第二十九話 見目と中身の模倣
白鴉は嬉しげに、カァと鳴き、忠臣の肩に留まっている。
忠臣はその重みすらも心地よさげに登り、一息を。
忠臣はある日突然気付いたのだ。
「自分」というものがないことを。
全て兄の言葉を代理してきた、兄のための人生だった。
兄と、出来ることなら刃鐘のための人生。
ヒーローに憧れていた純粋な青年は、刃鐘を救うのであればきっと、「自分」を殺さなかっただろう。
忠臣は、纏う雰囲気、表情、目の鈍い輝きでさえ龍臣と全く同じ形を、とることに成功した。
元から見目は同じだった、双子なのだから。あとは完璧に兄をトレースしてしまえば、簡単なコピー人形の出来上がり。
思考だけは自分の物を持てば、あとはどうでもいいとさえ、忠臣は自分をなげうった。
何もかも。自分を、スキキライや、性格、在り方でさえ投げ捨てて選んだ道に、白鴉は満足げであった。
白鴉が満足してくれるのであれば、それでも構わない、忠臣は穏やかに内心微笑んでいた。
白鴉だけが自分の味方であると、信じ始めたのだ。
兄を模倣すれば、誤認した塔は自身を塔へ招き入れてくれた。
それも、兄より少し上の階層に行けるバグでさえも起こして。
流石は無機物、より龍臣である「正解」に近い被写体を探しているのだな、とおかしくてたまらなかった忠臣。
忠臣は、無表情のまま、登り始める。
ただでさえ、兄は今表情や意志、言葉を取り戻し始めているからこその、混乱なのだろう。
塔はきっと認識する、「喋らないのが龍臣だ」と。
「意志を伝える気が無いのが、龍臣だ」と長年の監視で、思っているだろう。
塔から恐ろしい声は、聞こえない。
ファージストではないし、塔からの声も聞こえないが、塔の思考回路を読むことができる。
昔から不思議であった、兄をやたらと監視できるのに適していた自分が。
塔は、忠臣を通して、龍臣の人となりを見続けていたのだ。
忠臣を介して、初めて、塔の鍵を作っていたのだろう。
正確には、「君塚斉」に近い人間を見つけるために。
君塚斉が、人間として少しおかしい、ということさえ理解すれば、後は兄を模倣すれば万事うまくいく。
笑いが止まらない。ついでに涙も。この世界は本格的に、忠臣を必要としていない。
忠臣の居場所すらも、なくなろうとしている。
寂しく思う本心を、涙を一滴流すだけで、なかったこととする。
「どうして泣くの」
無垢な白鴉には、判らなかった。自分を押し殺してまでの苦痛に、疎かったのだ。
こんな回答でさえ、塔にはじき飛ばされるわけにはいかないから、「龍臣らしく」忠臣は、ただ微苦笑だけをした。
微苦笑をした先に、彦がいる。
彦は目を見張っていた。彦は、苛ついた様子で、頭をがりがりと掻き毟るように引っ掻いた。
「どうして、そんな真似を」
「……――え、と?」
兄の真似をして笑いかければ、彦は怒りが溢れたのか近づいてこようとするも、白鴉が人型を取り、彦を制する。
「とと様、お願いです、止めないでください」
「――残酷な真似をするんだね、白鴉。そんなにも願いを叶えたいのか」
「それはとと様もでしょう? とと様の願い、知ってるわ。千湖の子供の、行方を知ること。駄目よそれは、妬いちゃうもの。とと様の可愛い娘は、私一人で充分」
白鴉は可愛らしい女性を模した可憐な声で、嬉しげに語る。
嬉しげな白鴉に和みそうにもなる、だがここで和んで表情を緩ませれば、塔から追い出される。
前にいた滅びの塔に戻されるなど、ごめんだ。
「なるほど、言葉を放り出した責任ですか。――主殿は、随分とお悩みでしたよ、言葉を取り戻さなかった出来事を。確かにこれは、主殿の今までの生き方からの、自業自得。――ただ、そこに僕の私情を挟むなら……」
彦は呆れながら、侮蔑の視線を向ける。
「人間と鼠が変わらないという証明にも、なりそうだ」
「……貴方は、敵なのか味方なのか、判らないな……」
「きっと、君が考えているほどは難しくないですよ、いつだって千湖だけの味方です。それと人類を代表する白上家のね。それでは失礼」




