第十六話 本心の解放
「何やってんの、ばっかじゃないの!! それでも、アンタこいつのご先祖様なの!?」
「か弱い者に、興味などない。己は、強き心にしようとしていただけじゃ。お前様が助けなくても、己がひょいと助けていたよ」
「それは行動してから言いなさい! 死んでたら、大変じゃないの! この木偶人形だけが、皆の願いを叶えられる後継者なんだから!」
「それがな、気にいらんのよ、己には。お前様の願いは、何なのか、己は知っている。千湖も、あの伊達男もな。己は、な。今のお前様や、塔主様を見て心に決めたよ。己の願いは、己で叶えたほうが楽しそうだ、とな」
「アンタの希望に全員を巻き込まないで!」
「退け、白鴉。この小僧を今一度鍛える。先ほどのはよう聞こえのいい言葉で、面白みもなかった、心はこもってはおったが」
「黒鳩、もうやめ、やめてくれ……アンタを、信じられなくなる」
「どうして? 好きだから信じられるのではないのか?」
黒鳩はにやにやとしながらも威圧感のある微笑で迫って、瞳を覗き込んでくる。
間近で見つめている瞳には、暖かみも優しさもない。
信じていいのか、と心の疑念が疼く。――このまま信じても、殺されるだけだ。
それなのに、何故信じるというのか。
(ああ、オレは――)
過ぎるのは真っ白いネズミ――脳裏をちょろちょろ駆け抜けた。
「もう一度問う。何を持ってして、この鳥めを信じる?」
「――……うる、せぇ」
「怖い目にあってなお、どうして信じる?」
「――信じたい、からだ。会ってすぐの奴を信じられる程、〝世界にはまだ報われる出来事があるって信じたい〟からだ……」
もっと、世界は、綺麗だって。
絵の具が綺麗なまま水の中で溶けていられる世界だって、信じたい。
――どう、して。
どうしてだって? そんなの……。
「人間扱いされない人生が、嫌だ。マウスってもう言われたくない。他の人からもマウスだなんて思われたくない、その為には信じるしかないじゃないか。人間らしい行動って信じる行為じゃないか」
「ほうほう、実に素晴らしい言葉じゃ。それが聞きたかった、塔主様のだーれも聞けない本音だ、塔主様自身すらも知らなかったであろう?」
「知りたく、なかった」
「それを言うなら、理由も分からず信じられても困るわい。しかして、今の塔主様であれば、信じられます。処分覚悟しておりますとも、己の指輪は壊すなり何なりお好きに」
「黒鳩……――」
「この本音誰にも漏らしませぬ。もう、これ以上の怖い本音を呟く行為も塔主様はないでしょう? なら、今後から塔主様は少しばかりは意気地無しとは違うようにあれるのでは」
「黒鳩、――いつか、でいい。アンタも本音を話せ、それでチャラにしてやる」
「それも、貴方様が人間らしくあるため?」
「そうだ」
「ほら、素直に決定的言葉を言えるようになった、おめでとう御座います」
有難うと告げながら、これもまた心からの御礼ではないことを思い知る。
心から怒りを感じるわけでもなく、何となく素が暴かれた気恥ずかしさの八つ当たりのようなものでもあった。
精一杯心の奥底から叫んで、そのスベテを受け入れられた、久しぶりの気持ちであった。




