表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
象牙の塔で漂うヒトデ  作者: かぎのえみずる
第三章 決意
23/37

第二十二話 千湖と光香


 光香さんは縄を解いて欲しがっていて、瞳で急かしているので、慌てて縄を解いてやる。

「姉様!! なんとお労しいお姿に! ずっと、ずっとこの塔で死んだ当時の姿でいたのですか……!」

「ははッ……光香、アンタは……老いたね、いいな、羨ましいよ……」

 二人は泣きながら抱き締めあい、大きく泣くのは何と光香さんのほうだった。

 子供のように千湖に縋り、大きな声で少女のように静かに涙する。

「姉様、姉様、ずっと、ずっとお会いしたかったです! 光香は、もう年寄りになってしまいました、それでも姉様の妹として名を呼んでくださいますか!?」

「光香は光香だよ、アンタは私を、姉と未だに呼んでくれるだろう?」

「だって、姉様は光香のたった一人の姉様ですから!」

「それと同じさ、光香、私の可愛い子」

「――姉様! ああ、お会いできて、嬉しいです!」


 光香さんは、千湖の妹だったのか……光香さんの心からの涙に、何処かうるっとくるものがある。

 光香さんが感情をこんなに顕わにしてまで、喜びを叫ぶ瞬間があるなんて。

 子供のように泣き叫び、嬉しさを表現する光香さん。徐々に涙が落ち着いてきて、オレのほうへ顔を向ける。


「有難う、助けてくれたのも、ココへ連れてきてくれたのも。龍臣さんのお陰で、実姉と再会できました」

「……千湖は、白上家の人だったんだね」

「正確には、だった、だね。嫁入りしたんだよ、私は。彦ンところに」

「あの男は美衣さんの塔にいるんですってね……うちのどなたが龍臣さんについての情報を流したのか……何にせよ、うちの家系は信用できないわね」

「それじゃよ、まずは。それが問題じゃろうて、お陰様でもう買い物ができなくなりもうしました」

 黒鳩が光香さんの周りをばさばさとうろついて飛び回って、主張する。

「白上家が駄目なら西園寺家の者を使いに出させます、彦さんの話を出せば動かない馬鹿ではないはずですから。何よりね、千湖さんが死んだ件で、あの家は我が家に大恩があるの。私からの頼みなら断れないはずです」

「西園寺家って……」

「彦さんの実家ですよ、龍臣さん。美衣さんと忠臣さんにも、食料は必要ね……」

 考え込む光香さんを見て、少し不安になり始めた。

「光香さん、まずはご自分の家の無事を確認してください、それからオレ達の心配をしてください。自分を優先して欲しいです、光香さんは大事な人ですから」

「あら、熱烈ね」

「からかわないでください、そういう意味ではありませんが、大事なんです。オレがこうして言葉を決定的に言えるようになったのは、光香さんも関わっているんです」

「――龍臣さんが成長して、何よりだわ。でもね、これは勝手なお節介なの、私は千湖姉様に会えたのが嬉しい、きっと西園寺家の人も彦さんを見れば思うはずよ。縁を取り持ってくれた御礼とでも、受け止めて頂戴。さっきみたいな馬鹿に、塔主の座を渡すのも、反対ですよ、私は。これは、全て、貴方達の出す結論のための、支援です」

「――光香さんは、オレが言葉を取り戻しても、変わらず待っていてくれるのですね」

 ふふ、と互いに笑い合ったところで、黒鳩が鳥の姿で、ばさばさと羽ばたき未だに光香さんの周りをうろついた。

「それで情報を勝手に流した奴は誰だか判るのか、光香」

「恐らくだけど、刃鐘さんが裏で手を回してるんじゃないかしら。相当焦っているみたいですね、滅びの塔か、美衣さんの塔で何かあったのかしら? 早く登れって、龍臣さんに急かしているみたいですね」

「だとしても、オレは登らないで二人を邪魔するけどね」

「龍臣さん、邪魔って具体的にどうするのかしら」

「……そ、れは」

「ふふ、貴方は悪人になれないわね。ここでたとえば私に、忠臣さんと美衣さんに食料の流通を禁止することも、できるのよ。さて、貴方はそれをしない。どうしてかしら」

 黒鳩の視線も、どうしてだ、と問うていた。千湖は見守る眼差しであった。

 オレは、考え込みながらも、何とか言葉を形にしようとする。


「オレに覚悟がまだ足りないから。発想が出なかった」

「開き直りかしら、それは」

「いいえ、自戒です。邪魔をするというのなら、もっと誰もが自分を嫌うくらいの出来事をしなければならない。その覚悟がまだオレには足りないのだと気付きました」

「それならもっといい嫌がらせを思いつくチャンスをあげましょう。私は千湖姉様の妹で、彦さんは千湖姉様の旦那様。さぁ、イイコの貴方には難しいかしら?」


 光香さんは面白い提案を思いついたというような表情でにこにこしていて、実に楽しそうである。

 試されているのだろう、嫌がらせをどれだけできるか、という覚悟を。

 オレが思いつく限りの嫌がらせだけではきっと甘い、光香さんでさえ、千湖でさえ傷つける程の嫌がらせを考えつかねばならない。

 千湖が嫌がる出来事、光香さんが嫌がる出来事、彦にとってその上で最悪な出来事といえば――。


「光香さん、少しお時間頂けませんか」

「駄目よ、といったら?」

「――伺うのがまず失礼でしたね、貴方を捕らえます。彦への人質にします」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ