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象牙の塔で漂うヒトデ  作者: かぎのえみずる
閑話――忠臣
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第十九話 灰色たる半端者


「僕は、何なのか」

「大変ね、人間は。優劣をつける瞬間がでてくる」


 白鴉がぱたぱたと白い羽根を羽ばたかせて、僕の肩に留まる。

 僕の肩に留まった後に、片翼を痒そうにしながら、僕に喋り掛ける。


「人間ってややこしく生きてるから、大変ね」

「……白鴉、教えてください。僕は、何なのですか。何のため! 登って、いるのですか!」

「残念ですが答えをお持ちなのは、忠臣様だけです。私には何とも応えられないものですし、私の答えが貴方様の回答となったら、それは何だかとても悪寒が走る。貴方様だけの回答を持って塔を登ってください」

「だって! 僕は兄さんと、白上さんのために登っていたのに!」

「勢いだけで登られた、と」

「そうだよ、黙っていて勇気出さないで何も動かない兄さんと違うんだ!」

「あら、あの判断はあれはあれで勇気あると思うわ。周りが登れ登れって急かす中、自分自身の考えを見つけて貫く為に、登る素振りを見せなかったのよ。私は嫌いだけれど。自分がどうしたいか、それだけを見つける為に、答えを長引かせた。それって中々できることではないわ。ヒーローになりたがる貴方様を見てると、特に思う」

「白鴉! どうして今になってそんなことを言うんですか!」

「だって刃鐘様に酷い言葉をかけられたってだけで、登る理由すら見失う、柔い信念だから。補佐的にはその柔い卵のような心をどうにかしなきゃね?」

「……白鴉、僕には、判らないんだ。自分がお膳立てと判っていて、登れって? 勝敗が決まっているのに? 僕が――微々たる左右さえもできないのに、か」

「そこを聞いただけでぐらついて、諦める気概であれば、貴方様の二人を救いたい想いはたったそれっぽっちってだけのことよ。貴方様なりの答でも何でも見つけてくださって? 私は私で好きに動くわ。ああ、でも、貴方様が登るという体は利用させてもらうわ」


 白鴉は、かぁと鳴くと、ばさばさと飛び立って外へ行ってしまった。


 僕だけが滅びの塔に残っている、それはまるで、僕だけが置き去りにされているような感覚でもあった。



 一度地上に降りてみる――変わりない生活を送る人々。

 でも、この人達は不死だ――自分と兄は、可死だ。


 今や、もう――どうとでもなれ、と忠臣は、薄ら笑いを浮かべて、不死者へと近寄った。

 自分が正義の欠片にもなれない、こんな世界の安否など、どうとでもよい。



 兄や、その幼馴染みの行方さえも。


 地上に降りれば、雨が降っている。

 ざぁざぁと僕の心を打つように、身体に雨粒がびしびしと固まりのように当たる。

 だいぶ強い雨らしい。


 最近、地上に降りれば視線を感じることがある。

 どこからの視線だろうと辿ろうとしても、「全部」の視線だ、としか言えず。

 不特定多数の視線全てが僕にかかっている気がする。

 道を歩いても、目立たないようにしていても、視線が刺さるように感じる。


 僕と他者の違いなんて、ない。

 前であれば、不死か可死と自信を持って言えていたのだが、それらの自信は今では紙のように薄っぺらい物に感じる。

 僕は、要するに、あの二人のオマケだった――あの二人が塔に登って競争心を高めるためだけのオマケだったんだ。

 指から抜けた指人形の行方など、誰も追わない――用がなくなれば誰も見ない。


 僕はふらふらとした足取りで、近所の公園へ向かおうとした。

 ざぁざぁとした水たまりを歩く――鈍色の水たまりに、ばしゃんと水滴が跳ねていく、の繰り返しだ。


 ばしゃんと跳ねる水滴が増え、ばしゃんと重なる音色も増えた。

 何故だろう、とぼんやり振り返れば――僕は、鈍い音が聞こえたことだけを感じて、意識を失いかける。


 瞼が開けられない――僕はこのまま死ぬのだろうか。



「ほうら、やっぱり。こいつ、怪我が治らない」


 そんな声が聞こえたので、僕は笑いたくなった。

 僕は、半端物ですよ。人間側にも、不死身側にもなれないんですよ!

 こんな僕を必要としてくれるのですか、それとも破棄するのですか?


 ――どうか、できるならば、痛みを。

 僕に痛みを与えてから、判断してください。


 痛みがあれば、僕はこの世に生きているのだと知覚できるから。



 ばちっとした痛みと共に、強烈な目覚めを強制的にくらう。

 痛みでくらくらとしながら、目が覚めれば、僕は縛られていて、目の前には沢山の不死者達がいた。

 ここは何処だ、と一瞬過ぎったのだが、何の変哲もないただの公園の広場だった。

 要するに、包み隠さずとも、僕への暴行は公認であるのだ、不死者にとっては。


「よう、化け物」

「化け物はそちらでしょう、不死身になった皆様方」

「うるっせえ、怪我できるお前のがもう化け物の時代なんだよ! 最近、お前とよく似た顔の奴が、包帯や絆創膏を買ってるから怪しくて追跡してたんだよ」

「馬鹿兄へストーカーご苦労様です」


 本当に馬鹿な兄だ、そんなもの買ってしまったら、一目でばれるだろうに……!


「もう医療品は貴重なのでしょう? 生産終了したから。転売目的じゃないですかね」

「誤魔化そうったってそうはいかねぇぞ! 白上家も動いてるのは知っているんだ! いったい何を目論んでいる!?」

「さぁ、何でしょうね。邪魔したら損をするのは、貴方たち化け物だと思いますが」

「化け物が化け物って呼ぶな、この野郎!」


 殴られれば鈍い痛みが襲ってくる、瞬き、血混ざりの唾を吐き捨てる。

 腫れた頬を見て、殴った男のうちの一人が、歪な笑い方をした。


「なんで、お前なんだ」

 ――どうして僕なんでしょう。

「どうして、お前だけが怪我できるんだ」

 ――なぜ僕だけがはぐれ者なのでしょう。

「オレ達に、痛みを取り戻させてくれよ!」

 ――僕だけは願いを叶えることも、破棄することもできない。

 ただ、聞くだけしかできないんです。


 情けないでしょう、貴方達の悲痛を聞いて、同情するしかできないんです。

 僕もそうだよ、とか、僕も仲間なんだとかも言えず。

 僕がどうにかする、僕なら何とかできる、だとかも言えないのです。



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