第41話 旅への思い
【前回までのあらすじ】
「国ごとに信仰している神が違うのなら、その国にある神の像に祈れば新しい力が得られるはず」
そう考えたアルスは、各地を旅していたリンの記憶を頼りに、どの神が信仰されているかを確認する。
さらに、カストルに神話の内容を教えてもらう。
アルスは夢を見ていた。
どこまでも続く広い草原に寝転んでいた。
風が吹いては遠くへ走り去っていく。
顔と同じ高さにある草がサワサワと擦れ合い、雲が形を変えながら旅をしている。
やがて風が止み、どこからか声が聞こえてきた。いつぞや聞いた、老人の声だった。
『アルス。聞こえるか』
「はい、聞こえます」
前にも見たことがある夢だ。
そう、確かアシュヴァルトを出発するときに見たんだ。
アルスは立ち上がって周りを見渡したが、当然ながら老人の姿はどこにもなかった。
声だけが心に響いてきているかのようだった。
『ようやく“癒しのトパーズ”を見つけたようじゃな。
傷を癒すだけでなく、敵から身を守ることもできる優れた力じゃ。
お前の旅で大いに役立つことじゃろう。
じゃが、敵はお前が“光の使者”であることを完全に認めたことにもなる。
これからは何度も敵の襲撃を受けることじゃろうな』
「彼らは一体、何者なんでしょうか?
なぜ、僕の命を狙っているのでしょうか……? 」
『それはアルス、お前が自分の力で解くことじゃ。
お前にしか、この世界は救えないのじゃ……』
◇◇
アルスはうっすらと目を開けた。いつのまにか眠ってしまっていたようだ。
ドアにもたれかかるような姿勢をしており、首筋が変に凝っていた。
カストルは反対側のドアに同じようにもたれかかっている。
リンは椅子に横になり、ぐっすり眠っている。
窓から外を見やると、空が白み始めていた。
外にいる兵が焚き火に火を起こし、暖をとったり朝食の準備をしたりしている。
アルスは2人が起きないようにそっとドアを開け、外に出た。
兵の1人がアルスの姿に気づいて近づいてきた。
「アルス様! おはようございます。しっかり眠れましたか?
外は危険ですので、中にお戻りください。
それとも……、気分を悪くされましたか?」
アルスは両手をふりながら、あわてて否定した。
「いえ、外の空気を吸いたくなったんです。すぐに戻るので、お構いなく」
「左様でございますか。何かあればいつでも呼んでください。すぐに駆けつけますので」
「うん、ありがとう」
アルスは兵と別れると、周りの景色をゆっくりと見渡した。
起伏のあるなだらかな丘がどこまでも続いており、森がところどころに点在している。
遠くには高い山々がそびえ、山頂は白い雲で覆われている。
「我々が向かうガルトデウスは高山地帯にあります。
周りを何千mもの高い山々に囲まれた聖域です。外部の者は滅多に訪れないと聞きます。
向こうに見える山を越えたあとも、さらに多くの山を越えていかねばなりません」
となりに兵長がやってきた。
「アルス様、セイガではトパーズと、その持ち主であるリン様を見つけられたそうですね。
トパーズは行方が知れていなかった宝石。無事見つけられてなによりです。
昨夜、早速皇帝陛下へ伝書鳩を遣わしたところです。
他のルートの情報も入手できるといいのですが……」
「ありがとう。宝石の手がかりをみつけられるのはもちろん嬉しいけど、みんなが無事に旅を続けられる、それだけで十分だよ。
もしこれから先、誰かが深い傷を負ったり、命を脅かされることがあるようなら、すぐにでもこの旅を中断してほしいんだ。
皇帝陛下に協力を依頼したのは僕だけれども、人命に関わることまでは望んでいない。
決して無理はしないでほしいんだ。
もしものことがあった場合は、カストルとリンをすぐに帝都へ送り返してあげてほしい。
僕1人だけでも、旅は続けるつもりだから」
アルスはこの旅への思いを述べた。
宝石と持ち主を探すのが目的であることに変わりはない。しかし、必要以上の犠牲を伴いたくはなかった。
カストルにもリンにも、危険な思いはさせたくなかった。
「アルス様、優しいお気持ち感謝いたします。
しかし、これだけは言わせてください。我々は、ラオンダールの兵士です。
他国よりも厳しい鍛錬を重ねておりますし、想定外の事態にも対応できる自信を持ち合わせております。
ですので、ちょっとやそっとのことでは屈しません。
我々はあなた方を一生懸命お守りし、安全に旅ができるようにするようにするのが務めです。
これは陛下の命令だからというよりも、兵である我々に与えられた永遠の使命ですので」
「でも……」
「我々のことは気にせず、なんでも頼ってくださいね」
兵長は笑顔を残して、馬車の方へ戻っていった。
アルスは一抹の不安を感じた。
彼らを信頼しているのは当然だけれども、いつどんな問題が起こるかはわからない。
先日セイガの街に“闇の使者”が現れたように、これからも予測不可能な事態に直面することだろう。
果たしてそのときに、我々は無事乗り越えることができるだろうか。
いや、乗り越えねばならない。せめて、僕に闇を払いのけられる力があれば……。
みんなを守り通せるだけの力があれば……。
◇◇
やがて山から陽が昇った頃、カストルとリンも目を覚まし、馬車の外に出てきていた。
「アルス! どこに行ってたの? 起きたらいないんだもん。びっくりしたよ」
カストルは変な寝癖をこしらえており、飛び跳ねた茶色い髪が風にそよそよと揺れていた。
まだ眠たそうな顔をしている。
リンは反対に明るい笑顔で何度もアルスに手をふってくれた。
「おはよう、アルス君! もうすぐ朝食ができるみたい! 早くおいでよ」
金色の長い髪が陽にあたっており、一気に気分が明るくなった。
アルスは2人の方へ駆けていった。
「ごめん。外の空気を吸ってたんだ。今いくよ」
◇◇
朝食を済ませたあと、一同は隊列を整えた。
「これからしばらく森の中を走ります。
賊が出るというので、我々は周りに目を光らせながらあなた方をお守りいたします。
もし何かありましたら、窓をあけて近くの兵にお知らせください」
兵長が出発前にアルスたちに伝えた。兵達も馬にまたがり、前列・左右・後列に配置した。
「さあ、出発だ! 」
一同、森へ――。
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