトはアルスの手をとった。


「アルス様、そうでしょう。ご無事でなによりです」


「僕のことを、知ってるんですか?」


「もちろんじゃとも。わしは天空の賢者のアリオト。

 メラクとは古くからの友人でしての。して、これからガルトデウスへ向かいなさるのかい?」


「ええ、そうなんです」


 アリオトは一瞬黙り込んだ後、絞り出すように口を開けた。


「今行くのは、やめておきなさい」


 思わぬ一言に、一同の目が点になった。


「な、なぜですか?」


「僕たち、ここまでやってきたのに?」カストルもありえない、といった顔をした。


「あそこは今、混乱の最中じゃ」アリオトは気難しそうに眉を寄せた。


「数日前に、ガルトデウスから大勢の人がここを通った。

中には家畜の牛や身の回りの物を積んでいる者もいた。

不思議に思って話かけたら、何か良からぬ者が現れたというではないか。

その者が笛のようなものを吹くと、たちまち牛や犬が暴れ出し、襲い掛かってきたというではないか。

人々は命からがら街を逃げ出してきたようじゃった。


それ以降、ここを通る者はいなくなった。

実のところ、わしも何が起きているのか定かでないのじゃ。

ただ確実に言えるのは、姫巫女様の命が危ないということじゃ」


「……姫巫女様?」アルスたちは声を揃えて聞き返した。


「姫巫女様とは、神の予言を聞く巫女のことじゃよ。

ガルトデウスは風の神アイオールを信仰しておるのじゃが、その化身と言われる白い鷲がおるのじゃ。

姫巫女様は唯一、その鷲の言葉を理解できる人物。

鷲を通してアイオール様の言葉を受けとり、これから先の未来の予言をすることができるのじゃ」


「まるで、エルディシアのようですね」


 アルスが言った。


「ごもっとも。周りを高い山々に囲まれておる不便な立地だからこそ、空を飛ぶ神のお言葉がとても重要視されておるのじゃ。

ガルトデウスに現れたという者の狙いは、おそらく姫巫女様じゃろう。

詳しくはわからんが、未来を予言する力を求めておるようじゃ」


「もしかしたら、“闇の使者”かもしれない。早く行こう」アルスは立ち上がった。


「ああ、嫌な予感がしてきたぜ」カストルも腰を上げた。


「お前さんたちも、姫巫女様に用があったのかい? ならば、これを着ていきなさい」


 アリオトは奥から白い色の服を何着か持って来た。


「ガルトデウスの民は、白い鷲にちなんで、白い服を着用しておるのじゃ。

これを着れば山岳地帯の寒さに耐えられる上に、白い鷲の加護を受けられるじゃろう」


「ありがとうございます! 」


 白い服は膝丈まである貫頭衣(かんとうい)で、内側に綿が入っていて温かかった。

 (そで)(えり)(すそ)には翼を模した魔よけの紋様が入っており、頭からからスッポリ被った後、腰に帯をしっかり巻いて固定させた。

 リンとジルには、さらに白い糸を編んで作られたブレスレットが与えられた。


「未婚の女性にはこれの着用が義務付けられておる。

夫のいない女性は守ってくれる存在がいないから、代わりに神様に守ってもらうのじゃ」


「素敵! ありがとうございます」


「ありがとうございます……」


 ジルも服やブレスレットを不思議そうに見つめていた。


「気をつけていきなさいよ」


 アリオトは家の前で見送ってくれた。

 アルスたちはお礼を言った後、急ぎガルトデウスへ向かった。



 しかし、この先予想もしない出来事が待ち受けているとは、この時は知る(よし)もなかった。

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