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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第6章 花の街セイガ
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第32話 大切なお守り

【前回までのあらすじ】


宝石の有力情報を集めるため、街を散策するアルスたち。

酒場から出たところで、買い出しをしていたリンと鉢合わせする。

リンが「みんなに紹介したい」というので、旅一座のテントへ向かうことになった。

 やがて3人は“シレヌの宴”のテントがある入り口へ到着した。


「ほら、入って入って」


 リンがアルスたちを手招きする。

 本当に入ってもいいのだろうか、と躊躇(ちゅうちょ)するアルスとは裏腹に、カストルはそそくさと中に入っていく。

 アルスは先が思いやられると思いつつも、誘われるままに入り口をくぐった。


◇◇


 舞台の裏側は、真ん中に広々としたスペースが確保されており、その周りを囲うように各メンバーが休むテントが設置されていた。

 メンバーは各々技を練習したり、新しい大道具を作ったりしていた。


「みんなー! 紹介したい人がいるの」


 リンがメンバーに向かって叫んだ。

 メンバーは各々リンの方に視線を移し、近づいてきた。


「なんだなんだ、リンの彼氏か? 」

「男が2人いるぞ」


 リンはひととおり集まったのをみて、2人を紹介した。


「私の命の恩人の、アルスさんとカストルさんです! 」


「命の恩人? 」

「どういうこと? 」


 騒ぎを聞きつけてか、奥のテントから団長と思しき人物ものっそりと現れた。


「ああ? 誰だそいつは? ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだぞ」


「団長! 私の命の恩人なんです。……みんなにどうしても紹介したくって」


「命の恩人? 一体どういうことだリン? 」


「帝都にいたときに、兵隊に追われてたところを、アルスさんが助けてくれたんです。それと昨夜も……」


「ああー! だ、団長ぉ。彼らですよぉ。昨日、リンさんに会いにきたのって」


 そばにいた若手が思い出したように叫んだ。


「な、なにぃ!? 」


 団長がズカズカと2人の前にやってきた。

 近くでみるとなかなか迫力があるこの男性、昨日舞台でシルクハットをかぶって、メンバー紹介をしていた人物だった。


「おまえら、……よくわからんが、リンを助けてくれたんだな。その節は感謝する。

だが何度もいうが、ここは関係者以外……」


「ねーねー、お兄ちゃんたちも旅をしてるのー? 」


 双子のナリーとダリーが団長を押しのけて近づいてきた。


「おわっと、お前ら……」


 抵抗する団長だったが、他のメンバーも我も我もと好奇心で2人に近づくので、自然と輪から追い出されてしまった。


「……勝手にしろい! 」


 団長は怒りながら元のテントへ戻っていった。

 そんなことはおかまいなしに、メンバーたちはあれやこれや質問攻めをしてきた。


「お兄ちゃんはどうやってリンを助けたのー? 」

「リンのことどう思ってるのー? 」


 ナリーとダリーはピョコピョコ飛び跳ねたり、足元をぐるぐる回ったりした。


「あら、そちらの坊やはなかなか可愛らしい顔をしてるじゃない。私タイプかもぉ」


 間髪入れずカストルの顔をなでてきたのは、ミレニアだ。

 カストルは顔を真っ赤にして固まってしまった。


「ははは、カストルは女性に弱いみたいなんです」


 アルスは苦笑いした。


「なかなか良さそうな人たちじゃないか。リンもいい人に助けられたんだね」


 アルスの背後から声をかけてきたのは、化粧をする前のポピーだった。

 あのメイクからは想像もできないような、なかなかの好青年ではないか。


 カストルがミレニアを含め、メンバーにもみくちゃにされている間、ふと、リンがアルスの手をひいた。


「こっちにきて。見せたいものがあるの」


◇◇


 案内されたのは、綺麗に整頓されたテントの中だった。

 入り口付近には、ファンからの贈り物であろう、綺麗な花束が3つほど飾られていた。


「ここは、私とミレニアが共同で使っているテントなの。

 ミレニアは香水が好きで、よくふきかけてくれるの。ほら、いい香りがするでしょ」


「うん、素敵だね」


 テントには綺麗にたたまれた毛布の他、ミレニアのものと思われるいくつもの香水が並べられていた。

 (きら)びやかなアクセサリー類も、ミレニアのものだろう。


「アルスさんに見せたいのは、これよ」


 リンは首からペンダントを取り出した。

 トップにオレンジ色の宝石がついており、宝石を取り囲むように、ゴールドの装飾が施されている。


――この宝石、もしかして……。


「そ、それは……? 」


 アルスは早まる気持ちを抑えつつ、リンの話に耳を(かたむ)けることにした。


「これは、私の大切なお守りなの。

10歳の誕生日のときに、団長から教えてもらったんだけど、私、赤ちゃんのときに、この一座に預けられたみたいなの。

その時に、このペンダントも一緒だったみたいなんだけど、ずっと大事ににぎって離さなかったみたい。

当時の話を聞いた時は、ショックを受けて舞台に立てない時もあったの。

でも、これが私と両親をつなぐ唯一のものだと思うと、自然と気持ちが落ち着いてくるの。

つらいことがあっても、誰かに守られてるような気がして。

なんだか不思議よね……」


「リン……」


「ごめんね、変な話をして。でも、アルスさんになら話しても大丈夫だと思ったの」


 リンはペンダントを戻し、にっこり笑った。


「私、大人になったら、両親に会いに行こうと思ってるの。

手がかりはまだ(つか)めてないけど、こうして世界中旅してるんだし、いつかきっと会えると信じてるの。

それに私ね、アルスさんと出会えたのも、偶然じゃないと思ってるの」


 リンはここで少し言葉をつまらせた。


「なんていうか……ずっと前から決まってたような気がするの。うまく言えないけども」


 リンはふふっと、微笑んだ。


「ありがとう、リン。大切な話をしてくれて」


「ええ。……さあ、戻りましょう。

 いっけない。カストルさん、ミレニアに襲われてないかしら。

 彼女、年下の子が大好物だから」


 みんなのところに戻ると、案の定カストルの周りには人が集まり、大変な(にぎ)わいをみせていた。

 ふとカストルが助けを求める視線を投げかけてきたが、アルスは気づかないふりをした。


◇◇


 やがて夕方になり、一座のメンバーも夜の公演にむけて慌ただしく準備をし始めた。

 アルスたちは邪魔にならないよう、おいとますることにした。

 入り口でリンが見送ってくれた。


「来てくれてありがとう。みんなも気に入ってくれたみたいでよかった。

今夜も、ぜひ見ていってね。昨日と内容を変えてるから、絶対楽しんでもらえるはずだから」


「ありがとう。リンも出るんでしょ? 」


 頰に赤いキスマークのついているカストルが、顔を赤くしながら聞いた。


「ううん、今日は裏方に(てっ)するの。みんなのサポートをする番よ」


「そっか。気をつけてね」


「ありがとう。それじゃあ、またね」


 リンと別れたあと、2人はまだ空席の目立つ客席を眺めながら、広場を歩いた。

アルスは、カストルに言った。


「カストル、あのさ。ちょっといいかな」


「なんだい? 2人していなくなってさ。抜け駆けは良くないよね」


 カストルは頰のキスマークを落としながら、ムスッとして答えた。


「ご。ごめんって。それで、そのことなんだけど……」



 アルスはリンが聞かせてくれた過去のこと、そしてリンがつけていたペンダントが、トパーズかもしれないことを伝えた。

 カストルは大変驚いたようだが、すぐ神妙(しんみょう)な顔つきに変わった。


「トパーズって、行方がわかってない宝石だったよね。

なんでリンが持ってるんだろう? 」


 カストルはうーん、と考え込んだ。


「混み入ったことまでは聞けなかったんだ。

でも、あれが本当にトパーズだった場合……」


「両親とリンをつなぐ大切なお守り、なんだよね。

もし本物のトパーズだったとしても、そう簡単に譲ってもらえなさそうだし……。

それに、リンが“光の使者”かどうかもわからないよね。ていうか、見分ける方法もわからないし」


「そうなんだ……。そうだカストル、公演が終わった後、もう一度リンを訪ねてみよう。

リンが自分の過去を明かしてくれたように、僕らの旅の目的も明かしてみようじゃないか。

そうしたら、何かわかるかもしれない」


「うーん……一か八か、やってみるか! 」


 広場には今宵(こよい)の公演を見ようと、ちらほらと人が集まってきていた。


◇◇


 夕暮れに染まるセイガの街を、小高い丘から眺める男がいた。

 その者を守るかのように、狼たちが何匹も取り巻いている。


「いいかおまえたち。あの街から“光の使者”を探すんだ。

手足を噛みちぎってもいいし、息の根を止めてもいい。

あとで褒美(ほうび)を取らせてやる」


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