第二十五話 白鴉の怒り
「どうしたんだ、白鴉。余裕ない顔じゃあないか」
「五月蠅いわ千湖、私は龍臣に言ってるの。あの塔を、黒鳩に任せるなんて」
「――黒鳩が心配なのか、白鴉」
「心配? どうして、私が?」
「心の何処かで父親だって認めてるんじゃないのか?」
「お前に! 言われる筋合いはない! きっと、彦様よ。違っていたとしても、理想の父は彦様なのよ、だからととさま以外どうでもいいわ、それでも黒鳩とは長い付き合いがあるから、酷い行為に苛立ってしまって」
彦を見やると、彦は肩を竦めた動作をして、とぼけた外国人みたいな仕草をした。
今は白鴉との関係については言えぬ、ということか。
白鴉へ眼差しを向けると、ぎらぎらと瞳は燃えていた。
「黒鳩が美衣の補佐になる行為が、どうして酷いんだ」
「人間を愛しているからよ、黒鳩は。どんな人間も、馬鹿にしながらも憎みきれない情を持っている。大本命であるアンタの塔だから、黒鳩はこの塔の補佐でも大丈夫だったけれど、黒鳩なら君塚の血を引いてるから、あの塔なら上ったらもしかしたら塔主の座を奪える可能性もあるのよ。白上のお嬢様を差し置いて。あんな生温い奴を、神にしたいの? 願いが叶い続けて苦しむのを待て、と? 孤独にしたいと?」
「――なぁ、白鴉、アンタやっぱり子供なんだな。そのひっどい行為を、オレやみっちゃんにさせようとしてたんだぜ。オレやみっちゃんは別として、黒鳩だけが可哀想だって? 舐めてるのか、馬鹿にしてるのか」
「だって! 貴方達はいつか死ねるからいいじゃない! 苦痛に終わりがあるわ!」
「なんっていうか、お前嫌いだ。身近な人の立場次第で慌てるところって、人情味あるけど、かつてみっちゃんが塔主である時にオレら人間を嗤っていたお前を好きになれない」
白鴉が困惑しているのがとても伝わる。
でもオレは白鴉に八つ当たりさえ許したくない。
確かに黒鳩からの試練の時に、助けて貰ったけども。それでも、忠臣の選民思想を利用しながら嗤っていたのが許せないんだ。
白鴉はオレから嫌悪を感じ取ると、目を丸くして首を傾げた。
「どうしてよ、貴方はだって元から神候補だったじゃないの。でも、黒鳩は違う、あの人はただの補佐よ。此処にいたのは――多分」
「……――特別扱いかー、すげぇ腹立つなあ。まぁ丁度良い、忠臣の塔はどうなってるんだ、忠臣は登り続けているのか」
「忠臣様に一番に登って貰うわ、こうなったら。あの方は、貴方のライバル心を刺激するためだけの存在だったけど、意味なかったみたい」
「刃鐘の意志に逆らってまで、黒鳩が登りきるのを止めたいのか?」
「……黒鳩が、登るのは、間違ってるから。卑怯。卑怯なのよ! やり口が卑怯よ、貴方!」
「だから! 黒鳩が登れる可能性があるのは可哀想だって、感情しか主張しかできないなら、ココから出て行け! 苛つくんだよ!」
「……龍臣、どうしたの、……――前の貴方じゃないみたい……」
「オレはね、黒鳩のお陰で変わったんだよ、あいつにほんの少し恩を感じるくらいには。ほら、帰れ! お前には聞かせられない話をしたいからさぁ」
「……――こんなの、龍臣じゃない……!」
白鴉は泣きながら出て行った、千湖は黙って様子を見ていて、白鴉が出て行ってからフゥンと頷いた。
「なるほど、感情も顕わになってきたんだね」
「オレ、あいつが嫌いなんだよ。忠臣を利用するだけ利用してやるって感じがさ! 黒鳩が大事なら大事だと言い切ればいいのに、あの煮え切らない態度も昔の自分を見てる気がして嫌だ、大嫌い、同族嫌悪みたいな気がする」
「つまりは、アンタも忠臣を利用していたと?」
「――償いたいと綺麗な言葉を言っても、そんなつもりはないと言っても、利用していたのは変わりないから」




