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19/20

先に

朝、リズが目を覚ますと、窓から差し込んだ光は床の半ばまで伸びていたが、隣の寝台ではアルゲンがまだ眠っていた。


リズはしばらく布団の中にいたが、やがて起き上がると、空になった木桶を持って外へ出た。


湖までの道には薄く朝露が残っていた。岸へ下りて桶を水へ沈め、半分を少し越えたところで持ち上げる。


戻ると、アルゲンは炉の前で灰の中を枝で探り、残っていた炭へ細い薪を重ねていた。


リズが桶をいつもの場所へ置くと、アルゲンが中を見た。


「減らしたのか」


「重いから」


アルゲンはそれ以上何も言わず、火のついた枝を炉の奥へ押し込んだ。


何日か過ぎるうちに、リズが先に水を汲んでくる朝が珍しくなくなった。


アルゲンが起きていれば、これまで通り二人で森へ入り、薪を拾った。前を歩いていたアルゲンは、いつからか帰りにはリズと並んで歩くことが増え、途中の倒木へ腰を下ろすと、抱えた枝を足元へ置いてしばらく動かなかった。


「先に戻れ」


「別に急いでない」


木々の間を風が抜け、枝葉が擦れた。


やがてアルゲンが枝を抱えて立ち上がると、リズも歩き始めた。


小屋へ戻れば、拾った薪を軒下へ分けて積み、火を起こして鍋を掛ける。アルゲンが窓際で本を開いている間に、リズが炉の前にいる時間は少しずつ長くなった。


以前なら何度も聞こえていた頁をめくる音が、いつからか長く途切れるようになった。


リズは鍋の中を混ぜながら、ときどき火へ薪を足した。


「吹くぞ」


声がして鍋を見ると、煮立った汁が縁まで上がっていた。


リズは慌てて鍋を火からずらした。


振り返ると、アルゲンは本へ目を落としたままだった。


釣りには、まだ二人で出る日もあった。


アルゲンがいつもの倒木へ腰を下ろし、その少し離れた葦のそばでリズが糸を垂らす。魚がかかると、リズは一人で岸へ引き上げ、草の上で跳ねる身体を両手で押さえた。


その日は二匹釣れた。


小屋へ戻ると、アルゲンは椅子へ腰を下ろし、そのまま本を開いた。


リズは魚を卓へ置き、しばらく待ってから壁に掛けてあった刃物を取り、前に見た通り腹へ刃先を入れた。


「深い」


リズの手が止まった。顔を上げると、アルゲンは魚を見ていた。


リズは刃先を少し戻した。


「これくらい?」


「ああ」


一匹目を捌き終えると、二匹目には浅く刃を入れ、内臓を取り出して串を通した。炉のそばへ立てるころには、アルゲンはまた本を読んでいた。


リズが椀を置いたとき、向かいの皿には魚が残っていた。


「残ってる」


「食え」


リズはしばらく魚を見ていたが、やがて自分の皿へ移した。


次の日も、その次の日も、アルゲンは本を持って小屋の外へ出た。


湖の見える場所へ椅子を置き、そこで日が傾くまで過ごすことが増えた。リズが水を汲みに下り、薪を拾って戻ってきても、同じ頁を開いたまま座っていることがある。


夜には隣の寝台から咳が聞こえることが増えた。一度きりで収まることもあれば、しばらく続くこともあった。


ある夜、咳がなかなか止まらず、リズは寝台から身体を起こした。


「水いるか」


「いらん」


しばらくして咳は収まった。


リズは横になったが、すぐには目を閉じなかった。


暗い小屋の中で、隣の寝台から布の擦れる音がする。


やがてそれも聞こえなくなると、リズは壁の方へ身体を向けた。


そのころには、一人で外へ出ることも増えていた。


水を汲み、森で薪を拾い、昼になれば釣り竿を持って湖へ下りる。


ある日、釣り竿を持って扉へ向かったところで、リズは窓際で本を開いているアルゲンを振り返った。


「今日は来ないのか」


アルゲンは頁から目を上げた。


「先に行け」


リズはしばらくその場に立っていたが、やがて扉を開けた。


湖ではなかなか魚がかからなかった。


夕方近くになって一匹だけ釣れた。


戻ると、アルゲンは小屋の外の椅子で、開いた本を膝から少しずり落としたまま眠っていた。


リズは足を止めた。


風が頁を一枚めくったが、アルゲンは起きなかった。


リズがその前を通ろうとしたところで、アルゲンが目を開けた。


「寝るなら中で寝ろよ」


「ここでいい」


アルゲンは膝からずれた本を持ち直した。


リズはそれ以上何も言わず、魚を持って小屋へ入った。


その夜も、アルゲンは窓際で本を開いていた。リズが寝台へ入ってからも、しばらく頁をめくる音はしなかった。


やがて本を閉じる音がして、灯りが消えた。


翌朝、リズはアルゲンより先に起き、水を汲んで戻ると炉へ火を入れた。


豆を煮ている途中でアルゲンが起きてきたが、そのころには朝の支度はほとんど終わっていた。


昼前、リズは椀を片づけ、扉の脇に立てかけてある釣り竿を取った。


アルゲンは窓際へ移り、本を開いている。


「魚、取ってくる」


アルゲンが顔を上げた。


「日が落ちる前に戻れ」


「分かってる」


リズは扉を開け、そのまま湖へ向かった。

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