第28話 リンとの再会
【前回までのあらすじ】
公演が終わったあと、ステージの裏側では座員たちが互いを労っていた。
そのときリンに会いたいというファンが来ていたが、座員と団長が追い返してしまう。
それを知ったリンは突然走り出して……?
(間違いない。きっと彼だわ)
リンは走りながら胸がドキドキしていた。
(来てくれてたんだわ。お願い、どうか、まだそこにいて……)
舞台裏から出ると、周りに人影はなかった。
歩く人はおろか、商店も店じまいをしており、明かりも消えていた。
「…… 」
一歩、遅かったか……。
「せっかく、来てくれてたのに…… 」
テントへ戻ろうかと思ったが、諦めきれず付近を探すことにした。
表の舞台も明かりが消え、広場全体が閑散としていた。
あれだけ観客で埋まっていた客席も今は空っぽで、まるで夢から覚めたばかりのような空虚な気分に陥った。
リンは客席の一番後ろに腰掛け、しばらくぼんやりと舞台を眺めていた。
冷たい夜風が吹き抜けていく。春とはいえ夜になるとまだ肌寒さが残る。
「……そろそろ戻りましょう」
リンは諦めて、舞台裏に戻ることにした。
――そのときだった。
「リン、もしかして、リンなのかい? 」
「えっ? 」
期待を胸に振り返ると、見知らぬ男性がそこに立っていた。
歳は40を過ぎているだろうか。無精髭をはやし、だらしない格好をしている。
体格は大きく、リンより50cmほど背が高い。手には酒の入ったビンを持っていた。
「やっぱりリンだあ。さっき舞台で見て一目惚れしちまったよ。あんたいい声してるよねえ〜。
まさかこんなところで出会うなんて……。おらってツイてるう。
そうそう、いい酒が手に入ったんだよ。おらと一緒に家で飲もうよお」
リンは驚いて声が出なかった。
――助けを呼ばなくては……。
ここから叫べば、舞台裏のメンバーにも聞こえる距離だろうし、誰かがきてくれれば、きっとすぐ追い払えるだろう。
でも……。なぜか声が出なかった。
「ああん? どうしたんだ、ぼーっとして。ほら、ここから近いから行こうよお。どうせ暇なんでしょ? 」
「や……ごめんなさ……」
怖くて涙が浮かんできた。
「え? 聞こえねえって。ほら、来いって! 」
男性がグイッとリンの腕を引っ張った。
「キャッ! 」
(ああ、飛び出してくるんじゃなかった……。
打ち上げの準備もまだ手伝えてないのに。彼とも結局出会えなかったし。
私はバカだ。浅はかすぎたんだ。
本当にごめん。本当に、ごめんね。みんな……)
「おい、何をしている! 」
背後から別の声がした。
「ああん? 」
リンの腕を掴んだ男性が背後を振り返った。
そのとたん、みぞおちを打たれたのか、男性がズルッと倒れ込んだ。
リンを掴んでいた手もパッと離れた。
「キャッ…… 」
リンは思わず後ずさりした。
「リン! こっちだよ」
「え? 」
男性の後ろに視線を移すと、そこには、アルスが立っていた。
「あっ……! 」
心臓が止まるかと思った。
「リン! よかった。ようやく会えた!! 」
アルスが満面の笑みを浮かべている。
「……アルスさん! 」
リンはアルスに走り寄り、思わず抱きついた。
「ええっ!? 」
予想外の展開にアルスと、隣にいたカストルも、ぽかんと口をあけて驚いた。
「また、助けられちゃったね」
リンは安心したのか、安堵の笑みを浮かべていたが、涙が止まらなかった。
「かわいそうに。怖かったろう」
カストルが隣からハンカチを差し伸べた。
紳士な対応に、アルスは思わず関心した。……さすが貴族だ!
普段はそんな雰囲気は微塵も感じさせないのに、いざというときにはやる男なのだと悟った。
「……ありがとう」
リンはハンカチを受け取ると、涙を拭った。
少ししてリンも涙がおさまり、3人は広場の噴水へ移動した。
男はまだ客席でグッタリとのびていた。
噴水の縁に腰掛けながら、3人で話をした。
「さっき舞台裏を訪ねたんだけど、追い返されてしまってね。
そのまま帰ろうかと思ったんだけど、もう一回だけ訪ねてみようと思って。
それで舞台を通りかかったら、リンが襲われているのを見たんだよ」
「よかった。私、怖くて何もできなかったの。
本当に助けてくれてありがとう。
それで……。アルスさん、そちらの方は?」
「よくぞきいてくれました! 」
カストルが張り切って言った。
「僕はカストル。帝都でアルスと出会って、一緒に旅に出ることになったんだよ。よろしくね」
「カストルさん。さっきはありがとう。あなたがあの人を倒したの? 」
「ああ、多少の護身術は身につけてるつもりだからね。こんなのチョチョイのチョイさ」
カストルは腕を曲げて、力こぶを作る真似をした。
「そうだったの。本当に助かったわ」
「いやあ、それほどでも」カストルは顔を赤くして空を眺めた。
「アルスさん、今日は来てくれてありがとう。舞台も見てくれてたの? 」
「もちろん、最初から見ていたよ。
リンって、本当にすごいよね! 感動しちゃった。歌声も綺麗だし、あの花も……。
あれはどういう仕掛け? 」
「それは内緒よ。団長にも、みんなにだって教えてないんだから」
リンはウインクして答えた。カストルが隣で失神しそうになっている。
「私達、セイガには明日までいるの。明日もよければ、見に来てくれる? 」
「うん、必ず見にいくよ。約束する」
「ありがとう。それじゃあ、私、戻らなくちゃ。
みんな心配してるはずだから。また明日ね。おやすみなさい」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみなさい、リンお嬢様! 」
◇◇
舞台裏の入り口の前でリンと別れたあと、2人は宿へ戻ることにした。
「アルス、あんな可愛い子と知り合ってたなんてズルいぞ」
「ズルくありません」アルスがピシャッと言った。
「リンちゃん、明日までセイガにいるんだよね。今度はどこにいくのかなあ」
「僕たちは東に行くけど、一座は別のルートかもしれないよね」
「もしかしたら、当分会えないままかもしれないよね」
「そうだね。でも、元気そうにしていてよかった」
「また変なやつに追いかけられたらどうする? 僕、心配だなあ」
カストルはそわそわしている。
「確かにそうだね。でも、僕らにも旅の目的があるわけだし……」
「難しい問題だよね」
◇◇
宿に戻ると、女将さんが遅くまで開けて2人の帰りを待ってくれていた。
公演の感想を伝えると、女将さんは「そんなにすごいんなら、明日店を閉めてでも見に行こうかしら」と乗り気になっていた。
部屋に上がると、そのままベッドに倒れこむように眠ってしまった。
その晩は、狼の不気味な遠吠えが何度も何度も響く夜だった。
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