第三十五話 罪と罰
「塔が――塔が!」
ぐらぐらと揺れたと思えば、一気に足場が崩れた。
皆の塔が崩れていく――どうすればいいんだ、こんな時。
龍臣は、自分の迂闊さに気付く、あれほど自分に敵意のある人間が最後の最期に何もしないわけがない。
「塔主様――塔主様、願いなされ!」
「願っている、塔よ戻れと!」
「戻るだけでは駄目に御座います、もっと力強く! 違う願いを!」
ぼろぼろ落下していく最中に、美衣を見つけた龍臣はひとまず美衣に近寄ってから、黒鳩へ手を伸ばす。
黒鳩は伸ばされた手を繋ぎ、背中の翼でもって羽ばたく!
「塔主様、主張なさるのです、力強く! 何物にも文句を言わせぬ勢いで、責任を持ち! それが塔と心を一致しかけた貴方様だけにできること! 貴方様にならば出来る、貴方様は長年塔が待ちわびていた方なので御座いますから!」
黒鳩の背中の羽根が、真っ黒かった羽根から、羽根が失っていく。
徐々に、羽根が一枚一枚抜け落ち、消えていき――。
「この塔は、オレの塔だァ!!!!! オレの言うことを聞け!!! 落下すんじゃねぇよ!!! 皆を、助けてくれ!!」
龍臣が激高した瞬間に、塔が崩れる時が止まる。
塔が――崩れる瞬間が巻き戻っていく。
落ちていくはずだった、美衣や龍臣、斉や刃鐘も塔の頂が出来上がるまでは、空中に浮いていた。
「何で、どうしてよ――忠臣の腕で扉開けたのに! 忠臣に嫌われてまで、腕をもいだのに!」
白鴉が茫然としていた、塔が崩れていった三つの塔の部品を合わせて、三つからたった一つの塔へと変わっていく。
たった一つの塔へ変わり、皆がたった一つの塔の頂上へ集う。
龍臣はづかづかと怒りに満ちた気迫で、白鴉に近づく。
白鴉は怯えて逃げようとするも、龍臣の睨みから腰に力が抜け、がくがくとしている。
企てが失敗した白鴉は、龍臣からの暴力を覚悟した――瞬間。
白鴉の目の前に、黒鳩が背中の羽根がぼろぼろの状態で現れ、土下座をする。
黒鳩の姿に、白鴉は茫然とするも、黒鳩の背中を無垢な瞳で見つめる。
「どうして、黒鳩」
「お前様の責任は、己の責任じゃ。それが親子だろうて。塔主様、どうかどうか、お許しくだされ――全て、子供の必死さによる過ちだ。否……己が、全ては悪う御座います」
「黒鳩……――退け、そこを、退け。そいつは、忠臣から腕を奪ったんだ……」
「……――塔主様、一つ、ご提案を。この塔にて、願いませぬか。全員を、塔主様と同じ時代に生かせ、と。その折で、罰を決めませぬか。死んだ身の、あの幽体では何も罰せますまい、一からの身体を願えば忠臣様の腕とて戻りますでしょう」
「それはあの女にとっての救いだ、あの女に生を与えることになる」
「でも、貴方様は刃鐘様をお許しになろうとした、全ての元凶である己の話も聞いてますでしょう? 己がいたから、この塔ができた、と。神と愛し合ったから故に。それでも、塔主様は崩れているときでも、己の言葉を聞きなさった。己や、刃鐘様を許せて、どうして我が娘だけは駄目なのでしょうか」
「……黒鳩……――判った、許してやる。ただし、条件がある。黒鳩、お前が白鴉の罪を被るというのなら、お前がこの騒動の責任を取るというのなら。白鴉が娘であったという過去を、全て忘れろ」
「龍臣!!!!!」
「怒鳴る資格があるのか、白鴉」
「黒鳩は、黒鳩は――……私の、ととさま、だから」
「お前の理想の父親は違うンだろう、それなら幸せじゃないか、纏わり付いていた奴がいなくなって。現世で羽根をのばせばいいじゃあないか、願ってやるよ」
「やめて!!!!!黒鳩は、あたしの…………ッ」
「言わせないよ、現世へ行ってらっしゃい。お前は記憶を残してあげるよ、白鴉。ソレが、お前にとっての罰だ。父親が一生自分を思い出してくれない悲しみを覚えろ」




