第33話 狼の奇襲
【前回までのあらすじ】
旅一座のテントで、座員たちに囲まれて質問攻めにあうアルスたち。
そんな中リンはアルスを呼び、「大切なお守り」だという、トパーズのペンダントを見せる。
しかし混み入ったことはきけなかったアルス。
公演後、再びリンを訪ねようと誓うのだった。
やがて陽も沈み、空に星が輝きだした頃、公演が始まった。
団長がシルクハットをかかげながら、威勢良く舞台に登場した。
「レディィーース・エーンド・ジェントルメェーーーン!
セイガに月の美しい夜がやってきました。
さあ、今宵我々を楽しませてくれるのは、どんな子たちかな?
イッツ・ショーーーー・ターーーーイム!」
団長が観客を盛り上げた後、舞台に登場したのは5人の踊り子たちだった。
カラフルなスカートをひらめかせて、円を描くように踊っている。
まるで花畑に舞い降りる蝶のように軽やかで華やかなダンスだった。
アルスたちは客席には座らず、一番後ろで立ち見をすることにした。
今日がセイガで最後の公演ということで満員御礼で座れないのもあるが、それよりも胸騒ぎがしていたのだ。
その根拠はよくわからなかったが、ここからならすり鉢状につくられた客席や舞台も見渡せるし、なにより万が一に備えてすぐに動き出せる位置だった。
街人や旅人が一斉に広場に集まる今、敵がこの街を襲い、甚大な被害を招くには十分な要素を持ち合わせているのだ。
カストルには舞台をみながら同時に客席も見渡してもらい、異変が起こればすぐ知らせてもらうように言った。
アルスは逆に客席の後方や広場の周りや市街地など、周りの景色に視界を移すことにした。
ショーは盛り上がりを見せ、客席からは昨夜以上の歓声が起こっていた。
スーツを着た男性がナイフを用いてハラハラするようなショーをしていたり、華奢な少女が背の高い一輪車を華麗に乗り回していたりと、今回も見応え満点の内容だった。
◇◇
「さぁーてみなさん、ここまでのショーは楽しんでいただけましたかな? 」
団長のアナウンスに、客席から嵐のような拍手や歓声があがった。
アルスたちも思わず舞台に目をやった。
「セイガ公演もいよいよ次でラストです。今宵、最後を飾るのは――……! 」
……オオーーン
どこからか遠吠えが聞こえた。
しかし聞こえるか聞こえないかで誰も気に留めていなかった。
アオオーーン
アオオオオオーーン
繰り返し吠えているうちに、だんだんそれがはっきり認識できる声量になり、さすがに観客もざわつきはじめた。
団長を含め一座のメンバーも、舞台袖から顔を出して様子を伺いだした。
アルスは客席から離れ、広場を見渡した。胸がざわざわする。背中の杖も、心なしか熱を帯びている気がする。
アオオオオオオーーーーーーーン!!!!
とびきり大きな遠吠えが聞こえた。
それを合図に、広場を取り囲むように狼の大群がヌッと姿を現した。――その数、数十匹。
「狼だ!!」
客席の1人が大声で叫ぶと、人々は一堂に悲鳴をあげた。
慌てて客席から出ようとする者、何かにつまずいて転ぶ者、踏まれたりひっかかれたりして怪我を負う者、パートナーとはぐれてしまう者……。
「狼だ! 」「囲まれてる! 」「喰われるぞ! 」「助けてえええ」
客席は修羅場と化し、大混乱に陥ってしまった。
「みなさん落ち着いて! 落ち着いてください! 」
団長が舞台から大声で叫ぶが、その声も悲鳴や叫び声にかき消され意味をなさなかった。
と、そこへ……。
美しい歌声が広場中に響き渡った。
観客が一堂にピタリと動きを止めておとなしくなり、声が聞こえてきた方へ目をやった。
舞台には、リンが立っていた。
リンは優しく話しかけるような口調でしゃべった。
「みなさん、落ち着いてください。狼は、まだこちらにはやってきません。
今から私たちが、みなさんを安全な場所へお連れいたします。
一座のメンバーが後方におりますので、後ろの席の方から順についてきてください。
近くの教会や酒場が解放されておりますので、今からそちらへお連れします。
狼は建物を破ってくることはありません。扉を固く閉じていれば安全です。
さあ、みなさん、ゆっくりと席を離れて、私たちについてきてください」
効果は絶大だった。
あれほどまでパニックに陥っていた人々が、大人しくリンの言うことに従い、列を作って客席から出て行くのだ。
客席の後方にスタンバイしていた一座のメンバーが、1人1人手を取り、介抱しながら、人々を街へ誘導した。
「すげえ。リンすげえよ! 」
カストルは大興奮して喜んだ。アルスも思わず感心した。
「僕たちも手伝おうよアルス! 」
「そうだね。じゃあ、カストルはみんなの手伝いをお願い! 街の人を安全なところに避難させるんだ」
「うん、わかった。……で、アルスはどうするの? 」
アルスはカストルに背を向け、狼たちと向き合った。
「僕は、狼たちの足止めをする。時間稼ぎくらいにはなるだろう」
◇◇
狼たちは1歩、また1歩と様子を伺いながらも、距離を詰めてきていた。
おびただしい数の赤い目がギラギラと輝き、不気味にゆらめいている。
口からは生暖かい息を吐き、鋭利な牙が月明かりに反射して白く光っていた。
カストルは事情を察した。
「わかった! ……くれぐれも無理はしないで。………僕もすぐに戻ってくるから! 」
「ありがとう。カストルも気をつけて! 」
カストルは足早にそこを離れ、街の人々の誘導に回った。
アルスは背中から杖を取り出した。
月明かりに反射し、金色の柄がまばゆく光る。
狼たちは逃げゆく街の人を目で追い続けていたが、アルスが杖を出したのを見つけると、即座に標的を絞ったかのように近づいてきた。
「ここから先は、行かせない! 」
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