第3話 青い森
【前回までのあらすじ】
聖なる森アシュヴァルトにたどりついたアルスは、住民の案内で長老の家に行き、一晩泊めてもらうことになった。
翌朝。朝食を済ませ、1階に降りると、長老が迎えてくれた。
「おはようさん。昨晩はよく眠れたかの? 」
「おはようございます。はい、旅の疲れもすっきり取れました」
「ならよい。さて、昨日の続きと行こうか。着いてきなさい」
長老は部屋の奥に進んだ。
会議などに使われるであろう、大きなテーブルのある部屋を通り、奥の書斎に入った。
両側に天井まで届きそうな本棚が並んでおり、びっしりと本がつまっている。
その部屋の奥に古い扉があった。長老が扉を開くと、ギシギシと音を立てながらゆっくり開いた。
扉の向こうは家の外につながっていた。ちょうど玄関とは正反対の場所にあたる。
しかし、まるきり雰囲気が違った。
先の見えない青い霧が立ち込めていたのだ。
「ここはアシュヴァルトの“青い森”。
わし以外の誰もが立ち入ることを許されない、聖なる場所じゃ。……さあ、来なさい」
長老は扉を閉めると、先へ進んだ。
少し距離が開くだけで長老の姿さえ見失ってしまうほどの深い霧だ。
アルスは見失わぬよう、必死に距離を詰めた。
やがて辿りついたのは、視界一面に高い壁がそびえ立つ場所だった。
いや、壁ではない。これこそが“世界樹”だった。上を見上げても深い霧で先が見えない。
周りからは、さわさわと葉のこすれる音が聖なる調べのように響いている。
さらに“世界樹”の下には美しい湖がたたえていた。
アルスは、そのほかにも人の声のようなものが聞こえた気がした。
しかし、何を言っているのかまでは聞き取れない。
長老はふりかえるとアルスに言った。
「さて、お前が来るのを待っておったよ、アルス。自己紹介が遅れてしまい申し訳ない。
わしはジョルジュ。ジョルジュ・アシュロードという。
アシュヴァルトの“白い森”の長老であると共に、ここ“青い森”の守り人でもある。
“青い森”は見ればわかるように、“世界樹”に一番近い森じゃ。
“世界樹”はこの世界の大地から天まで伸びる聖なる樹。神話時代からこの世界を支えておる。
ここはその『“世界樹”を守っているところ。つまり、世界で一番安全な場所でもある」
「世界で一番安全な場所……」アルスは自然と復唱していた。
「森の賢者メラクとは遠い昔からの友人でな……。
あいつが足を悪くしてからは、会う機会も減ってしもうたがな。
しかし手紙を読む限り元気にやっておるようで安心したわい」
「じーちゃん、いえ、メラクから、あなたに会うと全てわかると教えてもらいました」
「……ふん。あいつも年と共に人使いが荒くなってきおったわい。
昔はもっと気を使ってくれたのにのう……。
さてアルスよ。わしがお前をこの“青い森”に連れてきたのには理由がある。
先ほども言ったが、ここはわし以外の者は立ち入り禁止の場所じゃ。
それは旅の者も一緒じゃ。なのになぜお前を連れてきたのか。
……それは、お前さんにとって大切な場所だからじゃ」
「僕にとって大切な……? 僕は普通の人間だし、じーちゃんの使いだし、ここに来る権利はないと思います」
「いいや、大ありじゃ。
お前さん、ここにきたときから、人の声のようなものが聞こえてはおらんかの」
「はい、さっきからずっと聞こえています。
なんて言っているのかまでは、よく聞こえないけど……」
「よろしい。それこそが何よりの証拠。
ここは“世界樹”のふもとの“青い森”だと伝えたが、ここは本来、『神樹族』の住まう国なのじゃ」
「神樹族? 」
「そうじゃ。神樹族は、神話時代から“世界樹”を守るために神から遣わされた一族。
聖なる樹の一族じゃ。今お前さんが聞いているのは、彼らの声なのじゃ」
風が吹いて、湖をなでるように通り過ぎた。葉のこすれる音がより一層大きくなった。
「まるで“世界樹”を囲むように、あちこちから聞こえます。風のささやくような、優しい声です」
「彼らは普段、樹の姿をしているが、人の姿になることもできる。
樹となりこの地を守り、人となり人々を導く…それが彼らの使命なのじゃ」
「そのことと、僕になにか関係があるのですか? 」
「もちろんじゃ。……どうやらメラクのやつ、お前に何も話しておらんようだな。
少し長くなるが、これからわしが話すことは、今から14年前に実際に起きたことじゃ。
ようく聞きなさい……」
そうして長老は語り出した。それは、アルスの身に起きた出来事だった。
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