家
アルゲンは小屋の前まで行くと、右手で扉の掛け金を外した。
扉は下の枠に引っかかり、押しても途中までしか開かない。アルゲンが肩を当てると、木の擦れる音を立てながら、ようやく人一人が通れるほどの隙間ができた。
リズは小屋を見上げた。
「ぼろぼろ」
「これでもかなりマシになった。あと少しだ」
アルゲンは身体を横にして中へ入った。
リズも扉の隙間を抜ける。
中は一部屋だけだった。壁際には石を積んだ炉と、小さな卓、椅子が一脚置かれている。奥には藁を詰め直した寝台があり、その横には外された床板や、短く切った材木が重ねられていた。
外から見えたほど屋根は傾いておらず、沈んでいた側には新しい支柱が立っている。黒ずんだ天井にも何枚か新しい板が渡されていた。
それでも壁には外の光が細く差し込む隙間が残り、窓は内側から板で塞がれたままだった。
「ここに住むのか?」
アルゲンは持っていた袋を卓へ置いた。
「そのつもりだ。手伝え」
アルゲンは壁に立てかけてあった板を一本取り、隙間の前へ置いた。左腕を吊った布が邪魔にならないよう身体を横へ向け、右手だけで板の位置を確かめる。
「押さえろ」
リズは板の端を両手で押さえた。
アルゲンは口にくわえていた釘を右手に取り、先が木に掛かるまで板へ押し込んだ。それから床の槌を拾い、リズの指から離れた場所へ打ち込んでいく。
槌の音が小屋の中に響いた。
三本目の釘を打ち終えると、その音が途切れた。
アルゲンは槌を下げたまま、すぐには次の釘を取らなかった。やがて一度息を吐き、板の反対側へ釘を当てて打ち込んだ。
リズは壁に残った隙間を見た。
それから、次の板を一本だけ引き寄せた。
日が落ちるまでに壁の大きな隙間を塞ぎ終え、アルゲンは槌を卓に置いた。
リズは塞いだばかりの壁に顔を寄せ、隙間が残っていないか確かめていた。
「町に戻る?」
「今夜はここで寝る」
「勝手に住み着いていいのか?」
「ボロ小屋だったが金は払った」
アルゲンは外から薪を何本か運び、炉に火を入れた。二人は卓を挟み、硬いパンと干し肉を食べた。
炎が揺れるたび、塞いだばかりの壁に二人の影が動いた。
食べ終えると、アルゲンは寝台を顎で示した。
「使え」
「じじいは?」
「明日もう一つ作る」
アルゲンは外套を丸め、扉の脇の床へ置いた。
リズは寝台を見たあと、アルゲンの胸元に残る包帯へ目を向けた。
アルゲンは炉の火へ短い薪を入れ、壁に背を預けて座った。
リズは何も言わず、寝台へ上がった。
夜の間、風が板の隙間を鳴らし続けていた。
翌朝、リズが目を覚ますと、アルゲンは小屋の外にいた。
軒下へ出ると、二本の材木を地面に並べ、片方へ印をつけている。そばには鋸と槌が置かれていた。
アルゲンが材木を切る間、リズは古い板から使える釘を抜いた。昼を過ぎるころには、最初の寝台の隣に、もう一つできていた。
二つの間には、人一人が通れるほどの隙間が残った。
リズとアルゲンは隣り合う寝台の前に立ち、二つを見比べた。
「窓側がいい」
「……まあ、いいだろう」
アルゲンは床板を順に踏み、軋む場所を確かめると、窓、天井、扉へ目を向けた。
「あと少しだ」
それから数日、小屋の中では槌や鋸の音が続いた。
リズが古い板から釘を抜き、アルゲンが新しい板へ長さの印をつける。沈む床板は外し、下に短い材木を渡してから張り直した。
アルゲンが鋸を使う間は、リズが材木の端へ体重をかけた。
切り終えた板を運ぶときは、一人で持ち上げず、床の上を滑らせる。長い板は床の上を滑らせ、向きを変えるときだけ二人で端を支えた。
リズの脇腹が痛み始めると、アルゲンは作業を止めさせた。
アルゲンが槌を置く時間も、日ごとに少しずつ早くなった。
アルゲンは扉の掛け金を外し、持ち上げながら何度か開け閉めした。床へ擦れている場所を確かめると、扉を外して下端を削り始めた。
翌日には、扉は片手でも開くようになった。
最後に残ったのは窓だった。
アルゲンが打ち付けられていた板の釘を抜くと、窓から小屋の中へ光が入った。
板の向こうには、枠だけになった古い窓が残っていた。割れた硝子の欠片が溝に挟まり、木の一部は黒く朽ちている。
アルゲンは古い窓枠を外し、軒下に置いてあった新しい枠を壁へはめた。布に包まれていた硝子戸を運び、リズが内側から支えている間に、外から金具を取りつけていく。
最後の金具を留めると、アルゲンは小屋へ戻り、硝子戸を何度か開け閉めした。
硝子戸は少し枠に擦れたが、閉じると隙間は残らなかった。
リズは窓辺へ近づいた。
小屋の前に生えた木々の間から、湖が見える。水面には傾き始めた日の光が伸び、風が通るたびに細かく形を変えていた。
「終わりか?」
「まだだ」
アルゲンは床に落ちた木屑を見た。
二人で木屑と古い釘を集め、外へ運んだ。外された板は薪にできる長さへ切り、腐ったものだけを小屋の裏へ積んだ。
すべてを片づけるころには、木々の向こうへ日が沈んでいた。
夜になると雨が降り始めた。
初めは木の葉を叩く音だけだったが、やがて屋根にも細かな音が広がった。
リズは寝台から起き、炉のそばに置かれていた木の椀を取った。天井に残る黒い染みの下へ置き、しばらく見上げる。
隣の寝台から、アルゲンの声がした。
「そこは直した」
「まだ分からないだろ」
雨は降り続けていた。
椀の中には何も落ちなかった。
「寝ろ」
リズはしばらく天井を見ていたが、やがて椀を棚へ戻した。
寝台へ戻り、アルゲンに背を向けた。
小屋の中には、雨が屋根を叩く音だけが残った。




