第36話 新しい旅立ち
【前回までのあらすじ】
リンのトパーズが光り、2人の力で魔獣のフェンリルを退けることができた。
その後アルスは倒れてしまう。
カストルの力も借りて、旅一座のテントへ運ぶことにした。
目がさめると、窓から光が差し込んでいた。顔を動かすと、リンの姿が見えた。
「リン……」
リンは安心したようにほほえんだ。
「アルスさん……。よかった、目が覚めて。今カストルさんを呼んできますね」
リンがその場を離れた。
アルスは上体を起こした。暖かな毛布をかけられている。
それにこの場所は……。おそらく旅一座のテントの中だろう。
手を動かすと少し痛みが走った。そういえば狼に噛まれて……。
でも、リンのトパーズが光ったときに、傷が癒えたような……。
「アルス、目が覚めたのか! 」
カストルが息を切らしながら入ってきた。
「カストル! 」
アルスは久しぶりにカストルを見た気がして、嬉しくなった。
「おいおい、起きてて大丈夫か? まだ寝てないとだめだって」
アルスは無理やり横にさせられた。
「僕、あれから何が……? 」
「あのあと、アルスさんは倒れてしまわれたんです」
リンが繋いだ。
「すぐにカストルさんが戻ってこられたので、一緒に私たちのテントまで運んでもらいました」
「もー! びっくりしたんだからなアルス!
あそこにリンお嬢様がいなけりゃ、今頃どうなってたことか……」
カストルはへなへなとアルスの布団にもたれかかった。よほど心配していたようだ。
「そうだ。街の人や、一座の人は? 」
「街の人は全員無事です。
アルスさんが狼の侵入を食い止めてくださったので、皆早めに避難することができたんです。
カストルさんも一生懸命誘導してくださったので、私たちも安全な場所に逃げきることができました。
本当に、お2人になんとお礼を言えばいいか……」
リンは目を潤ませながら感謝の気持ちを伝えてくれた。
アルスは逆に申し訳ない気持ちになった。
「いや、僕は何もできなかったんだよ。リンが助けにきてくれてなければ……」
「私、団長たちに知らせてきますね! 」
リンは涙をぬぐいながら、テントをあとにした。
ここで、いまいち状況が掴めていないカストルが聞いた。
「アルス、昨日僕が来るまでに、一体何があったんだい?
リンちゃんに聞いても、何も教えてくれなくて……」
アルスはカストルに、昨夜あった出来事を話した。
狼を操る“魔獣のフェンリル”が現れたこと。彼は“闇の使者”だということ。
「“闇の使者”……? なんだよそれ。なんでそんなやつに命を狙われないといけないんだ」
「どうやら、僕たちの存在を消したい人たちがいるらしい。
“俺たち”って言ってたから、他にも仲間がいるのかもしれない」
「ふーん……。それで、そのあとは? 」
アルスは話を続けた。絶対絶命のときに、リンが助けにきてくれたこと。
トパーズが光り、バリアが張られ、傷が癒えたこと。フェンリルを倒したこと。
「マジか! リンちゃんがトパーズの持ち主で、本物の“光の使者”だったのか!
やったー! ついに1人目を探し出せたんだ!
でもさ、リンちゃんは旅一座のメンバーだし、僕たちと一緒についてきてくれるかな……」
そこへリンが団長たちを連れてきた。他のメンバーも一緒だった。
「おお、目が覚めたか! よかったよかった。心配していたんだよ。狼にやられたかと思ってな」
「街の人たちも感謝してたわよ」とミレニア。「誰1人襲われることも、街を破壊されることもなかったからね」
「お前はリンだけでなく、この街も救ったんだ。大したやつだよ! 」
団長はハハハハと笑いながら、アルスの背中をバッシバッシ叩いた。
「だ、団長……。痛いです……」
「あの、団長……」
カストルが話を切り出した。
「昨夜、怪我を負ったアルスを助けてくれたのは、リンさんなんです!
リンさんがいなかったら、アルスはどうなってたことか……。
本当にお礼を言わなきゃいけないのは、リンさんの方なんです! 」
「何? リンが? ……昨日、急に姿を消したと思ったら、まさか助けにいってたのか? 狼がいるのに? 」
「ご、ごめんなさい……。どうしても気になってしまって」
リンは萎縮して顔をうつむけた。
ペンダントをギュッと握りしめている。
「みんなと一緒に避難してたけど、急に嫌な予感がして……。
もしかしたら、狼に襲われてるんじゃないかと思って……。
だってアルスさんは私の命の恩人だし、私、何もお礼ができてないままだし。
私にも何かできるんじゃないかと思って、飛び出してきてしまったの」
リンは目頭を赤くして耐えていたが、こらえきれずに泣き出した。
「……本当にごめんなさい! 」
団長は大きくため息をついた。
「ハァ……。全くお前ってやつは……」
他のメンバーも気まずそうに、リンと団長を見比べることしかできなかった。
アルスとカストルも、フォローすべきだと思ったが、言葉が出てこなかった。
「よし、わかった! 」
団長が威勢良く言い切った。
「リン! この一座を抜けて、2人と一緒に旅をしなさい! 」
あまりにも予想外の決断だった。
一座のメンバーは「ええええええー! 」と叫び、リンも驚いて言葉がでないといった様子だった。
アルスとカストルもポカーンとするしかなかった。団長は続けた。
「お前は“シレヌの宴”にとってかけがえのない一員だ。
メンバーからも、お客さんからも愛されている存在だ。
だが、彼らの旅にお前の存在が必要なようだ。
お前が彼を助けたいと思ったのは、神様のお導きに違いない。
せっかく与えられたお導きを、無駄にしてなるものか。
旅がひと段落するまで、一緒にいてあげなさい。
全てが終われば、またここに戻っておいで。
我々はいつでも、お前の帰りを待っているからね」
「だ……団長ぉ……」
リンは涙をボロボロ流し、団長に抱きついた。
「あ……ありがとうございます……。私、必ず戻ってきますからっ……」
「ああ、約束だ。ちょっとの間、寂しくなるがな……」
団長はこっそり涙を拭った。
他のメンバーも涙を流し、温かい笑顔でリンを取り囲んでいた。
◇◇
そのあと、旅一座は荷物を全てまとめ、馬車に乗り込んだ。
「あなたたちには世話になったわね。リンを、よろしく頼むわね」
ミレニアが馬車の荷台から身を乗り出して言った。
「はい、もちろんです」
「私たちはこのあと南へ行くの。旅をしていたら、またどこかで会えるかもね。
リン……。しばらく会えなくなるのは寂しいけど、またね」
「うん、ミレニア……。それにみんなも、元気でね」
団長がアルスのそばにやってきた。
「私のわがままで申し訳ないが、ちょっとの間、リンのことを頼んだよ。
この子は本当にいい子だ。きっとお前たちの力になるだろう」
「はい、リンさんは、必ずお守りしますので」
「すまないね。……それとお前さん、アルス、といったか。
どこかで聞いたことのある名だと思えば、昔エルディシアに生まれた王子の名前と一緒だな。
ひょっとしてお前さん、もしかして……」
「そ、そんなはずないですよ。
僕は田舎の出身ですし、たまたま名前が同じだけですって」
アルスは不自然を感じさせないように否定した。
「ハハハ。そうだよな。じゃ、リンをよろしくな」
一座は馬車を発進させ、街を出て行った。
メンバーがいつまでも手を振ってくれていた。
「よし、僕たちも行こうぜ。アルスが眠ってる間、道具屋でいろいろ揃えてきたんだ」
カストルが嬉しそうに買い物袋を見せてきた。
「ありがとうカストル。リン、これからよろしくね! 」
「はい! よろしくお願いします。アルスさん、カストルさん」
リンは勢いよくお辞儀をした。
「その、さ。もう仲間なんだから、もっとフランクにいかない? 」
カストルが提案した。
「そうですか……? じゃあ、アルス君にカストル君! よろしくね」
「あ、うん……そんな感じでOKっス……」
そんなこんなで3人が街を出ようとした時だった。
「カストル様、アルス様。こんなところにいらしたのですか! 」
「……えっ? 」
ふりかえると、ラオンダール軍の分隊が隊列を組んで3人の真後ろに立っていた。
「あなた方と共に旅をするよう命じられた、兵長Cですよ。
突然城からいなくなるので、街中探し回ったんですからね!
もしかしてと思い、セイガに来てみれば……。全く、あなた方というのは……。
ここから先は我々も同行いたしますので、決して途中で消えないでくださいね」
……そうだった。ラインバルドを出発する際、2人で先に抜け出してしまっていたのだった。
この場に及んで、まんまとみつかってしまったわけだ。
「あはは、ごめんね、心配かけて〜」
カストルが軽く謝った。
「さあ、後ろの馬車にお乗りください。我々がお守りしますので! 」
こうして、兵長Cの分隊と合流したアルスたち。
新たに加わったリンと共に、新しい旅が始まった。
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