第43話 湖での出会い
【前回までのあらすじ】
夜、賊に取り囲まれてしまったアルスたち一行。
兵長たちも攻撃と護衛に別れ、離れ離れになってしまう。
「僕たちも応戦しよう」ということで、アルスとリンはそれぞれ力を使って賊を追い払うことに成功する。
しかし白い霧に覆われてしまい……?
アルスたちは馬車から降りた。
白い霧が立ち込めており、周りの木々の輪郭はもちろんのこと、すぐそばにいるリンやカストルの顔さえも判別できないくらいだった。
森はひんやりとしており、異様に静かな空間だった。数歩進むと、さらに霧が濃くなった。
「だめだ、霧で前が見えない」
カストルが先に進もうとするが、霧が分厚い壁のように阻み、進めなさそうに見えた。
「これ以上は危険だ。カストル、一旦馬車に戻ろう」
アルスがカストルを引き止めた直後、霧がさらに濃くなり、馬車を率いる馬が勝手に進み始めた。
「お、おい! 待ってくれよ!」
カストルの静止も虚しく、馬車は霧の向こう側へ行ってしまった。
3人は森の中にポツンと取り残されてしまった。
「そんな……。僕らを置いてかないでよ! 荷物もそのままなのに……」
「大丈夫よカストル君、すぐに見つかるわ」
落ち込むカストルをリンが優しくなぐさめる。
「この森は何かがおかしい。まるで、外部から来る者を寄せ付けていないみたいだ」
アルスは背中から杖を取り出した。
「何かを守ってるってこと? 」
リンが尋ねた。アルスは杖をかかげ、試しに光らせてみた。
しかし霧が晴れることはなかった。
「闇の力が込められていれば、霧は晴れるはずだ。でも、そういうわけじゃなさそうだ。
だとしたら、この森自体が不思議な力を持っているのだろうか」
「……森が、意思を持ってるってこと? 」
リンの言葉で、アルスの脳裏にアシュヴァルトの森が浮かんだ。
世界樹を守る神樹族が住まう森だ。
一般人が住む“白い森”の周りは、神樹族の加護により白い霧で守られている。
(しかし、アシュヴァルト以外に神樹族がいることがありえるだろうか?)
アルスが考え事をしていると、カストルが痺れを切らして言った。
「森が意思を持っていようがいなかろうが、僕らはここから出なくちゃいけないよ。
“光の使者”と宝石を探さなくちゃいけないもの。
いつまでも閉じ込められてるのはごめんだよ」
「確かにその通りだ。でも、杖がきかない中、どうやって……」
【目を覚まして……扉を開けて……】
突然、リンが歌い出した。美しい歌声が森全体に響き渡っていった。
「……リン? 」
「一体どうしたの? 」
2人がびっくりしていると、リンがえへへ、と笑った。
「ごめん。なんだか、急に歌いたくなっちゃって……」
そのとき、周りを取り巻いていた霧がサアアーッと晴れていった。
まるで正しい道筋を3人に示すかのように……。
「霧が引いていく! 」
「すっげえ! リンの思いが通じたんだよ」
やがて霧が完全に消えると、アルスたちの目の前に広々とした湖が現れた。
周りを木々がぐるりと取り囲み、水面には夜空が鏡のように映っていた。
「……湖だ」
カストルが駆け出した。
「あれ、私たちはさっきまで森の中にいたはずよ? 」
リンもそれに続く。
「霧が、僕らをここに導いたんだろうか? 」
アルスもその後を追う。
◇◇
3人は湖の周りを散策することにした。
行方がわからなくなった馬車や兵たちが見つかることを期待しながら、一晩身を潜めるのに安全な場所も探すことにした。
「兵長たち、大丈夫かな」
カストルは周りを見渡しながらつぶやいた。
「賊たちからうまく逃げられてるといいけど」
「僕たちと一緒に逃げた兵たちも、途中ではぐれてしまったしね」
アルスは杖を構えつつ、ときおり背後も振り返った。
幸いにも、賊の追手は来ていないようだった。
◇◇
しばらく歩いていると、湖のそばで人が倒れていることに気づいた。
「人だ! 人が倒れてる」
3人があわてて駆け寄ると、旅人の身なりをした人がうつ伏せに倒れていた。
抱き起こすと、20代前半くらいの若い女性だった。
ずいぶん長いこと旅をしていたのだろう、マントの裾はボロボロにほつれ、顔は痩せこけていた。
頭にかぶっているフードの端から、緑色の綺麗な髪がのぞいていた。
「こんなボロボロになって……。もしかして賊に襲われたのかしら?」
「ここは冷えるから、木の側まで連れて行こう」
3人は女性をすぐ近くの木まで運び、木の幹にもたれかからせた。
アルスは森の中から適当な木枝を集めると、そこに火をおこした。
暗闇の中に火がともると、少し安堵した。
カストルは自分のマントを女性の上にかぶせ、体が冷えないよう気を遣った。
一段落ついたあと、アルスたちは女性の側で声をかけたり、肩を優しく揺らしたりした。
しかし何をしても反応が返ってこなかった。
「やっぱりだめかー。何かいい方法ないかなあ」
カストルは何かいいアイデアはないかと周りを見渡した。
「呼吸をしているみたいだし、死んでるわけではなさそうよ」
リンが女性の肩がかすかに動いているのを確認した。
「まるで、深い眠りについているみたいだわ」
「眠っている?……そうだ、リン。もう一度あの歌を歌ってみたらどうかな。
さっきの霧が晴れたように、この女性も目を覚ますかもしれないよ」
アルスが提案した。
「うん、そうね。やってみるわ」
リンは女性の前に立つと、胸の前で手を組み、祈るようなポーズをした。
アルスとカストルは少し離れたところから様子を伺うことにした。
【お願い、目を覚まして……。どうか私の声に、答えてください……】
トパーズがまばゆい輝きを放つ。
リンの声が優しく湖の水面を撫でながら響き渡った。
やがてリンが歌い終わると、女性がゆっくりと目を覚ました。
緑色の綺麗な瞳に、湖に映る星空の明かりがちらちらと光っていた。
「あ、目が覚めたみたい」
リンが嬉しそうに言った。アルスとカストルも近づいた。
「大丈夫ですか?」
「こ……ここ、は、……どこ、ですか……? 」
女性はか細い声で、ゆっくりと応えた。
「ここは、湖のそばです。あなたは倒れていたんですよ」
アルスが女性と同じ目線にしゃがみこんで言った。
「みずう、み……? 倒れ、て、た?…… 」
「ほら、これを飲んで」
リンは湖から汲んできた水を口元に近づけた。
女性は1口目を恐る恐る含んだあと、2口、3口とおいしそうに水を飲み進めた。
水を飲み終えると、女性は少しずつ意識がはっきりしてきたようだった。
「あの、助けていただいて、あ、ありがとう、ございます……」
「いえ、元気になられてよかったです。お怪我もされていないようですし、安心しました」
「あなたたちは、どなたですか? 」
「僕はアルスです。僕たちは、旅をしている途中なんです。たまたまこの森を通りかかったんです」
「僕はカストルです」
「私はリンよ」
「……そう。助けてくれて、本当にありがとうございます。
きっとこれも、何かのご縁に違いありません……」
女性はにこやかにほほえんだ。顔色もだんだん良くなってきていた。
「もし差し支えなければ、あなたのお名前を教えてもらえませんか?」
アルスが尋ねた。女性は顔がわかるように、頭にかぶっていたフードをはずした。
緑色の長い髪が肩を流れ、見透かすような緑色の瞳が一層煌めいて見えた。
「私はジルよ」
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