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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第6章 花の街セイガ
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第36話 新しい旅立ち

【前回までのあらすじ】


リンのトパーズが光り、2人の力で魔獣のフェンリルを退けることができた。

その後アルスは倒れてしまう。

カストルの力も借りて、旅一座のテントへ運ぶことにした。

 目がさめると、窓から光が差し込んでいた。顔を動かすと、リンの姿が見えた。


「リン……」


 リンは安心したようにほほえんだ。


「アルスさん……。よかった、目が覚めて。今カストルさんを呼んできますね」


 リンがその場を離れた。

 アルスは上体を起こした。暖かな毛布をかけられている。

 それにこの場所は……。おそらく旅一座のテントの中だろう。

 手を動かすと少し痛みが走った。そういえば狼に噛まれて……。

 でも、リンのトパーズが光ったときに、傷が癒えたような……。


「アルス、目が覚めたのか! 」


 カストルが息を切らしながら入ってきた。


「カストル! 」


 アルスは久しぶりにカストルを見た気がして、嬉しくなった。


「おいおい、起きてて大丈夫か? まだ寝てないとだめだって」


 アルスは無理やり横にさせられた。


「僕、あれから何が……? 」


「あのあと、アルスさんは倒れてしまわれたんです」


 リンが繋いだ。


「すぐにカストルさんが戻ってこられたので、一緒に私たちのテントまで運んでもらいました」


「もー! びっくりしたんだからなアルス!

あそこにリンお嬢様がいなけりゃ、今頃どうなってたことか……」


 カストルはへなへなとアルスの布団にもたれかかった。よほど心配していたようだ。


「そうだ。街の人や、一座の人は? 」


「街の人は全員無事です。

アルスさんが狼の侵入を食い止めてくださったので、皆早めに避難することができたんです。

カストルさんも一生懸命誘導してくださったので、私たちも安全な場所に逃げきることができました。

本当に、お2人になんとお礼を言えばいいか……」


 リンは目を(うる)ませながら感謝の気持ちを伝えてくれた。

アルスは逆に申し訳ない気持ちになった。


「いや、僕は何もできなかったんだよ。リンが助けにきてくれてなければ……」


「私、団長たちに知らせてきますね! 」


 リンは涙をぬぐいながら、テントをあとにした。

 ここで、いまいち状況が掴めていないカストルが聞いた。


「アルス、昨日僕が来るまでに、一体何があったんだい?

リンちゃんに聞いても、何も教えてくれなくて……」


 アルスはカストルに、昨夜あった出来事を話した。

 狼を操る“魔獣のフェンリル”が現れたこと。彼は“闇の使者”だということ。


「“闇の使者”……? なんだよそれ。なんでそんなやつに命を狙われないといけないんだ」


「どうやら、僕たちの存在を消したい人たちがいるらしい。

“俺たち”って言ってたから、他にも仲間がいるのかもしれない」


「ふーん……。それで、そのあとは? 」


 アルスは話を続けた。絶対絶命のときに、リンが助けにきてくれたこと。

トパーズが光り、バリアが張られ、傷が癒えたこと。フェンリルを倒したこと。


「マジか! リンちゃんがトパーズの持ち主で、本物の“光の使者”だったのか!

やったー! ついに1人目を探し出せたんだ!

でもさ、リンちゃんは旅一座のメンバーだし、僕たちと一緒についてきてくれるかな……」


 そこへリンが団長たちを連れてきた。他のメンバーも一緒だった。


「おお、目が覚めたか! よかったよかった。心配していたんだよ。狼にやられたかと思ってな」


「街の人たちも感謝してたわよ」とミレニア。「誰1人襲われることも、街を破壊されることもなかったからね」


「お前はリンだけでなく、この街も救ったんだ。大したやつだよ! 」


 団長はハハハハと笑いながら、アルスの背中をバッシバッシ叩いた。


「だ、団長……。痛いです……」


「あの、団長……」


 カストルが話を切り出した。


「昨夜、怪我を負ったアルスを助けてくれたのは、リンさんなんです!

リンさんがいなかったら、アルスはどうなってたことか……。

本当にお礼を言わなきゃいけないのは、リンさんの方なんです! 」


「何? リンが? ……昨日、急に姿を消したと思ったら、まさか助けにいってたのか? 狼がいるのに? 」


「ご、ごめんなさい……。どうしても気になってしまって」


 リンは萎縮(いしゅく)して顔をうつむけた。

 ペンダントをギュッと握りしめている。


「みんなと一緒に避難してたけど、急に嫌な予感がして……。

もしかしたら、狼に襲われてるんじゃないかと思って……。

だってアルスさんは私の命の恩人だし、私、何もお礼ができてないままだし。

私にも何かできるんじゃないかと思って、飛び出してきてしまったの」


 リンは目頭を赤くして耐えていたが、こらえきれずに泣き出した。


「……本当にごめんなさい! 」


 団長は大きくため息をついた。


「ハァ……。全くお前ってやつは……」


 他のメンバーも気まずそうに、リンと団長を見比べることしかできなかった。

 アルスとカストルも、フォローすべきだと思ったが、言葉が出てこなかった。


「よし、わかった! 」


 団長が威勢良く言い切った。


「リン! この一座を抜けて、2人と一緒に旅をしなさい! 」



 あまりにも予想外の決断だった。

 一座のメンバーは「ええええええー! 」と叫び、リンも驚いて言葉がでないといった様子だった。

 アルスとカストルもポカーンとするしかなかった。団長は続けた。


「お前は“シレヌの宴”にとってかけがえのない一員だ。

メンバーからも、お客さんからも愛されている存在だ。

だが、彼らの旅にお前の存在が必要なようだ。

お前が彼を助けたいと思ったのは、神様のお導きに違いない。

せっかく与えられたお導きを、無駄にしてなるものか。

旅がひと段落するまで、一緒にいてあげなさい。

全てが終われば、またここに戻っておいで。

我々はいつでも、お前の帰りを待っているからね」


「だ……団長ぉ……」


 リンは涙をボロボロ流し、団長に抱きついた。


「あ……ありがとうございます……。私、必ず戻ってきますからっ……」


「ああ、約束だ。ちょっとの間、寂しくなるがな……」


 団長はこっそり涙を(ぬぐ)った。

 他のメンバーも涙を流し、温かい笑顔でリンを取り囲んでいた。


◇◇


 そのあと、旅一座は荷物を全てまとめ、馬車に乗り込んだ。


「あなたたちには世話になったわね。リンを、よろしく頼むわね」


 ミレニアが馬車の荷台から身を乗り出して言った。


「はい、もちろんです」


「私たちはこのあと南へ行くの。旅をしていたら、またどこかで会えるかもね。

リン……。しばらく会えなくなるのは寂しいけど、またね」


「うん、ミレニア……。それにみんなも、元気でね」


 団長がアルスのそばにやってきた。


「私のわがままで申し訳ないが、ちょっとの間、リンのことを頼んだよ。

この子は本当にいい子だ。きっとお前たちの力になるだろう」


「はい、リンさんは、必ずお守りしますので」


「すまないね。……それとお前さん、アルス、といったか。

どこかで聞いたことのある名だと思えば、昔エルディシアに生まれた王子の名前と一緒だな。

ひょっとしてお前さん、もしかして……」


「そ、そんなはずないですよ。

僕は田舎の出身ですし、たまたま名前が同じだけですって」


アルスは不自然を感じさせないように否定した。


「ハハハ。そうだよな。じゃ、リンをよろしくな」


 一座は馬車を発進させ、街を出て行った。

 メンバーがいつまでも手を振ってくれていた。


「よし、僕たちも行こうぜ。アルスが眠ってる間、道具屋でいろいろ揃えてきたんだ」


 カストルが嬉しそうに買い物袋を見せてきた。


「ありがとうカストル。リン、これからよろしくね! 」


「はい! よろしくお願いします。アルスさん、カストルさん」


 リンは勢いよくお辞儀をした。


「その、さ。もう仲間なんだから、もっとフランクにいかない? 」


 カストルが提案した。


「そうですか……? じゃあ、アルス君にカストル君! よろしくね」


「あ、うん……そんな感じでOKっス……」


 そんなこんなで3人が街を出ようとした時だった。



「カストル様、アルス様。こんなところにいらしたのですか! 」



「……えっ? 」


 ふりかえると、ラオンダール軍の分隊が隊列を組んで3人の真後ろに立っていた。


「あなた方と共に旅をするよう命じられた、兵長Cですよ。

突然城からいなくなるので、街中探し回ったんですからね!

もしかしてと思い、セイガに来てみれば……。全く、あなた方というのは……。

ここから先は我々も同行いたしますので、決して途中で消えないでくださいね」


 ……そうだった。ラインバルドを出発する際、2人で先に抜け出してしまっていたのだった。

この場に及んで、まんまとみつかってしまったわけだ。


「あはは、ごめんね、心配かけて〜」


 カストルが軽く謝った。


「さあ、後ろの馬車にお乗りください。我々がお守りしますので! 」


 こうして、兵長Cの分隊と合流したアルスたち。

 新たに加わったリンと共に、新しい旅が始まった。

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