第45話 伝書鳩の便り
【前回までのあらすじ】
湖で出会った女性はジルという名前だが、記憶を失っているようだった。
早朝になり、別れていた兵長たちと無事合流することに。
朝日をうけて、湖がエメラルド色に輝いており、しばし心を奪われる。
その後数日は森の中を進んでいった。
あれから賊に襲われることはなく、順調に旅を続けることができた。
ジルも次第にアルスたちや兵長とも打ち解けることができた。
ただ、記憶は未だ戻っていないので、アルスたちも極力話題を振らないように心がけた。
アルスは自分たちの本当の旅の目的をジルに伝えていなかった。
「ラオンダール帝国の皇帝の命令で、地方に派遣されている使者」として通していた。
そうすれば兵が護衛にあたっていることや、豪華な装飾の馬車に乗っていることの説明がついた。
ジルはいまいちピンときていないようだったが、「まだ若いのに大変ですね」と労ってくれた。
◇◇
数日して、ついに森を抜けた。
自生している植物も身長かそれ以下の高さの低木が占めていた。
目の前には高い山々が遠くまで連なっていた。
手前の山はまだ緑で覆われているが、奥の山は鋭くそり立ち、灰色をしていた。
山頂付近を白い雪が覆っている。
「やったー! ついに森を抜けたんだー! 」
カストルは気分転換で馬車から降りると、大きくのびをした。
標高が高いのか、空気が澄み渡っていた。
「すごい山ね……。あのむこうに、ガルトデウスがあるのかしら」
リンも壮大な景色に圧倒されているようだ。
「そうですね、道なりに進むと、1週間ほどでガルトデウスに到着するでしょう。
この先はしばらく山裾に沿って進みますが、途中から登山道に入ります。
だんだん道も細く険しくなります。崖の側を通ることもあるでしょう。
場合によっては、馬に乗り換えていただく箇所もあるかもしれません」
兵長も気を引き締める。ここから先は今までとはわけが違うのだ。
「ガルトデウス……」ジルが静かにつぶやいた。「白い鷲を連れた巫女……」
「え? 」みんなは一斉にジルに振り返った。
「ジルさん、何か思い出したの?」とリン。
「ガルトデウスに行ったことがあるの?」とカストル。
「白い鷲を連れた巫女、って?」とアルス。
みんなが次々と食いつくので、ジルはあわてて訂正した。
「ごめんなさい、私にも、よくわからないんです。どういう意味なのか……」
「いやいや、僕たちの方こそごめんなさい。
ジルさんが、記憶を取り戻したのかと思ってしまって。
あ、そうだ。実際に行ってみれば、何かわかるんじゃないかな?」
カストルが提案した。
「私もカストル君に賛成ー! きっと何か思い出すはずよ」
リンもはしゃいで言った。
対称的に、ジルは不安そうな顔をした。
「でも、私、皆さんの迷惑になると思うわ。
だって、皇帝陛下の、大切な使者さんなんでしょう。
大切な任務を遂行されているのに、私なんかが、いて良いわけないわ」
「いえ、ぜひ一緒に来てください」
真っ先に言い切ったのはアルスだった。
カストルとリンも信頼の眼差しでアルスを見た。ジルは驚いたように目を見開いた。
「僕たちの方こそ、ジルさんがいてくれると心強いんです。
今までもそうだったように、これから先も一緒にいてくれると助かります。
……それくらい、過酷な旅であることに変わりはないんですけども。
ガルトデウスに着けば、きっと何かがわかるはずです。
僕たちは、ジルさんの味方です。ですから一緒にいきましょう。
それに、僕たちには太陽神ロレヌ様の加護がついていますから」
アルスの最後の一言に、カストルは親指を立てた。
ラオンダール民としてグッジョブな使い方だったようだ。
「そ、そうですか……。わかりました。でしたら、お言葉に甘えて、ついていこうかしら」
ジルに笑顔が戻った。アルスはホッと胸を撫で下ろした。
「ねえ、ジルさん、あそこに綺麗な花があるわ。ちょっと行ってみましょう」
リンがジルを気遣って、近くの花畑に誘った。
「ええ、いきましょう」
リンとジルが離れていった。
「あんまり遠くに行っちゃだめだよー」
カストルもそういいながら、ついていきたそうに、ソワソワしていた。
そのとき。
「クルクルッポー! 」 一羽の白い鳩が兵長の周りにやってきた。
「これは! 伝書鳩がきました」
鳩は馬車の屋根に止まった。よく見ると脚に紙がくくりつけられている。
「帝都からの報告が書かれているかもしれません」
兵長が紙をほどくと、確かに文章が書かれていた。
「なんて書かれてるの?」
カストルは興味津々に身を乗り出した。
「読んでまいります。
西ルートの分隊はレガルディアに到着。しかし敵意を示され、中に入ること能わず。
やむを得ずルマグアートを目指す、とのこと」
「西ルートはアルディス兄様のところだ!」カストルが叫んだ。
「敵意を示され、って?」
アルスは国際情勢がよくわからなかった。
「レガルディアは、大昔に周辺の国々と戦争をしていたんだよ」
城で歴史の授業を教わっていたカストルが言った。
「ずいぶん長いことね。最終的に和平条約を結んで解決したんだけど、それ以来どの国とも国交を断絶しているんだ」
「……続いて南ルートです。
港町リンダラスに到着するも、有力な情報は得られず。
大雨が続いており、足止めをくらう。対岸のファランシスに未だ着かず」
「南ルートはベクレス兄様だ!」カストルが叫んだ。
「南の地域は水の豊かなところが多いです。
水位があがると、生活にも命にも、支障を来たしかねません。
待機するのがベストなのでしょう。
最後に、北ルート。いまだ音信なし」
「そっか。北ルートは、まだ連絡がきていないんだね」
「今のところ僕らの東ルートが優秀だね。なんてったってトパーズとリンを見つけられたんだもの」
カストルが嬉しそうに言った。2人の兄より優位に立てているのがよほど嬉しかったのだろう。
アルスはなんとなくその心情を読み取れた。
「では、我々も近況を報告しましょう。
リン様とトパーズの件は先に伝えていますので……」
兵長は紙の下の余白部分に「無事森を抜ける。ガルトデウスを目指す」と書き、鳩の脚にくくりつけた。
鳩は再び「クルクルッポー! 」と鳴くと、バサバサと飛んでいった。
リンとジルは自生する白い花で花輪を作り、頭に飾ってはしゃいでいた。
ジルの周りには自然と小鳥たちが集まってきていた。
「わー、ジルさんモテモテじゃん!うらやましい。僕も混ぜてー!」
カストルが大はしゃぎで駆けていく。
「もう、カストルったら……」
アルスも仕方なくそれに続く。
束の間の休息を取り、一同、ガルトデウスへ。
お読みいただきありがとうございます。
少しでも「面白い」「続きが気になる」「応援したい」と思っていただけましたら、
ブックマーク登録をお願いします。
また、広告の下の☆☆☆☆☆を押していただけますと、評価ポイントが入ります。
評価していただけますと、執筆の励みになります^^
応援よろしくお願いいたしますm(_ _)m




