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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第6章 花の街セイガ
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第34話 魔獣のフェンリル

【前回までのあらすじ】


夜の公演が始まった頃、変に胸騒ぎを覚えて立ち見をしていたアルスたち。

公演がラストに差し掛かったそのとき、狼の遠吠えと共に数十匹の狼が現れる。

リンの機転で観客を安全な場所jへ誘導している間、アルスは一人狼たちと対峙する。


 狼たちは30mほどの距離までやってきており、アルスを円形に囲んだ。

 決してアルスから目線を外さず、様子を伺いながら、確実に距離を縮めてきている。


 ふと、そのうちの1匹が(うな)り声をあげてとびかかってきた。

 アルスはとっさに杖を振った。

 杖から光の矢が放たれた。ラインバルドの城で手に入れた、太陽神ロレヌの力だ。


《あなたが闇に囲まれたとき、杖を振ると光の矢で闇を晴らすことができます》


 その1匹にあたると、狼は黒い煙となって姿を消した。

 それを引き金に、周りの狼たちも次々と襲ってきた。

 アルスが杖を横に振ると、光の矢がまとめて放たれ、数匹の狼が煙と化した。


「この狼もエルディシアの兵と同じ、闇のやつなのか? 」


 だが、1匹消えるとさらに1匹狼が現れるといった次第で、狼の数が減ることはなかった。


「き……きりがない……」


 さすがに息切れがし、体が重くなってきた。

 どうやらこの力を使うには、相応(そうおう)のエネルギーを消費するらしい。

 アルスは杖を頭上に掲げた。まばゆい光が灯り、その場にいた狼がまとめて姿を消した。

 が、思わずふらついて地面に(ひざまず)いてしまう。


 その瞬間を狙って、後ろからじわじわ迫っていた狼が、右腕にガブリと噛み付いた。


「わあああああ! 」


 鋭利な牙が容赦なく食い込んできた。

 肉を貫通し、骨がググググ…と圧迫される感覚に襲われた。

 アルスは左手の杖を思い切り狼の頭に当てた。狼はボッと煙となって消えた。


「ハァ……ハァ……。これで、全部か? 」


 周りを見渡すと、狼の姿はなかった。

 アルスはホッと安堵し、その場にへたりこんだ。

 狼に噛みつかれた右腕を見やると、激痛にあわせて患部からの出血がひどく、すぐに手や服が赤く染まった。


「そうだ、街の人は大丈夫かな……」


 アルスは劇場のある方をみた。

 幸いにも、カストルや一座のメンバーの頑張りにより、街の人の姿は1人も見られなかった。

 この様子だと、うまく避難できたようだ。


「よかった……。僕も行こう……」


 なんとか立ち上がると、杖を支えに、ゆっくりと街の方へ向かった。



――そのときだった。



「ひどいなあ……。俺の友達を消しちゃうなんて……」



 アルスはゾッと寒気がして振り向いた。

 背後の暗がりから、突如人の姿が現れたのだ。

 黒いローブをまとい、フードをすっぽりかぶっている。

 顔には黒い仮面をはめており、外見からの素性は一切わからなかった。

 仮面には爪痕(つめあと)のような模様が入っていた。男は言った。


「もしかして、君が“光の使者”ってやつ?

どんな屈強な男かと思えば、なーんだ、ただの子供(ガキ)じゃん」


 その男の後ろから、何匹もの狼が(うな)り声をあげながら姿を現した。

 アルスは気が遠くなる思いがした。


「……おまえは何者だ? 」


 アルスは静かに男に問うた。


「俺……? 俺は、フェンリル。“魔獣(まじゅう)のフェンリル”さ。

お前が“光の使者”だというなら、俺は、“闇の使者“。

お前を殺すためにここにきたのさ」


「“闇の使者“……? 」


 アルスは杖を左手で構えた。


「おっと。そんなおもちゃの杖に何ができるかな?

そんなもので俺を倒せると本気で思ってるのか?

見たところお前1人だけのようだし、とっとと殺してやろうか」


 フェンリルが指で合図を出すと、狼たちが一斉にとびかかってきた。

 アルスは杖を思い切り振った。光の矢が狼たちを次々消した。


「ははは。その攻撃もいつまで持つかねえ?

お前の体力と、俺の狼。どっちが先に尽きるかなあ? 」


 フェンリルの笑い声が響く。このままじゃ本当にキリがない。

 どうにかしてあいつに攻撃できればいいけど……。


 そのとき、グラッとめまいがして体制を崩してしまった。

 とびかかってきた狼がかすり、杖が地面に落ちてしまった。


「あ。言い忘れてたけど、この子たちの牙には毒があるんだ。

さっき噛まれたときの毒が、そろそろ回り始めてる頃じゃないかな」


――毒だって?


 アルスは右腕の傷を見た。噛まれたところが黒く変色してきている。

 アルスは地面の杖を拾おうとするが、伸ばした腕にすかさず狼が噛み付いてきた。


「わああ! 」


 続いて反対の腕や足、さらには肩や背中にも牙や爪がくいこみ、全身に激痛が走った。


「ああああああああ」


「お前たち、よくやったぞ。そのまま離すんじゃねえぞ。

あとは俺がしとめるからさ……」


 フェンリルが嬉しそうな声をあげ、ゆっくり前に立ちふさがる。

 ローブから剣を取り出した。黒く長い剣で、竜の紋章が入っていた。

 アルスはフェンリルを見上げるが、全く動けなくなっていた。

 意識が朦朧(もうろう)とし、視界がゆがみ、相手の姿さえ見えなくなっていった。

 手足の感覚も完全に失われ、真っ暗闇の中、ポツンと何かが残っているような感覚だった。


「あばよ“光の使者”」


フェンリルが剣を振り下ろした。



【お願い、守って! 】



 後ろから美しい歌声が聞こえた。

 アルスを取り押さえていた狼たちが瞬時に煙となって消えた。


「誰だ!? 」


 フェンリルが叫ぶ声がする。

 毒が体中を回り、手足も動かせず、意識も消えかけていたはずなのに、いまや視界は鮮明となり、徐々に手の感覚も戻ってきていた。

 そして、すぐそばに誰かが立っていることに気づいた。

 見上げると……。



「また、お会いしましたね」


 リンがにっこり微笑んでいた。


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