第1話 旅の始まり
初投稿作品で、長編ものを目指しています!
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「じーちゃーん、ただいまー」
日が暮れてあたりが薄闇に包まれ始めた頃、アルスは家に戻った。
茶色い髪が戸を閉める風でふわりとなびく。
もうじき15歳になるこの少年には、左目を縦断する古傷があった。
「おお、アルス。今日は遅かったな。遠くまでいっておったのか? 」
この家の主、“森の賢者”メラクは、いつもより帰りが遅くなったアルスを心配しながら、温かく出迎えた。
片足が悪く、その歩みはゆっくりだ。
齢70歳になるこの老人は、胸に7つの星をかたどった傷だらけのバッジをつけており、朗らかな笑顔が印象的だった。
ちょうど部屋の真ん中にあるテーブルにランプを灯し、手紙を読んでいるところだった。
「うん。向こうの森で歩けなくなってる男性がいたから、近くの村まで運んであげたんだ。
そうしたら、見てよ! お礼にこんなにもらったんだよ」
アルスは背中のカゴをテーブルに乗せ、中身を取り出した。
「新鮮なミルクに、チーズ。とれたての野菜に、大きなパン。それと銀貨が5枚」
「十分じゃよアルス。ああ、ありがたい。きっとその人は神様に違いない」
「じーちゃんったら、またそんなこと言って。その人はれっきとした人間だったよ。
村につくと家族の人が迎えにきてくれたし。
それに、神様がこんな辺鄙なところを歩いてるわけないでしょ」
「いーや。わからんぞい。
昔からいうではないか。神様は常に見てるってな。
日頃の行いがいいからこそ、姿を現してくれたんじゃないかの」
「全く、じーちゃんは信心深いんだから。
そんなことよりさ、早くご飯にしよ! お腹ぺこぺこだよ」
「ああ、そうじゃな、そうしよう」
◇◇
アルスとメラクはずいぶん長いこと2人で暮らしていた。
この辺りは他に人家はなく、2人で食べていけるだけの食物を植えた畑と、数頭の羊を放牧している程度で、それ以上を望むこともなかった。
時々通りかかる商人や旅人、付近の村と物々交換をして、生計を立てている生活だった。
◇◇
夕飯に野菜とミルクを煮込んだシチューとパンを食べ終えたあと、二人はホットミルクにはちみつを加えたものを飲みながら今日あった出来事を語った。これは、毎日の日課でもあった。
「今日助けた人が言ってたんだけど、数日前、兵隊が村に来たんだって」
「兵隊? ……珍しいな、こんなところに来るなんて。何かあったのか? 」
「この村に15歳くらいの少年はいないかって。いるならラインバルドへ来いって。
数日後馬車を使わすから、それに乗せろって」
「ラインバルド……帝都ラインバルドか。
このあたりはラオンダール帝国の北の北のそのまた北のはずれだ。
なんでまたこんな辺境の地に……? 」
アルスはミルクを一口飲んだ。
「その人に『君もそれくらいの年なら用心した方がいい』って言われたんだ」
「15歳か……。そういえばアルス。明日は、おまえさんの15歳の誕生日だったな」
「えっ、そうだっけ? ……でも、何歳になっても変わるもんじゃないだろ。
明日も畑の野菜を収穫して、羊たちを放牧しておいしい草を食べさせる。
それでじーちゃんが楽になる。それが僕の生きがいだもん」
メラクはアルスの成長の一端を垣間見た気がして、おもわず顔がほころんだ。
「ふっふっふ。アルスもずいぶんたくましくなったのう。
あんなに小さかったのに……。
頼もしすぎて、わしは足を向けて寝られんわい」
「ははははは……」
しばらく2人で楽しく話したあと、やがて灯りを消して眠りにつくことにした。
しかし、物事はアルスの思わぬ方向へ進んだのだった――。
◇◇
翌朝。空がうっすら白くなり出した頃。メラクはアルスを叩き起こした。
「アルス、アルス。さあ、起きるのじゃ」
手に持っていたランプをベッドの側に起き、ふとんを無理やり引き剥がした。
「うーん……。じーちゃん、まだ早くない? 」
まだ目がはっきり覚めていないアルスの頬を、メラクは容赦無く叩いた。
「急げアルス。時間がない。すぐにこの家を出るんじゃ。さあ、早く!! 」
「……え、なんで? 」
だんだん目が覚めてきたアルスは、言われるままに服を着替えさせられ、持つものを持たせられ、5分後には旅立ちの準備ができていた。
そのころには、完全に目が覚めていた。
「じーちゃん、どういうこと? 僕はまだ畑の野菜も取れてないし、羊たちの世話もできてないよ」
「……いいんじゃ、アルス。気にするな。
まずは15歳の誕生日おめでとう、アルス。
お前がここまで立派に育ってくれて、わしは本当に嬉しい……」
メラクはアルスを抱きしめた。心なしか、涙ぐんでいるような気がする。
そして話を続けた。
「残念ながら、時間がないのじゃ。
わしが思っとるよりも早く、事態は深刻になってきておる。
いいか、よく聞きなさい。一度しか言わんからな。
……お前はこの手紙を持って、これより東にある『聖なる森アシュヴァルト』へ行くのじゃ。
大きな世界樹がある森じゃ。そこの長老に、この手紙を渡しなさい。
『森の賢者 メラクからの使い』だと言いなさい。そのあとは、長老の指示に従うのじゃ。
……ここに戻って来てはならん。…………決してな」
アルスはメラクの言うことが理解できなかった。
「……どうして? どうして戻ってきたらだめなの?
ここは僕たち2人の家なのに? ……じーちゃん1人じゃ心配だよ。
その足じゃ、畑仕事もできないだろ?
用事を済ませたらすぐ帰ってくるからさ、だからお願い! 」
「ならんと言っておるだろう! 」
メラクは声を荒げた。アルスはめったに見ないメラクの一面にビクッとした。
「昨晩お前が話した『帝都ラインバルドの兵』。
あやつらが探しているのは、アルス、お前に違いない。お前を探しに来たのだ。
……話せば長くなる。
そのあたりも、アシュヴァルトの長老が教えてくれるはずだ。
わしにできることは、ここまでじゃ。
……今渡した手紙と、背中のバッグには数日分の食料と水、そして古い型だが短剣を入れておる。
ないよりはマシじゃろう。それを持って、ここを出るのじゃ。
わけがわからんだろうが、いずれわかる。今はわしの言葉に従ってくれ。
お前には申し訳ないことをしたと思っている。
お前と暮らした時間は、かけがえのないものじゃった。
またどこかで会えることを願おう……。元気でな」
「じーちゃん! 待って……」
ピシャッ、とアルスは家の外に追い出されてしまった。
扉を開けようとしたが、鍵をかけられたのだろう、びくとも動かない。
何度も扉を叩いて叫んだが、鉄門扉のように固く閉ざされていた。
「なんだよもう、わけわかんないよ! じーちゃんの馬鹿野郎!
とにかくアシュヴァルトとやらに行ったら、すぐ戻ってきてやるから!
じーちゃんを1人になんてできないから! だから待っててよ!」
泣きたい気持ちをこらえて、アルスは歩みを進めた。
背後で扉が開くような音が聞こえた気がしたが、振り返りはしなかった。
◇◇
空はだんだん明るいブルーになり始めていた。もうじき陽が昇るだろう。
丘をのぼり、小屋がずいぶん小さく見えた頃、遠くで馬のいななきが聞こえた気がした。
帝都からの馬車が近くにきているのだろうか。
目指すは東にある『聖なる森アシュヴァルト』。そこの長老に会えば、何かがわかるかもしれない。
アルスの旅は、始まったばかりだ。
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