第37話 フェンリルの帰還
【前回までのあらすじ】
戦いのあと、旅一座のテントで目を覚ましたアルス。
その後団長たちとも話をして、リンが仲間に加わることになった。
旅一座と別れたアルスたちは、帝国の分隊に発見され、行動を共にすることになる。
「くっそ……。あのやろう……」
フェンリルはズリ、ズリ、とローブの裾をひきずらせ、壁をつたいながら広間へ向かった。
“光の使者”に負わせられた傷は案外深く、血が転々と床を彩っていた。
ここまで辿りつくだけでも精一杯だった。
周りを取り囲む狼たちが守ってくれていなければ、途中でのたれ死んでいたかもしれない。
――とんだ失態だ! このフェンリル様が!
フェンリルは拳で壁を叩いた。壁の表面にヒビが入り、パラパラ…と破片が床に砕け落ちた。
――とんでもない屈辱だ!
怒りで周りの狼も、自ずとグルルルル…と唸り声をあげる。
やがて広間につくと、案の定みんなが集まっていた。
円卓に座り、王が来るのを待っているのだ。
皆フェンリルと同じ黒いローブをまとい、仮面をつけている。
狼の唸り声を聞いて、一斉にフェンリルの帰還を迎え入れた。
A「フェンリル、戻ったか」
B「ハッ。なんてザマでしょうフェンリル。それが威勢良く飛び出して行った者の、なれの果てですか。
仮面まで失い、顔も見られて……。なんという屈辱でしょう」
C「これがあなたのいう最高のショーってわけね♪ 」
一同はフェンリルを嘲笑った。当然いい気分がするものではなかった。
「うるせえ! 途中で仲間が出てきやがったんだ。
てっきり1人かと……いや、1人なら確実に殺していた」
C「ふーん、光の使者は、2人いるのね♪」
フェンリルは椅子にドカッともたれかかった。
ローブから血がポタポタと床に落ちている。
「次こそは、必ず殺してやる! 」
A「フェンリル、全ては陛下がお決めになられること。それだけは忘れるな」
「くそっ! 」
そこへカッ、カッ、と靴の音がし、王が現れた。
王もまた黒いローブをまとい、顔を隠している。
姿は見えねどもオーラと殺気が凄まじく、誰も逆らえない存在だった。
「皆の者、集まったか。……おや、フェンリル。戻ったのか」
王は静かに言った。
「はは! フェンリル、ただいまもどりました」
フェンリルは椅子から立ち上がり、床にひざまずいた。
血なまぐさい匂いが周りに広がった。
王は目を細め(たように見えた)、フェンリルの姿を上から下まで見下ろした。
「怪我を、負っているのか」
「は! 少しばかり、油断をしてしまいました。しかし次こそは必ず、殺してみせます! 」
「だまれ! 失敗したやつが泣きわめきおって! 」
王から威圧的なオーラがほとばしった。
それはビリビリと肌にぶち当たり、フェンリルは言葉を失った。周りにいた狼も消え失せた。
「お前はしばし、塔に幽閉する。そこで頭を冷やせ」
王はパチンと指を鳴らした。
空気中から無数の黒い手が現れ、フェンリルの腕や首や足腰を掴んだ。
「わっ! 」フェンリルは一切の身動きが取れなくなった。
他のメンバーも言葉を失い、静かにその様子を見守ることしかできなかった。
「……そうだ、“フレイ”。
お前が研究している実験の相手にさせよう。
好きに使うがよい。くれぐれも、殺さぬ程度、にな……」
フェンリルは信じられない、といった表情で王を見つめていた。
「あ、ありがたきお言葉です、陛下! 身に余る光栄です……」
フレイと呼ばれた男は、立ち上がり、床にひざまずいて、感謝を表した。
恐怖でその身が細かく震えているのを、フェンリルは見逃さなかった。
「そ、そんな……どういうことだよ。俺はまだ戦えるのに! 」
フェンリルはたまらずに叫び、ジタバタ暴れた。
しかし、無数の手は体の自由を奪い、身動きすらとらせなかった。
「口を慎め、哀れな狼よ。
……次に失態をおかせば、どうなるかわかるな?
さあ、連れて行け! 塔に閉じ込めておくのだ」
フェンリルを捉えていた手が消えると、周りから多数の兵が現れ、フェンリルを拘束し、塔へ連行した。
「うわああああああ! 」
フェンリルの叫び声はしばらく廊下をこだまし続けたが、やがて聞こえなくなった。
◇◇
広間は、えも言われぬ静けさに包まれていた。
王に対する恐怖と、フェンリルに与えられた罰の重さに。
「さて、お前たちも失敗するとどうなるか、これでわかったろう。
だが、我はおまえたちを信頼しているし、失敗することはないと信じている。
また次の機会にここに集まれ。それまで部屋で待機していたまえ」
王がその場を後にした。
残された他のメンバーは、おのおのに安堵のため息をついたり、さらなる不安に駆られたりした。
「フッ。いいざまです。当然の報いだったんですよ」フレイという男がいった。
C「あたしは失敗しないわ。フェンリルとは違うんだし♪」
A「次の命令が下るまで、部屋に戻るとしよう。我々にも、やるべきことがある」
3人はそれぞれの部屋へ戻っていった。
◇◇
王もまた部屋に戻った。
周辺には厳重に兵を置き、何人たりとも侵入を許さないようにしていた。
明かりのない冷たい部屋だった。
いくつかの部屋が繋がっており、公務をする部屋、食事をする部屋など、目的に応じて使い分けていた。
そして一番奥にある寝室には、先日牢から出したばかりの息子を寝かしていた。
まだ体力が回復しておらず、あれからずっと深い眠りについている。
あまりにも身なりが汚れていたので、風呂できれいに体を洗い、髪を切りそろえ、香水もつけさせた。
目が覚めれば食事で栄養をつけさせ、トレーニングもさせ、やがては皆と同じようにローブを着せる手筈だ。
なぜなら、“光の使者”を殺すには十分すぎる力を持っているのだから。
「早く、お前が目覚める日が来ないものか……」
窓から差し込む月明かりが、息子の銀色の髪を照らしていた。
王はベッドに近づき、髪を優しくなでた。髪から頰、そして顎と輪郭に沿って指を滑らせた。
まぶたは重く閉じられており、微かな寝息が聞こえてくる。
「お前が目覚めれば、この世界はいずれ私のものになろう。
かつて我々を脅かした者たちは、もう存在しない。
お前がここにいることが、その証明だ。“聖なる竜”の時代が、まもなく到来するのだ! 」
王は息子の顎から喉、そして鎖骨へと指をなぞらせていく。
毛布をめくり、心臓の上に手を当てた。一定の速さで鼓動しているのが伝わる。
王はベッドにあがると、息子の上に覆いかぶさった。ベッドが何度も軋む。
開け放たれた窓から、冷たい夜風が吹き込んできた。
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