私だけ
「待ってよ!」
リズは扉に向かって呼びかけたが、返事はなかった。足早に近づき、扉の取っ手に手をかけたまま俯いた。
扉の向こうでは、階段を降りる足音が少しずつ遠ざかっていった。
アルゲンが一階へ降りると、受付の老婆が怪訝そうに出入口を見ていた。アルゲンに気づくと、老婆は声をかけた。
「あんた、何かしたのかい?」
老婆は、出入口の外に立つ隊長を目で示した。
「これからだ」
老婆の前を通り過ぎかけたアルゲンは、出口を向いたまま足を止めた。
「ガキを――いや」
アルゲンはそのまま宿を出た。
通りでは、隊長と二人の兵士が待っていた。
「準備はできているようだな。では、南門へ向かう」
兵士二人が道を空け、隊長が顎で南門を示すと、アルゲンは何も言わず、その間を抜けて歩き始めた。
南門の外には、すでに大勢の人間が集まっていた。侯爵家の私兵は整然と列を組み、その周りでは冒険者や傭兵たちが、地面に座ったり仲間同士で話したりしていた。
隊長は全員の前へ出ると、声を張った。
「諸君、定刻となった。これより南の森へ向かう!」
私兵以外の者たちも立ち上がり、会話を止めて隊長に顔を向けた。
「知ってのとおり、目的はエルフの討伐だ。報酬は作戦完了後、斡旋所で支払われる」
「生け捕りの追加報酬を望む者は、後方の荷車へ獲物を引き渡し、引換札を受け取れ。札一枚につき銀貨五枚だ」
隊長は一同を見渡し、続けた。
「南の森に着く頃には、日も暮れているだろう。今夜は森の手前で野営し、森へ入るのは明朝とする」
「くれぐれも勝手な行動はするな。以上だ」
説明を終えた隊長は、南へ向き直った。
「では、出発する」
私兵隊が先頭に立ち、雇われた者たちもその後に続いた。
アルゲンが列に加わると、二人の兵士もその後ろについた。
列の最後には、幌を掛けた荷車が何台も続いていた。
*
森の手前に着いた頃には、日はすでに沈み、月が出ていた。
月明かりは木々に遮られ、森の奥までは届いていなかった。森の方からは、鳥や虫の鳴き声も聞こえない。
隊長は、列の最後の荷車まで到着したことを確認すると、一同に声を張った。
「予定どおり、今夜はここで野営する。私兵隊は設営と見張りに当たれ。それ以外の者は、各自で休息を取れ」
号令が終わると、辺りでは天幕や食事の支度が始まり、その場に腰を下ろしたまま動かない者もいた。
アルゲンは人の流れから離れ、森の前に立って木々の奥を見ていた。
「アルゲン殿、天幕の用意ができた」
声に振り返ると、二人の兵士が立っていた。
アルゲンは黙って二人の間を抜け、用意された天幕に入ると、横になって目を閉じた。
*
天幕を張る音や話し声が途絶えた頃、列の最後にあった荷車の幌が、内側からわずかに持ち上がった。
隙間から、月明かりを受けた紫色の瞳が辺りをうかがう。
荷車の周りに人影がないことを確かめると、リズは荷台から静かに降りた。外套で全身を覆い、肩にはアルゲンが部屋に残していった背負い袋を担いでいた。
腰を落としたまま荷車の陰を抜け、野営地から離れていく。誰にも呼び止められないまま森の手前まで来ると、リズは足を止めた。
木々の奥へ顔を向け、耳を澄ませる。だが、枝が揺れることも、茂みから獣が姿を見せることもなかった。
リズは唇を開きかけ、そのまま閉じた。
しばらく森を見ていたが、やがて背後の野営地を振り返った。
天幕の間には、見張りの兵が立っている。
リズは木々の間へ入り、野営地の明かりがかすかに見える場所で身を伏せた。
*
翌朝、討伐隊が森へ入ると、リズはしばらく待ってから、その後を追った。
木々に遮られた森の中は、日が昇っても薄暗かった。鳥や獣の声はなく、聞こえるのは枝を踏む音と、草木をかき分ける音だけだった。
雇われた者たちが獣道に足を取られるなか、アルゲンは歩調を変えずに進んでいた。
森へ入って三時間ほど経った頃、先頭の私兵が足を止めた。
やがて木々の間から、先行していた斥候たちが戻ってきた。その一人が隊長の前まで来ると、声を落として報告を始めた。
「ここから半刻ほど先に集落があります。まだ、こちらには気づいていないようです」
隊長は周囲の地形を確かめると、集まった者たちへ声を落として指示を出した。
「私兵隊は正面から入る。傭兵と冒険者は二手に分かれ、東西から回り込め。逃げた者も残すな。配置についた後は、笛の合図を待て」
隊長はアルゲンへ顔を向けた。
「アルゲン殿には、集落の南側を塞いでもらう。後ろの二人も同行させる」
アルゲンの後ろにいた兵士二人が、一歩前へ出た。
「意外だな。先頭に立って突っ込めとでも言うかと思ったが」
「正面は私兵だけで足りる。アルゲン殿には、逃げる者を確実に仕留めてもらいたい」
「そうか。では行くぞ」
アルゲンは集落の南側へ向かい、二人の兵士もその後に続いた。
三人は獣道を外れ、斜面を回り込むように森の中を進んだ。人の手が入らなくなった先では、腰の高さまで伸びた草が行く手を塞ぎ、兵士たちは剣で枝を払いながらアルゲンを追った。
やがて木々の間から、集落を囲む柵が見えた。
柵に沿って南へ回ると、門らしき出入り口があった。扉はなく、その先には小屋が何軒も並んでいる。
アルゲンは少し離れた木に背を預けた。
「ここで待つ」
二人の兵士は返事をせず、出入り口を挟むように別々の木のそばへ立った。
しばらくして、遠くから短く笛の音が響いた。
すぐに怒号が上がり、続いて何かが倒れる音がした。森から鳥が飛び立つことはなく、静かだった木々の間を、人の叫び声だけが抜けてきた。
アルゲンは木から背を離し、出入り口の前まで歩いた。
柵の向こうでは小屋から火の手が上がり、その前をエルフたちが行き交っていた。武器を手に人間へ向かう者もいれば、森へ逃げようとする者もいる。
その中から、一人のエルフが南の出入り口へ走ってきた。何度も背後を振り返り、アルゲンにはまだ気づいていない。
アルゲンは剣を抜いた。
エルフが前へ顔を戻したときには、すでにアルゲンが目の前にいた。
剣が横に走り、エルフの首が落ちた。
首を失った身体は二歩ほど進み、出入り口の手前で倒れた。
その後ろから走ってきた男のエルフが、足を止めた。
地面に転がった首を見たあと、血のついた剣を下げているアルゲンへ目を向ける。男の後ろには、幼い子供を抱いた女や、互いに身体を支え合う老人たちがいた。誰も武器を持っていなかった。
男は背後へ顔を向けた。
「西へ行け」
背後のエルフたちは動かなかった。
「行け」
男がもう一度言うと、女は子供を抱え直し、老人たちとともに柵に沿って走り出した。
男は腰から剣を抜き、アルゲンの前へ進み出た。
アルゲンは逃げていく者たちを見たが、追わなかった。
男がその視線を遮るように立った。
「追わせるわけにはいかない」
「元より追うつもりはない」
アルゲンは言いながら剣に付いた血を振り落とした。
背後から、二人の兵士が声を上げた。
「アルゲン殿、逃げました」
「残すなとの命令です。追いましょう」
「お前らが追えばいい。それとも代わるか」
二人はアルゲンの前に立つ男を見た。
「……では、我々が追います」
それだけ言うと、二人は柵に沿って西へ走り出した。
男も後を追おうとしたが、目の前をアルゲンの剣が横切った。鼻先をかすめた刃を避けて一歩退く。その向こうでは、二人の兵士が遠ざかっていった。
男は一度だけそちらへ目を向けると、アルゲンへ向き直り、剣を両手で握った。
先に仕掛けたのは男だった。
男は腰の高さから、頭上からと立て続けに斬りつけたが、アルゲンはほとんど動かず、片手の剣で受け流した。刃を重ねて押し込んでも、その腕は動かなかった。
男は大きく距離を取り、乱れた息を整えながら、左手をアルゲンへ向けた。
次の瞬間、風の刃が放たれた。
アルゲンが剣を振り下ろすと、風は刃の両側へ裂けた。巻き上げられた枯れ葉が二人の間に散る。
その向こうで、アルゲンはすでに間合いを詰めていた。
男は剣を振ろうとしたが、それより早くアルゲンの刃が走り、伸ばされた左腕を肘から斬り落とした。
男は声を上げながらも、残った手で剣を握り直し、アルゲンへ振るった。
アルゲンがその刃を弾くと、剣は地面を滑っていき、南の出入り口近くで止まった。男も体勢を崩し、その場に倒れ込んだ。
それでも男は身体をわずかに引きずり、土を掻きながら剣へ手を伸ばした。
アルゲンはそのそばまで歩み寄ると、剣を両手で握り、男の頭へ突き立てた。
土を掻いていた手が止まった。
剣を引き抜いたアルゲンが顔を上げると、南の出入り口に、外套をまとった小さな影が立っていた。
頭巾の下から、紫色の瞳がアルゲンを見ていた。
リズは倒れた男へ目を落とし、再びアルゲンを見た。
「なんで、こんなことをするんだ」
アルゲンは答えなかった。
集落の奥では、まだ叫び声と剣のぶつかる音が続いていた。やがて、西の方から兵士たちの声と足音が近づいてきた。
アルゲンが出入り口を越えると、リズは一歩退いた。アルゲンはそのまま近づき、リズも目を逸らさなかった。
アルゲンは兵士たちが来る方へ背を向け、リズの白い髪を隠すように頭巾を深く下ろした。
「口を開くな」
リズは返事もせず、頷きもしなかった。アルゲンが担ぎ上げても、抵抗はしなかった。
「アルゲン殿、こちらの首尾は?」
西へ逃げた者たちを追っていた二人の兵士が戻ってきた。甲冑も、手にした剣も血に濡れていた。
「始末した」
アルゲンが倒れた男へ目を向けると、二人もそちらを見た。
「さすがですね。ところで、肩のそれは?」
兵士たちの目がリズへ向いた。
「生け捕りにした獲物だ」
アルゲンは集落の奥を見た。剣戟も叫び声も、すでに途絶えていた。
「分かりました。では、本隊と合流しましょう」
「ああ」
リズを担いだまま、アルゲンは集落の中へ戻っていった。
集落の中央では、すでに戦いが終わっていた。
倒れたエルフたちの間を兵士が歩き、生き残った者は広場の端に集められていた。皆、後ろ手に縛られ、地面に膝をついている。
その前に、私兵隊長が立っていた。
「戻ったか」
アルゲンの肩に担がれたリズを見ると、隊長は、深くかぶせられた頭巾へ目を留めた。
「それもエルフか」
「ああ」
アルゲンは足を止めず、捕らえられた者たちの前を通った。
リズの顔が、肩の上でわずかに動いた。
縛られたエルフの中に、一人の子供がいた。頬に土をつけたまま、兵士の足元を見ていた。
やがて子供は目を上げ、頭巾の奥のリズと目が合った。
アルゲンは止まらなかった。
「待て。そのエルフはこちらで預かる」
私兵隊長の声に、アルゲンは足を止めた。
「俺が捕らえた」
「生け捕りの報酬なら払う。ここへ置いていけ」
アルゲンは返事をせず、隊長を見た。
二人の間に、兵士が一人近づいてきた。肩からリズを下ろそうと手を伸ばす。
アルゲンの右手が剣の柄に触れた。
兵士の足が止まり、隊長はその手を見た。
「……好きにしろ」
私兵隊長は捕虜の方へ顔を戻した。
「ただし、そのまま侯爵邸まで連れてこい。生け捕りの数も報告する」
アルゲンは手を下ろし、再び歩き出した。
肩の上で、リズはもう一度だけ後ろを見た。
縛られた子供は、まだこちらを見ていた。
やがて兵士たちが間に入り、その姿は見えなくなった。
集落を出てからも、リズは一度も口を開かなかった。
アルゲンの後ろでは、捕らえられたエルフたちが兵士に囲まれて歩いていた。誰かが足を止めれば、つながれた縄が張り、倒れれば兵士の声が飛んだ。
リズはアルゲンの肩に担がれたまま、顔を伏せていた。
森を抜けた頃には、すでに日が暮れており、討伐隊は前夜と同じ場所で再び野営した。
その夜、リズがアルゲンの天幕から出ることはなく、翌朝、再び肩に担がれても、何も言わなかった。
街の門では、討伐隊の旗を見た門番たちが道を空けた。兵士たちの間を歩かされるエルフに、行き交う人々が足を止める。
アルゲンは顔を向けなかった。
肩の上で、リズの指が外套をつかんだ。
広場を過ぎたところで、捕らえられたエルフたちは別の道へ連れていかれた。兵士に縄を引かれ、その列が建物の間へ消えていく。
リズの指は、外套をつかんだままだった。
「こっちだ」
私兵隊長はそのまま侯爵邸へ向かった。
黒い竪格子の門を抜けると、兵士の一人が先に走り、屋敷の扉を開けた。
玄関の前で、隊長が手を差し出した。
「剣を」
アルゲンは腰から鞘ごと外し、隊長へ渡した。
二人の兵士は玄関に残り、隊長だけがアルゲンを屋敷の奥へ連れていった。
泥のついた靴が、磨かれた床を進んでいく。リズは動かなかった。
私兵隊長は一つの扉の前で立ち止まり、短く叩いてから、返事を待たずに開けた。
部屋の奥で、リアスは机に広げた書状を読んでいた。
隊長が足を止めても、すぐには顔を上げなかった。書状を机へ置き、アルゲンの肩に担がれたリズを見た。
「戻ったか」
私兵隊長は、預かっていたアルゲンの剣を扉の脇へ立てかけ、机の前まで進んだ。
「南の集落は制圧しました」
隊長は続けて、生け捕りにした数と兵の被害を報告した。リアスは椅子に座ったまま口を挟まず、聞き終えると小さくうなずいた。
「ご苦労だった」
隊長は一礼し、扉の脇へ下がった。
リアスの目がアルゲンへ向く。
「その様子だと、随分と活躍したようだな」
「やることをやっただけだ」
リアスは血に汚れた外套を見たあと、肩に担がれたリズへ目を移した。
「それが報告にあったエルフの子供か」
アルゲンは答えなかった。
肩の上で、リズがわずかに顔を動かした。
「お前が街へ入った時から、話は聞いている。随分と大事にしているそうだな」
アルゲンはリアスを見たまま動かなかった。
リアスは机の上で手を組んだ。
「討伐は終わった。お前を私兵隊に置いておく理由も、これでなくなった」
アルゲンは何も言わない。
「だが、お前の力が必要になることは、これからもある。その時は呼び出しに応じてもらう」
「断る」
リアスの灰色の目が細くなった。
「構わん」
その視線が、再びリズへ移る。
「次に断る時は、その子供がどうなるかも考えて答えろ」
アルゲンはしばらくリアスを見ていた。
「エルフを街へ連れ込んだことまで、いつまでも見逃してやる義理はない」
部屋の中が静まり返った。
やがてアルゲンは身体を屈め、リズを肩から下ろした。
足が床につくと、リズの身体がわずかに傾いた。外套をつかんでいた指には、まだ力が残っている。
アルゲンはその指を外套から外した。
「じじい」
リズが顔を上げた。
アルゲンは答えず、リズをその場に立たせた。
扉の脇にいた隊長が、腰の剣へ手を添えた。
アルゲンが振り向きざまに、外套の内側から短剣を抜いた。
刃が隊長の首を横切り、その身体が扉にぶつかる。隊長は右手で剣の柄を握ったが、アルゲンに頭を押さえられ、短剣を耳の下へ突き入れられた。
隊長の手が柄から離れた。
アルゲンが身体を放すと、鎧が扉を擦りながら床へ沈んだ。
リアスの顔から、先ほどまでの余裕が消えた。
「何をしたか、分かっているのか」
その手が、机の上の呼び鈴へ伸びる。
アルゲンは隊長から短剣を引き抜き、そのまま投げた。
刃はリアスの手の甲を貫き、机へ縫い止めた。
リアスが短く呻いた。
アルゲンは扉の脇に立てかけられた剣を手に取り、鞘から抜いた。
机を蹴りつけると、リアスは手を縫い止められたまま、机と一緒に後ろへ倒れた。積まれていた書類が床へ散らばる。
「ぐっ……待て」
アルゲンは倒れた机の向こうへ回った。
リアスが顔を上げる。
剣が、その頭を貫いた。
リアスは机に押し潰されたまま、動かなくなった。
アルゲンは剣を引き抜き、しばらくリアスを見たあと、手の甲に刺さった短剣を抜いた。短剣を腰へ戻し、剣を鞘へ納める。
「なんで、私だけなんだ」
アルゲンが振り返ると、リズはアルゲンを見ていた。
「奴隷のエルフは助けなかった」
リズの声は掠れていた。
「集落のエルフは殺した」
紫色の目に涙がたまり、それでもリズは目を逸らさなかった。
「なのに……」
アルゲンは黙っていた。
「全部、全部嫌だ!」
「私は……私は、お前が嫌いだ!」
「お前なんか! お前……なんか……」
そこで声が途切れ、リズの肩が震えた。
アルゲンはしばらくリズを見下ろしていた。
「それでいい」
それだけ言うと、リズへ近づき、肩に担ぎ上げた。
リズは抵抗しなかった。
アルゲンは扉へ向かわず、部屋の奥にある窓へ近づいた。わずかに開けて裏庭を確かめたが、誰もいない。
そのまま窓を開き、リズを担いで窓枠を越えると、屋敷の壁に沿って裏手へ回った。
人の話し声が聞こえ、アルゲンは物置の陰で足を止めた。声が遠ざかるのを待ってから、その先へ進む。
屋敷を囲む黒い竪格子の一角に、小さな通用門があった。
アルゲンは周囲を確かめ、内側の閂を外した。人一人が通れるほど門を開け、リズを担いだまま外へ出た。
表通りには、討伐隊の帰還に集まった人々がまだ残っていた。血に汚れたアルゲンへ目を向ける者はいたが、道には同じような姿の兵士が何人も歩いていた。
アルゲンは宿へ続く道を通り過ぎ、そのまま街の門へ向かった。
外へ出ようとする荷馬車の荷台を調べていた門番が、アルゲンに気づいた。
「討伐隊の者か」
「ああ」
門番の目が、肩の上のリズへ移る。
「それは」
「俺の獲物だ」
門番は深くかぶせられた頭巾へもう一度目をやったが、それ以上は尋ねず、道を空けた。
アルゲンは開かれた門を抜け、街道へ出た。
城壁が背後へ遠ざかっても、リズは何も言わなかった。
しばらく進んだところで、街から鐘の音が響いた。
一度鳴り、間を置かずに二度目が続いた。
肩の上でリズが顔を上げた。
遠くなった城壁の上を兵士たちが走り、開かれていた門が閉じ始めていた。
アルゲンは振り返らず、街道を歩き続けた。




