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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第6章 花の街セイガ
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第28話 リンとの再会

【前回までのあらすじ】


公演が終わったあと、ステージの裏側では座員たちが互いを労っていた。

そのときリンに会いたいというファンが来ていたが、座員と団長が追い返してしまう。

それを知ったリンは突然走り出して……?

(間違いない。きっと彼だわ)


 リンは走りながら胸がドキドキしていた。


(来てくれてたんだわ。お願い、どうか、まだそこにいて……)


 舞台裏から出ると、周りに人影はなかった。

 歩く人はおろか、商店も店じまいをしており、明かりも消えていた。


「…… 」


一歩、遅かったか……。


「せっかく、来てくれてたのに…… 」


 テントへ戻ろうかと思ったが、諦めきれず付近を探すことにした。

 表の舞台も明かりが消え、広場全体が閑散としていた。


 あれだけ観客で埋まっていた客席も今は空っぽで、まるで夢から覚めたばかりのような空虚(くうきょ)な気分に(おちい)った。

 リンは客席の一番後ろに腰掛け、しばらくぼんやりと舞台を眺めていた。

 冷たい夜風が吹き抜けていく。春とはいえ夜になるとまだ肌寒さが残る。


「……そろそろ戻りましょう」


 リンは諦めて、舞台裏に戻ることにした。

 ――そのときだった。


「リン、もしかして、リンなのかい? 」


「えっ? 」


 期待を胸に振り返ると、見知らぬ男性がそこに立っていた。

 歳は40を過ぎているだろうか。無精髭(ぶしょうひげ)をはやし、だらしない格好をしている。

 体格は大きく、リンより50cmほど背が高い。手には酒の入ったビンを持っていた。


「やっぱりリンだあ。さっき舞台で見て一目惚れしちまったよ。あんたいい声してるよねえ〜。

まさかこんなところで出会うなんて……。おらってツイてるう。

そうそう、いい酒が手に入ったんだよ。おらと一緒に家で飲もうよお」


 リンは驚いて声が出なかった。

 ――助けを呼ばなくては……。

 ここから叫べば、舞台裏のメンバーにも聞こえる距離だろうし、誰かがきてくれれば、きっとすぐ追い払えるだろう。


 でも……。なぜか声が出なかった。


「ああん? どうしたんだ、ぼーっとして。ほら、ここから近いから行こうよお。どうせ暇なんでしょ? 」


「や……ごめんなさ……」


 怖くて涙が浮かんできた。


「え? 聞こえねえって。ほら、来いって! 」


 男性がグイッとリンの腕を引っ張った。


「キャッ! 」


(ああ、飛び出してくるんじゃなかった……。

打ち上げの準備もまだ手伝えてないのに。彼とも結局出会えなかったし。

私はバカだ。浅はかすぎたんだ。

本当にごめん。本当に、ごめんね。みんな……)



「おい、何をしている! 」


 背後から別の声がした。


「ああん? 」


 リンの腕を(つか)んだ男性が背後を振り返った。

 そのとたん、みぞおちを打たれたのか、男性がズルッと倒れ込んだ。

 リンを掴んでいた手もパッと離れた。


「キャッ…… 」


 リンは思わず後ずさりした。


「リン! こっちだよ」


「え? 」


 男性の後ろに視線を移すと、そこには、アルスが立っていた。


「あっ……! 」


 心臓が止まるかと思った。


「リン! よかった。ようやく会えた!! 」


 アルスが満面の笑みを浮かべている。


「……アルスさん! 」


 リンはアルスに走り寄り、思わず抱きついた。


「ええっ!? 」


 予想外の展開にアルスと、隣にいたカストルも、ぽかんと口をあけて驚いた。


「また、助けられちゃったね」


 リンは安心したのか、安堵(あんど)の笑みを浮かべていたが、涙が止まらなかった。


「かわいそうに。怖かったろう」


 カストルが隣からハンカチを差し伸べた。

 紳士な対応に、アルスは思わず関心した。……さすが貴族だ!

 普段はそんな雰囲気は微塵(みじん)も感じさせないのに、いざというときにはやる男なのだと悟った。


「……ありがとう」


 リンはハンカチを受け取ると、涙を(ぬぐ)った。

 少ししてリンも涙がおさまり、3人は広場の噴水へ移動した。

 男はまだ客席でグッタリとのびていた。

 噴水の縁に腰掛けながら、3人で話をした。


「さっき舞台裏を訪ねたんだけど、追い返されてしまってね。

そのまま帰ろうかと思ったんだけど、もう一回だけ訪ねてみようと思って。

それで舞台を通りかかったら、リンが襲われているのを見たんだよ」


「よかった。私、怖くて何もできなかったの。

本当に助けてくれてありがとう。

それで……。アルスさん、そちらの方は?」


「よくぞきいてくれました! 」


 カストルが張り切って言った。


「僕はカストル。帝都でアルスと出会って、一緒に旅に出ることになったんだよ。よろしくね」


「カストルさん。さっきはありがとう。あなたがあの人を倒したの? 」


「ああ、多少の護身術(ごしんじゅつ)は身につけてるつもりだからね。こんなのチョチョイのチョイさ」


 カストルは腕を曲げて、力こぶを作る真似をした。


「そうだったの。本当に助かったわ」


「いやあ、それほどでも」カストルは顔を赤くして空を眺めた。


「アルスさん、今日は来てくれてありがとう。舞台も見てくれてたの? 」


「もちろん、最初から見ていたよ。

リンって、本当にすごいよね! 感動しちゃった。歌声も綺麗だし、あの花も……。

あれはどういう仕掛け? 」


「それは内緒よ。団長にも、みんなにだって教えてないんだから」


 リンはウインクして答えた。カストルが隣で失神しそうになっている。


「私達、セイガには明日までいるの。明日もよければ、見に来てくれる? 」


「うん、必ず見にいくよ。約束する」


「ありがとう。それじゃあ、私、戻らなくちゃ。

みんな心配してるはずだから。また明日ね。おやすみなさい」


「うん、おやすみなさい」


「おやすみなさい、リンお嬢様! 」


◇◇


 舞台裏の入り口の前でリンと別れたあと、2人は宿へ戻ることにした。


「アルス、あんな可愛い子と知り合ってたなんてズルいぞ」


「ズルくありません」アルスがピシャッと言った。


「リンちゃん、明日までセイガにいるんだよね。今度はどこにいくのかなあ」


「僕たちは東に行くけど、一座は別のルートかもしれないよね」


「もしかしたら、当分会えないままかもしれないよね」


「そうだね。でも、元気そうにしていてよかった」


「また変なやつに追いかけられたらどうする? 僕、心配だなあ」


 カストルはそわそわしている。


「確かにそうだね。でも、僕らにも旅の目的があるわけだし……」


「難しい問題だよね」


◇◇


 宿に戻ると、女将(おかみ)さんが遅くまで開けて2人の帰りを待ってくれていた。

 公演の感想を伝えると、女将さんは「そんなにすごいんなら、明日店を閉めてでも見に行こうかしら」と乗り気になっていた。

 部屋に上がると、そのままベッドに倒れこむように眠ってしまった。


 その晩は、狼の不気味な遠吠えが何度も何度も響く夜だった。

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