第34話 魔獣のフェンリル
【前回までのあらすじ】
夜の公演が始まった頃、変に胸騒ぎを覚えて立ち見をしていたアルスたち。
公演がラストに差し掛かったそのとき、狼の遠吠えと共に数十匹の狼が現れる。
リンの機転で観客を安全な場所jへ誘導している間、アルスは一人狼たちと対峙する。
狼たちは30mほどの距離までやってきており、アルスを円形に囲んだ。
決してアルスから目線を外さず、様子を伺いながら、確実に距離を縮めてきている。
ふと、そのうちの1匹が唸り声をあげてとびかかってきた。
アルスはとっさに杖を振った。
杖から光の矢が放たれた。ラインバルドの城で手に入れた、太陽神ロレヌの力だ。
《あなたが闇に囲まれたとき、杖を振ると光の矢で闇を晴らすことができます》
その1匹にあたると、狼は黒い煙となって姿を消した。
それを引き金に、周りの狼たちも次々と襲ってきた。
アルスが杖を横に振ると、光の矢がまとめて放たれ、数匹の狼が煙と化した。
「この狼もエルディシアの兵と同じ、闇のやつなのか? 」
だが、1匹消えるとさらに1匹狼が現れるといった次第で、狼の数が減ることはなかった。
「き……きりがない……」
さすがに息切れがし、体が重くなってきた。
どうやらこの力を使うには、相応のエネルギーを消費するらしい。
アルスは杖を頭上に掲げた。まばゆい光が灯り、その場にいた狼がまとめて姿を消した。
が、思わずふらついて地面に跪いてしまう。
その瞬間を狙って、後ろからじわじわ迫っていた狼が、右腕にガブリと噛み付いた。
「わあああああ! 」
鋭利な牙が容赦なく食い込んできた。
肉を貫通し、骨がググググ…と圧迫される感覚に襲われた。
アルスは左手の杖を思い切り狼の頭に当てた。狼はボッと煙となって消えた。
「ハァ……ハァ……。これで、全部か? 」
周りを見渡すと、狼の姿はなかった。
アルスはホッと安堵し、その場にへたりこんだ。
狼に噛みつかれた右腕を見やると、激痛にあわせて患部からの出血がひどく、すぐに手や服が赤く染まった。
「そうだ、街の人は大丈夫かな……」
アルスは劇場のある方をみた。
幸いにも、カストルや一座のメンバーの頑張りにより、街の人の姿は1人も見られなかった。
この様子だと、うまく避難できたようだ。
「よかった……。僕も行こう……」
なんとか立ち上がると、杖を支えに、ゆっくりと街の方へ向かった。
――そのときだった。
「ひどいなあ……。俺の友達を消しちゃうなんて……」
アルスはゾッと寒気がして振り向いた。
背後の暗がりから、突如人の姿が現れたのだ。
黒いローブをまとい、フードをすっぽりかぶっている。
顔には黒い仮面をはめており、外見からの素性は一切わからなかった。
仮面には爪痕のような模様が入っていた。男は言った。
「もしかして、君が“光の使者”ってやつ?
どんな屈強な男かと思えば、なーんだ、ただの子供じゃん」
その男の後ろから、何匹もの狼が唸り声をあげながら姿を現した。
アルスは気が遠くなる思いがした。
「……おまえは何者だ? 」
アルスは静かに男に問うた。
「俺……? 俺は、フェンリル。“魔獣のフェンリル”さ。
お前が“光の使者”だというなら、俺は、“闇の使者“。
お前を殺すためにここにきたのさ」
「“闇の使者“……? 」
アルスは杖を左手で構えた。
「おっと。そんなおもちゃの杖に何ができるかな?
そんなもので俺を倒せると本気で思ってるのか?
見たところお前1人だけのようだし、とっとと殺してやろうか」
フェンリルが指で合図を出すと、狼たちが一斉にとびかかってきた。
アルスは杖を思い切り振った。光の矢が狼たちを次々消した。
「ははは。その攻撃もいつまで持つかねえ?
お前の体力と、俺の狼。どっちが先に尽きるかなあ? 」
フェンリルの笑い声が響く。このままじゃ本当にキリがない。
どうにかしてあいつに攻撃できればいいけど……。
そのとき、グラッとめまいがして体制を崩してしまった。
とびかかってきた狼がかすり、杖が地面に落ちてしまった。
「あ。言い忘れてたけど、この子たちの牙には毒があるんだ。
さっき噛まれたときの毒が、そろそろ回り始めてる頃じゃないかな」
――毒だって?
アルスは右腕の傷を見た。噛まれたところが黒く変色してきている。
アルスは地面の杖を拾おうとするが、伸ばした腕にすかさず狼が噛み付いてきた。
「わああ! 」
続いて反対の腕や足、さらには肩や背中にも牙や爪がくいこみ、全身に激痛が走った。
「ああああああああ」
「お前たち、よくやったぞ。そのまま離すんじゃねえぞ。
あとは俺がしとめるからさ……」
フェンリルが嬉しそうな声をあげ、ゆっくり前に立ちふさがる。
ローブから剣を取り出した。黒く長い剣で、竜の紋章が入っていた。
アルスはフェンリルを見上げるが、全く動けなくなっていた。
意識が朦朧とし、視界がゆがみ、相手の姿さえ見えなくなっていった。
手足の感覚も完全に失われ、真っ暗闇の中、ポツンと何かが残っているような感覚だった。
「あばよ“光の使者”」
フェンリルが剣を振り下ろした。
【お願い、守って! 】
後ろから美しい歌声が聞こえた。
アルスを取り押さえていた狼たちが瞬時に煙となって消えた。
「誰だ!? 」
フェンリルが叫ぶ声がする。
毒が体中を回り、手足も動かせず、意識も消えかけていたはずなのに、いまや視界は鮮明となり、徐々に手の感覚も戻ってきていた。
そして、すぐそばに誰かが立っていることに気づいた。
見上げると……。
「また、お会いしましたね」
リンがにっこり微笑んでいた。
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