第32話 大切なお守り
【前回までのあらすじ】
宝石の有力情報を集めるため、街を散策するアルスたち。
酒場から出たところで、買い出しをしていたリンと鉢合わせする。
リンが「みんなに紹介したい」というので、旅一座のテントへ向かうことになった。
やがて3人は“シレヌの宴”のテントがある入り口へ到着した。
「ほら、入って入って」
リンがアルスたちを手招きする。
本当に入ってもいいのだろうか、と躊躇するアルスとは裏腹に、カストルはそそくさと中に入っていく。
アルスは先が思いやられると思いつつも、誘われるままに入り口をくぐった。
◇◇
舞台の裏側は、真ん中に広々としたスペースが確保されており、その周りを囲うように各メンバーが休むテントが設置されていた。
メンバーは各々技を練習したり、新しい大道具を作ったりしていた。
「みんなー! 紹介したい人がいるの」
リンがメンバーに向かって叫んだ。
メンバーは各々リンの方に視線を移し、近づいてきた。
「なんだなんだ、リンの彼氏か? 」
「男が2人いるぞ」
リンはひととおり集まったのをみて、2人を紹介した。
「私の命の恩人の、アルスさんとカストルさんです! 」
「命の恩人? 」
「どういうこと? 」
騒ぎを聞きつけてか、奥のテントから団長と思しき人物ものっそりと現れた。
「ああ? 誰だそいつは? ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだぞ」
「団長! 私の命の恩人なんです。……みんなにどうしても紹介したくって」
「命の恩人? 一体どういうことだリン? 」
「帝都にいたときに、兵隊に追われてたところを、アルスさんが助けてくれたんです。それと昨夜も……」
「ああー! だ、団長ぉ。彼らですよぉ。昨日、リンさんに会いにきたのって」
そばにいた若手が思い出したように叫んだ。
「な、なにぃ!? 」
団長がズカズカと2人の前にやってきた。
近くでみるとなかなか迫力があるこの男性、昨日舞台でシルクハットをかぶって、メンバー紹介をしていた人物だった。
「おまえら、……よくわからんが、リンを助けてくれたんだな。その節は感謝する。
だが何度もいうが、ここは関係者以外……」
「ねーねー、お兄ちゃんたちも旅をしてるのー? 」
双子のナリーとダリーが団長を押しのけて近づいてきた。
「おわっと、お前ら……」
抵抗する団長だったが、他のメンバーも我も我もと好奇心で2人に近づくので、自然と輪から追い出されてしまった。
「……勝手にしろい! 」
団長は怒りながら元のテントへ戻っていった。
そんなことはおかまいなしに、メンバーたちはあれやこれや質問攻めをしてきた。
「お兄ちゃんはどうやってリンを助けたのー? 」
「リンのことどう思ってるのー? 」
ナリーとダリーはピョコピョコ飛び跳ねたり、足元をぐるぐる回ったりした。
「あら、そちらの坊やはなかなか可愛らしい顔をしてるじゃない。私タイプかもぉ」
間髪入れずカストルの顔をなでてきたのは、ミレニアだ。
カストルは顔を真っ赤にして固まってしまった。
「ははは、カストルは女性に弱いみたいなんです」
アルスは苦笑いした。
「なかなか良さそうな人たちじゃないか。リンもいい人に助けられたんだね」
アルスの背後から声をかけてきたのは、化粧をする前のポピーだった。
あのメイクからは想像もできないような、なかなかの好青年ではないか。
カストルがミレニアを含め、メンバーにもみくちゃにされている間、ふと、リンがアルスの手をひいた。
「こっちにきて。見せたいものがあるの」
◇◇
案内されたのは、綺麗に整頓されたテントの中だった。
入り口付近には、ファンからの贈り物であろう、綺麗な花束が3つほど飾られていた。
「ここは、私とミレニアが共同で使っているテントなの。
ミレニアは香水が好きで、よくふきかけてくれるの。ほら、いい香りがするでしょ」
「うん、素敵だね」
テントには綺麗にたたまれた毛布の他、ミレニアのものと思われるいくつもの香水が並べられていた。
煌びやかなアクセサリー類も、ミレニアのものだろう。
「アルスさんに見せたいのは、これよ」
リンは首からペンダントを取り出した。
トップにオレンジ色の宝石がついており、宝石を取り囲むように、ゴールドの装飾が施されている。
――この宝石、もしかして……。
「そ、それは……? 」
アルスは早まる気持ちを抑えつつ、リンの話に耳を傾けることにした。
「これは、私の大切なお守りなの。
10歳の誕生日のときに、団長から教えてもらったんだけど、私、赤ちゃんのときに、この一座に預けられたみたいなの。
その時に、このペンダントも一緒だったみたいなんだけど、ずっと大事ににぎって離さなかったみたい。
当時の話を聞いた時は、ショックを受けて舞台に立てない時もあったの。
でも、これが私と両親をつなぐ唯一のものだと思うと、自然と気持ちが落ち着いてくるの。
つらいことがあっても、誰かに守られてるような気がして。
なんだか不思議よね……」
「リン……」
「ごめんね、変な話をして。でも、アルスさんになら話しても大丈夫だと思ったの」
リンはペンダントを戻し、にっこり笑った。
「私、大人になったら、両親に会いに行こうと思ってるの。
手がかりはまだ掴めてないけど、こうして世界中旅してるんだし、いつかきっと会えると信じてるの。
それに私ね、アルスさんと出会えたのも、偶然じゃないと思ってるの」
リンはここで少し言葉をつまらせた。
「なんていうか……ずっと前から決まってたような気がするの。うまく言えないけども」
リンはふふっと、微笑んだ。
「ありがとう、リン。大切な話をしてくれて」
「ええ。……さあ、戻りましょう。
いっけない。カストルさん、ミレニアに襲われてないかしら。
彼女、年下の子が大好物だから」
みんなのところに戻ると、案の定カストルの周りには人が集まり、大変な賑わいをみせていた。
ふとカストルが助けを求める視線を投げかけてきたが、アルスは気づかないふりをした。
◇◇
やがて夕方になり、一座のメンバーも夜の公演にむけて慌ただしく準備をし始めた。
アルスたちは邪魔にならないよう、おいとますることにした。
入り口でリンが見送ってくれた。
「来てくれてありがとう。みんなも気に入ってくれたみたいでよかった。
今夜も、ぜひ見ていってね。昨日と内容を変えてるから、絶対楽しんでもらえるはずだから」
「ありがとう。リンも出るんでしょ? 」
頰に赤いキスマークのついているカストルが、顔を赤くしながら聞いた。
「ううん、今日は裏方に徹するの。みんなのサポートをする番よ」
「そっか。気をつけてね」
「ありがとう。それじゃあ、またね」
リンと別れたあと、2人はまだ空席の目立つ客席を眺めながら、広場を歩いた。
アルスは、カストルに言った。
「カストル、あのさ。ちょっといいかな」
「なんだい? 2人していなくなってさ。抜け駆けは良くないよね」
カストルは頰のキスマークを落としながら、ムスッとして答えた。
「ご。ごめんって。それで、そのことなんだけど……」
アルスはリンが聞かせてくれた過去のこと、そしてリンがつけていたペンダントが、トパーズかもしれないことを伝えた。
カストルは大変驚いたようだが、すぐ神妙な顔つきに変わった。
「トパーズって、行方がわかってない宝石だったよね。
なんでリンが持ってるんだろう? 」
カストルはうーん、と考え込んだ。
「混み入ったことまでは聞けなかったんだ。
でも、あれが本当にトパーズだった場合……」
「両親とリンをつなぐ大切なお守り、なんだよね。
もし本物のトパーズだったとしても、そう簡単に譲ってもらえなさそうだし……。
それに、リンが“光の使者”かどうかもわからないよね。ていうか、見分ける方法もわからないし」
「そうなんだ……。そうだカストル、公演が終わった後、もう一度リンを訪ねてみよう。
リンが自分の過去を明かしてくれたように、僕らの旅の目的も明かしてみようじゃないか。
そうしたら、何かわかるかもしれない」
「うーん……一か八か、やってみるか! 」
広場には今宵の公演を見ようと、ちらほらと人が集まってきていた。
◇◇
夕暮れに染まるセイガの街を、小高い丘から眺める男がいた。
その者を守るかのように、狼たちが何匹も取り巻いている。
「いいかおまえたち。あの街から“光の使者”を探すんだ。
手足を噛みちぎってもいいし、息の根を止めてもいい。
あとで褒美を取らせてやる」
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