第三十話 君塚斉
がつんがつんと十日ほど連日、ツルハシをぶつけ続けている。
正確には、美衣が塔主候補から下ろされてから、二ヶ月ほど、只管にだ。
それでも塔の壁は頑丈で、中々罅でさえ滅多に見せなかったものの、ここ数日は一つ希望が見えている。
扉のようなものが出始めたのだ。
塔の中に隠された扉、それだけで何もないよりかは期待が高まる美衣と黒鳩。
黒鳩は扉に耳をあててから、今度は美衣が扉に耳をあて、扉の奥から聞こえる音を探そうとする。
扉の奥より聞こえるは、心臓音のごとく繊細な息づかい。
――間違いなく、生きた〝何かが〟いると証明されている。
希望が見えればあとは、扉の形に撫でるような形で沿うようにツルハシをぶつけて、扉を壊さないように輪郭をはっきり作り出すだけ。
「どう、黒鳩!?」
「あと少し、あと少しです!」
「あとどれくらいかかる?!」
「それは貴方様次第に御座います! あと少しって言えば、気持ちだけでも晴れますでしょう?」
がつんがつんという鈍い音が、かきんかきんという金属音になりつつある。
金属音が止めば、ようやく扉を綺麗に発掘できた証。
美衣はぜいぜいと息切れして休む間もなく、扉に手をかける。
焦りや急く気持ちからか、手へがちがちに力が籠もり、うまく扉が開かない。
深呼吸したあとで、壁に脚をかけながら、精一杯ノブを引っ張る。今までレンガに埋まっていたからか、レンガの粉がざらざらと細かに落ちながら、扉が開く。
――ぎぃいい。
鈍く鳴る扉、錆びていて開け閉めが心配ではあったが、一応はしっかりとした出来のようで開け閉めだけはきちんとできるみたいだ。
赤い重厚な扉をあければ、閉めて中へ入るのは危険だと感じとり、扉を開けたまま中へ入る。
扉を開ければ中は真っ暗で、リュックの中にあった懐中電灯を美衣はつけて中を照らす。
階段が続き、階段をゆっくりと足下を確認しながら降りていくと、そこには――人がいた。
確かに、生きている。
驚いた表情で、美衣を見つめている。
「――誰?」
「アタシは白上美衣」
「白上――刃鐘の、ご兄弟かな?」
「……――刃鐘を知ってるってことは、やっぱり、アンタは……」
美衣の言葉に、ぴくりと反応した優男は、笑いかける。
白髪に、華奢な体躯の男は、黒鳩によく似た金色の瞳を細める。
「初めまして、君塚斉、です」




