第十話 幼少――美衣から見た塔主達
産まれたときに運命が決まっていることほどつまらないことはない。
幼い頃から、言われ続けていた言葉は「いつか刃鐘が復讐しにくる」だった。
アタシは当時は物わかりよくいようとしたけれど、段々とあれしろこれしろという我が家に苛立った。
そもそもさ、君塚刃鐘が恨む切っ掛けはアタシじゃないだろ、アタシに復讐がくるっておかしくない?
アタシは関係ないのに!
気付けば、親族には全て反抗していた。
――お婆さま以外は。
他の親族はアタシが荒れると、奇異の眼差しを向けて「アレはもう失敗作だ」と噂してきた。
両親は「いつも白上家のことを考えろ」と言ってきていた。
お婆さまだけは、見放さないで、只管に礼儀をたたき込もうとしていて、どうして礼儀や礼節が必要なのかも子供目線で教えてくれた。
判らなければ、判らないことを怒らないで、一から説明してくれて納得しなければしょうがないと頷いてくれた。
お婆さまには、姉がいたらしく、姉の名前は――千湖。
お婆さまは千湖の話になると、決まって泣いていた。
「どうして守れなかったのかしら、あの子の歌の魅力は知っていたのに」
千湖は、この辺りでも有名な歌手だった。
サーカスで働きたいと志願し、勘当させられそうになったらしいが、とある政略結婚により家柄は繋がった。
――それと同時に、千湖は歌を失った、命と共に。
龍臣や忠臣は、君塚刃鐘を調べていったが、いい隠れ蓑だった。
アタシは、白上千湖を調べたかったんだ。
千湖の情報で分かったのは、歌姫として近所で有名だったこと。
それから、最初の恋人は君塚斉で、君塚斉の子をお腹に宿していた事実。
最後に――子供を宿してから君塚斉が死んでしまい、たった一人になった千湖を娶ったのが西園寺家の跡取りということ。
それ以上は判らなかった。
龍臣や忠臣に何が起こるのかも知りたかったから、できる限り西園寺家のデータも集めた。
多分、必要な情報は、三種類だ。
白上家、君塚家、西園寺家。
アタシの直感では、お家騒動の一つだと思ったから。
「美衣」
学校の帰り、忠臣の後ろにいつも隠れている双子の片割れがアタシに声をかける。
龍臣だ。
この頃、アタシは龍臣が大嫌いだった。
発言する責任を知っているからか、自分から願い事を言わない姿に苛ついた。
何もかも忠臣が叶えて、何もかも忠臣が動いている。
まるで、温室でしか生きることのできない、柔な花みたいだと思った。
「美衣、あの」
「何よ? はっきり言って」
「……――何でも、ない」
「あのさ、龍臣。アタシは影で言うの嫌いだから、面と向かって言うけどさ、何で全部望みを言わないの? 今、アタシの家で調べ物したいって言おうとしてたんでしょ」
「あ、と……うまく、言葉がでなくて」
おどおどとしながら喋る様子に、アタシは目を眇めた。
「アンタらホントに兄弟かよ、忠臣のが兄貴らしいね。龍臣って人形みたい」
「人形?」
「人が操って、喋る真似をさせられる、ごっこ遊びの人形。クラスメイトの女どもが好きな奴」
――この頃、アタシはクラスメイトの女子からはぶられていた。
幼い頃は、男子に虐められるとアタシに頼ってきていたのに、今ではがさつな女としてしか見られてない。
何より、佐良兄弟に関わるのを妬んでいた。佐良兄弟は、とくに忠臣は人気がある。
二人とも女子に興味が一切合切ないから知らないようだが、通りすがりでも「佐良くんたちってかっこいいよね!」って言葉が聞こえるくらいだ。
――いや、忠臣は知っているかも。忠臣は知っていて、人気を利用するほどのしたたかさは持っている。
クラスメイトの今の流行が、人形遊びであることを思い出すと、胸くそ悪い。
あんなのの何処が、って思いと。一緒に女の子同士で遊びたいって思いが交じる。
龍臣は、瞬いてから、微苦笑しその場から去って行った。
その時の笑みが、少しだけ印象的だった。




