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象牙の塔で漂うヒトデ  作者: かぎのえみずる
第二章 本心と建前
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第十七話 父の座 娘の椅子

「さっきご先祖様って白鴉が言ってたけど、どういうことだ?」

「――己の推測を話しても宜しいですが、塔主様、この塔主争いをどう考えておられる」

「――何故か、範囲が狭いんだ。普通世界を牛耳られる程の争いであれば、どこかで見たチープな話だとあちこち世界中に候補者がいてもおかしくないのに、範囲が白上家と君塚家でまとまっている。お家騒動みたいだ」

「関わっている人々もまた、白上家や君塚家に関わりがあると思わんか?」

「黒鳩――お前は、どっちだ。どっちの家系だ?」

「つまらん時代の王様で御座るよ。江戸よりもっともっと前の、お殿様で名前を上総介――」

「嘘よ!! やめて、その名前を出さないで!!」

 突然白鴉から余裕が消え、甲高く耳を痛める金切り声で騒ぎ立てる。

 白鴉は黒鳩へ飛びつき、首をぎゅっとくびり殺す勢いで絞めようとしていた。

 殺そうとしている勢いであれば殺意でいっぱいである筈なのに、一瞬見えた表情や声には、悲鳴や哀愁が漂っていた。


「やはり、そうか」

 首を絞められているというのに、黒鳩は愉快だとさも言わんばかりに、快活に大笑いした。

「やはり、お前様か、お雫! お前様が、我が――」

「言うな! 私の名を呼ぶな、キサマなんかととさまであるわけがないんだ! 私のととさまは、彦様よ!! 彦様こそが、私のととさまなのよ!!」

「はは、は――怖い、な。盲目、だ。理想の父でなくて、不満か」

「だから!!!キサマはととさまなんかではないのだ!!!」

「龍臣!」


 黒鳩の余裕ぶった笑みが苦悶に変わったところで、はっとし、白鴉を羽交い締めにし、黒鳩を放させる。

 白鴉はだいぶ興奮していた様子で、オレを振り払い倒すと、そのまま飛び立っていった。


 黒鳩は咳き込みながら、地面に膝をついた。

 膝をつきながら、あの黒鳩が悔しげに奥歯を噛んだのだ――。



「情けない、じゃろ。父の座を、他の男に、取られておる」

「――大丈夫かよ、まずは息を整えろ。昔話はそれからでも間に合うだろ?」

「弱味を握る、チャンスである、という、のに。塔主様は、そんな、だから、心配だ――」

「弱味を握らなくても、オレはオレの為にアンタを信じて動くから、気にしなくて良い」

「はは、は――生意気な、小僧じゃの」


 ゲホゲホと咳き込み、黒鳩は拳を床に柔なまま打ち付けた。

 何度か打ち付けて身体を震わせて、眼差しを細め、ゆるゆると呼吸し、やがて落ち着く。


「塔主様、白鴉は己の――」

「娘、なのか」

「娘か息子かも判らない――己の、水子なのです」


 黒鳩は、背中を摩っていたオレに身体を預ける。


「偶に、思いますよ。塔があったからこそ白鴉と出会えた、しかし塔があるからこそあの子が浮遊霊ひこに心奪われてしまうのだ、と。それがたまらなく悔しい。早くに己が、生きてる当時塔主になっていれば、刃鐘様の悲しみも、あの童の歪さも生まれますまい――皮肉な、ことよの」

「黒鳩……お前は塔主になりたいのか」

「……――皆々様の中で、己が一番なりたいと、思っているでしょうとも。古くからの願いじゃ。なぁ、塔主様――もし、もしも宜しければ……いや、言いますまい」


 言うのは黒鳩のプライドに触ったのだろう。

 でも予測はできた、――塔主の座を、願いによって譲って欲しい、ではないだろうか。

 オレにはそれでも過ぎった計画が実行できれば、もっといい行いができそうだけど。

 ただ、この作戦には黒鳩の忠誠度が必要だ。

 永遠にオレを信じ続け、オレもまた黒鳩を信じ続けられるほどの、信頼が。


「塔主様、この贋作である塔をどうされたい? 先ほどと違い、今は自分の望みを仰ることができましょう?」

「オレは、この贋作の塔は無くても良いと思う――あの、映画のように上映されてる内容も、知らなくて良い。本人に直接聞けないくらいなら、知らなくて良い」

「それが、貴方様の願い?」

「うん、贋作の塔は無くなったほうがいい」

 オレが決定的な言葉を口にした瞬間、ぺりぺりと何か小さな屑が落ちてくる。

 白い壁だったもの、これは、塔の一部だ。

 ぺりぺりという音から、みしみしとした軋んだ音へ変わる――オレも馬鹿じゃないから判るよ。これはオレが望んだから、塔が壊れようとしている。

「お見事!」

 オレを俵のように抱き上げて、黒鳩は外へ飛び立つと、塔はごごごと揺らいで倒れていく。倒れていくのに、倒れた先から蒸発するように消えていくから、瞬いて驚いた。

 美衣や、忠臣が登っている塔以外は崩れていく――。


 オレが、願ったからか。


 ふと、白鴉が口にしていた「オレの為の舞台」という言葉が過ぎる。

 刃鐘さんはオレを塔主にしたいのだろう、八百長してオレを塔主に育て上げたいのだろう。


「黒鳩――もし、お前が塔主なら真っ先に何を望む?」

「案内人含め皆でこの世界を、同じ時代に生きたい、かのう」

 オレが問いかけると、黒鳩は内緒話する声量で答えたので、オレは解答に思わず噴き出して頷いた。


「そうだな、オレもそれに賛成だよ」



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