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象牙の塔で漂うヒトデ  作者: かぎのえみずる
第三章 決意
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第二十一話 人間の抵抗


 地上に降りて、食べ物を買いに来たところで、店にいた全員で襲いかかってこられた。

 慌てて塔に戻ろうとした瞬間、外にいた鳥形の黒鳩と目があい、アイコンタクトで「状況を探れ」ときたから、その場で捕まる。

 いざとなれば、念じれば塔に戻れるはずだ、だからいつでも帰れるのだから少しくらい痛い目にあってでも状況を見ておこう。

 動き次第で今後、地上に降りるときの注意点が判るはずだから。


「おい、こいつ違う奴だ、さっきの奴と」

「さっきの? 誰か、オレの他に捕まったのか!?」

「ああ、お前そーっくりの奴を殴りつけてやったのさ。痛がって泣いてやがったぜ? 俺らには、涙すら羨ましい。痛くて泣くなんて、もう遠い昔だ。お前も、可死なんだろう?!」

「……答える義務はない」

「生意気だな!」


 忠臣が傷つけられたのなら、オレはこいつらに礼節などを気にしてはいけない。

 いや、こうして攫っている時点で、礼節を考えるなんておかしな話か。

 これだからオレはずれている、と言われるんだ。

 オレは一同を睨み付ける――今までのオレではできなかったことだ、オレは睨み付けて嫌うという行為ですら、嫌っていた。

 行動の決定打は、避けていたのだから。だが、今は、違う。

 もう行動を決定しても、言葉に力が宿ってオレの所為で何かが起きようとも、オレ自身が責任を持ちながら発言しなければ。

 勇気を持ち始めたらどうだ、怖いものがない。

 ないといえば大げさだが、最初の頃より――幼い頃より、この間よりずっと強い心を持っている、と自分自身で感じている。

 あまり、動じないんだ。睨まれても、蔑まれても、他人ならばどうでもいいとさえ思える。

 蔑みたければ好きにすればいいと思い、悲しんでる人がいれば同情を向けないような思考を持つようになった。

 結構自分本位になったものだ、美衣と忠臣が平和に笑えるなら、それでいい。

 それこそが、二人の塔を邪魔する意志と繋がり始めている――最初から思っていたが、思いの形は徐々にはっきりとしだしている。

 二人以外、どうとでもなれ――と。勿論、オレの塔を託してくれてる、千湖と黒鳩、両親は置いといて、な。




「生意気か、生意気で構わないさ、それで? オレを捕らえて何をしようっていうんだ」

「お前を殺すのさ、お前だけが生き延びているなんて憎らしい、さっさと死んでしまえ!」

「おっと、それは困る。死ぬのは嫌だし、オレにはやらなきゃならない使命があるんだ」

「使命とやらがあるのか、随分忙しそうだな? ならこの婆さんを代わりに苦しめるか」

「は? 婆さん? ――光香さん!?」


 ごろっと蹴飛ばされて転がされたのは、光香さんだった。

 猿ぐつわをされていて、縛られている。げっそりしていて、疲労が目に見える。

 オレは一気に真っ青になった――この人からの恩を忘れては、いけないというのに!

 オレは、光香さんが人質にされている自体を把握すると、リーダー格のやつを睨み付けた。


「何が目的だ、殺したいだけじゃないだろう?」

「婆さんの血族が話してくれた、お前、世界の神になる権利を持っているんだってな? その指輪を持てば、なれるんだろう。塔主ってやつか、だからお前らだけは死ねる身体なんだろう?」

「光香さんを放せ」

「そんなにこの婆さんが大事か、よれよれの老いぼれが」

「大事だよ、光香さんはいつまでもオレの言葉を待ってくれていたから。放せ、放さないと怒るぞ」

「縛られてるお前がどうやって? 婆さんをよっぽど大事にしているお前が婆さんを見捨てられるのか?」


 今まで、人に苛ついても、それらを表に出したことはない。

 オレの怒りは、煮えたぎる湯よりも、ぼこぼこと沸騰していて頭がかっとなっていた。


「光香さんに手を出したら、真っ先にお前を殺す!」

「殺してくれるのか! それはありがてぇ! なら婆さんには痛い目にあってもらわねぇと!」

「ッ――……くそ」


 通常だったら効く脅し文句が通じない!

 オレはリーダー格のやつへ、睨み付けるしかできない事実に焦りを覚える。


「何が望みだ!」

「――俺に塔主権利を寄越せ」

「できない」

「できるはずさ、お前なら! 願えば叶いつつあるんだろう?! お前が、塔の本命馬なんだろ! ならお前の塔をごっそり貰っちまえば、俺が平和な世界を取り戻してやる!」

「アンタ、願いが叶い続けるっていう現実が、どういう意味を持つのか分かっているのか?!」

 リーダー格の男はこっそりとオレに耳打ちした。

「判るぞ、俺がやりたいことなーんだってできるってことだ! 女も、金も、苦痛すら自在のままだ。気にくわない奴も、どうにだってできる!」

「ばっかじゃねぇの、アンタ!! そんなエゴが許されるか! たった軽い気持ちで、戦争すら起きるかもしれないんだぞ、塔の頂上へ行けば!」

「それがどうした、俺以外どうだっていいじゃァないか、皆は俺に祈りさえしてくれればいいんだ、それが俺の快感になる! 俺が神だっていう実感で、嬉しくてな!」


 オレはリーダー格の奴に、唾を思いっきり吐いてやる、唾は頬に張り付いた。

 リーダー格の奴はオレを殴りつけた。


「他の奴には言うなよ」

「この糞野郎が……! お前みたいな馬鹿に、誰が塔をくれてやるか!」

「じゃあ白上の婆さんがどうなってもいいんだな?」


 塔主をここで譲るのは嫌だ、かといって、光香さんがどうにかなるのも――嫌だ!

 光香さんを、塔へ連れて行けないだろうか?

 ファージストでないと駄目なのだろうか!?


「判った、縄を解け――」


 オレが諦めた素振りを見せる、勿論演技だ――皆はそれを信じ、縄を解いた瞬間を見計らって、駆け出し、光香さんに触れながら塔への帰還を願う!


「連れて行け、黒鳩! 千湖!」

「な、なんだ!?」

「御意に塔主様――」



 閃光が激しく走り、目が焼けるかと思う程の光の強さ。

 オレの怒りを表すような、真っ白い光であった。

 ようやく瞼が真っ黒くなったので、目を薄く開ければ、そこには光香さんとオレと、千湖と黒鳩がいた。


 光香さんの猿ぐつわをとってやると、真っ先に、唇を震わせ目を潤ませる。

 怖かったのかな、と思ったのだがどうやら事情が違いそうだ、千湖を見ていれば判る。


「光香――ッ」

「千湖姉様!!! なんと……ああ、こんな、ことが……!」

「光香、光香ッ!!!」



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