第三十二話 幾つもの処刑
斉は塔のココロとも言うべき、真っ赤なコアや歯車が動く箇所を見つける。
美衣は後ろでぜぃぜぃと呼吸を荒げ、脚も乱雑な姿で階段に腰掛けていた。
斉はちらりと美衣の姿を見やる。
「見事な生足」
「あ!? 何だとこら?!」
「何でも無いよ、此処へ連れてきてくれて感謝してるといいたいんだ。いや、本当だよ。さて、ココロに触れるか」
斉はコアに触れ、じぃっとコアや。美衣があちこちを照らしてくれる塔の内部を見つめる。
コアに触れればスクリーンが空中に映し出され、エキシビジョンのようになっている。
斉が目を瞑ってる限りは、スクリーンは稼働してくれそうだ。
『お前がいるから千湖が、斉様に捨てられるのだ! 君塚の姓を貰い恥ずかしくないのか! このうつけが!』
『ごめんなさい、ごめんなさい父上――!』
何度も殴打される小さな少年は、幼き頃の刃鐘だ。
刃鐘が白上家当主から片目を守るように片手で覆い隠しながら、殴られている光景。
お世辞にも気分の良い光景ではなかった。
『お前はもういい、死ぬがよい、それが我が家にとっての最善だ!』
『父上! おやめくだ――がはっ』
『安心しろ、庭にくらいは埋めてやる』
――その首に手がかけられている瞬間に、刃鐘が塔に招かれた。
塔のてっぺんに刃鐘は気付けばいて、刃鐘の傍に、過去の黒鳩が近寄る映像。
『――塔主様はどこへ消えなすった、これまた小さいのが』
『……けほっ、何、此処。どこ、どこ、なの』
『此処は世界の王になれる塔、君塚斉という我が子孫が塔主をつとめておったのですが、はてさてどこかへ行きなさったなぁ』
『世界の、王?』
『何かを願えば、一生涯叶え続けられる塔に御座い――最後に斉が何かを願っていたのは見ていたが、はて、どうしてこの子に塔主を譲られたのか』
『願えば、叶うの、か――それなら、生きたい。ずっと、ずっと、ずっといつまでだって生きたい!』
美衣は映し出されている過去の刃鐘の願いに目を見開いた。
一族の歴史を勉強してきた身でありながら、実際に経緯を見るのは心苦しいモノだ。
だが、白上の者としては目を背けることは決してできない。
『では全人類が不老不死となりましょう』
『へ?』
『腐った身体で生きられないでしょう? 不老不死になれば皆様大変健やかに生きられます』
『……何で、全人類、なの』
『己には判りかねます、この塔は非常に塔主の本質を見なさる。貴方様が心の何処かで、皆平等になれとでも願ったのでしょう』
『そんな……! なしだ、なかったことに! なかったことにする!』
『それは無理な話に御座います、矛盾を越える矛盾で無い限り、塔はよっぽどの無茶を取り消しが出来ませぬ』
『――……それなら』
美衣は目を細めて黒鳩に視線をやる。
黒鳩自身も驚いていた、過去の己に――。
こんな出来事ついぞ覚えてはおらぬ、とばかりに美衣へ首をふる。
『それなら、願いが取り消せるまで、他の願いで不老不死が解除されるか実験しつづける。実験台は、オレだ』
『宜しい、それでしたら叶えられそうです』
『黒いジャコピンの鳩、お前に刑を任せるよ。人の手を借りないと実験できないときは、お前に殺せるか試して貰う。ただ、お前だけが悲しい思いをしないように――毎度記憶は消す、これが願い』
「やめろ」
斉はコアから手をばっと離した。
『斉と似た心を持つ奴は、いつ産まれる?』
『だいぶ未来ですよ――未来を見ますか?』
『うん、――ああ、やっぱり産まれるんだね、いつか。それなら、そいつが産まれるまでは人類が不老不死になりそうになる度に、この身を捧げて償おう』
『いつか貴方様の身体にがたがきたら、人類は不老不死となる』
『その頃にはそいつが産まれてる、皆の、俺の希望だ――そいつが塔主になり、人類の正義の味方となって、俺を倒せば平和な日々が戻る。それじゃ、最初の刑を行うか。最初は何にする? ギロチンかな』
「やめろ、刃鐘!!!!!」
大声で叫んだ斉の慟哭は、とうに遅かった――刃鐘は散々死罪を体験した上で、不老不死になる未来を取り消せなかった身。
諦観の価値観を持つ理由が分かり、美衣は機嫌悪そうにコアを蹴飛ばす。
「何だよ、あいつ……――試した結果、次の塔主へ渡すしかないって諦めたのかよ」
「惨い運命を引き受けたものだ、美衣さん、上へ急ごう。より惨いことを、龍臣さんにさせたいか?」
「絶対嫌だね!!!!」




