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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第7章 霧の森
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第42話 賊との攻防

【前回までのあらすじ】


翌朝、早く目が覚めたアルスは、兵長と会話をすることに。

その際に、この旅への思いを告げるのだった。

 森の中は若葉が生い茂り、木々も草も陽の光を浴びて青々と輝いていた。

 地面には枯葉や細い枝が積もっており、馬のひづめや車輪がそれを踏むたびにパキパキと小気味よい音を発した。

 はじめの方こそ明るい日差しが差し込んでいたが、しばらく進むと木々が鬱蒼(うっそう)と茂り、陽の光がだんだんあたらなくなってきた。

 木が密集しているからか、ときおり木の根の上に乗り上げ、その度に馬車がガタゴトと揺れた。葉のこすれる音さえもざわざわと不気味に響き渡っていた。


「気味が悪いわあ……。早く抜けないかなあ」


 窓をのぞきながらリンが不安そうな顔をした。


「大丈夫だよ。すぐに抜けると思うから」


 アルスも窓のむこうをみながら言った。

 何か異変があれば背中の杖が反応しそうなものだが、変化がないところを見るとどうやら安全なようだ。


「そうだ、おまじないをしましょう」


 リンが嬉しそうな表情で言った。


「「おまじない? 」」


 アルスとカストルは同時にきいた。


「そう、おまじない。無事に森を抜けられますように、って願掛けをするの。

一座のみんなでよくやってたのよ。

各地を旅しているといろんなことがあるから、無事に到着できますように、って。

ほら、こうするのよ」


 リンは自分の右手を出すと、右隣にあたるカストルの左手とつないだ。

 カストルは思わず顔を赤くしたが、リンは気づいていない。


「こうやって、隣同士の人と手をつないで……。

アルス君とカストル君も同じようにして。最後にアルス君と私もつないで……。

ほら、これで一つの円になったでしょう。

どこかで離れ離れになってしまっても、必ずまた出会える。これはそういうおまじないなの。

この状態でね、みんなで唱えるのよ。

無事に森を抜けられますように、って。さあ、いくわよ」



「「「無事に森を抜けられますように」」」



「これでバッチリ」リンがウインクをした。


 アルスは心なしか不安な気持ちが収まった気がした。


「不思議だね。絶対に森を抜けられそうな気がしてきた」


 カストルも自信に(あふ)れるような面持ちだった。


「よかった。私もよ。これで何が起きても、きっと大丈夫なはずよ」


◇◇


 夕方頃には開けたところに出た。

 陽が遠くの山に沈みかけており、森全体がオレンジ色に染まっていた。


「今日はここで休みましょう。夜の森を進むのは危険です」


 兵長が指示を出した。夕食を済ませると、早々に馬車の中に(かくま)われた。

 賊が出るということで、兵達は馬車を取り囲み、前後左右怠りなく警備にあたった。


◇◇


 夜が深まり、あたりがシンと静まり返った頃、遠巻きから様子を伺う者たちがいた。

 足音を立てないよう、そろり、そろりと円を描くように移動しているようだ。


 真っ先に異変に気付いたのはアルスだった。

 悪意ある視線を感じる上に、背中の杖が熱を帯びて熱くなっていた。

 アルスは馬車の中で他の2人にも知らせたあと、ドアを開け兵長を呼んだ。


「何者かがこちらを見ているようです」


「なんと! ……わかりました。早急に準備をしましょう」


 兵長が周りの兵たちに合図を送ると、すぐに馬を起こし、体制を整えた。

 と、矢が1本飛んできて、馬車の近くの地面に刺さった。

 暗闇から賊たちがバッと飛び出してきた。

 賊たちは10人ほどだろうか。各々手に短剣や槍を手にしている。

 ボロ切れのような服を身にまとい、顔は素性を現わさぬように隠している。

 アルスたちは息を潜めながら、外の様子を伺うことしかできなかった。


「おめえら、どこの国のモンだ? そこの馬車には、誰が乗っている? 金目の物を置いてここからでていけ」


 賊の1人が言った。周りの賊達からは気味の悪い笑い声があがった。

 この森を通る旅人を襲い、金品を奪い、抵抗する者がいれば命を絶ってきたのだろう。

 賊たちからは獣臭い匂いが漂ってきていた。


「悪いが、それはできない。お前達の森に無断で侵入したことは謝ろう。

今すぐに出て行くから、今回は見逃してくれないか。大事な用事の途中なんだ」


 兵長が賊を刺激しないように言った。賊がケラケラと笑った。


「俺たちが黙って通すと思うかよ。なあ、おまえら」


 賊たちは互いに顔を見合わせ、細く(ゆが)んだ目を(かわ)しあった。

 ぞろぞろと短剣や槍を構え、兵たちに視線を合わせた。


――どうやら答えは最初から決まっていたようだ。


「いけー! 」


 兵長の合図と共に兵たちが賊に突撃していった。

 普段から厳しい演習を重ねているのだろう、賊の動きを素早くかわしては、彼らの武器を奪ったり、殺さぬ程度に斬りかかったりしている。


「今のうちに! 」


 兵長が叫ぶと、数名の兵が馬にまたがった。

 馬車が動き出し、その周りを取り囲むように馬を走らせた。


「兵長!? 」


 アルスが思わず窓を開けて叫ぶと、「我々もすぐ向かいますから! 」と返事が返ってきた。

 兵長たちの姿はだんだん小さくなり、やがて木々に隠れて見えなくなってしまった。

 それと同じくして、賊の一部が大きなイノシシにまたがり、馬車の後を追ってきた。


「皆の者、カストル様たちをお守りするのだ! 」


 周りの兵たちは馬を操り、護衛(ごえい)に当たるものと、追手を追い払うものとに分かれた。

 兵は槍を構えると、イノシシに乗る賊の体を突いて、地面に落とした。

 そのあとからも追手は続々とやってきていた。


「くそ! 何人いるんだ」


 と、賊の放った矢が兵のそばをかする。弓矢を構えている者もいるらしい。

 兵は馬を後ろに走らせ、追ってくるものを1人、また1人と槍で落としていった。


 追手は脇道から兵をかいくぐり、一段と馬車に近づいてきていた。

 狙いはアルス達を乗せた馬車であることは明確だった。


「このままじゃ(らち)があかない! 僕たちも応戦しよう」


 アルスが叫んだ。


「応戦するって……どうするつもり? 」


 カストルは不安そうに聞いた。


「大丈夫。すぐに終わるよ」


 アルスは背中から杖を出した。杖は煌々(こうこう)と輝いていた。


「アルス、杖が……」


「アルス君がやるなら、私も参加するわ」


 リンが乗り気で立ち上がった。


「リ、リンまで……。なんでうちの“光の使者”さんたちは、こうも勇敢(ゆうかん)かなあ」


「“光の使者”だからだよ」「“光の使者”だからよ」


 アルスとリンが同時に言った。


「それ、理由になってないよ……」


 カストルは呆れながら言った。


 アルスは馬車の窓を開け、身を乗り出した。

 後ろを見やると、イノシシにまたがる追手が3組見えた。手前の2組は槍を構えている。

 一番奥のイノシシでは、矢を構えている様子だった。


「アルス、気をつけて! 」


 カストルはアルスが外に飛び出してしまわないよう、馬車の中で支えていた。


「ごめん、ちょっとまぶしいと思うけど、我慢してね」


 アルスは杖をかかげた。


「“アンクの光”!」


 杖がカッとまばゆく光った。

 賊たちは思わずひるみ、近くの木にぶつかる者もいた。

 それに(おく)することなく、さらに5組の追手があとからやってきていた。

 アルスが馬車にひっこんだあと、今度はリンが窓から顔を出した。


「ごめんなさいね。すぐ終わらせるから」


リンは胸の前で手を組んだ。


【お願い 眠って】


 リンは子守唄を歌った。優しい母の声のような調べに、賊達は1人、また1人とイノシシから崩れ落ちていった。

 猛々しいイノシシさえも走ることをやめ、横に倒れた。

 賊たちは皆眠りこけ、追ってくるものは1人もいなくなった。


「よし! 今のうちに行きましょう」


 馬車を進めている兵が叫んだ。


◇◇


 しばらく進めていたが、だんだん霧が深くなってきていた。


「これ以上は危険なようです! ここで一旦止まり、兵長たちを待ちましょう! 」


 馬車の兵が叫んだ。

 あっという間に先が見えぬくらいの白い霧に包まれた。

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