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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第7章 霧の森
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第41話 旅への思い

【前回までのあらすじ】


「国ごとに信仰している神が違うのなら、その国にある神の像に祈れば新しい力が得られるはず」

そう考えたアルスは、各地を旅していたリンの記憶を頼りに、どの神が信仰されているかを確認する。

さらに、カストルに神話の内容を教えてもらう。

 アルスは夢を見ていた。


 どこまでも続く広い草原に寝転んでいた。

 風が吹いては遠くへ走り去っていく。

 顔と同じ高さにある草がサワサワと(こす)れ合い、雲が形を変えながら旅をしている。

 やがて風が止み、どこからか声が聞こえてきた。いつぞや聞いた、老人の声だった。


『アルス。聞こえるか』


「はい、聞こえます」


 前にも見たことがある夢だ。

 そう、確かアシュヴァルトを出発するときに見たんだ。

 アルスは立ち上がって周りを見渡したが、当然ながら老人の姿はどこにもなかった。

 声だけが心に響いてきているかのようだった。


『ようやく“癒しのトパーズ”を見つけたようじゃな。

傷を癒すだけでなく、敵から身を守ることもできる優れた力じゃ。

お前の旅で大いに役立つことじゃろう。

じゃが、敵はお前が“光の使者”であることを完全に認めたことにもなる。

これからは何度も敵の襲撃(しゅうげき)を受けることじゃろうな』


「彼らは一体、何者なんでしょうか?

なぜ、僕の命を狙っているのでしょうか……? 」


『それはアルス、お前が自分の力で()くことじゃ。

お前にしか、この世界は救えないのじゃ……』


◇◇


 アルスはうっすらと目を開けた。いつのまにか眠ってしまっていたようだ。

 ドアにもたれかかるような姿勢をしており、首筋が変に()っていた。

 カストルは反対側のドアに同じようにもたれかかっている。

 リンは椅子に横になり、ぐっすり眠っている。

 窓から外を見やると、空が白み始めていた。

 外にいる兵が焚き火に火を起こし、(だん)をとったり朝食の準備をしたりしている。


 アルスは2人が起きないようにそっとドアを開け、外に出た。

 兵の1人がアルスの姿に気づいて近づいてきた。


「アルス様! おはようございます。しっかり眠れましたか?

外は危険ですので、中にお戻りください。

それとも……、気分を悪くされましたか?」


 アルスは両手をふりながら、あわてて否定した。


「いえ、外の空気を吸いたくなったんです。すぐに戻るので、お構いなく」


「左様でございますか。何かあればいつでも呼んでください。すぐに駆けつけますので」


「うん、ありがとう」


 アルスは兵と別れると、周りの景色をゆっくりと見渡した。

 起伏(きふく)のあるなだらかな丘がどこまでも続いており、森がところどころに点在している。

 遠くには高い山々がそびえ、山頂は白い雲で(おお)われている。


「我々が向かうガルトデウスは高山地帯にあります。

周りを何千mもの高い山々に囲まれた聖域です。外部の者は滅多に訪れないと聞きます。

向こうに見える山を越えたあとも、さらに多くの山を越えていかねばなりません」


 となりに兵長がやってきた。


「アルス様、セイガではトパーズと、その持ち主であるリン様を見つけられたそうですね。

トパーズは行方が知れていなかった宝石。無事見つけられてなによりです。

昨夜、早速皇帝陛下へ伝書鳩(でんしょばと)(つか)わしたところです。

他のルートの情報も入手できるといいのですが……」


「ありがとう。宝石の手がかりをみつけられるのはもちろん嬉しいけど、みんなが無事に旅を続けられる、それだけで十分だよ。

もしこれから先、誰かが深い傷を負ったり、命を(おびや)かされることがあるようなら、すぐにでもこの旅を中断してほしいんだ。

皇帝陛下に協力を依頼したのは僕だけれども、人命に関わることまでは望んでいない。

決して無理はしないでほしいんだ。

もしものことがあった場合は、カストルとリンをすぐに帝都へ送り返してあげてほしい。

僕1人だけでも、旅は続けるつもりだから」



 アルスはこの旅への思いを述べた。

 宝石と持ち主を探すのが目的であることに変わりはない。しかし、必要以上の犠牲を伴いたくはなかった。

 カストルにもリンにも、危険な思いはさせたくなかった。


「アルス様、優しいお気持ち感謝いたします。

しかし、これだけは言わせてください。我々は、ラオンダールの兵士です。

他国よりも厳しい鍛錬(たんれん)を重ねておりますし、想定外の事態にも対応できる自信を持ち合わせております。

ですので、ちょっとやそっとのことでは屈しません。

我々はあなた方を一生懸命お守りし、安全に旅ができるようにするようにするのが務めです。

これは陛下の命令だからというよりも、兵である我々に与えられた永遠の使命ですので」


「でも……」


「我々のことは気にせず、なんでも頼ってくださいね」


 兵長は笑顔を残して、馬車の方へ戻っていった。


 アルスは一抹の不安を感じた。

 彼らを信頼しているのは当然だけれども、いつどんな問題が起こるかはわからない。

 先日セイガの街に“闇の使者”が現れたように、これからも予測不可能な事態に直面することだろう。

 果たしてそのときに、我々は無事乗り越えることができるだろうか。

 いや、乗り越えねばならない。せめて、僕に闇を払いのけられる力があれば……。

 みんなを守り通せるだけの力があれば……。


◇◇


 やがて山から陽が昇った頃、カストルとリンも目を覚まし、馬車の外に出てきていた。


「アルス! どこに行ってたの? 起きたらいないんだもん。びっくりしたよ」


 カストルは変な寝癖(ねぐせ)をこしらえており、飛び跳ねた茶色い髪が風にそよそよと揺れていた。

 まだ眠たそうな顔をしている。

 リンは反対に明るい笑顔で何度もアルスに手をふってくれた。


「おはよう、アルス君! もうすぐ朝食ができるみたい! 早くおいでよ」


 金色の長い髪が陽にあたっており、一気に気分が明るくなった。

 アルスは2人の方へ駆けていった。


「ごめん。外の空気を吸ってたんだ。今いくよ」


◇◇


 朝食を済ませたあと、一同は隊列を整えた。


「これからしばらく森の中を走ります。

 賊が出るというので、我々は周りに目を光らせながらあなた方をお守りいたします。

 もし何かありましたら、窓をあけて近くの兵にお知らせください」


 兵長が出発前にアルスたちに伝えた。兵達も馬にまたがり、前列・左右・後列に配置した。


「さあ、出発だ! 」


一同、森へ――。

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